今年10月に機械翻訳最大手のロゼッタが「IT翻訳」サービスを発表しました。
多くのIT企業では、専門領域に特化した良い翻訳会社が見つからず、語学力のある社員が本業を差し置いて翻訳作業に時間を取られているという問題があります。
しかし、このロゼッタのサービスを利用することで、作業時間は10分の1まで減らすことができ、外注費を20分の1削減できるというのです。
数年前まで、機械翻訳は「なんとなく意味が分かる」という程度のレベルでしたが、最近Google翻訳を使用していると、精度がかなり向上していると実感することはないでしょうか。
近年、翻訳へのAI導入が加速しているため、言語表現の微妙な違いを捉えるのに要する時間のだんだん短くなっています。
今回は、機械翻訳の業界動向や最先端の機械翻訳サービスの紹介、翻訳を活用してビジネスチャンスを拡大する「言語のローカライゼーション」についてご紹介します。
自動翻訳と機械翻訳の違い
翻訳サービスを提供する川村インターナショナルのサイト(https://www.k-intl.co.jp/blog/111)を参考にして、自動翻訳と機械翻訳の違いをご紹介します。
自動翻訳
自動翻訳は、主に音声翻訳(音声自動翻訳)を指す場合に使われ、リアルタイムなコミュニケーションを必要とする観光、チケットの発券対応、飲食店の注文など場面に適しています。機械翻訳と比べて双方向性があるのが相違点です。
※POCKETALK(ポケトーク)https://www.licenseonline.jp/qq2/licenseonlinestorefront/ProductDetail.asp?BrandID=15&EQPID=13
「自動翻訳」は、このように音声の領域で多数を占めています。
これは次に説明する「機械翻訳」がまだ「ポストエディット」と呼ばれる人の手による修正が必要であることに対して、ポケトークのような音声自動翻訳では人の手が介在しないことから「自動翻訳」と呼ばれるようになったのではないかと言われています。
機械翻訳
ビジネスにおける翻訳では、自動翻訳のように「ただ翻訳してその場のコミュニケーションがスムーズになればいい」だけではなく、「記録として残す」機能が求められます。
このような目的を兼ね備えたビジネスシーンでの翻訳を「機械翻訳」と呼んでいます。
※ビジネスの会議などでポケトークのような音声翻訳の機械を使用する事もあるかと思いますが、この記事ではそのような音声翻訳の使用については省かせていただきます。
機械翻訳の歴史
17世紀の数学者ルネ・デカルトが起源
「機械翻訳」という概念は、17世紀のフランスが起源です。数学者・数学者であったルネ・デカルトが、多言語間の同意語に単一の記号を割り当てを普遍化するという考え方を提唱しました。
1954年代にはコンピューターで研究が始められていましたが、1966年、米国の科学者委員会ALPACは、機械翻訳のことを「高価で、不正確、将来における見込みがない」と報告していました。
ルールベースの翻訳(Rule-Based Transltion)の登場
見込みがないとされていた機械翻訳ですが、1970年代には、ルールベース翻訳が現れます。
言語を別の言語に切り替えるために、プログラマーが入力された一連の規則やルールを適用するのです。
しかし欠点は、決められた内容のみの対応となるため言葉のちょっとした変化や揺らぎには対応できず、微妙な言語間のニュアンスの違いが抜け落ちてしまうのが難点でした。
日本における機械翻訳ブーム
1980~1990年代においては、「用例ベース」という手法が出てきました。
1990年前後、日本で最初の機械翻訳ブームが起こります。
機械翻訳システムが搭載されたワークステーションが、電気通信事業者から販売されていますが、出力される訳文は正確性に欠けるものでした。300万円程度のコストがかかっていたため、有用性が釣り合わないと判断されました。
1995~1997年、二度目の機械翻訳ブームが起きました。一般的にパソコンが普及し、インターネットが登場し始めた頃です。安価な家庭用の翻訳ソフトが販売されたことがきっかけになり、一般ユーザーの間でもブームとなりました。
Microsoftによる機械翻訳の研究
2005年頃には、Microsoftによる機械翻訳の研究が開始。
翌年には、すでに実用化の事例が見られています。日本では2008年頃、携帯電話で気軽に翻訳サービスを利用できるシステムが出てきました。2013年、機械翻訳のレベルはTOEIC600点程度だったと言われています。
ニューラル機械翻訳 (Neural Machine Translation)
次に出てきたニューラル機械翻訳では、規則やルールだけではなく機械学習の要素が入ってきます。
2018年に時点で、ニューラル機械翻訳のレベルTOEIC800点レベルに達していると言われています。
