HOMEコラム / NEWS
NEWS
半年で3回変わった「関税の法的根拠」——トランプ関税2.0の内部構造と日本企業の実務対応
2026.08.01 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
半年で3回変わった「関税の法的根拠」——トランプ関税2.0の内部構造と日本企業の実務対応

半年で3回変わった「関税の法的根拠」——トランプ関税2.0の内部構造と日本企業の実務対応

📩 海外進出・海外戦略の最新動向を、月1回メールでお届けします。特典:関連資料PDFを2本プレゼント
ご登録ありがとうございます。特典PDFのご案内をメールでお送りしました。
→ あわせて海外事業の実現力を無料診断(約3分)

2026年2月20日の連邦最高裁判決を境に、米国の対世界関税は「国際緊急経済権限法(IEEPA)」→「1974年通商法122条」→「同301条+1930年関税法338条」へと、わずか半年の間に3度も法的根拠を変えました。関税率そのものは大きく動いていないのに、それを支える法律だけが入れ替わり続けている。この奇妙な状態が、いま米国向けビジネスに関わる日本企業が直面している本当の問題です。税率は交渉できても、制度の不安定さは交渉できません。本稿では、何が起きたのかを時系列で追ったうえで、なぜ法的根拠だけが転々とするのか、そして実務として何を用意しておくべきかまで踏み込みます。

まず誤解を消す——「日本に12.5%が上乗せされた」ではない

2026年7月24日の新関税発動をめぐる報道で、最も広まりやすい誤解から先に潰しておきます。「日本に12.5%の関税」という見出しは正確ではありません。正しくは、MFN税率(通常の最恵国税率)と今回の通商法301条関税を合計して12.5%を上限とするという合算方式です。つまり、もともとMFN税率が3%の品目には301条関税が9.5%分乗って合計12.5%になり、MFN税率がすでに12.5%以上ある品目には301条関税は上乗せされません。

この違いは実務上きわめて大きい。「一律12.5%増」を前提にコストを試算すると、高関税品目では過大に、低関税品目では過小に見積もることになります。しかも鉄鋼・自動車といった通商拡大法232条の対象品目や原油などは、そもそも今回の措置の対象外です。国単位の見出し数字だけでは、自社のHSコードがどう扱われるかは一切判定できません。最初にやるべきは、報道の数字を自社に当てはめることではなく、自社の主要品目のMFN税率を引き直すことです。

2025年4月——「制裁のための法律」で関税をかけた

今回の混乱の出発点は、2025年4月に発動された「相互関税」です。このとき政権が法的根拠に用いたのがIEEPA(国際緊急経済権限法)でした。IEEPAは本来、経済制裁など安全保障上の緊急事態に対応するための法律であり、条文には「輸入を規制する」権限は書かれていても、「関税を賦課する」という文言はありません。歴代政権も関税の根拠として使ったことはありませんでした。

それでも政権はこの法律を選びました。理由は明快で、緊急事態を宣言すれば議会の個別承認を経ずに、迅速かつ広範に発動できるからです。中国・カナダ・メキシコ向けにはフェンタニル流入対策を名目に、日本を含む多くの国には相互関税を名目に、IEEPAに基づく高関税がおよそ1年にわたって維持されました。法的には無理筋を承知のうえでの運用であり、この時点で「いつか司法に止められる」というリスクは織り込み済みだったと見るべきです。

2026年2月20日——最高裁が「課税権は議会のものだ」と告げた日

2026年2月20日、連邦最高裁はIEEPAに基づく関税賦課を違法と判断しました(Learning Resources, Inc. v. Trump)。判断の核心は関税政策の当否ではなく、権限の所在です。「議会が持つ課税権限を大統領に委譲する際は、常に明示的な文言と厳格な制限を伴ってきた」——つまり、曖昧な条文を拡大解釈して大統領が課税することは認められない、という結論でした。

ここで重要なのは、最高裁が否定したのは手段であって目的ではないという点です。「高関税をやめよ」とは言っていない。「その法律ではできない」と言っただけです。この判決の性質が、その後の展開をほぼ決定づけました。政権にとっての課題は「関税を諦めるかどうか」ではなく、「どの条文なら通るか」に切り替わったのです。

150日の時計——通商法122条という時限措置

政権の動きは速く、判決当日には別の法律への切替を表明。2026年2月24日から、1974年通商法122条に基づいてほぼすべての輸入品に10%の追加課徴金を課しました。名目は「巨額かつ深刻な国際収支赤字」への対応です。

