11月11日、中国ではこの日を「独身の日」と定めECサイトを中心に一大買い物商戦が繰り広げられます。その市場規模はアメリカのサイバーマンデー、ブラックフライデーを大きく上回ります。
米アドビ・アナリティクスの調査によると、2019年12月2日のサイバーマンデーの総売上は94億ドル(約1兆210億円)、同年11月29日のブラックフライデーの総売上は74億ドル(約8400億円)でした。
中国のデータ調査会社・星図数据の集計によると、2019年の「独身の日」、全ネットワークの流通総額は4101億元(約6兆5616億円)をという驚愕の数字を記録しました。
「独身の日」は、1が4つ並ぶことにちなんで「ダブル11(イレブン)」や「光棍節(こうこんせつ)」とも言われます。
「光棍」とは中国語で「独身」の意味です。2009年に中国EC(インターネット通販)大手のアリババが「独身の人に買い物を楽しんでもらおう」というコンセプトでスタートしました。
同社はこの日を中国語で「天猫双11全球狂歓季」(天猫ダブルイレブン・ショッピングフェスティバル)と名付け、この「双11」や「双十一」を商標登録しています。
本コラムでは、ビッグデーであるこの日について、主要EC企業の流通総額、売れ筋、話題のライブコマース、COVID-19の影響、日本商品の売れ行きなどについて紹介します。
「独身の日」の市場推移
2009年に始まった「独身の日」は年を追うごとに市場規模を大きくしていきました。
下の図表は経済産業省がまとめた2014年から2018年までの5年間の流通総額の推移です。
2014年の805億元(約1兆2600億円)からたった4年間で約4倍増え、2018年は3143億元(約5兆1860億円)を記録しています。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/H30_hokokusho_new.pdf
注目のECサイト運営企業
アリババ
まずはこの「独身の日」火付け役となったアリババを見ていきましょう。
アリババ公式サイトによると、スタート時の2009年の流通総額は5220万元(約8億円)でした。
その後流通総額は「爆増」し、2019年には同社運営のECサイト天猫(Tmall)で過去最高の2680億元(約4兆1000億円)を記録し、流通総額全体の65.5%に達しました。
この日、開始からわずか68秒で流通総額は10億ドル(約1090億円)、30分で100億ドル(1兆900億円)を突破し、荷物の発送オーダー数は約13億件に上りました。
当日のニュースを聞いてその驚異的なスピード、実績に驚いた人も多かったのではないでしょうか。
同社は「独身の日」を「緑色双十一(グリーンダブルイレブン)」とも名付けています。
2019年のこの日、液浸冷却や浸水空冷などの自社で開発したグリーンテクノロジーにより、Eコマース取引1万件あたりの電力消費量を2kWhまで低減させました。
その結果、「天猫ダブルイレブン」のデータセンター全体の消費電力量を昨年比70%削減することに成功、20万kWh以上の電力削減に実現しています。
京東(ジンドン)
中国メディアの天極網は、アリババと並んでECサイトの2大巨頭とされる京東(ジンドン)の2019年「独身の日」当日の流通総額は705億元(約1兆1040億円)、全体流通総額の17.2%を占めたと伝えています。
ただ、この数字は同メディアが星図数据のデータを基に単純な統計として出したものです。ジンドンは11月1日0時~11月11日23時59分までを「11.11京東全球好物節」と名付け「独身の日」のセール期間としました。
同社が公式サイトで公表した同期間の流通総額は2044億元(3兆1700億円)に達しています。
アリババとジンドン「独身の日」キャンペーン方法の違い
ここで少し脱線しますがアリババとジンドンの「独身の日」キャンペーン方法の違いを紹介します。
両社ともこの「独身の日」に注力しセールを行いますが、インプレスビジネスメディアによると、アリババは11月11日当日に決済された金額、ジンドンは上述した11日間の決済金額がそれぞれの流通総額となります。
アリババは10月21日から予約販売を開始し、プロモーションやセールスをスタートし、「独身の日」までに消費者に約500億元(約7500億円)分の割引を提供していました。
中国マーケティングラボによると、消費者はこの期間にデポジットとして商品代金の一部を支払い、11月11日当日に全額決済を行うことから、この日に決済が集中します。
ジンドンは上述のキャンペーン期間、決済終了後に自社の「京東物流」を通じて当日または翌日にスピーディーに商品配送を行います。
拼多多(ピンドゥドゥ)
2015年9月設立の拼多多は(ピンドゥドゥ)はEC業界では「新参者」ですが、星図数据によると2019年「独身の日」の流通総額は250億元(約3907億円)、全体の6.1%を占めました。
日経MJによると、同社は「いいものは友人や親戚にも安く買ってほしい」という中国人の心理に着目し、共同購入をWeChatやQQといったSNSを通じて宣伝させる独特の仕組みを立ち上げました。
一定の共同購入者の目標をクリアすると割引特典を得られるようです。
この仕組みは特に中国の農村部で歓迎され、新浪財経などの中国メディアによると同社のユーザー数は今年6億人を超えました。
今後アリババ、ジンドンを圧倒する可能性の高い「黒馬(ダークホース)」(捜狐網より引用)として注目されています。
何を買うのか?
