2019年度の家電量販店業界は上場11社中10社が増収と好調な結果となり、今年もこの流れがそのまま続くと期待されていました。そんな矢先に、コロナウイルスの感染拡大が発生しました。しかし、自粛ムードにも関わらず、政府による特別定額給付金で家電を買い替える需要が現れました。
ヤマダ電機の山田昇会長は今年7月、日本経済新聞のインタビューで、「テレビやエアコンに限らず全体的に売れ行きが好調で、要因は10万円の特別定額給付金の効果も大きい。」と答えました。
しかし、家電量販店に陳列されている商品には日本製以外のものも増えてきているのではないでしょうか。
以前、日本の強いブランド力と技術力を持つ冷蔵庫、洗濯機、薄型テレビは、パナソニックやシャープが躍進していました。しかし、近年、グローバル市場では韓国のサムスングループとLGグループがシェア上位を占めるようになり、日本製品は影をひそめるようになりました。
日本国内の消費者、特に中高年層にとって「中国や韓国のメーカーの製品は日本メーカーの製品には及ばない」と考える人もまだいるかもしれません。しかし、LGの技術開発力はここ数年飛躍的な進化を遂げているのです。
LGの世界市場における白物家電の営業利益率は2014年に急激に伸び、現在トップとなっています。
LGの事業は、電機事業、化学事業、通信事業が3本柱ですが、今回は白物家電で急成長を遂げたLGの子会社である家電メーカーの「LGエレクトロニクス(LG電子)」のご紹介と、同社の成功要因についてお話します。
LGの歴史と家電事業成功の背景
LGエレクトロニクスの白物家電の営業利益率は、他社を差し押さえ突出して成長しています。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63761610R10C20A9FFN000/
2019年、売上高は下がったものの、営業利益は巻き返しの結果となっています。

http://www.toyo-keizai.co.jp/news/topics/2019/post_7692.php
7月末に発表された業績推移では、プレミアム新家電の売上が好調でした。
第1四半期と合計した上半期基準で売上高は前年同期比9.8%減少しましたが、コロナウイルス感染症の影響で工場が稼働停止するなどの状況にも関わらず、営業利益は2.1%伸びたということです。
それでは、LGはどのようなビジネスから始まり成長を遂げてきたかを見てみましょう。
LGは、1952年にク・インフェ氏によって設立され、今や韓国を代表する総合科学メーカーです。
かつては「ラッキー金星グループ」と呼ばれており、「ラッキー」(Lucky)の頭文字「L」と、また「G」は「金星」の朝鮮語ローマ字(Geumseong)の頭文字、電化製品の海外市場向けの商標である GOLDSTAR の頭文字を取って、「LG」という社名になりました。
事業は、電機事業、化学事業、通信事業が3本柱で、子会社は家電メーカーのLGエレクトロニクス、電子部品の製造を手掛けるLGイノテック、液晶ディスプレイを手掛けるLGディスプレイがあります。
LGの創成期はラジオからスタートした
LGは120カ国以上の現地法人や国外支社があり、8万2,000人もの社員を抱えています。
日本では、携帯電話やスマホ、液晶ディスプレイとして認知が広まりました。
元々LGの事業のスタートは「ラジオ」からスタートしたことはあまり知られていないでしょう。当時の社名は「楽喜化学工業社」で、その名の通り化学関連の企業でした。
LG電子の国外進出の歴史は、1962年で、アメリカに62台のラジオを輸出したことからスタート。
この台数は特に大きな記録でもありませんでしたが、これは大きな一歩となり、続いてNY、アラバマ州などに次々と支店を出していきました。同社は1980年を除けば、全ての年で黒字経営をキープしてきた優秀な企業と言えるでしょう。
LG電子の事業開始
ラジオから事業をスタートさせ海外展開を成功させたLGは、電子産業への進出を模索し始めます。しかし、ラジオしか事業をしてこなかったため、当然ながら電子産業に関する技術力は皆無でした。(当時の韓国は、ラジオやテレビも、全て外国から輸入している状態で、韓国自体にも全くノウハウがありませんでした。)
何とかして電子産業に乗り出したいLGは進出のリスクを承知の上で事業を開始。その決定するまでには1年もの時間を費やしたそうです。輸入品ではない韓国製の扇風機、電話機、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、カセット録音機などを韓国市場に売り出していきます。
電子産業に関するノウハウが全くなかったLGは開拓精神を持ち続け、技術力を養い、世界進出を果たしていきました。

