安全保障が今後の海外事業のキーワード。中国をどう考えていくか

日本がデフレに入ってから一体何年になるのでしょうか?
このデフレにおいて、諸外国とは異なり物価は上がらず、給与水準も上がらないまま何十年も過ぎてしまいました。
政府は赤字国債の発行が膨れ上がり、公共投資を控えているため、デフレ脱出の糸口は見出せていない状況です。

そんな中での新型コロナウイルスの蔓延。

企業は次々に日本を離れ、工場の建設や投資を海外で行い、利益を最大化する試みが行われてきました。

中でも中国は、外資系企業の投資を受け入れ、多くの工場が建設されたため、世界の工場といわれるほどです。
しかしながら、新型コロナウイルスの発生や、米中の商業的、そして政治的な対立により、状況は大きく変わることが予想されています。

この記事では日本企業の海外事業と、中国を中心とした、留意すべき安全保障について記述していきます。

バブル崩壊とその後の経済混迷

日本政府は年間のインフレ率の目標をを2パーセントとしていますが、バブル崩壊後、ものの価値が上がらず、政府統計の消費者物価指数もわずか1パーセントほどの伸びしか示していません。

1パーセントは上昇しているのか、と安心はできない。日本の統計は本来の数字より1ポイント程高くなっており、実質成長率は、ほぼ成長のない0パーセント成長となっているのです。

GDP推移

※縦軸は2015年を100とした値 ※横軸は年

日本や世界での経済危機はたびたび起こっています。

  • 1990年:バブルの崩壊
  • 1997年:消費税増税
  • 2008年:リーマンショック
  • 2020年:新型コロナウイルスによる影響

このように約10年ごとに経済状況を脅かす出来事が起こり、少しずつ回復基調だった経済が、再び停滞してしまう状況が繰り返し起こりました。

GDPの推移とデフレスパイラル

消費者物価指数や、GDPという言葉をニュースなどで聞く機会も多いかと思います。

まずはその違いの説明からいたします。消費者物価指数とGDPの違いは、どういうものなのでしょうか?

消費者物価指数とは、消費者によって消費されているもの、サービスの価値のこと。

GDPとは、国内で生産されるもの、サービスの価値のこと。GDPの推移で見てみても、バブル崩壊後も上昇はしていますが、その後1997年を境に大幅な上昇もなくほぼ横ばい状態となっています。

その中で若干の増減を繰り返し、2015年あたりから再び上昇しているような状況でした。

GDP推移2

そしてようやくGDPも上昇してきたという中で、2020年の新型コロナウイルスが発生し、新たに混乱が生じています。

長い苦労の末、ようやく経済状況が上向いてきたところで、様々な要因により経済というものは混迷してしまいます。

そのような繰り返し起こる経済危機に、企業は将来の予想が立てづらくなり、リスクの生じる投資を控え、内部留保をし、リスクに備える傾向が強くなりました。

内部留保とは純利益を投資や配当金に回さず、会社内に蓄えることです。そして、投資を行わないことにより、新たな利益を生み出さず、現状維持のみになってしまいました。

企業が新たな投資を控えるため、消費者は労働先が減ったり、仕事を失う場合も。所得が低くなることで、消費者も購買意欲が減少。

すると企業の売り上げも減少し、デフレスパイラルに陥るわけです。

デフレによる海外移転

デフレ脱却のためには国内投資が重要な要素となります。しかしながら政府の公共投資は、大量の赤字国債を発行してきたため、赤字を解消したい財務省の影響により、公共投資のための国債の大幅な増額などは行っていません。

デフレ下ではもの価値が上がらず、利益が少ないため、企業の投資は日本国内への投資控え、企業の既述のように、内部留保ばかりが蓄積していた状況でした。

そして投資分も日本から海外、特に中国や東南アジアへと移動していきました。

海外生産を行い、現地での低い労働賃金でコストを抑え日本企業の利益が上がるため、日本の経済的には良い状況のように思われます。

しかしながら、実際の日本国内の経済状況としては、今まで日本にあった工場を海外移転したことで、工場労働者の就業先が減少し、日本人の所得が減少することになってしまいました。