「独身の日」、消費者は近年何を買う傾向にあるのでしょうか。
以下は2018年「独身の日」に取扱いが多かった上位5位までを経済産業省がまとめた図です。
これによると1位は「モバイル・デジタル」、2位は「家電類」、3位は「スキンケア類」、4位は「食品類」、5位は「ベビー・マタニティ類」となっています。赤い線は越境ECの比率を表しています。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/H30_hokokusho_new.pdf
インフルエンサーによるライブストリームで宣伝効果UP
インフルエンサーによるライブストリームで宣伝効果UP
「ライブストリーム」は近年日本でもよく耳にしますが、中国では今や販売の主要方法の一つとしての地位を確立しています。
「2020淘宝直播新経済報告」によると、2019年のタオバオのライブストリーム配信サイト「淘宝直播(タオバオライブ)」のユーザー数は4億人に達し、1年間の流通総額(流通取引総額)は2000億元(約3兆1332億円)を達成しています。
「独身の日」当日のライブストリーム視聴が商品購入に繋がった金額は200億元(約3113億円)を記録しました。
タオバオライブ登録ユーザー数推移
http://finance.sina.com.cn/stock/relnews/hk/2020-04-01/doc-iimxyqwa4391616.shtml
ライブストリームは特に中国の若者の間で主要な生活様式となっています。新浪財経によると、タオバオライブの登録ユーザーのうち、「80後(バーリンホウ)」、「90後(ジウリンホウ)」(1980年代、1990年代生まれ)と呼ばれる若者の登録数は80%に上ります。
増加を続けるインフルエンサーとフォロワー
中国の大手マーケティング・コンサルティング会社iResearchとSNS大手の新浪微博(ウェイボー)がまとめた「2018中国網紅経済発展洞察」によると、2018年、10万人以上のファンを有するインフルエンサーは前年比51%増加し、中でも100万人以上のファンを有するインフルエンサーは同23%増加しました。
インフルエンサーのファンだというネットユーザー数は5億8800万人に達しています。
大幅に拡大を続けるインフルエンサー、ファンの規模
http://www.199it.com/archives/739837.html
人気インフルエンサー
ここでは中国インフルエンサーの「一哥一姉」(お兄さん、お姉さん)を紹介しましょう。現在この2名がインフルエンサー2トップと言われており、各業界から大注目を浴びています。
薇婭(ウェイヤー)氏
アリババのECサイト「タオバオ」ナンバーワンKOL(Key Opinion Leader)として知られる薇婭(ウェイヤー)氏は2019年の「独身の日」、たった1日で27億元(約410億円)を売り上げました。
ウェイヤー氏は2018年からライブストリームを通じて中国の貧困地区の農産品や特産品を紹介するプロジェクトを立ち上げ、2019年末までに同プロジェクトによる売り上げはのべ3000万元(約4億7千万円)に達しています。
ウェイヤー氏(左側)
https://www.niaogebiji.com/article-24713-1.html?from=groupmessage
以下のyoutube動画ではウェイヤー氏が少数民族の刺繍作品を紹介するライブストリームの様子や、インタビューに答える様子が配信されています(中国語)。
李佳琦(Austin)氏
「口紅王子」の名で知られる李佳琦(Austin)氏。2019年の「独身の日」の売り上げは10億元(約160億円)でした。
Austin氏はウェイヤー氏と比較すると売り上げに大きな差があるようですが、売り上げと人気度とは必ずしも比例しないようです。
騰訊網が両氏の各SNSのファン数を「PK戦」と称して紹介したところによると、タオバオライブでの同氏のファンは1061万人、ウェイヤー氏は922万人、動画配信サイトの「DOUYIN(中国のTikTok)」ではそれぞれ3433万人、109万人でした。
ファン数はAustin氏の方が多いのです。記事は、売り上げに差がある理由として「レディースウェア」を指摘し、「ウェイヤー氏はレディースウェアの販売ではAustin氏より圧倒的に優位」と論じています。
多くの芸能人も参戦
中国のポータルサイト「捜狐」の記事によると、「独身の日」は中国の芸能人にとっても自身が広告塔となっている商品のPRをするのが「最重要任務」のようです。
同記事に掲載された以下のランキング表を見てみましょう。2019年の「独身の日」にライブストリームを行った芸能人の販売実績、成約額を元に総合的な点数をつけ、ランク付けされています。
朱一龍(チュー・イーロン)
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1650435853536724506&wfr=spider&for=pc
アリババによると、今年は400名人超える企業のリーダー、また300人の著名人がライブストリームを予定しており、ネットは大盛り上がりになることが予想されます。
2020年の「独身の日」はどうなる?
