国内酒類市場の現状 

古くから嗜好品として親しまれてきた酒の文化は、時代とともに変化し続けてきました。一昔前までは、会社の飲み会やイベント・パーティーでの酒の場など、プライベート以外にもお酒に接する機会が多かったことでしょう。 

しかし、近年は若者の飲み会離れや酒離れが話題となり、さらにはコロナ禍に入り飲食店の営業自粛、「宅飲み」機会の急増など酒類市場に大きな変革を与えています。本記事では日本国内の酒類市場の現状について触れながら、市場の推移や今後のとるべき対応策について紹介していきます。 

国内酒類市場の現状 

新型コロナウイルスの影響により外出自粛や黙食が当たり前になったことは記憶に新しく、私たちの生活に直接の変化をもたらしたといえます。コロナ禍において外食の機会が減り、飲食店には酒類の提供に制限が設けられるなど、コロナが酒類市場に大きな変化を与えたことは想像がつきやすいでしょう。 

しかし、酒類市場にもたらした変化はコロナだけではありません。日本が抱える社会問題や酒税改正など、年月をかけて徐々に酒類市場に影響を与えている要因も存在します。それでは、国内酒類市場の現状や酒類市場のこれまでの変化について解説します。 

縮小する国内市場規模 

国内の酒類市場は、規模全体で見ると年々縮小傾向にあります。厚生労働省によると、戦後の経済発展もあり1990年代後半までは飲酒量が増大傾向にありました。しかし、アルコール消費量の高かった世代が高齢化になりつつあり、成人1人当たりのアルコール消費量でみると1992年度をピークに減少してきています。社会問題となっている少子高齢化や人口減少に伴い、今後も国内全体における飲酒量は減少していくと推測されます。 

また、酒類市場の縮小はこれらの社会問題だけが起因しているわけではありません。リーマンショック以降より消費者は低価格志向に変化してきているとともに、健康意識の高まりによってライフスタイルが変化し、「酒離れ」する人が増えてきています。近年では人生100年時代という言葉をよく耳にするようになりましたが、情報社会となった現在は健康に関する情報が容易に入手できるようになったこともあり、特に若者世代の酒離れが進んでいます。 

コロナ禍での変化 

新型コロナウイルスの登場により、飲食店における酒類消費額と家庭での酒類消費額に大きな開きが生まれました。もともと国内酒類市場では飲食店における酒類消費量が約3割、家庭での酒類消費量が約7割を占めていましたが、コロナの影響により2020年頃から飲食店における酒類消費額が急激に減少しています。経済産業省によると、居酒屋等の活動状況を示す「パブレストラン・居酒屋」指数の2020年の数値は、2019年の半分程度にまで低下しました。 

反対に、2020年は家庭内の消費額は大きく増え、8割超にまで高まりました。自粛による巣ごもり需要の高まりから、家庭用チャネル向けが多い缶製品では2020年において前年比プラスになったメーカーもあり、コロナ禍はチャネルによる酒類消費に格差がうまれた期間といえます。 

2022年度からは緊急事態宣言の解除や飲食店での酒類提供開始など、外飲みの機会も徐々に増えてきました。コロナ禍前の完全回復とまではいきませんが、酒類市場の回復が見込まれることが予想されています。 

酒税改正での変化 

酒類間での税率格差によって各社の商品開発や販売数量に影響を及ぼしていることに考慮し、2020年10月に酒税改正が実施されました。酒類間での税率の格差を縮め、公平性を回復することが目的とされています。酒類ごとに段階的に酒税改正を実施することが発表されており、ビール系飲料については2026年10月に350mlあたり54.25円に一本化されます。 

  • ビール350mlあたり、2020年10月に77円から70円へ、2023年10月に63.35円へ、2026年10月に54.25円へ段階的に減税 
  • 発泡酒(麦芽比率25%以上50%未満)350mlあたり、2023年10月までは46.99円のまま据え置き、2026年10月に54.25円へ増税 
  • 新ジャンル350mlあたり、2020年10月に28円から37.8円へ、2023年10月に46.99円へ、2026年10月に54.25円へ段階的に増税 