ニューラルネットワークを活用した翻訳は、人の脳神経細胞の活動を単純化したモデルを採用しているため、データを与えれば与えるほど自動的に学習していきます。一つの物事を段階を踏みながら分析することから「ディープラーニング」とも呼ばれています。
ニューラルネットワークの研究は50年以上前から続けられていますが、精度の高い結果を得るには大量のデータの蓄積が必要でした。
しかし、インターネットの時代に入り、この問題点は急速なスピードで解消されることになりました。
ウェブ上の大量のデータを収集できるインターネットは、データ量の蓄積がものをいうニューラル翻訳を進化させています。
Googleが打ち出した機械翻訳システムは、統計翻訳以上に自然で正確な訳文の出力を実現し、少しの編集作業でビジネスにも活用できる精度にまで到達するようになってきました。
次に、機械翻訳を利用する際のメリットとデメリットを見てみましょう。
機械翻訳のメリット
スピーディーである
翻訳速度が速い翻訳家に英日翻訳を依頼した場合、8時間で約1,500〜2,000語が翻訳可能と言われています。
しかし、この8時間の作業をGoogle翻訳にかけると数十秒で終えてしまいます。
コストが安い
一文字5円の翻訳サービスに2,000文字の英文翻訳を依頼するとだいたい10,000円かかります。
Google翻訳の場合、100以上の言語が、どんなに文字数が多くても無料で翻訳が可能です。
翻訳結果を文書として残しやすい
ビジネスで使用する場合、文書の配布、保管、管理のために記録として残す必要があります。
簡単で手軽に始められる
翻訳者に翻訳を依頼する場合、意外と依頼する側にも手間が発生します。
依頼する文書を洗い出す作業、翻訳が行われた跡の手直しの手間などです。しかし、機械翻訳の場合、クラウド上でやり取りが完結するので時間と手間の削減につながります。
日常会話レベルであればスピーディで精度の高い翻訳が可能
機械翻訳の精度は年々向上しているため難易度が高くなく、専門用語がないレベルであれば機械翻訳を使った方が良いでしょう。
機械翻訳のデメリット
心理を読んだ翻訳ができない
機械翻訳はどんなに精度が高くても、機械が文脈を「想像」することは不可能です。
人間の心理を読んでニュアンスを微妙に変えるなどは対応できません。
文字の配列や漢字とのバランスなどを加味できない
機械翻訳による翻訳結果が必ずしも正確で期待通りにいくとは限りません。
翻訳のミスやニュアンスの違いは生じます。
翻訳業界においても「ポストエディット」と呼ばれる修正作業専門の校正者のニーズが高まっているように、人間の翻訳者による最終チェックは欠かせないのです。
市場規模
世界中のAIに関連するプロジェクトの規模は、2018年の1.2兆ドルからさらに増加しています。
翻訳へのAIの利用が今後も増えるのは確実ですが、翻訳だけで見てみると、成長は緩やかな伸びとなっています。
機械翻訳ではありませんが、ポケトークなどの自動翻訳の市場を参考にしてみると、世界における市場は、2017年12月末時点の25.8万台から9倍に急拡大すると予測しています。
機械翻訳最大手のロゼッタの売上を見てみると、右肩上がりとなっています。これはロゼッタが拡大する市場ニーズに合った有益なサービスを提供できていることを意味します。
注目の各社
次に、機械翻訳サービスを提供する企業とその特徴をご紹介します。
ロゼッタ
ロゼッタは2004年に創業されました。本業でない翻訳のために優秀な日本人の貴重なスキルと時間が奪われていることを問題視し、自動翻訳システムを開発。言語の学習コストを下げて日本人の生産性向上を目指し、化学、電気電子、機械、IT、特許、医薬、バイオなど高精度に科学技術の専門文書を翻訳するサービスを提供しています。
ロゼッタのAI自動翻訳サービス「T-400」は、2,000分野に細分化された専門分野のデータベース、ユーザ別にカスタマイズ可能な機能とを兼ね備えています。
様々な分野における専門文書を、高精度に翻訳できる自動翻訳システムです。
フュートレック
出資を通じて、自動翻訳関連事業に参入しているフュートレックは、NTTドコモと韓国シストランインターナショナルと合同で「みらい翻訳」のサービスを提供しています。
みらい翻訳は、ニューラル機械翻訳エンジンを搭載する機械翻訳サービスで、ウェブブラウザ利用するクラウドサービスです。
和文英訳はプロ翻訳者レベルで、英文和訳はTOEIC960点並み、日中翻訳は人手翻訳と同等レベルです。
大手法律事務所の協力によって開発した契約書・法務モデル、契約書・定款・規定などの法務関連文書において実用レベルでの翻訳が可能になりました。
翻訳センター
翻訳センターの「ヤクラゼン」は、使えば使うほどユーザーにカスタマイズしていく翻訳システムです。ユーザーは「フレーズ集」と「用語集」をが登録し、それらをベースにして自動翻訳されるシステムです。
その自動翻訳を人が編集することによって、さらにフレーズ集や用語集が充実していきます。編集する際の選択肢は、自身で行う以外に、システム上から外注も可能です。
