矢野経済研究所の調査によると、日本のペット関連の市場規模は毎年拡大を続けており、2020年度は1兆5833億円になると見込まれています。2020年に入り新型コロナウイルスが猛威を振るいましたが、この感染拡大による巣ごもりによってペットの需要が急速に増えています。
東京でペットショップを4店舗展開するジャパンペットコミュニケーションズによると、6~7月の売上は前年に比べ約4割上昇したことが分かりました。
また、ペット保険大手のアニコムホールディングスは、4~6月の新規契約件数は前年と比較し、約3割増となり、四半期ベースで過去最多を記録し、新規契約者の中には「ペットを初めて飼った」という人が最も多いことが明らかになりました。
ここでは日本と世界各国のペット市場と、ペット市場においてシェアを占めるペットフード市場についてご紹介します。
日本のペット市場
日本では昔、犬や猫は防犯やネズミ駆除などに活用するという概念が浸透していましたが、高度経済成長に伴い、「飼育として楽しむ」として捉えられるようになりました。1980年代から1990年代の間に第一次のペットブームが起きていますが、近年の需要は少し様変わりしています。少子化に伴って犬や猫などのペットは飼い主にとって「家族同然の存在」、「家族の一員」として捉えられるようになりました。
そのため、飼い主はペットフードやペットグッズにお金や手間をかけるようになっており、ペット関連ビジネスも比例して伸びています。
ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」の調査によると、2017年時における猫は国内飼育数937万頭と微減していますが、犬は892万頭と猫に比べて減少しています。このことから分かるように、新規で飼い始める場合は犬よりも猫の方が好まれる傾向にあります。
猫の方が人気な要因として、共働き世帯が増える一方で住宅が狭いこと、犬が走り回る場所が家の中にないこと、単身世帯者も増加傾向にあり散歩が難しいこと、吠える声で近所から苦情を受けること、などが挙げられます。
中国のペット市場
中国のペット関連の市場の規模は日本を抜き、アメリカに次ぎ世界2位に入っています。しかし、飼育世帯の割合で見ると中国は2割未満で、アメリカの約7割です。日本の3割以上と比べてもまだ低いこともあり、中国のペット関連市場の発展余地はポテンシャルが高いと言えるでしょう。
「中国ペット産業白書」の調査によると、2019年のペット関連産業の市場規模は2024億元(約3兆円)にまで達し、10年の間で15倍の規模に成長し、ペットを飼う人は中国全土で人口の5%、7,000万人を超えています。
中国のペット市場の動向については、下記の5分野が含まれています。
- ペット
- ペットフード
- ペット用品
- ペット医療
- ペット関連サービス
中国産業信息網によると、上記5つの項目の中で、ペットフードが約 410 億元(約 6,600 億円)と最も規模が大きいことが分かりました。
ペット市場コンサルティング会社「北京馳鋭文化伝媒」の調査によると、アリババ系のネット通販におけるペット市場関連商品の売上高は、2017 年に前年比約 30%増の約 307 億元(約 5,000 億円)と大幅に増加しています。
売上高が最もシェアを占めたのは、犬猫用の美容ケア用品で、前年比約 142%増となりました。
以前中国では、ペットを飼う人の多くの理由は、高齢者で子供が巣立った寂しさをペットで紛らわせるといったものでした。
しかしここ数年、急速に飼い主の若年化が進行しています。27 歳以下の若者が体の約 45%を占め、所得水準の底上げに伴って若年層のペット人気増が最近の傾向になっています。
職場での激しい競争やストレスにさらされる若者が増加する昨今、ペットを飼って孤独や不安を解消したいニーズが高まっているとの分析もあるようです。
犬関連の市場規模は17.8%増の1,244億元、猫関連は同19.6%増の780億元と、中国でも日本同様に猫派が伸びを見せています。
日本と同じように核家族化が進んでいること、散歩に手間がかかることなどが猫派が増えている要因になっているのではないでしょうか。
https://media.moneyforward.com/articles/3858
ASEANのペット市場とペット事情
ASEAN諸国のペット事情に触れる際に欠かせないのが、シンガポール、マレーシア、インドネシアに住むイスラム教徒は宗教的な観点から犬を忌み嫌う文化を持っているということです。
イスラム今日における動物への教えは「動物に優しくせよ」というものですが、ハディース(預言者ムハンマドの言行録)には「猫は清潔だ」と述べる箇所があります。一方で、「犬がなめた皿は7回洗わなければならない」と伝えられており、イスラム教で「犬は不浄」と見なされています。ムハンマドは衛生上の理由から犬を家に入れることを禁じたという言行もあるようです。
それでは、上記を踏まえ、シンガポール、タイ、台湾におけるペット市場、ペット事情についてご紹介します。
シンガポール
シンガポールでは、国が豊かになると同時にペットブームが起こっています。ライフスタイルのステータスとして重宝がられるようになり、国内には270件を超えるペットショップが存在し、年間1千万ドル規模の産業に成長しています。