ただし122条には決定的な制約がありました。議会の延長がない限り150日で失効するという規定です。つまりこの措置は、発動された瞬間から期限が決まっていた。2月24日から数えて150日後は7月24日。この日付は、政権にとっても市場にとっても、最初から見えていたカレンダー上の期限でした。ここに、次の項で見る「切れ目のなさ」の伏線があります。

2026年 米国関税・法的根拠の変遷(要点)
3回 半年間で法的根拠が切り替わった回数(IEEPA→122条→301条等)|合計12.5% 対日はMFN+301条の合算上限(2026年7月24日発動・USTR最終措置)|60 対象となった国・地域数(米国輸入の約99.4%をカバー)

7月24日午前0時1分——切れ目なく、次の関税が始まった

122条関税は2026年7月24日午前0時1分(米東部時間)に期限切れを迎えました。そして米国はその同時刻に、新たな法的根拠に基づく関税を発動しています。1分の空白もありません。

新しい根拠は主に2つ。ひとつは通商法301条で、強制労働対策の不十分さを理由に、日本を含む約60の国・地域に10〜12.5%帯の関税を課すもの。この60カ国・地域は米国輸入全体の99.4%を占めます。もうひとつは1930年関税法338条で、カナダに対して50%という突出した高関税を課す根拠として使われました。

時点法的根拠内容終わり方
2025年4月IEEPA(国際緊急経済権限法)相互関税・フェンタニル関税最高裁が違法判断(2026-02-20)
2026年2月24日1974年通商法122条ほぼ全輸入品に10%課徴金150日で自動失効(2026-07-24)
2026年7月24日通商法301条/1930年関税法338条約60カ国に10〜12.5%帯/カナダに50%継続中(2026年7月時点)
続きを読む前に — 海外進出の実務ノウハウをメールで受け取る
国別の規制動向・進出事例・チェックリストを、月1回お届けします。登録はメールアドレスのみ。
【登録特典】「日本企業の海外戦略 最新10ケース」+「主要国 規制・認証チェックリスト2026」の資料2本(PDF・各8ページ)を、登録直後にメールでお届けします。
ご登録ありがとうございます。特典PDFのご案内をメールでお送りしました。
→ あわせて海外事業の実現力を無料診断(約3分)
※ いつでも配信停止できます。

なぜ「関税」ではなく「法的根拠」だけが入れ替わるのか

この半年の動きを一言でまとめるなら、政策目標は固定されたまま、それを支える法律だけが差し替えられ続けているということです。ここに米国の統治構造上の緊張があります。

米国憲法上、関税を含む課税権限は本来「議会」に属します。大統領が広範な関税権限を行使するには、議会からの明確な委任が必要というのが最高裁の立場です。一方で政権は、議会の個別承認を経ずに機動的に関税を動かしたい。この矛盾を埋めるために選ばれたのが、緊急性を理由に大統領権限が広く認められやすい法律(IEEPA、122条)でした。

しかし、そうした法律には共通の弱点があります。本来の立法趣旨から外れた転用であるため、司法審査に弱い(IEEPA)か、あるいは時限制約がある(122条の150日)。つまり「使いやすい法律ほど、長持ちしない」という構造的なトレードオフがあり、政権はそれを承知で短期的な使いやすさを優先してきた、と読めます。半年で3回という異例の回転率は、場当たり的な混乱というより、この選択の必然的な帰結です。

読み解きのポイント ①関税「率」よりも関税の「法的地位の安定性」の方が、いまや投資判断への影響が大きい ②時限立法の失効日は、次の関税措置の発動予告として機能している ③使いやすい法律ほど寿命が短いというトレードオフが、根拠の頻繁な入れ替わりを生んでいる

301条・338条は「着地点」なのか、それとも次の中継地点か

今回切り替えられた301条・338条は、これまでの2つとは性格が異なります。いずれも伝統的に大統領・USTR(通商代表部)への裁量が広く認められてきた条文であり、時限規定にも縛られません。政権としては、司法リスクの相対的に低い法的基盤に「着地」させようとしていると見るのが自然です。

ただし着地したとは言い切れません。301条については、過剰生産能力を理由とした16カ国・地域を対象とする調査が別途継続しており、年内にさらに関税網が広がる可能性が指摘されています。また、301条・338条についても「議会の課税権限を侵害している」という同種の訴訟が提起されれば、司法が再びブレーキをかける展開は排除できません。現時点で言えるのは、これが終着点だと前提を置くのは危険だということです。

見落とされがちな細部——日米合意の15%ルールと、遡及還付

実務で効いてくるのは、見出しにならない細部のほうです。日米間には、MFN税率と相互関税を合わせて15%とし、MFN税率が15%以上の品目には相互関税を課さないという合意があります。さらに、この関税率の修正は2025年8月7日以降の輸入に遡及して適用され、CBP(米税関国境警備局)が還付手続きを実施することになっています。