コロナ禍での巣篭もり需要が高まっている中での2020年10月の酒税改正は、家庭で缶ビールを楽しむ消費者の購買行動に影響を与えました。唯一増税となった新ジャンルは改正前の駆け込み需要が増える結果となりました。反対に、ビールについては改正前に買い控えの傾向が見られ、改正後に売上を伸ばしたメーカーも存在します。 

また、ビール系飲料以外についても酒税改正の対象になっています。醸造酒類(清酒、果実酒等)の税率について段階的に改正を実施し、2023年10月に1klあたり10万円に一本化されます。 

  • 清酒(日本酒など)1klあたり、2020年10月に12万円から11万円へ、2023年10月に10万円へ段階的に減税 
  • 果実酒(ワイン等)1klあたり、2020年10月に8万円から9万円へ、2023年10月に10万円へ段階的に増税 

その他の発泡性酒類(チューハイ等)の税率については、2026年10月に350mlあたり28円から35円へ引き上げます。これにあわせて、低アルコール分の蒸留酒類及びリキュールに係る特例税率についても同様の引き上げが実施されます。 

2026年10月まで各酒類税率において改正が予定されているため、今後も改正前後での買い込み・買い控えの傾向が出てくることでしょう。 

原材料・資材高騰での変化 

2022年10月、原材料や資材の価格高騰から多くの食料品・飲料品が値上げされました。価格高騰の主な要因としては、小麦や大豆、原油価格の高騰に加え、円安による輸入コストが上昇していることがあげられます。 

ビール系飲料についてはサントリービール、アサヒビール、キリンビール、サッポロビールの大手4社が値上げを発表しました。4社とも缶ビールの値上げは14年ぶりとなり、酒類業界に大きな影響を与える事例となりました。 

また、缶ビールのみならず飲食店向けの酒類も値上げ傾向がみられています。一部の居酒屋では生ビールの値段を上げるなどの対応がありましたが、客離れを心配してすぐには値上げに踏み切らない飲食店もみられました。 

ビールについては酒税改正で段階的な減税が予定されており、消費者にとっても費用を抑えることが期待できる一方で、メーカーや飲食店側は原材料・資材の価格高騰によりビール自体の値段を上げざるを得ないのが現状だといえます。 

酒類業界が抱える問題 

近年、消費者の飲酒量が縮小傾向にあることを論じてまいりましたが、ここでは酒類業界が抱える問題について解説していきます。 

まず酒類業の特徴としてあげられるのが、「伝統性・地域性がある」こと、「中小企業が多い」ことです。これらの特徴は次の2つの酒類事業者の抱える問題の要素となっています。 

  • 酒類事業者の後継者不足 
  • 経営難による中小企業の廃業 

酒類事業者の後継者不足 

日本の酒類業では、後継者不足の問題を抱えている事業者も多いです。その要因としては専門家が有する技術やノウハウの継承問題があげられますが、酒類業の特徴である「伝統性・地域性」も後継者不足に関係しているといえます。 

日本の伝統的な産業として酒蔵がありますが、こういった歴史的・文化的に地域社会とのつながりが深い伝統業については「事業者の高齢化」「少子化や若者の首都圏への人口集中」が要因となり、なり手不足に陥りやすいです。 

経営難による中小企業の廃業 

酒類製造業のほとんどは中小企業であり、近年の酒類消費量減少による経営難に悩む事業者も少なくありません。現に酒蔵などの清酒製造業の事業者数は、酒類消費量の減少傾向の影響もあり年々減ってきています。 

酒類業界の今後 

日本の酒類事業者は、近年の酒類消費量減少による経営難、なり手不足などの問題を抱えていることを紹介してきました。それでは、今後の酒類産業において考えられる影響や対応策にはどのようなことがあげられるのでしょうか。ここでは次の3つの項目について解説していきます。 