スマホ事業の不振と出遅れ
LGエレクトロニクスは、モバイル関連製品、家電製品などを取り扱い、世界100以上の事業拠点に74,000人の社員がいます。韓国電機業界ではサムスン電子に次ぐ大企業です。LGエレクトロニクスの歴史を知る上で、「スマホ事業」と「サムスン電子とのシェア争い」抜きでは語れません。日本でも認知のあったLGのスマホ製品について見てみましょう。
LGエレクトロニクスの携帯電話・スマホは、サムスン電子に続き第2位で、2000年代初頭から常にシェア争いをしてきました。

スマホ時代に突入すると、サムスンの「Galaxy」に対してLGは「G」シリーズで対抗。
両社は世界中のスマホ市場を盛り上げていきました。しかし、LG電子は現在不振にあえいでおり、一時は世界4位だったLGのスマホのシェアは9位に後退しました。
2019年12月期のスマホ事業の営業損益は1兆100億ウォン(約925億円)の赤字。赤字は5年連続です。
中国の華為やオッポ、シャオミといった中国勢の台頭によってポジションを脅かされ続けている状況です。

※現在LGスマホの世界シェアは第9位、シェアはわずか2%
https://telektlist.com/2019-q3-smartphone-global-share/

※大画面化した「V60 ThinQ」。後程紹介する家電のSIGNATUREシリーズの冷蔵庫は100万円前後の価格ですが、そのクオリティの高さとファッション性で成功しています。この世界観をスマホの世界に持ち込みたいという狙いがあります。
2019年に5Gが始まり、LGはスマホ事業を大幅に見直し、「V50 ThinQ」や「V60 ThinQ」などの高級路線のブランドの新製品を投入していますが、出荷台数の減少によって開発費用を捻出できない悪循環は否めません。ブランドの路線を高級志向に変えたばかりでは定着するための時間も要するでしょう。
しかし、このV60 ThinQには独自AI機能である「ThinQ」を搭載されています。LGの高級白物家電であるテレビ、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、オーブン、空気清浄機などと連動させることでシームレスに使用できるという新たな価値を生み出そうとしているのです。
スマホアプリ「LG ThinQ」を活用すれば、外出先からでも冷蔵・冷凍温度の確認や調整、除菌脱臭や急速冷凍のオンオフの設定が可能になります。ドアが開けっぱなしになっている場合にはアプリに通知する機能なども付いています。
この独自性によってLGが家電とスマホをセットで販売していけるかが、今後のスマホ事業の業績のカギを握っているかもしれません。
ソニーの衰退とLGの躍進
白物家電のグローバル市場において日本企業の存在は陰りを見せています。
ソニーをはじめとする日本企業は最先端の技術やイノベーションを武器にしていましたが、サムスンやLGなどの韓国企業はそれらに加えて「低コスト」、「流通・販売網の急拡大」に力を入れて差別化を図ってきました。
2004年にスタートした「アジアのトップブランド1000」では、2012年、長年トップの座を守ってきたソニーが3位に後退しました。入れ替わりとして1位になったのはサムスンでした。ソニーは「ウォークマン」やロボット犬「aibo(アイボ)」、2011年まで首位だったが、その後は徐々に、そして確実に下がり続けています。
2020年の結果を見てみると、開催後初めてソニーがトップ5の圏外になり、代わりに4位に入ったのはLGエレクトロニクスでした。LGエレクトロニクスは2010年までに3位に入ったことがありますが、その後不調が続き4位に入ったのは2001年以来でした。
ソニーは、消費者嗜好の変化や韓国企業の新たな戦略に苦戦し、緩やかな下降傾向が止まりません。世界の白物家電市場における小売販売台数を見てみると、2009年と2018年のランキングは歴然の差となっています。