中国との対立と危機

米中関係

日本の低迷する経済状況の中、多くの日本や世界の企業がこぞって中国への製造先移転を行ってきました。特に日本企業にとっては中国は隣国であり、輸送費が低減可能で、10数億人という人口からの労働力もある国。さらに以前は人件費が低く抑えられる、などのメリットがありました。

しかしながら政治的には、アメリカのトランプ前大統領から大々的にはじまった中国への圧力が年々増加してきています。

これは、アメリカ国内の産業を守る、という大義名分のもと、力をつけていく中国の企業と、経済力で世界の覇権を奪おうとする中国自体を牽制する狙いがありました。

経済的な問題で、まず話題になったのは中国通信機器大手、ファーウェイの5G(第5世代移動通信システム)の通信網から排除しようとする動き。

更に、ファーウェイが扱う製品についても、安全保障上において危惧する点があるため使用を制限する動きも出はじめました。

政治的な観点からも、アメリカは世界の覇権を中国に奪われまいとしています。

例えば、知財権の保護、新疆ウイグル自治区での強制労働、そして環境問題。さらに、両国の全く異なる主義の違いである、覇権主義国家の中国と、民主主義国家のアメリカ。このように、アメリカと中国の間にはさまざまな対立の理由が混在しています。

それに加えサイバー攻撃の発信源として中国が近年まで大多数を占めていました。

ほぼありとあらゆるものがコンピュータで制御され、ネットで繋がっているこの現代。サイバー攻撃は、昨今頻繁にニュースで取り上げられている個人情報の流出のみならず、われわれの生活に必要な、電気、ガス、水道などの設備、電車や交通網、病院などの、機器をターゲットにし、それらを停止させる恐れがあります。

さらには国家の安全保障上守られるべき軍事機密を漏洩させたり、原子力発電所などのコントロールが攻撃にあった場合は、人々の命さえも危険に晒してしまう恐れもあるという重大な問題となっています。その後、トランプ前大統領に代わり新しくアメリカ大統領になったバイデン大統領も更に中国への牽制を強めています。

バイデン大統領は、トランプ前大統領よりも明確に中国への対立へと踏みだし、今までは中国への立場を曖昧にしていましたが、2021年の日米共同声明では、明確に中国との対立を表明しました。さらにNATO(北大西洋条約機構)でも中国に対する脅威に関して、「体制上の挑戦」として認識する、と言う共同声明を発信しました。このようにアメリカを中心とした各国が、中国との対立を表明し、牽制をしています。

このように現在、中国とアメリカとの対立が非常に激化している状況下で投資を行うためには、現在の日本の経済状況を鑑みることはもちろんですが、このような安全保障上の観点からも投資先について十分に計画を練る必要があります。

リスク回避と投資先の選定

このような中国との対立を例にすると、政治的な対立などによる混乱からリスクを回避するためには、一国のみに投資することは非常に危険な状況になってきました。現在のように中国に多くの投資をし、なんらかの問題が発生した場合、生産停止、サプライチェーンの分断、輸出入の停止、最悪は巨額の投資をしたのにも関わらず撤退をせざるを得ない事態も考えられます。

このようなリスクを防ぐためにも、投資先を東南アジアなどの国々にも分散させることで供給を継続可能にする体制づくりが必要です。生産施設の移設に関しては、既に国内回帰も始まっています。

リスク回避の観点から、日本に改めて投資をすることに加え、以前は日本の賃金水準が中国や東南アジアに比べて高かったため、現地で販売しようとするとどうしても高額になり、販売が難しい点がありました。そのため現地に投資をし、低い賃金水準で生産し、価格を下げ販売をしていました。

しかしながら現在中国や東南アジアでは中産階級の、人口が急激に増加し、高額でも日本産の商品が欲しい、と言う需要も増えてきたことがもう一方の理由になります。このような投資先の分散や改めて総合的な判断により投資先を見直すことがこれから重要となります。

