各国のエネルギー政策のまとめとコロナによる影響、経済効果

二酸化炭素の排出が実質ゼロを目指す脱炭素社会に向けて、世界中の国と地域が共通でこの課題に取り組んでいます。

世界銀行は2019年以降、石油や天然ガス開発に新たな融資をしないと表明しました。

仏アクサや独アリアンツ、米カルパースなど225の機関投資家・金融機関が、温室効果ガスの排出量が多い企業100社に対し、気候変動対策のためのガバナンス強化や気候関連の財務情報開示を求めると明らかにしました。

しかし、実際は新型コロナウイルスのパンデミックによってその実現は各国で停滞の様子を見せているのも事実です。

今回はコロナウイルス発生前から各国で取り組まれているのエネルギー政策の実態についてご説明します。

気候変動のリスクとパリ協定

気温上昇を2℃以上になってしまうと、地球には様々な危機や食糧問題が起こります。

そのため、2℃未満に抑制するために対策としてどのような削減を行うかの指針が、2016年パリ協定で決定されました。

気候変動リスク

パリ協定では下記の内容が発効されました。

これらの要点を基に、気候変動に対応した経営戦略の開示、脱炭素に向けた目標設定に向けて、脱炭素に取り組む動きが進展しています。

パリ協定

パリ協定に提出している日本の削減目標は、2030年度迄に2013年度比で26.0%削減(1990年比で18%減)となっています

パリ協定2

コロナウイルス発生以前の脱炭素各国の取り組み

下記のグラフは、欧州各国と日本の自然エネルギーの導入動向を示したものです。

欧州各国のエネルギー

自然エネルギー電力比率を見てみると日本はまだまだその割合が低く、下記の表を見るとそれぞれの国の立ち位置が分かります。それでは、日本を含め、世界の脱炭素の動向を見てみましょう。

温暖化の立ち位置

日本

政府は過去に掲げた「50年に80%削減」という目標に対して、脱炭素化を脱却する方針を打ち出せずにいることが国際社会から厳しい視線を浴びています。

下記は石炭火力発電への公的融資の国別の比較ですが、日本はかなりその額が大きいのが実情です。

日本

火力発電から脱却できない原因の一つに、東日本大震災後稼働停止した原発に代わる発電を火力(石炭)に頼っていることが挙げられます。また、他の発電に移行しようとしても日本の場合はまだまだコストがかさむことが問題となり、脱却できていません。

脱炭素

脱炭素が強く叫ばれる世界情勢ですが、完璧なエネルギー源は存在しない中、世界には日本のように、再生可能エネルギーは価格が高くついたり、発電量や供給の不安定さをコントロールすることが困難であったりと、どうしても石炭をエネルギー源のひとつとして選択せざるを得ない国も存在します。

このような国はある程度石炭を一定程度活用しなければならないため、脱炭素化のペースはどうしても遅くなってしまっています。

アメリカ

2017年6月、アメリカのドナルド・トランプ大統領が「パリ協定から離脱する」と宣言したことは世界中を驚かせました。トランプ大統領の主張としては、「パリ協定は過度な規制でアメリカの企業を倒産に追い込んでいる。

他の国の環境汚染は許している。」というものでした。トランプ政権が始まって以来、衰退する石炭火力発電産業の復興を掲げ、省エネ基準の更新不履行などの時代に逆行する行動を取ってきました。

2019年11月4日にアメリカのポンペオ国務長官は地球温暖化防止のための国際枠組みである「パリ協定」から離脱の手続きを開始と発表し、通告から1年経ってから正式に離脱が認められるため、正式な協定離脱は2020年大統領選挙が行われる2020年11月3日の翌日の11月4日となるようです。

アメリカの温暖化対策の発展を妨げてきたトランプ政権ですが、脱炭素化は着々と進んでいます。

これは、オバマ政権下で始まった石炭火力発電所の廃炉化や、安価になった太陽光や風力発電の増加しているからです。

アメリカ各地ではトランプ政権への反動のように、多くの州政府や地方自治体が、意欲的な脱炭素化を推進しているのです。

また、11月の米大統領選に向けてトランプ大統領と競っている民主党バイデン前副大統領は、9月に脱炭素化社会を実現するために2兆ドル(約214兆円)を投資する計画を発表。

米国の温室効果ガス排出量の急減に必要な風力タービン、資源循環型住宅、電気自動車(EV)の製造を進めることで数百万人の組合労働者の雇用創出を打ち出しました。環境重視の姿勢を明確にすることで差別化を狙っています。