専門性に特化した自動翻訳サービス
Deepl
2017年夏、言語のAIシステムを開発するディープラーニング企業のDeepL(ディープエル)は、無料の機械翻訳システム「DeepL Translator」を導入。DeepLは、ドイツのケルンが拠点で、2009年にLingueeとして設立されました。
国際ビジネスやインバウンド関係者に「翻訳の品質が非常によい」、「翻訳の文章が自然でこなれている」と定評があります。
「Google翻訳と違う」と言われる理由は、DeepLが使用しているデータベースが非常に上質で膨大なデータベースを元にしていることが挙げられます。
NTTコミュニケーションズ
NTTコミュニケーションズは、グループ企業であるみらい翻訳と情報通信研究機構が共同開発したAI翻訳ツールの「COTOHA Translator」のサービスを開始。ニューラル機械翻訳エンジンを実装しており、多言語対応や翻訳精度向上のためのカスタマイズ機能を有しています。
同社は、製薬業向けにAI翻訳精度を向上させるための「製薬カスタムモデル」を開発しており、田辺三菱製薬を含む複数の企業がこのコンソーシアムにメンバーとして参加しています。
各社が持つ大量の学習データを用いて翻訳精度を高めることに尽力しています。
言語のローカライズ化の重要性
言語サービスを専門とする市場調査会社CSA Researchの研究責任者Donald DePalma氏によると、2019年現在、「企業がEコマース市場の90%に届けるためには、自社のウェブサイトで最も経済的に有利な15言語、99%に届けるには、56言語をサポートする必要がある」と述べています。
言語の「ローカリゼーション」とは、特定の国や地域、集団の慣習に合わせた製品やサービスを適合させる技術およびプロセスのことを示します。
翻訳におけるこのローカリゼーションのプロセスは、文章や音声素材の翻訳だけでは十分ではありません。現地の規約、コンプライアンス、規制・税制を反映するために、文書形式やソフトウェアの修正が必要になってきます。
そのため、複雑かつコストがかかってきます。
既存のEコマースビジネスでは、ウェブサイトを別の言語にローカライズすることがビジネスチャンスにつながると注目され、多くの企業がグローバル市場を目指し、製品やサービスのローカライズを進めています。
例えば、英語のウェブサイトに中国語とスペイン語を追加すると製品へのアクセス可能数が約23億人まで増えます。このことは、世界のインターネットユーザーの約53%に届けられることを意味します。
さらに、アラビア語(世界で人口が4番目に多い言語)を追加すると、世界のインターネットユーザーの約58%にリーチできるのです。
最後に
機械翻訳の技術はAIによって日に日に精度が向上しています。
質の高い翻訳が安価で身近になると多くの企業が「言語のローカライゼーション」を積極的に導入していくでしょう。
販路を海外に拡大したいとお考えであれば、是非先手必勝で取り入れていきましょう。
<参考>
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ne/18/00046/00001/
https://www.k-intl.co.jp/blog/c18
https://media.dglab.com/2020/10/20-afp-01-12/
https://www.k-intl.co.jp/blog/111
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000058.000006279.html
https://frontier-global.co.jp/blog/limits-of-automatic-translation.html
https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n201804020633
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49000700W9A820C1000000/
https://shutto-translation.com/blog/mechanical_translation/
https://miraisozo.mizuhobank.co.jp/future/80066
https://www.crimsonjapan.co.jp/blog/5-trends-in-translation-industry-2019/
https://kigyolog.com/service.php?id=264#2-1
https://strainer.jp/notes/5914
https://www.yarakuzen.com/the-history-of-machine-translation