シンガポールにはSPCA(動物虐待防止協会)などの多くの動物保護団体の活動が活発です。これらの団体は、狂犬病などの心配のある野良犬の保護を積極的に行っています。猫は犬に比べてトラブルが少ないことから、保護をするならまず犬にすべきという考えがあり、シンガポールでは、国民が数多く住む公共集合住宅(HDB)において猫を飼ってはいけないというルールがあるようです。
タイ
タイのペットブームは2000年代前半に始まったと言われており、ペット関連市場は、年間2桁以上の成長率を維持しながら急速に拡大しています。
電通ワン(バンコク)の森上チーフブランドストラテジストは、「少子高齢化や核家族化で家族が少なくなる中、ペットが重要なパートナーになっている」と述べました。国連人口推計では、タイで2015年に65歳以上の割合は全人口の10%でしたが、30年に19%とほぼ倍増しており、シンガポール同様に東南アジアで高齢化の先頭に立っています。生活に余裕がある中間層の増加傾向もペットブームに拍車をかけているようです。
20~30年前のタイでは、イスラム教徒の犬に対する概念とは異なりますが、犬は生き物の中で「下等」とされていました。従って、番犬として犬を飼ってもペットとして飼う人はほとんどいない状況でした。しかし、タイで絶大な人気を誇った前国王陛下が犬好きだったことに国民が影響され、15年ほど前から近所の野良犬に餌を与えたり、首輪をつけて地域ぐるみで面倒を見るなどの動きが出てきました。
以前は動物病院がほとんどありませんでしたが、今では犬猫用病院やドッグラン、ペット用品店、ペットホテルが多く存在します。
タイの食品大手は、急成長するペットフード市場に積極的に乗り出しており、ツナ缶世界最大手、タイ・ユニオン・グループ、食品大手のベタグロ・グループなどがペットフードの生産を加速させています。
https://www.nikkei.com/article/DGXLZO18002740S7A620C1FFE000?unlock=1
台湾
下記のグラフを見て分かるように、台湾のペット市場は順調に伸びており、市場規模が年間500億台湾元(約1,810億円)までに達しました。要因としては日本や中国同様、少子高齢化や単身世帯の増加が挙げられます。
近々、犬猫のペット数は15歳以下の年少人口を初めて上回るのではないかと言われています。
https://taiwanlabo.com/lifestyle/pet/
台湾では犬派が顕著です。行政院農業委員会の情報では、台湾全土の2017年の飼い犬の数は1,777,252匹、猫の数は733,207匹でした。一方、同年の日本の推計飼育頭数は、犬が8,920,000匹、猫は9,526,000匹と、日本より台湾の方が犬の人気は圧倒的に高いようです。
アメリカ(北米)
https://transcosmos.com/jp/us-pet-industry-trends-in-2019/
アメリカはペットの市場規模は世界一ですが、年々急速にその規模を拡大させています。ペット産業の総支出額についての調査を行うアメリカペット製品協会は、直近の報告において、2019年は753.8億ドル(約8兆2000億円)に達するとの予測を発表しました。
アメリカのペット専業(ペット用品やペットフードがメインではない)の2大企業は、PetcoとPetSmartです。
Petco
アメリカ、メキシコ、プエルトリコにおいて1500以上店舗を展開し、獣医のアドバイスなどを含んだペットケアサービスにも注力しています。
https://www.statista.com/statistics/254126/total-revenue-of-petco-animal-supplies-in-the-us/
PetSmart
アメリカ、カナダ、プエルトリコで1650店舗以上を持ち、200以上の店内ペットホテルを運営しています。
https://rehome.adoptapet.com/answers/dog-rehoming/does-petsmart-take-dogs
https://www.statista.com/statistics/315252/petsmart-net-sales/
今や多くの分野でITを駆使した「○○テック」が盛んになっていますが、アメリカではペット分野においてもペットテックが本格的に進んでいます。例えば、スマホを利用した留守中のペットの見守り、自動で餌を与える機器、犬の健康状態をモニターできる首輪などがあり、日本でもすでに利用が開始されています。
特に面白いサービスが、Roverと呼ばれる「散歩代行マッチングサイト」です。この専用アプリによって、散歩を依頼したい飼い主と、散歩代行を行う登録者がやり取り可能になる画期的なシステムです。このような散歩代行サービスも日本でも立ち上がっているようです。
ペットフード市場
世界におけるペットフードの市場は、2020年から2024年の間に7%のCAGR(年平均成長率)で推移しており、361億1,000万米ドルの市場に成長すると予測されています。特に、オーガニックペットフード、少量包装ペットフードなどの需要が増加しています。
アメリカの市場を事例に取り、ペットフードのシェアを見てみましょう。
https://transcosmos.com/jp/us-pet-industry-trends-in-2019/
下記の「アメリカ国内のペット産業消費額内訳」を見ると、ペットフードが4割強と最も多いことが分かります。
