米中関係およびCOVID-19で進む脱中国。中国のサプライチェーン(供給網)の変化と東南アジア・インドの今後

ほとんどの海外諸国では都市のロックダウンにより、労働者は自宅待機、企業は原材料や部品の供給を受けられないために工場を稼働できない状況です。それにより製品を製造できない事態に陥っています。

中国に依存する世界各国の多くの業種・業態を始めとし、全世界的な規模で一斉に業務を停止し、製造に関わる調達、販売全てのサプライチェーンが打撃を受けています。

また、日本国内においてサプライチェーンの大打撃は顕著です。

3月9日の東京商工リサーチは中小企業を対象に実施した「新型コロナウイルス」による影響調査によると、最も影響が高かったのは「サプライチェーンに支障」。約4割(構成比39.0%)を占めトップとなりました。

人の生活を取り巻く商品の大半が”Made in China”と、日本企業にとって中国は欠かせないビジネスパートナーであり、存在感は非常に大きいものでした。

しかし、世界的なコロナウイルスの感染拡大により中国依存のリスクを目の当たりにした日本。この記事では世界の脱中国依存への動きの様子や、今後日本が脱中国を迫られる中で代替案にはどんなものがあるのかについてお伝えします。

GDPの下落と産業構造の変化

GDP

世界銀行は、2020年の世界全体の実質GDP成長率は-5.2%に低下すると予測。リーマンショック時の-0.1%を大幅に下回ると発表しました。

世界のGDPの推移

2020年8月11日、麻生副総理兼財務大臣は4月から6月のGDPについて、「大幅にマイナスになっているのは間違いない」と述べました。

また、「企業の間では、デジタル通信技術への設備投資が増えており、日本の経済を成長させていく上でこの技術が欠かせない」との見解を示しました。

コロナウイルスによる需要の変化と産業構造の変化

危機時の産業の変化

1990年代後半のアジア通貨危機、2000年代後半のリーマン・ショックなど、これまでも日本企業は数々の危機に直面してきた。

今までの大きな経済的イベントの後には産業構造が変わっているため、コロナ渦においても変動が起こっています。

ワクチンが開発されるまではしばらく自粛の規制がかかり、飲食業や観光業は産業規模として大きく縮小します。

代わりにオンラインサービスの新ビジネスが続々と誕生し、病院の診療、学校の授業、企業の商談など、あらゆるコミュニケーションがオンライン化し、多くの職業でテレワークが働き方の基本形として浸透していきます。

米国においてはGAFAを代表とするインターネット関連の株式時価総額比率の上昇がみられ、ITの重要度がこれまで以上に高まったと言えるでしょう。

インターネット関連の小売り、SNS、動画配信などはますます有利となってきます。

数年かかると思われた変化がDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進み、コロナウイルスの拡大をきっかけに一気に進むことが期待されているためITの需要をうまくサービス化させてきた企業やうまく取り入れた企業は一人勝ちになっていくでしょう。

コロナ渦において注視すべき米中貿易摩擦

中国と欧米諸国との政治的な駆け引きのニュースでよく取り上げられていますが、「脱中国化」の動きを主導するのは、もちろんトランプ大統領です。

国際的な原材料・部品のサプライチェーンから、中核を担う中国の締め出しを狙い、日本など有志国を巻き込んだ再編を画策する意向です。

米ホワイトハウスの経済顧問ラリー・クドロー氏は、トランプ政権はサプライチェーンを中国から米国に引き戻すため米国企業を移転費用を全面支援すると述べました。

米中貿易戦争によって中国から米国への輸出が難しくなり、国家安全保障や経済安全保障上の理由から中国における生産への懸念が高まっている動きには目を離してはいけません。

脱中国に向けた動き

中国以外の製造先と筆頭のインド

2010年以降、中国の人件費高騰や尖閣問題などの政治リスクにより、「チャイナ+1」が提唱されてきました。

これは、中国以外の国への生産拠点設置の必要性です。

ここ数年で、米中貿易摩擦によりベトナムなどへの生産移管を行う企業も増えているようですが、このコロナウイルスの影響によりリスク分散の必要は加速するでしょう。

世界の脱中国の波にのって、インドは「世界の工場」を目指しています。

新型コロナウイルスの感染者数が11万人を超えたインドは3月24日から全土で都市封鎖を継続していますが、モディ政権が2014年から推進してきた製造業振興策「メイク・イン・インディア」を強化する意向を述べました。