  • 事業継承の選択肢拡大 
  • 新しい取り組みの必要性 
  • 海外進出に向けて 

事業継続の選択肢拡大 

酒蔵には老舗が多く、100年以上の歴史を持つ企業も珍しくありません。しかし、後継者不足に陥れば、廃業をよぎなくされる場合もあります。後継者不足を防ぐためには、生産体制の見直し、人材の確保・育成や働きやすい環境の整備など、伝統的な技術を継承するための環境構築が必要不可欠です。また、近年では酒蔵事業でもM&Aを検討する事業者が増えてきました。M&Aは今後の酒類事業を救う手立てとして注目を集めており、実際にスーパーや飲食店と提携している事例も発生しています。 

中小企業においては酒類消費量の減少により経営難に陥り、廃業に至る企業も存在しています。酒類業は地域性が高いため、経済・観光資源として地域活性化を促進する役目としても期待されています。地方に観光客を誘致するには、地方創生を促すコンテンツ作成や事業の取り組みに目を向けることも大切です。 

新しい取り組みの必要性 

縮小傾向にある酒類市場で今後も売上を伸ばしていくためには、従来の商品開発・製造・販売等の方法にとらわれず、新商品開発・新規顧客の開拓・新たな販路の導入に取り組んでいくことが必要とされています。 

酒類事業者による新しい取り組みについては、国税庁も推進しています。2022年、国税庁では新市場(フロンティア)開拓などの取組に対して、酒類事業者へフロンティア補助金を支援する取り組みを実施しました。支援の対象となった酒類事業者の主な取り組みは次のとおりです。 

  • 商品の差別化による新たなニーズの獲得 
  • 販売手法の多様化による新たなニーズの獲得 
  • ICT技術を活用した、製造・流通の高度化・効率化 
  • 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により顕在化した課題への対応 

例えば、個人や酒販店を対象にした自分だけのオリジナル清酒を製造するための体制構築、テイスティングマシーン導入によるワインの試飲販売体制の構築などの実施例がありました。 

海外進出にむけて 

日本の人口減少や少子高齢化は事業戦略で乗り越えるのは難しく、今後も国内の酒類市場だけで売上を伸ばしていくことは厳しいと推測されています。そこで着目するべき対策が海外進出です。現に、日本産酒類の輸出額は年々増加傾向にあります。また、酒類業界は世界全体で100兆円を超える規模があるとされている一方で、2021年度の日本産酒類の輸出額は1,147億円と、まだまだ伸びしろがあることがわかります。国内の酒類市場を発展させていくためには、伸びしろが大きい海外市場への輸出促進を中心とした販路開拓がこれまで以上に重要となっていくことでしょう。 

日本産酒類の輸出促進には、商品の高付加価値化や認知度向上に向けた取り組みによるブランド価値向上が重要です。また、戦略的なプロモーションの実施、現地ニーズの調査など、継続的な対応策も必要となります。 

酒類の種類ごとで見ると、清酒(日本酒)やウイスキーの日本産酒類の国際的な評価の高まりを背景に年々輸出割合が増加傾向にあります。しかし、日本産酒類の海外認知度は一部を除きまだ高いとはいえないので、今後はより一層海外消費者ニーズの調査や商品開発を行っていく必要があるでしょう。 

まとめ 

今回は国内の酒類市場が縮小傾向にあること、コロナや酒税改正、原料・資材の価格高騰などが影響し、消費者の購買行動にも変化をもたらしていることについて解説してきました。 

日本の人口減少や少子高齢化により、今後も国内の酒類市場の縮小が続いていくことが予想されています。また、伝統業における課題ともいえる後継者不足や、中小企業の経営難についても問題視されているのが現状です。 

酒類業は地方における地域活性化や観光業促進の一助となる事業でもあり、今後も事業を拡大していく必要があります。そのためには、M&Aの検討や新たな商品開発・新規市場開拓、海外進出などについても積極的に取り組むことが重要です。

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