https://transcosmos.com/jp/us-pet-industry-trends-in-2019/
コロナウイルス感染拡大前に富士経済グループによって出されたデータによると、国内のペット関連市場は、市場そのものの成長は鈍化傾向にありますが、アメリカの動向と同じように、ペットフード市場が大きなシェアを占めています。
https://www.fuji-keizai.co.jp/market/detail.html?cid=17047&view_type=2
ペット関連用品は、ペットフードや猫砂など日常的な消耗品が多く、かつ重くてかさばるため、ネット販売との親和性が高いのが特徴です。ペット関連市場はAmazonの攻勢も追い風となっているようです。
世界と日本のペットフード業界主要企業
世界的なペットフード企業
現在、世界市場において、主に下記の企業とブランドが業界を独占しています。
- ネスレ(Nestle)- ピュリナ(Purina)
- マース(Mars)- ロイヤルカナン(Royal Canin)
- コルゲート(Colgate)- ヒルズ(Hill’s)
UBS証券のアナリストであるピナール氏は、世界のペットフード市場は消費者志向の変化により競争が激しくなっていることについて、「ペットフード業界をリードするブランドは、消費者の変化するニーズに追いつけていない。
これら上位3ブランドが認識すべき消費者トレンドは、ペットフードを選ぶ際飼い主や獣医は価格よりも栄養価を重視している。」と述べています。同社の消費者調査によると、飼い主の9割はペットを家族の一員と考えているため、「オーガニック商品などの健康に良いことが証明されているものに多くのお金を払う意思がある」ということが分かっています。
日本のペットフード主要企業
日本のペット産業は、有名企業が少なくいとの指摘があり、起業したばかりの新興企業も多く参入しているようです。ペットフードを扱うペット関連企業が多過ぎるため、業界リーダーが見えにくいとされていますが、下記が日本の代表的な企業です。
ドギーマンハヤシ
ペット用品総合メーカーのパイオニア的存在で、「ドギーマン」ブランドを展開しています。ペットフード・用品が主力で、2020年3月期の売上高は204億9,400万円でした。中国などの海外にも販路を持っています。
日清ペットフード
日清製粉グループ本社のグループ会社で、「ジェーピースタイル」ブランドのペットフードを展開しています。2020年7月期の売上は133億3600万円。
日本ペットフード
「ビタワン」ブランドを展開する国内の老舗フードメーカーです。2019年の純利益1億9398万1000円。
ペットライン
大手商社の三菱商事グループ傘下で、日本農産工業のグループ会社のペットラインは、「メディコート」ブランドを展開しています。商社の傘下であることから飼料のバリューチェーンに強みを持っています。2018年3月の売上は7億0357万2000円。
いなばペットフード
ツナ缶で有名な食品メーカーいなば食品を母体とした企業で、「チャオ」ブランドでペットフードを展開しています。2019年おける純利益は1億9398万1000円。
最後に
世界のペット市場、日本のペット市場についてご理解いただけましたでしょうか。
日本のペットフード市場はまだ突出した業界リーダーが存在していませんが、新興企業の参入もあり今後競争が激化していくでしょう。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/09/ec751714863dc7ae.html
https://toyokeizai.net/articles/-/315005
https://www.chibabank.co.jp/hojin/other_service/market/pdf/china_1808.pdf
https://misakoyoko.com/blog/malaysia-pet-circumstances/
https://www.f-tsunemi.com/blog/realislam/dog/
https://malaysia-magazine.com/malaysia-info/daily-life/48117/
https://www.compathy.net/magazine/2016/10/10/real_cat_life_in_singapore/
https://punipunipaw.com/klowledge/detail/402
https://www.businessinsider.jp/post-168520
https://www.yomiuri.co.jp/national/20200917-OYT1T50226/
https://www.gii.co.jp/report/infi274781-global-pet-food-market.html
https://www.asiax.biz/life/4459/
https://www.nikkei.com/article/DGXLZO18002740S7A620C1FFE000?unlock=1
https://pedge.jp/reports/market-trend_food/
https://pedge.jp/reports/petfood_manufacturers/