ヨーロッパ

2050年に向け、80削減は実現可能ではないかと言われているEU各国ですが、コロナウィルスが深刻化する前から、石炭依存の高いポーランド、チェコ等の東欧諸国が欧州委員会、西欧、北欧に抵抗し続けてきたこともあり、これらの国々は脱炭素化の足を引っ張ってきました。

ヨーロッパ

ルーマニアのバセスク前大統領は今年2月のインタビューで、「EU目標のために自国のインフラ計画を犠牲にすることはできない。欧州グリーンディールは西欧と東欧の間に深い亀裂をもたらすだろう。」と述べました。

中国

室効果ガスの2大排出国の中国では、習近平国家主席が9月22日に国連総会一般討論で、2060年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする脱炭素社会の実現を目指すと発表しました。最大のCO2排出国である中国においてこの目標が実現可能かどうかはいぶかる意見もあるようです。

中国

原子力の各国の動向

1951年に世界初の原子力発電が米国で開始されて以降、二度の石油ショックをきっかけとして世界各国で原子力発電の開発が積極的に進められてきました。しかし、1980年代後半からは世界的に原子力発電設備容量の伸びが低くなりました。

原子力

日本では「世界は脱原発だ」と聞くこともありますが、それは本当に真実なのでしょうか。それは一部では確かと言えるようで、ドイツ、ベルギー、スイス、韓国、台湾は現在原子力発電所を保有するものの将来的な脱原発の方針を取っているようです。

http://earthresources.sakura.ne.jp/er/ReneN_G(5).html

原子力政策に詳しいドイツのエネルギー専門家マイケル・シュナイダー氏が「世界の原発衰退」について簡単に説明している動画です。

原子力2

世界主要原子力発電国における設備利用率の推移

出典:IAEA「Power Reactor Information System (PRIS)」を基に作成

ドイツ

福島原子力発電所事故を受けて2022年に脱原発を完了することを法制化しています。

https://energy-shift.com/news/1e236a88-c434-48ca-9b5b-fedded3e60e5

ドイツ原子力

今年のドイツの原子力の発電量は、前年同期(34.6TWh)に比べて12.9%減少しています。メルケル政権は再来年の12月までに原発を全廃しようとしているため、発電比率は今後さらに低下していくでしょう。

ベルギー

これまでも何度か脱原子力法を修正していますが、現状では2025年に国内7基の原子力発電所全ての停止が定められています。

福島原子力事故のような事態を引き起こすリスクを孕んでいる原子力技術には大きな課題が残っています。しかし、それでも「原発推進」の国もあり、中国、ロシア、中東、アフリカ、東欧が挙げられます。中国、ロシアは、2018年時点では、福島原発後も国内外で原子力発電所建設を積極的に進めています。

※中国は国内14基、海外3基、ロシアは国内2基、海外7基の建設に着手中。

再生可能エネルギーの動向

世界的に再生可能エネルギーの発電コストが低下していることは喜ばしい傾向です。中には補助金なしでも石炭やガス火力発電と競合できるほどコスト競争力を持つ再生可能エネルギー発電も現れるようになりました。

アジアでは、太陽光や風力に適した風土、安価な労働力を持つ中国やインドがけん引しており、全般的に再生可能エネルギーの平均発電コストは他の地域よりも低くなっています。

しかし、日本では火力発電や原子力と比較すると、再生可能エネルギーの発電コストはまだ一般的には他のエネルギーに比べて高くつくため、再生可能エネルギーの主力電源化において課題の一つとなっています。

施行令第4条で定められている再生可能エネルギー7種

  • 太陽光
  • 風力
  • 水力
  • 地熱
  • 太陽熱
  • 大気中の熱その他の自然界に存在する熱
  • バイオマス(動植物に由来する有機物)

2017年時点の日本の発電電力量に占める再エネ比率は16.0%(水力を除くと8.1%)です。

主要国と比べると再エネ比率は低くなっているのが現状です。

各国のエネルギー

太陽光

太陽光発電の主要地域における需要の推移を見てみると、他地域に比べアジア諸国は圧倒的に浸透していることが分かります。

太陽光
太陽光2

太陽光発電は、シリコン半導体などに光が当たることで電気が発生する現象を利用した発電方法です。日本における導入量は、近年着実に伸びており、太陽光発電導入の実績では中国、ドイツとともに世界をリードしています。

現在の導入目標量64GWは2020年頃には達成され、2025年度になると100GWレベルに到達すると見込まれています

風力

世界の風力発電設備容量は近年急速に増加しています。

2019年には約6.5億kWに達し、導入量が最も多いのは世界のおよそ1/3を占める中国(23,640万kW)、次に米国(10,547万kW)、ドイツ(6,141万kW)と続きます。

