ギガファクトリーの建設が活発化。EV増産による自動車業界の構造変化とは

Bloomberg社によると、2040年までに新車販売台数の54%が電気自動車になり、2030年までに中国、インドの乗用車は100%が電気自動車に置き換わると予測がなされています。自動車産業の新しい時代にさしかかる中、電気自動車メーカー各社は市場のニーズの変化に対応するため、プロセスや技術を移行する必要に迫られています。

対応が急務であるものの一つが、EV車に搭載するバッテリーです。EVその巨大なワット数を生み出すため、テスラ社を始めとするEV車業界企業は独自で大量生産できるギガファクトリーの建設を積極的に行っています。ギガファクトリーの名称は、「10億」を意味する単位である「ギガ」に由来しています。

今後10年間で世界に100の巨大ギガファクトリーが必要になるといわれています。本記事では、EV車業界におけるギガファクトリーの役割と、EV車の増加によって変わりゆく自動車業界の産業構造の変化についてご紹介します。

EV車の販売台数と各社の動向

ボストンコンサルティングのリポートによると、世界のEV車の新車販売台数に占めるシェアは、2030年にはガソリン車を上回る51%まで伸びることが予想されています。このEV車には、完全に電動化された電気自動車(BEV)、電気と他の動力を組み合わせて走るハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)なども含まれます。

電動車の特徴

https://www.tokyo-np.co.jp/article/76017

日本市場においても、EV車の新車販売台数のシェアは2030年に55%を占めると見込まれています。よく「日本はEV推進が出遅れている」というニュースをよく耳にしませんか?実際のところどのような動向を示しているのでしょうか。経済産業省の「EV・PHV普及に関する取組」を参考に見てみましょう。

トヨタ:2050年にガソリン車ゼロへ

トヨタ自動車は、2017年にEVモードでの走行距離が従来の2倍以上の68.2kmとなる、「プリウスPHV」を発売。最近では「トヨタ環境チャレンジ2050」を公表しており、2050年に2010年比で新車におけるCO2の90%削減や、ガソリン車・ディーゼル車などの純内燃機関車商品のゼロ化などを目指します。

日産:EVを中心としたゼロ・エミッション車の普及を目指す

日産自動車は「ゼロ・エミッションリーダーシップ」を目標とし、EV車を中心に開発や生産に注力。CO2排出ゼロのEV車普及を目指しています。

※ゼロ・エミッション車:一般的には有害物質を排出しない電気自動車や燃料電池車(FCV)のこと。

本田:PHVを中心に次世代自動車を強化

本田技研工業は、2030年頃までに、EV車、PHEV、燃料電池車(FCV)の販売比率を、3分の2にまで高めることを掲げています。現状は、プラグインハイブリッド車の開発を強化しています。

各社とも次世代⾃動⾞戦略として、強化を着々と図っていることが分かります。

 急増するリチウムイオン電池の需要

電気自動車(EV)の売り上げの急速な伸びとともに、各地の工場はフル稼働でバッテリーを量産しています。しかし、それによっていくつかの問題が生じています。

世界全体におけるEV車の生産台数は、2020年に400万台を突破。25年には1,200万台に達する見込みですが、この数字を実現するには巨大なバッテリー工場が必要です。これまで自動車メーカーは、リチウムイオン電池の供給をバッテリーサプライヤーに依存していました。しかし、EV車においてバッテリーは、モーター以上に車の性能を左右します。そのため、この重要なパーツをサプライヤーに委ねるのはあまりにも高リスクであるとの意識が高まっています。

バッテリー量産各国の動き

中国

2028年までに564GWhのバッテリー増産を計画

韓国LG化学

2023年までに、260GWhまで能力を引き上げたいと発表

リチウムイオンバッテリーの需要変化

https://blog.evsmart.net/tesla/elon-musk-at-european-conference-on-batteries/

ギガファクトリーでの生産量が増えると、バッテリーの生産における製造手法が早期に改善され、生産プロセスを限られた拠点にまとめることができるなど、メリットも多くあります。結果的にバッテリーのコストを下げることが可能になり、より幅広いお客様にテスラの製品を提供できるようになるのです。