「シングル」から「ダブル」へ
今年の「独身の日」もすぐそこまで来ています。アリババ公式サイトは、今年はCOVID-19で影響を受けた中小企業に商品PRの機会を「ダブル」で提供すると公表しています。
11月11日に先駆け、11月1日~3日の3日間も販売期間とし、新型コロナウイルスの影響を受けた新規出店ブランドや中小企業を中心に2回に分けて商品やブランドストーリーをPRすることができるようになりました。
新製品の数も去年の「ダブル(2倍)」に
アリババ公式サイトによると今年の「独身の日」は昨年の約2倍の200万点以上の新製品が初披露されます。
参加するブランドは25万以上で、海外からは2600以上の新ブランドが参加予定です。Tmallサイトではすでに予約販売を受け付けています。
アリババ物流プラットフォーム「菜鳥」、700機のチャーター機を用意
アリババの傘下にある物流会社「菜鳥」は「独身の日」の期間中、約700機のチャーター機を運航予定です。アリババ公式サイトによると、越境商品の半数以上が通常の2倍の早さで配達される予定だといいます。
健闘する日本商品
国別流通総額で日本は1位に
このビッグイベント、日本企業も大健闘しています。アリババの発表によると2019年の「独身の日」、Tmallの越境ECにおける国・地域別ランキングで日本が4年連続の1位を獲得しました。
ダイヤモンド・オンラインによると輸入品カテゴリーでトップを獲得したブランドは美顔器、化粧品を販売するヤーマン、3位に花王、7位にムーニーと日本企業が大きな存在感を見せていることがわかります。また、大手のユニクロや資生堂も売り上げ1億元(約15億円)越えを果たしています。
ヤーマンの美顔器(ヤーマン株式会社HPより)
https://www.ya-man.com/brand/yaman/products/forface/photo-plus-bright-lift.html
中小企業にとってもチャンス
2019年11月11日放送のNHK「おはよう日本」のコーナー「おはBiz」では「独身の日」に参入する岐阜県の中小企業「ARTISTIC&Co.」が紹介されました。
同社は2017年にアリババと提携し中国の個人向けネット通販に参入しています。2019年の「独身の日」向けに作った高価格帯の美顔器は先行予約販売開始からわずか30秒で600台が完売しました。
同社は事前の商品発表会で10万~数百万人のフォロワーを持つインフルエンサーを招待。
実際に商品を手に取って体験してもらい、その様子をネットに投稿してもらうことで高い宣伝効果を上げました。
ARTISTIC&Coの近藤社長、ネット上で販売されている美顔器
https://www.nhk.or.jp/ohayou/biz/20191111/index.html
今後は大手、中小企業に関わらず、より一層多くの日本企業の活躍が期待されます。
最後に
「独身の日」の巨大な市場規模、大活躍するインフルエンサー、コロナ禍の影響など紹介してきました。
参入する日本企業は中国のインフルエンサーとのタイアップなどで効果的なPR作戦が必要になってくるかと思われます。中小企業にも大きなチャンスがあることが見込めますので、多くの日本商品が中国の消費者の手に渡ることを期待します。
<参考>
https://www.alibaba.co.jp/news/2020/10/2020-1.html
https://www.alibaba.co.jp/news/2019/11/20196810.html
https://www.afpbb.com/articles/-/3254362
https://www.afpbb.com/articles/-/3260866
http://www.xinhuanet.com/2019-11/10/c_1125214280.htm
https://www.mbachina.com/html/cjzx/202010/260227.html
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1680778144638534295&wfr=spider&for=pc
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1652517157858395766&wfr=spider&for=pc
http://finance.sina.com.cn/stock/relnews/us/2019-11-13/doc-iihnzhfy9038364.shtml
https://www.sbbit.jp/article/fj/40883
https://www.sohu.com/a/359691349_468110
https://xueqiu.com/8302426719/143299416
https://new.qq.com/rain/a/20201023A069TZ00
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1650612246972489685&wfr=spider&for=pc
https://capital.huanqiu.com/article/9CaKrnKnYql
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1650043230318550640&wfr=spider&for=pc
https://logiiiii.f-logi.com/series/china-consultant/2020china-w11/
https://ascii.jp/elem/000/001/976/1976079/
https://mag.sendenkaigi.com/hansoku/202001/report/017844.php
http://news.yesky.com/480/773359980.shtml
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52935550U9A201C1000000/
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1911/21/news043_2.html
https://netshop.impress.co.jp/node/6975
https://monipla.com/china-smmlab/page/w11_inagora
https://www.sohu.com/a/384587424_665157
https://www.sohu.com/a/384587424_665157