これら3か国で世界の風力発電設備容量の約6割を占めているのが現状です。

風力

日本は、欧米諸国に比べると導入が遅れているものの、2000年以降導入件数は急激に増えており、2016年度末で2,203基となりました。

累積設備容量は335.7万kWまで増加しています。世界では風力発電の発電コストは急速に低下してはいるものの、日本の発電コストは高まっているのが今後の課題となるでしょう。

水力

世界の水力発電設備は2018年の時点で約13.0億kWで、最も導入が進んでいる再生可能エネルギー発電と言えるでしょう。水力による発電設備が最も多い国は中国です。

水力

世界の設備容量の約27%を占めています。続いて2位カナダ、3位ブラジルとなっています。

水力発電量はアジアが最も多く、続いてヨーロッパで、日本の水力発電量は9位です。

バイオマス(廃棄物発電)

バイオマス

バイオマスとは、「動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源(石油などの化石燃料を除く)」のことです。下記の2つに分類されます。

・栽培資源系

木材(木材チップ、木質ペレット)、トウモロコシ、サトウキビ、パーム油、海藻

・廃棄物資源系

農業廃棄物(バガス、もみ殻など)、林業廃棄物(間伐材、林地残材など)、畜産廃棄物(鶏糞、牛糞など)、生活廃棄物(家庭からでる生ゴミ)、産業廃棄物(黒液、食品加工残さ)

下記の各国のバイオマスエネルギーの利用状況のデータは、2008年と古いですが、日本の導入は非常に少ないことが分かります。

バイオマス日本

高値と言われる大型のバイオマス発電は、発電効率は20%程です。この割合を他のエネルギーと比較した場合、例えば水力発電の発電効率は80〜90%、風力発電は約40%です。バイオマス発電は地球に優しい資源の活用方法ではあるものの、必ずしも高効率な発電方式ではないためコストパフォーマンスが課題となっています。

 脱炭素化にはどめをかけるコロナウイルス

脱炭素化が急速に進む中、2020年1月世界中で新型コロナウィルスのパンデミックが発生しました。世界の産業は麻痺状態に陥いり、第二次大戦以来最大の雇用、経済危機が発生しています。

そのため、まずはコロナ危機を収束させるのと同時に企業の倒産や失業防止、瀕死の経済の救済措置に専心するための投資を優先させる国がほとんどです。

先行してコロナ渦から脱却した中国の動向を見ると、感染拡大でダメージを受けた経済を浮揚させるため2020年第1四半期で6基、10ギガワットの新規石炭火力発電所建設を認可しています。

世界最大の排出国である中国がこの状況ということは、他国でも脱炭素化が遅れてしまうかもしれません。

この危機によって欧州が温暖化防止重視の姿勢を崩すことはなさそうですが、目標に向けて動きが鈍化することは否めないでしょう。

実際にこのコロナ渦において脱炭素化を進めることに対して、反対の声も上がっています。

自動車産業の労働者から成る労働組合連合会IndustriAll Europe のトリアングル事務局長は「2050年の脱炭素化を達成するためには、欧州の産業界は年額2500億ユーロ負担せねばならない。この費用はどこから来るのだろう」と強い疑問を呈しました。

最後に

2015年9月、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国際連合で採択され、SDGs(持続可能な開発目標)として「気候変動対策」などの取り組み方針が盛り込まれました。

これによって、気候変動対策が大きく前進しています。下記は「2025年までに化石燃料への補助金打ち切りや炭素税などのカーボンプライシング導入、気候変動リスクを財務情報として開示・取り組む」と表明した企業の一覧です。

企業

日本はまだまだ脱炭素化に向けて数々の課題がありますが、コロナ渦であっても、グローバルにおける立ち位置を確立し、脱炭素化において後進国にならぬように取り組んでほしいと思います。

<参考>
https://www.youtube.com/watch?v=01g3ahwQ-ds

https://www.kepco.co.jp/siteinfo/faq/new_energy/9098953_10603.html

https://looop.club/editorials/detail/3

https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/solar/index.html

https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200716/mcb2007161400024-n1.htm

https://taiyoko-ch.com/knowledge/paris.html

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/25378.html

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/579842/

http://ieei.or.jp/2019/04/takeuchi190422/

http://ieei.or.jp/2020/06/special201705017/

http://ieei.or.jp/2020/04/opinion200407/

http://ieei.or.jp/2020/06/special201705017/

https://taiyoko-ch.com/knowledge/datsu-tanso.html

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/184bbf4ac2a3b880.html

https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/news/00082/

https://toyokeizai.net/articles/-/202931

https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/feature/00006/00009/?ST=msb

https://news.yahoo.co.jp/articles/6542d9c740248d254df5219a986e0dd6a65eaff6

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/qa_sekitankaryoku.html

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