グラフ-テスラがトヨタを逆転

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61052180R00C20A7I00000/

2019年、時価総額が上回ったのは、それだけ投資家テスラに期待しているからでしょう。その最大の理由は、テスラが上海に建設したギガファクトリーの操業が軌道に乗ったことにあります。この工場の最大の特徴は、多くの生産工程を自動化していること。中国は、新型コロナウイルスの影響を最も早く受けた国で、人の移動が大きく制限された結果、ほとんど全ての工場は生産停止に追い込まれました。一方、ギガファクトリーは、一時の生産休止はありましたが生産を続けることができたのです。

テスラのギガファクトリー

ギガファクトリー ネバダ

ギガファクトリーにいち早く乗り出したテスラは、現在、世界に3つのギガファクトリーを建設しています。

米ネバダ

Teslaは2014年6月、ネバダ州スパークス郊外にギガファクトリーの建設を開始しました。工場と周辺の土地を併せた総敷地面積は、3200エーカー(13平方キロメートル)あります。東京ドームに換算すると約280個分に相当し、建設予算は50億ドル(約5200億円)と言われています。

ドイツ

2017年から、ドイツの首都ベルリン郊外に建設されている工場で、「世界最大」のバッテリーセル工場を併設するとされています。航続距離や充電速度、寿命はテスラ車は問題ないのですが、バッテリーが普及するためにコストがネックとなっていました。この工場で生産性を向上させてコストを下げて大衆の手が届けることが課題です。

中国

テスラギガファクトリー上海

https://www.cnn.co.jp/business/35175084.html

最も新しい「上海ギガファクトリー」は、第1期工事が2021年6月に竣工。充電スタンドの生産台数は年間1万基が見込まれています。

他社のギガファクトリーの動向

フォルクスワーゲン

フォルクスワーゲングループは2021年3月、デジタル開催した「パワーデー」において、2030年までのEV車などのバッテリーと、その充電に関するロードマップを発表。EV車をできるだけ多くの人々に浸透させるために、バッテリーの複雑さとコストを大幅に削減することが重要と述べました。2020年代の終わりまでに、総生産能力240GWhの6つのギガファクトリーを建設する計画です。

日産自動車

日産自動車は2021年7月1日、EV車生産のエコシステムの構築するハブとして計画中の「EV36Zero」を公開し、このプロジェクトの一環で英国にEV向けのギガファクトリーを建設することを発表しました。周辺のサプライヤーを含め、英国で6,200人の雇用創出が見込まれています。雇用拡大をジョンソン首相も大歓迎していると現地ニュースは報道しました。

ジョンソン首相サンダーランド工場

https://blog.evsmart.net/nissan/nissan-invests-one-billion-pounds-to-ev36zero-electric-vehicle-and-battery-gigafactory-in-the-uk/

コロナ渦におけるテスラギガファクトリーの強み

テスラが上海に建設したEV車のギガファクトリーの操業は、投資家から評価を受けています。なぜなら、コロナ渦において、同工場では多くの生産工程を自動化しているためです。中国は新型コロナウイルスの影響を最も早く受けましたが、多くの工場が生産停止に追い込まれる中、ギガファクトリーは、いち早く生産を再開しました。

自動化された上海のギガファクトリーには下記のようなメリットがあります。

①人手不足への対応

②コスト削減

③生産効率の向上

④品質向上

⑤容易に設備が移転可能

※人が介在していないため、同じ品質のものを同じ効率で生産できる。海外において製品に需要があった場合は、現地で生産、供給できる体制を整えることが可能。

⑥人同士の接触を回避

特にコロナ禍における⑥の効果は大きかったでしょう。自動化を実現すれば、人の数が工場から少なくなり、人同士の接触は避けることができます。

EV車急増による自動車業界における産業構造の変化

既存のガソリン車がEV車へ置き換わる時代において、自動車業界の産業構造だけでなく、私たちの生活も変化を迎えています。どのような変化が起こっているか見てみましょう。

