インターネットを利用している際に、下記のような「Cookie使用の同意」の表示を見たことがあると思います。
このCookieには、オンラインショッピングの途中に用事ができてしまって一度サイトを離れても、改めてそのサイトにアクセスしてもカートの中に商品が残っていることなど、私達の生活を便利にするものでもあります。
https://jajaaan.co.jp/web-production/basic/cookie/
近年、このCookieは個人情報保護の観点から世界的に問題視されるようになり、Cookie(サードパーティCookie)は廃止される流れになっています。
日本でも、就職情報サイト「リクナビ」の運営会社リクルートキャリアが、就職活動中の学生のサイト閲覧履歴を基に、内定辞退の指標を入手していた事実が発覚したことがきっかけとなり、個人情報保護法が改正されました。
※弁護士法人 三宅法律事務所HPコラムより
しかし、インターネット広告の企業は、Cookieが廃止されることにより、リターゲティング広告が特に打撃を受けるとされ、今までのビジネスモデルの転換が求められています。
この記事では、Cookie廃止の動きの背景、ポストCookieの代替案、ネット広告業界への影響についてご紹介します。
Cookieの長所と問題点
長所
Cookieを理解するには、よく「会員カード」が喩えとして使われます。会員カードを店員に渡さなければ、自分を会員だと認識してもらえないですよね。
私達は、会員カードを持っているので、その人が会員番号何番で、どんなものを過去に何を何回借りてきたのかなおの情報が分かります。Cookieとサーバーの関係も、会員カードと店員の関係と考えれば、分かりやすいと思います。
サードパーティーCookieを活用することで、第三者でもユーザーの関心やウェブサイト上での動きなどの情報が集められます。
- ログインが必要なログインステータス
- 動画再生で一時停止したタイミング
- 不動産HPなどでお気に入りに保存した物件
- 言語や通過の設定の記憶
- 推奨コンテンツの提案 (自分の興味となりそうなものが表示されること)
問題点の事例と世界の動き
一方、ユーザーの知らないところで行動が追跡されてしまうため、「追跡されているようで気持ち悪い」と感じる方もいるでしょう。Cookieによって個人情報が特定されるのではないかという懸念から、世界では、「プライバシー保護」の観点で、GDPRやCCPAにより規制が進んでいます。
・GDPR
GDPRとは、EU一般データ保護規則のことで、2018年ヨーロッパで施行されました。
AIやビッグデータの活用が普及する昨今、顧客データや行動履歴が多くの企業でサービス開発や販促に利用されており、情報の取り扱い方が大きく変わったため、制定されました。
・CCPA
2020年、アメリカのカリフォルニア州では、消費者プライバシー法(CCPA)が施行されました。
これは、アメリカ初の個人情報法保護の州法で、他の州でも同様の個人情報保護法整備への動きが出ているようです。
これらの世界的法規制の流れを受け、2020年1月、Googleはブラウザ「Chrome」でのサードパーティCookieのサポートを、「2年以内に廃止する」と発表し、Appleも同様に「Safari 13.1」Cookieのブロックを実装しています。
WebブラウザーのサードパーティーCookieの動きが加速しています。
・企業の事例:NYTimes
2020年、アメリカ大手の新聞のニューヨーク・タイムズは、Cookieによる広告の廃止に向けた取り組みを本格化させるために、電子版の有料購読者が急増する中、米Googleなどの主要Webブラウザにおけるサポートの終了。
Cookieにも規制をかけるパーソナルデータの新たな法律に対応しました。現在、収益向上や今後のサービスのためにデータ分析力の底上げに取り組んでいます。
日本では
GDPRやCCPAなど海外には個人情報を保護する法律規制が進んでいますが、日本では、そうではなりません。
CookieやIPアドレスは、それ自体では特定の個人を識別することができないとされ、「個人情報」には該当しないことになっています。
ただし、他の情報と容易に照合ができ、それによって特定の個人を識別することができるケースでは、個人情報に該当するとされています。そのため、今までは、Cookie利用や第三者提供について本人の同意は法律上求められていませんでした。
しかし、新たな規律への動きが出てきたのは就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアの個人情報の扱いがきっかけとなりました。就職活動中の学生のサイト閲覧履歴などを利用し、採用企業に内定辞退の指標を提供していたというニュースはまだ記憶に新しいのではないでしょうか。
今までの法律では、データ提供元の企業が、内部で他の情報と組み合わせて特定の個人を識別する場合、個人情報として扱うことを求めていました。しかし、個人情報保護委員会は、「提供元では個人が特定できないと言って本人の同意なくデータが第三者提供されることがある」と問題を提起したのです。
その後、同委員会は、個人情報保護法の次期改正に向けてWebブラウザーのログイン情報を蓄積したCookieなどの利用でデータの提供先企業が個人情報を扱う際、新たな規律を検討すると公表し、2020年6月に法改正が実現しました。
https://www.businesslawyers.jp/articles/822
今後サードパーティCookieの流れが本格化すれば、開示元事業者が第三者に提供を行う場合、下記の2点が新たに義務づけられます。
- 提供先が個人データを取得することに本人が同意していること
- 提供先が外国にある場合、同意に先立ち、当該外国での個人情報保護制度や、提供先が講じる個人情報保護措置について情報提供されていること