M&Aの活用

再び経済の話に戻りましょう。アメリカのバイデン大統領は、2021年4月に約255兆円公共投資(インフラや気候変動対策)を行うと言う経済対策を発表しました。既述のように政府からの公共投資があれば国内企業の動きが活性化され、景気の上昇につながるわけです。

一方で、公共投資の少ない日本の今の状況で、企業はどののような形で利益を上げていくことができるのでしょうか。

その鍵は国外への企業買収、M&Aを押し進めることです。

海外では頻繁に行われていますが、日本では失敗した際ばかり大きく報道されてしまうことや、「買収」という名前の印象の悪さが目立ち、海外と比較すると積極的にすすめられている状況とはまだ言えません。

まずは2016年時点で、350万社にも上る中小企業と、地方銀行のM&Aによる再編が必要となってきます。

これは中小企業は生産性が大手企業よりも低く、一人当たりの生産性、1年間の付加価値で見ると、中小企業で550万あまり、大企業だと1300万円程と、2倍以上の差が生生じているためです。もし業界が再編されれば、一人当たりの生産性も増加する、というわけです。

現在、2020年から始まった新型コロナウイルスの蔓延が中小企業を襲っています。このことにより、特に中小企業は売り上げに大打撃を被った企業が多数あります。そしてこの状況下で、倒産してしまう企業など、ニュースや新聞などで報道され、目にすることが頻繁にありました。

しかしながら、実際は政府の貸付金などの対策が功を奏し、2020年の倒産件数は前年比6.5パーセント減少しています。

それでも安心することはできません。新型コロナウイルスの影響が長引き、満額を借り入れ、その後貸付金を使い果たしてしまった後はどうでしょう?

これ以上の政府の対策がない限り、来年以降倒産がまた増えてしまうのではないかと予想されています。日本だけではなく、海外でも新型コロナウイルスの影響により、資金繰りが悪化している企業もあります。

このままでは再び低成長の経済が継続してしまいます。

今日本全体の経済を上向かせるためにも、利益を増加させるためにも、内部留保を貯め続けていた企業は、M&Aを行い、その資金を投資することがこれからの成長の鍵と言われています。

この状況下で株価の下がった企業は買収をしやすく、自社の業務を補うことのできる会社であれば、成長の足掛かりになると考えられます。さらに日本から海外の成長国の成長企業の買収をすることにより海外事業資産を増やすことも可能です。このように日本の経済を上向きにするために、政府は中小企業の再編や、企業自らが内部留保をM&Aに使用するような制度を制定する必要があるでしょう。

まとめ

最後に、業界再編と、日本の海外事業において上手なM&Aを進めていくことと同時に、国々の政治的動向を読み取り、安全保障上のリスクに対して敏感になることが必要となってきます。そして、再び日本の経済力が復活するように、海外での経済活動と、投資をうまく活用して日本経済を活性化させることが重要なカギとなります。この海外事業と安全保障を考慮し投資をすることで、再び日本が以前のように経済で世界を牽引することができるようになればいいですよね。

<参考>

  • 消費者物価指数

https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/nendo/pdf/zen-nd.pdf

  • 総務省消費者物価指数

https://dashboard.e-stat.go.jp/graph?screenCode=00250

  • 総務省GDP推移

https://dashboard.e-stat.go.jp/graph?screenCode=00370

  • 日米共同声明

https://diamond.jp/articles/-/269162?page=4

  • NATO中国の軍事脅威を警戒

https://www.bbc.com/japanese/57478665

  • バイデン大統領経済対策

https://www.bbc.com/japanese/56599135

  • 中小企業の生産性

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/03Hakusyo_part1_chap3_web.pdf

  • 中小企業の数

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2018/181130chukigyocnt.html

  • 2020年倒産件数

https://www.google.co.jp/amp/s/prtimes.jp/main/html/rd/amp/p/000000227.000043465.html

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