TikTokの買収劇。なぜTiktokは政治家から嫌われ、Microsoftをはじめとする各社はTiktokを手に入れたかったのか

コロナウイルス感染拡大が起こり、混乱が深まる世界情勢。中国はリーダーの地位を固めようとし、香港への統制強化、インドへの小競り合いなど、各地で摩擦を引き起こしています。

習政権は中国流のグローバリズムを推進したい意向ですが、戦略的な同盟相手も持たず、世界各国で中国への警戒感が広がっています。

米国貿易摩擦によってファーウェイなどの中国企業制裁だけでなく、その提携先企業への取引禁止も始まっています。ビジネスにおいても中国の孤立感は増すばかりです。

TikTokとはSNSの一種で、アメリカ、インド、日本などで人気が高まっています。2020年1月時点の世界のSNSダウンロード数は、Facebook, Instagramを抑えてTikTokが1位となりました。

米調査会社ワラルーメディア推計によると、6月の月間利用者数は、世界で8億人、うち米国は6500万人に上ったようです。

しかし一方で、米国人の約5人に1人が利用する人気ぶりを米議会は「利用者のメッセージや位置情報データを中国政府に渡す恐れがある」との理由で警戒し続けていました。

米中貿易摩擦、新型コロナウイルスを経て、TikTokへの制裁と買収劇は新たな火種となり、マイクロソフトが買収を断念し、9月にオラクルが最終的に買収に成功。

オラクルとTikTokとの提携には米小売大手ウォルマートが2割出資することに決定しました。(9月20時点)

ここではなぜマイクロソフトやオラクルなどといったTikTokと親和性のないIT企業が買収に名乗りを挙げたのか、また、なぜこれらの企業はTikTokに魅力を感じているかについてご説明します。

TikTok買収の経緯

買収

http://ivote-media.jp/2020/09/26/post-5956/より引用

買収の原因となった貿易摩擦と新型コロナウイルス

米中貿易問題はトランプ氏が2017年に大統領に就任してから問題となっています。

就任当初は中国や日本に対し、自国が不当な利益を被ることのないように、規制をかけてきました。2018年初頭より中国に対し、制裁関税を開始すると、中国も報復措置として関税引き上げを実施しました。これに対し、アメリカは再び関税引き上げを行うなど際限のない関税合戦が始まりました。

米中殴り合い

https://ascii.jp/elem/000/001/702/1702494/より引用

2020年1月、中国武漢で新型コロナウイルスが発生し世界中に感染が拡大しています。特にアメリカでの被害は甚大で、10月15日時点、死者数は216,872人と、世界で最多となっています。

感染者推移

新型コロナウイルスのことを「チャイナウイルス」と発言し、発生源である中国が感染拡大防止に努めなかったと批判の矛先を中国に向け、埋め合わせとして賠償金請求も示唆しました。

トランプ大統領自身も10月に新型コロナウイルスに感染し、このことは米中貿易摩擦やコロナを巡る戦いはますます激化していくでしょう。そこでまた別の火種となっているのはTikTok問題です。

米国の脅威、TikTokとは?

Tiktok2

TikTokは、2016年に中国ネット大手の北京字節跳動科技(バイトダンス/バイトダンス)が開始した動画投稿アプリです。

10~20代の若者に支持され、世界100カ国以上でサービスを展開しています。米センサータワーの調査では、6月のグーグルプレイとアップストアでのダウンロード数は、8700万回超と世界1位(ゲームアプリを除く)でした。

米調査会社CBインサイツによると、バイトダンスの企業価値は約1400億ドル(約15兆円)と巨額であることが分かりました。

ダウンロードランキング
SNS

TikTokを使用することによって個人情報が流出するのではないかと危惧するトランプ大統領はアメリカ国内から排除する方針を打ち出しました。

しかしその後、米企業による買収という選択肢も示唆し、一転して買収への姿勢を取り始めました。理由としては、トランプ大統領が11月の大統領選を控えているからです。

米国でも8500万人が使う人気アプリを突然禁止すれば、若者の反発を招き、多くの票を失うことを懸念したからです。

Tiktok時系列

それでは、2020年7月から9月までのTikTok買収の経緯を見てみましょう。

2020年7月

中国版TikTokの「抖音(ドウイン)」を開くと、官製メディアが投稿した動画が並んでいます。ファーウェイ問題で関係が悪化するカナダを暗に批判するような動画がアップされているなど、中国当局の意向がにじむ投稿が存在するのも実情です。

バイトダンスは、米議会に対して「中国当局にユーザーの個人情報を提供したことはなく、検閲を求められても対応することはない」と反論しました。

2020年8月

トランプ大統領が大統領令に署名した8月6日に、米国議会上院では、政府職員がTikTokアプリのダウンロード禁止のための法案を可決しました。

8日、米Twitter社もTikTokサービスを買収する意欲があり、バイトダンスとの初期の交渉が報道されています。Twitter社はマイクロソフト社などに比べて事業規模が小さいため、TikTok事業の買収で、独占禁止法上厳しい調査を受けないと予測されていました。