このような確認をせずに第三者提供することは許されないという条文の文言から、情報提供や同意は、第三者提供に先立って事前に行われなければなりません。
デジタル広告の市場規模
デジタル広告とは、インターネット上で展開される広告で、ウェブサイトで検索していると広告をよく目にするものです。
オンライン広告やウェブ広告と称される事もあります。ウェブ上に掲載されるウェブ広告だけでなく、動画配信サービス、メール配信サービス、SNS上で表示されものまでいろいろな種類があります。
2019年の世界の広告費成長率は2.6%、総広告費は5,921億ドル、2020年は成長率3.9%、2021年は同3.3%と予測されていました。2020年は新型コロナウイルス発生により、どのように増減したかのデータはまだ取れませんが、一時的に影響を受けたとしても、肩上がりの市場であったことは間違いありません。
https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/000197.html
特に、ソーシャルメディア広告は、デジタル戦略において貴重な役割を果たすと言われており、広告に投資される金額は年々増加しています。2021年には5,985億円に達すると予測されており、ソーシャルメディアを最優先のメディアと位置づけている人が多いようです。
しかし、今後のCookieの規制はこのデジタル広告業界を直撃します。特に、リターゲティング広告と呼ばれる「追跡型広告」が壊滅的な打撃を受けるとされています。Googleが大体技術の開発を進めていますが、業界からは不満の声が絶えないようです。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000315.000002888.html
それでは今後GoogleはどのようにしてCookie廃止に対応していくのでしょうか。
Googleの今後の対応
2020年1月、GoogleがChromeブラウザにおけるサードパーティCookieを、2022年までに段階的に廃止していくと発表し、2021年の3月3日Googleは、サードパーティCookieから得られる「個人のWeb閲覧履歴を利用するターゲティング広告」の販売を停止する予定であると述べました。
Googleの広告管理ディレクターであるデビッド氏は、「消費者は、個人に対する関連度の高い広告を見るために追跡されるべきではない」「広告主は、広告パフォーマンス向上のために個々の消費者を追跡する必要はない」述べています。長年にわたり同社はユーザーの閲覧データに最適化した広告配信にによって収益を得てきたことを考えると、耳を疑う人がほとんどでしょう。同社が広告事業を手放すつもりはありません。Googleが取り組みを進めている代替案を2つ見てみましょう。
プライバシーサンドボックス
Cookieに変わる新たな施策の1つがプライバシーサンドボックスです。これは、ユーザーのプライバシーを強化しながら、ユーザーにとっての最適な広告を表示する施策です。
プライバシーサンドボックスを提唱する一方、同社はユーザープライバシー向上を図って、フィンガープリントのような不透明な技術を積極的に防止するとしています。
※フィンガープリント:ブラウザから得られる情報のみで個人を特定する仕組みのこと
Floc
情報の収集対象をか「個人」からから「似たような興味を持つ一定規模のグループ」に置き換えた Floc (Federated Learning of Cohorts)技術を利用します。個人から情報収集はするけれども、似た趣味の人たちとまとめてAIで分析するということです。このことにより、個人を特定しにくくし、効率的な広告配信が実現します。
広告業界の対応
リターゲティング広告は、サードパーティーCookiesによってブラウザー単位で訪問履歴や閲覧した商品を識別し、広告の出し分けを行ってきました。その根幹となるCookiesが廃止されれば、ビジネスの仕組み自体が機能しなくなり、リターゲティング広告に頼っていた広告主は、パフォーマンスが大幅に下落することになります。
そこで、広告会社は下記3つの方向性で対策を進めています。
2019年5月、広告プラットフォーム事業のログリーは、方向性③が実現しました。ネット広告配信の際にCookie使用なしにユーザー属性を推定する技術で特許を取っています。アクセスログをパターン化して、ユーザーの属性や性別、年齢などを推測します。
このログリーの事例のように、今後Cookieに依存しないターゲティング広告が主流になるでしょう。
最後に
現在はユーザー登録時に確認する文章の中に、個人情報の取り扱いの項目に同意する形になっています。
しかし、このような方法では消費者は十分な確認ができないでしょう。Gookieが廃止されると、今後は、EU諸国に増えてきたように初回アクセス時に「Cookie取得に同意するか」をバナーなどで明確に確認できるサイトが増えていくのではないでしょうか。
インターネット広告事業を主力として行ってきた企業は、今回のCookie廃止によって一時的にダメージを受けると思いますが、打ち出されている3つの代替案がすでに出ていることから、新しい仕組みに期待できるでしょう。
<参考>
https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20130311/462465/?P=2
https://japan.cnet.com/article/35156564/2/
https://service.plan-b.co.jp/blog/dmp/13662/
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00421/00002/
https://japanese.engadget.com/google-starts-floc-test-090024006.html