インド自体も今まで中国に依存してきた背景がありますが、脱中国を目指し、インドが中国のような世界の工場になることを目指すものです。

メイクインインディア

日本も中国依存をこれを機に脱却すべきか

日本はいつから中国に製造を依存するようになったのか、世界各国が中国に依存するほど製造大国になったのはいつごろか、などを1980年代からの経済の動きと日本企業の進出について見てみましょう。

1980年代前半、製造業は輸出中心で大きく売り上げを伸ばしました。

円高に伴い輸出価格の上昇と通商摩擦の深刻化により、輸入品による調達を拡大させ、海外現地生産に積極的に乗り出し始めました。1990 年代に入り、世界経済のボーダレス化と自由化が急速に進みます。

中国が世界の工場として台頭し始めたのは、円高になった 2000 年代後半です。

リーマン・ショックで一時減退 したのち,2011 年から再度活発化しました。

中国の製造業生産の世界シェアは2010年に 19.8%となり、米国の19.4%を上回りました。(米国は 110 年ぶりに世界最大の工業国としての座を中国に明け渡すこととなり、このことが米中貿易摩擦の最初のきっかけとなったのです。)

中国への輸入依存度

経済産業省「新型コロナウイルスの影響を踏まえた経済産業政策の在り方について」より引用

上記のグラフにもあるように、世界各国と比較してみても日本の中国への依存度はトップに位置しているため、コロナウイルス感染拡大による被害は甚大でした。

今年3月初め、安倍晋三首相は、サプライチェーンの混乱を避けるために、日本は中国への依存を減らすべきだと提案しています。

「一つの国に生産を大きく依存している製品のうち、付加価値の高いものは日本に移転すべきだ。それ以外は、ASEAN(東南アジア諸国連合)など、生産拠点を多角化しなければならない」と述べ、打撃を受けたサプライチェーンの海外移転や東南アジアへの拠点分散を支援するため、2,400億円超の予算を計上しました。

日本の国内回帰の事例

経済産業省は7月17日、上記の安部首相の予算計上を受けて生産拠点の国内回帰や多元化を図るため、87件の事業が補助金約700億円を受けたと発表しました。

日経アジア・レビューによると、87件のうち57件が国内投資で補助対象となり、残りの30件が東南アジア諸国への生産拠点の移転を計画しているとのことです。中国から国内への工場移転、中国への工場移転を開始した大手企業の事例を見てみましょう。

・アイリスオーヤマ(家庭用品、家電メーカー)

中国大連市と蘇州市にある工場で不織布などの原材料を調達してマスクを製造していたが、政府の支援を受け本拠地である宮城県角田市の工場でマスクの製造を開始

・サラヤ(洗剤メーカー)

インドで洗剤やトイレットペーパーを製造・販売するミステア社を買収し拠点を工場拠点をインドに移す予定

・HOYA(光学ガラス専門メーカー)

工場の中国からベトナムとラオスへの移転を計画

国内回帰 – 台湾の事例

中国大陸からのサプライチェーンを脱却するために迅速な動きを示し成功事例となっているのは台湾です。

2019年、深刻化する米中貿易戦争において台湾政府は国内回帰策「歓迎台商回台投資行動方案」を打ち出しました。

法人税を緩和するなどして「脱中国」を目指す中で、台湾企業を対象にUターン投資が推進されました。

2020年7月2日時点で192社、総額で約7763億台湾ドル(約2兆8,323億円)の投資が認可され、中には世界的に活躍する下記の企業も名を連ねました。

  • 台湾晶技(TXC):水晶デバイスで世界首位
  • 上銀科技(ハイウィン・テクノロジーズ):リニアガイドの生産量で世界屈指の
  • 翔名科技(フィードバックテック):半導体のイオン注入装置大手

こちらの動画をご覧いただくと台湾の脱中国のきっかけや、SARSで打撃を受けた経験から学びCOVID-19抑制に成功した内容が分かります。

※8月12日現在、感染者数の数は約500名、死者は7名と抑え込みに成功しています。

台湾コロナ指数

今後さらに加速する日本企業の課題

高齢化による人手不足

日本の人口推移

日本が脱中国をして他のASEAN諸国に工場を移転するのではなく、国内回帰した場合、高齢化による人手不足が課題になると言われています。

労働集約型ビジネスが感染拡大を悪化させる要因になった事例

コロナウイルス感染拡大以前から、サプライチェーンの物流における労働集約型も課題でした。
(労働集約型とは生産要素に占める資本の割合が低く、人間の労働力に頼る割合が大きい産業のこと。)

昭和平成の働き方を続けてきた日本は、労働集約型から抜け出せず、世界における生産性の競争力が最下位レベルと言われました。

200人以上のスタッフを抱えるある物流センターにおいて、コロナ感染者が出てしまったことがきっかけで、ウィズコロナの社会では労働集約型ビジネスの限界が来ているとみなされています。