この頃、オーストラリアと日本でも同様に、TikTokアプリの規制が検討されています。

2020年9月

9月19日、アメリカ商務省は、TikTokとWe chatについて、国内での新規ダウンロードや更新を禁止すると発表。これに対して中国政府は「企業の正当で合法な権益を著しく損なう内容である。正常な市場の秩序をかき乱すものだ。」と強く反発しています。

この頃トランプ大統領は、TikTok、オラクル、小売大手ウォルマート3社の提携案を承認すると記者団に述べています。

TikTokの魅力と買収に名乗りを上げた企業

マイクロソフト、オラクル、ウォルマート以外に、同じ公聴会にはGAFAのGoogle, Amazon, facebook, Appleが呼ばれていたようです。SNSと相乗効果が期待できるのはfacebookやTwitterではないのかと多くの人が感じたのではないでしょうか。

明確な理由は分かりませんが、TwitterやfacebookのユーザーとTikTokのユーザー層の年齢が異なることが挙げられます。

顧客関係管理を事業とする CRM Essentials の創業者ブレント・リアリー氏が、facebookが買収した際のシナジーについて「中高年の利用が多いfacebookから若者のユーザーはすでに離れてしまっているため期待できない」と述べています。

それではなぜマイクロソフトやオラクルなどのSNSのプラットフォームを持たない、TikTokとあまりシナジーが見込めなそうなIT企業が、買収金額として、約250億ドル(約2兆6500億円)を提示したのでしょうか。両社が期待していたのは、広告プラットフォームです。

ナイキ、ラルフローレン、Netflix、外食大手ChipotleなどはTikTokにこぞって広告出稿を行っています。TikTokの米広告収益は年間3600万ドル程ですが、可処分所得が多い18~24歳の層が1日当たりTikTokには1時間以上同滞在しています。

Instagramでは44分、Snapchatは36分と比較するとTikTokがいかに広告主にとって魅力的かが分かります。

マイクロソフト

マイクロソフトの事業は、クラウドへの移行には成功しています。しかし、クラウドのインフラ市場ではAWSに大きく後れを取っているのが現状で、TikTokをAWSとの差を縮めたいという目論見がありました。

先ほど、多くの企業がTikTokの広告プラットフォームに魅力を感じていると伝えたように、TikTokが持つユーザーの利用データを基にして、マイクロソフトの検索エンジンのBing、MSN、Outlook、Xbox Liveにおける広告事業を強化することも可能です。

検索エンジンやSNSの広告では、Googleやfacebookが独走していますが、それを覚悟で広告主にマイクロソフトの広告サービスを周知させる戦略を取り、プラットフォームとして魅力的なTikTok を傘下に置けば広告事業の躍進を期待できます。

マイクロソフトがTikTokを買収した場合、同社サービスの利用率は2%から5%増加すると見込まれていました。

また、マイクロソフトはすでにAI分野では業界のリーダーであるため、1億人のTikTokの米国ユーザーの生み出すデータなど広告業とのシナジーが得られる点も考慮に入れていました。

米ウェドブッシュ証券によるとTikTokが3年以内にマイクロソフトにとって2000億ドルの価値が出ると試算していました。

しかし、楽しすぎて時間を忘れるTikTokのアプリに対して、マイクロソフトのビジネス向けの製品(Office, Teams, LinkedInなど )は業務を効率化することが目的です。

事業の性格が全く逆であることから、数々の疑問が起こり、マイクロソフトの収益には貢献できないとも指摘されました。

結果的に買収は断念することになりました。

その背景として、中国政府が8月下旬にアルゴリズム技術の輸出を禁止したことが挙げられます。TikTokは米国で、人口の1/3に相当する1億ユーザーを持っていますが、ユーザーの好みを学び、先回りして表示する技術はバイトダンスのアルゴリズムです。

そのためコア技術が切り離されるとマイクロソフトが事業を取得するメリットはあまりありません。そのため、交渉から外れた可能性が高いと言われています。

Microsoftの当社過去コラムもよろしければご参照ください

GAFAM特集:Microsoft~創業からエンタープライズ向けITサービスの覇者になるまで~

ウォルマート

ウォールマート

マイクロソフトが争奪戦を脱落した後、ウォルマートはバイトダンスとの交渉をし、提携にこぎつけることに成功しました。9月19日の発表では、TikTokの国際事業を分離し、設立する新会社にオラクルと米ウォルマートが合わせて20%を出資することが決定となりました。

ここでまた、「なぜウォルマートが名乗りを上げたのか」という疑問が浮上します。ウォルマートが出資することで何を期待したのでしょうか。

それはTikTokの運営に参加すれば、ライブコマースの分野が拓かれるようになり、小売りのDX化を促進できる点です。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、ライブコマースは中国市場などではすでに人気が出ています。アメリカではAmazon、Instagram、Facebookなどがライブコマースを開始し、力を入れています。