①車の買い替えが減る

電気自動車はガソリン車よりも寿命が長くなるため、今後消費者は新しい車を現在ほどの短いサイクルで買い替えなくなります。従って車の総量は減少します。

②他の収益モデルを迫られる

車の全体量が少なくなるということは、モデルも少なくするほどコストがかからなくなります。既にこの兆候は出ています。トヨタの e-Palette は多くのモデルに同じバッテリーとモーターを使っています。テスラのモデルYとモデル3は、76%のパーツが共通のものです。EV車時代に突入した自動車業界において、自動車メーカーはより効率的な経営方針を取るか、新しい収益モデルを作る必要があるでしょう。

③車部品工場の廃業

2016年三菱UFJモルガン・スタンレー証券が公表したリポートでは、業界のEVへの移行で消える部品への依存度が高い下記のメーカーがリストアップされました。

EV化で不要になる部品への売上依存度

https://cra-log.com/car-parts-maker/

日本以外の例では、タイで将来自動車部品工場800社以上が廃業に追い込まれると言われています。

④ガソリンスタンドの廃業が進む

もうすでにお分かりの方がほとんどと思いますが、すでに減少傾向にあったガソリンスタンドは、EV車が主流になる時代において、廃業が急激に進んでいます。

ガソリンスタンド数とガソリン需要の推移
揮発油販売業者及び給油所数の推移

https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20201112_01.html

⑤自動車産業がサービス産業になる可能性がある

ひと昔前のように車を所有することがステイタスになる時代は終わりました。30代から下の若者層が車を買う傾向がなくなったため、車の購入者(所有者)は毎年減少しています。

その代わり、カーシェアリングは2010年以降右肩上がりです。

カーシェアリング会員数車両数の推移

https://leaders-online.jp/money/fudousan-shikin/maney4265

この傾向とともに、最近ではEV車のカーシェアリングサービスが拡大しています。カーシェアには効率的な車両運用が必要ですが、短時間・短距離での利用に適したEV車は扱いやすいというメリットもあります。EV車は一般的なガソリン車よりも車両価格が高い傾向にあるため、EV車の購入を検討したいが断念せざるを得ない層に需要が期待できるかもしれません。

さいごに

EV車の最新の動向である「ギガファクトリーの建設」を主軸にお話ししました。今後EV社が増えるにつれて、ガソリン車関連の市場が縮小していきます。今後は自動車メーカーもEV化の流れに対応するためにビジネスモデルの変化が急務です。世界的におけるブランドを維持してきた日本の自動車メーカーが、EV化の波に乗れるか、世界が注目しています。

https://bike-lineage.org/etc/bike-trivia/gasorinstand_business.html

https://wired.jp/2020/03/23/cobalt-battery-evs-shortage/

https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/07/35d19837407f7541.html

https://news.yahoo.co.jp/articles/dcead02703e7c0690e998982311e8a7113b64629

https://pps-net.org/column/82087

https://blog.evsmart.net/tesla/elon-musk-at-european-conference-on-batteries/

https://energy-shift.com/news/d60dfa79-8fdb-4bc6-8775-1a9cc09f79a2

https://www.fujitsu.com/jp/reimagine/manufacturing/article/interview01/

https://www.tesla.com/jp/GIGAFACTORY#:~:text=%E3%82%AE%E3%82%AC%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%81%A7%E3%81%AE%E7%94%9F%E7%94%A3,%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

https://www.rockwellautomation.com/ja-jp/industries/automotive-tire/electric-vehicle-production.html

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https://blog.evsmart.net/tesla/elon-musk-at-european-conference-on-batteries/

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https://www.nikken-totalsourcing.jp/business/tsunagu/column/229/

https://response.jp/article/2021/03/16/343995.html

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