感染が一旦落ち着いたとしても、ワクチンが開発されたとしても、長期視点では3~5年付き合っていかなければいけないとも言われています。

このような最悪のケースを考えると、従来の労働集約型ビジネスの環境を保つのは無理でしょう。

ソーシャルディスタンス、衛生面での配慮、従業員の健康への配慮は、企業の信頼にも関わります。

そう考えると数年でも体制を一時的に変えるスタンスが企業の存続に不可欠になってくるでしょう。

ロボットの活用とデジタルトランスフォーメーション

最悪のパターンでは数年付き合っていかなければいけない物流や製造現場におけるソーシャルディスタンス、衛生管理のことを視野に入れるとデジタルトランスフォーメーションを活用しない以外の策はないかもしれません。

コロナウイルスの感染拡大によってニーズが高まっているDXですが、これはスウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した概念で、ITの力を使って、人々の生活をあらゆる面で良い方向へ変えるということです。

例えば、欧米の完成車メーカーは、設計段階から全てデジタルで進められるように、自動車業界以外にも浸透が加速してくでしょう。

日本ではなかなか進まなかったDXですが、この感染拡大によりDXを活用するしか活路を見いだせない業界も出てきており、非常に注目されています。

製造業がこのDXを取り入れることによってどのようなメリットがあるのでしょうか。

メリットは主に下記の3つがあると言われています。

①国内回帰が可能になる

コロナウイルス発生以前から米中貿易戦争があったためサプライチェーン寸断のリスクを常に抱えていました。

しかし感染拡大以降は各国が自国の利益を優先する動きが出ています。

自給自足で部品供給ができるような環境を整えておくと、ハイテク部品などで製品に供給不足になった際自国メーカーに優先的に供給できるようになります。

②コスト削減が可能になる

自動車業界の状況に置き換えて考えてみると、ビフォーコロナの販売台数に戻るまで2~3年かかると言われているそうです。

企業が利益を保つにはどれだけコストダウンできるかが重要になっているため、ロボットを活用して人件費を抑えることも可能となります。

③リモートや自動化技術を用いた無人工場

しばらくはウィズコロナの状況が続きますが、工場は停止できません。

人がいないと工場の稼働ができないという課題に対しては、ロボットを活用しない以外選択肢はないといっても過言ではありません。

物理的な仕事はロボットが実施し、人は遠隔から制御するという無人工場はウィズコロナの状況では非常に有効な手段です。

まとめ

物流センターでの感染拡大を阻止するために対策を急がなければいけませが、この感染拡大をきっかけにして、高齢化による人手不足、労働集約型ビジネスを削減し生産性の高いビジネスに転換する良いチャンスが来ています。そのためにはデジタル化を取り入れるしかありません。

すでにAIを用いた品質管理や、無人搬送機による在庫管理、管理者を1名のみ配置の産業用ロボットを活用し、自動生産ラインを取り入れる企業も出てきています。

1日も早く安全な体制で工場を再開し、サプライチェーンを日本国内で自給自足する流れが米中貿易摩擦や予期せぬウイルスに影響されない体制づくりにつながっていくのではないでしょうか。

<参考>
https://response.jp/article/2020/06/11/335485.html

https://news.yahoo.co.jp/articles/563fd1327f17545b804707dd5906be4cfe174180

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https://www.robot-digest.com/contents/?id=1592292750-115538

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01272/00072/

http://j.people.com.cn/n3/2020/0415/c94476-9679839.html

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https://www.tokyo-np.co.jp/article/46809

https://diamond.jp/articles/-/242724

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00761/031000024/

https://www.chemicaldaily.co.jp/%E6%96%B0%E5%9E%8B%E8%82%BA%E7%82%8E%E3%80%80%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E7%94%A3%E6%A5%AD%E3%81%AB%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%80%80%E5%B7%A5%E5%A0%B4%E7%A8%BC%E5%83%8D%E7%8E%87/

https://www.asahi.com/articles/ASN7Z7565N7XUHBI003.html

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO58031210U0A410C2KE8000/

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/05/post-93542_2.php

https://www.epochtimes.jp/p/2020/07/59833.html

https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200612

https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=36641
https://diamond.jp/articles/-/243329?page=2
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/556911
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200811/k10012562011000.html
http://www2.jiia.or.jp/pdf/resarch/H23_Japan_US_China/05_Ohashi.pdf
http://gku-repository.gifu-keizai.ac.jp/bitstream/11207/249/3/ronshu_51%283%29_021_MIWA.pdf

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