ウォルマートのような小売り大手であれば、TikTokのEコマース事業をより強力に推し進めることは可能です。大手ECのAmazonやSNSのFacebookに並ぶライブ配信機能付きのショッピングアプリを作ることが期待されています。

ライブコマースの欠点としては、「孤独な体験」になってしまうことです。企業は実店舗の購買体験をうまく移植することが求められています。

オラクル

オラクルはシリコンバレー生まれの米国企業で、リレーショナル・データベース事業を中核として、現在は基幹系アプリケーションやクラウド基盤などのエンタープライズ領域で多岐にわたる事業を展開しています。

最近では、米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのウエブ会議システムZoomを買収したことで周囲を驚かせました。

オラクルのクラウドの市場シェアは、AWS、マイクロソフト、Google、アリババ、IBMの後ろを追っている状況で、市場シェアに1桁台に落ち込んでいます。

下記のグラフの推移を見るとクラウドサービスの成長率は下降が続いていることが分かります。

Oracle

調査会社のConstellation Researchのアナリストであるホルガー・ミューラー氏によると「オラクルがZoomとTikTokを自社に取り込むことで、2つの優れたサービスを手に入れることができます」と述べました。

Tiktokを買収した場合オラクルなら同社サービスの利用率は10%増加する可能性があると専門家は見ていました。

米オラクルは9月19日(現地時間)、オラクルが中国バイトダンス傘下のTikTokの「テクノロジープロバイダー」になる提携案をトランプ米大統領が承認したと発表し、オラクルも別途Twitterで提携成立をツイートしました。

Oracle_Tiktok

※テレ東のニュース報道のYouTube動画もご覧ください

しかし、なぜオラクルに落ち着いたのでしょうか。

実はオラクルの創業者のラリー・エリソン氏は世界の長者番付に名を連ねる有名人で、トランプ大統領の支持者であることは有名です。

2017年に最高経営責任者の座をサフラ・カッツ氏に委ねる一方、現在は会長兼最高技術責任者(CTO)として活躍している。

マイクロソフトより事業シナジーが低いオラクルが提携先に選ばれたのは、トランプ大統領との距離の近さとも指摘されています。

米国政府が示す国家安全保障上の懸念に対処するために、新会社にはオラクルがクラウドコンピューティングの基盤を提供することになりました。

オラクルの買収が決定するも、TikTokは報道と別の声明を提出

今回のTikTok買収のめぐる協議では下記の事項が決定しました。

  • 米国の1億人のTikTokユーザーのデータはオラクルのデータセンターに移管される。
  • ウォルマートとともにTikTok Globalの株式の20%を買収する。
    →TikTok Globalの株式の過半は、米国の投資家が保有することになるという。
  • 新会社は米国で2万5000人以上の新規雇用を創出すると言われています。50億ドル以上の税金を米財務省に支払う見込み。

「Tok Globalの株主の過半が米国人となり、バイトダンスが支配権を失うというニュースが流れているが、TikTok Globalはバイトダンスの100%子会社で本社を米国に置く。今後、小規模のPre-IPOラウンドを行い、資金調達後のバイトダンスの出資比率は80%になる見込みである。」と自社HPで発表しています。

9月20日のニュースでは、中国政府は最終的に「買収」を許さず、「業務提携」で着地したと報道があり、オラクルは「(買収ではなく)テクノロジープロバイダーになる」と正式発表しています。

最後に

アメリカと中国の論争は止みそうにありませんが、老舗ITベンダーのオラクルと大手小売りのウォルマートがTikTokと業務提携することで、今後GAFAMなどの大手企業にどのように攻めていくかが注目されてくるでしょう。

<参考>
https://news.yahoo.co.jp/articles/4649543be7586b96de27b7975f946c570d26c5f5

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61689640Y0A710C2EA1000/

https://gentosha-go.com/articles/-/28251

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200919/k10012626591000.html

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64096500Q0A920C2I00000/

https://www.bbc.com/japanese/54222505

https://www.yomiuri.co.jp/world/20200919-OYT1T50252/

https://jp.techcrunch.com/2020/08/20/2020-08-19-just-what-would-an-enterprise-company-like-マイクロソフト-or-オラクル-do-with-tiktok/

https://diamond-rm.net/management/61111/

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2007/23/news029.html

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60190280Q0A610C2000000/

https://news.yahoo.co.jp/byline/kandatoshiaki/20200803-00191472/

https://news.yahoo.co.jp/articles/4649543be7586b96de27b7975f946c570d26c5f5

https://digiday.jp/platforms/what-a-ウォルマート-microsoft-bid-for-tiktok-could-mean-for-e-commerce/

https://digiday.jp/brands/with-shoppable-instagram-reels-live-selling-may-get-a-new-life/

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