つまりすでに支払った関税が戻ってくる可能性があるということです。合算上限のルールも、遡及還付の仕組みも、通関書類とHSコード単位での確認が前提になります。「関税が上がった/下がった」という総論だけを追っていると、取り戻せるはずのコストを取り逃がすことになりかねません。ここは経理・通関の実務レベルで押さえるべき論点です。

日本企業が置くべき前提——単一シナリオに賭けない

今後の展開は、大きく2つの方向に開いています。ひとつは、301条・338条を基盤とする現在の措置が司法審査でも維持され、16カ国調査を経てさらに関税網が広がっていく方向。この場合、「関税率が下がる」ことを期待するより、事後還付制度やUSMCA原産地規則の変更(中国由来部材や中国企業が関与する生産ラインへの特恵除外が検討されています)を織り込んだ調達網の恒常的な組み替えを前提にしたほうが安全です。

もうひとつは、301条・338条にも違憲判断が下り、また数カ月単位で関税体系が組み替わる方向。この場合は「制度が読めない」こと自体が常態になります。

どちらに転んでも共通して言えるのは、単一の税率シナリオを前提に調達網や価格転嫁を設計するのは危ういということです。実務として最低限やっておきたいのは次の3点です。

  • 自社主要品目のMFN税率と232条該当性を棚卸しする——国単位の報道数字では判定できない
  • 2025年8月7日以降の輸入について還付対象がないか確認する——取り戻せるコストを放置しない
  • 関税率ではなく「法的根拠の変更」をモニタリング対象にする——次の変更は期限日と司法判断から予告される

主な出典

連邦最高裁判決 Learning Resources, Inc. v. Trump(2026年2月20日)/米議会調査局(CRS)LSB11398/USTR Section 301最終措置 Federal Register Notice(2026年7月23日公表・7月24日発効・対日はMFNとの合算12.5%)/ジェトロ「日米関税合意の概要」(2026年・MFN+15%ルールおよびCBP還付手続き)/ジェトロ「トランプ関税と米国の貿易額…」(2026年・地域分析レポート)/JBpress オウルズコンサルティンググループ「【新関税発動】IEEPA違法判決でも終わらないトランプ関税」(2026年7月)/BBCニュース「トランプ政権、新たな関税を発動へ」(2026年7月23日)。数値・法的状況は2026年7月24日の新関税発動時点のもので、以後の司法判断・行政措置により変動する可能性があります。16カ国・地域を対象とする301条調査の帰結、USMCA原産地規則の変更は、いずれも2026年7月時点で検討・進行中の事項です。

※2026年7〜8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

海外進出のヒントを毎月お届け

「グローバルYOU」メールマガジン

海外進出・海外戦略の最新動向、国別レポート、実務で使えるチェックリストを月1回お届けします。登録はメールアドレスのみ・30秒で完了。

  • 国別の最新規制・市場動向
  • 進出・撤退の実例
  • 限定の実務テンプレート
【登録特典】「日本企業の海外戦略 最新10ケース」+「主要国 規制・認証チェックリスト2026」の資料2本(PDF・各8ページ)を、登録直後にメールでお届けします。
ご登録ありがとうございます。特典PDFのご案内をメールでお送りしました。
→ あわせて海外事業の実現力を無料診断(約3分)
※ いつでも配信停止できます。ご登録は当社プライバシーポリシーに同意の上でお願いします。
約3分・無料・その場で結果表示
海外事業 実現力診断

20問の選択式診断で、5軸スコアと実行指針を確認できます。詳細レポート(PDF)の請求も可能です。

無料で診断を始める →

INDUSTRY EXPERT SUPPORT

海外進出のお悩み、PROVE が伴走します

市場調査・進出戦略・パートナー開拓・現地法人設立——業界レポートでは答えが出ない論点を、19 年 / 60 カ国 / 2,000 件の実績で解決します。

プロヴェナンス株式会社 · 国際事業コンサルティング · 60 カ国の現地ネットワーク

海外進出および展開はどのように取り組めば良い?
とお悩みの担当者様へ

海外進出および展開を検討する際に、
①どんな情報からまず集めればよいか分からない。
②どんな観点で進出検討国の現場を見ればよいか分からない。
③海外進出後の決定を分ける、「細かな要素」は何かを知りたい。

このような悩みをお持ちの方々に、プロジェクト時には必ず現地視察を行う、弊社PROVE社員が現地訪問した際に、どんな観点で海外現地を視察しているのかをお伝えさせていただきます。