ニューノーマル時代への先手を打った商品の展開
2020年4~6月期の業績はまだはっきりとしていませんが、1~3月期は、新型コロナウイルス感染拡大による需要不振が見られたのは中国1国のみでした。そのため、スマートフォンとテレビ、家電などの販売にそれほど大きな影響を与えませんでした。
サムスン電子の2020年1~3月期の営業利益は6兆4000億ウォン(約5700億円)を記録。LG電子の営業利益は、前年同期比で21.1%増となる1兆0904億ウォン(約980億円)となりました。
韓国の電子業界関係者は「新型コロナウイルスの影響で健康や衛生面への関心が高まっている。乾燥機や食器洗浄機などの衛生関連家電の販売が増えた。また、高付加価値テレビの販売も好調だった」と述べています。
LGがこのコロナ渦において熱心に売り出している製品は「LG Styler」です。
ドイツ・ベルリンで毎年開催されている国際イベント「IFA」では、服をかけるだけでスチームでの洗濯/乾燥できる「LG Styler」が99.9%除菌可能であることを訴えました。

空気清浄機付きマスク「PuriCare」は、昨今の社会情勢に適したニューノーマル時代の商品とアピール。
インターネットやWifi環境が日本よりも進んでいる韓国では、IoTやデジタル化した製品が浸透しやすく、その最先端を行くスタンスでグローバル市場でも世界を席巻しています。
これからは今までになかった製品を日本向けへ投入し、市場開拓を進めたいと積極的な姿勢を見せていますが、これはIoTやデジタル化の家電に後れを取る日本にとってますます脅威の存在になってくるでしょう。
LGの成功要因
LGの家電が成功した背景には下記のような要因が挙げられます。
商品企画・性能力
韓国の2強がそれぞれ日本に負けない技術力だけでなく、商品企画と製品性能で追い付いてきました。サムスン電子とLGの2社がお互いに良いライバル関係として成長してきたことが背景にあると言われています。
アフターサービスの充実
故障診断や故障修理にかける時間を極力短くし、消費者の不満を生じさせないような安心感を提供する努力をしていると言われています。
ローカライズ戦略(各国の特性に合わせた商品を展開すること)が上手な点
事例としてはインドでは現地の料理に不可欠なスパイスの香りを他の食材に移さないよう収納できる「スパイスボックス」を搭載した冷蔵庫があります。
また、電力網が不安定な国に対しては停電になっても冷気を約7時間キープできる冷蔵庫を発売した。国や地域が異なれば、好まれるデザインや機能も変えています。
デザインと使い勝手に関する商品企画と設計が洗練されてきた点
事例としてはSIGNATUREシリーズが挙げられます。
SIGNATUREシリーズは「世界一美しい家電」を目指し、販路はインテリアショップにまで拡大。機能やデザインだけでなく販売戦略でも1つ上のステージに押し上げるべき製品といわれています。
電気自動車とLGエレクトロニクスの家電
ヨーロッパで自動車市場の約8%をEVが占めるようにななりました。テスラがアメリカの自動車市場に激震を与え、中国国内でもEV市場が堅実に成熟し始めています。
韓国の現代自動車(ヒュンダイ)は、次世代EV専門ブランド「アイオニック・コンセプトキャビン」を立ち上げ、今後4年で3種の電気自動車をマーケットに投入すると発表し、このブランドは、2025年までに電気自動車100万台を販売していく予定です。

2020年の世界EV販売台数ランキングを見てみると、現代自動車は現在8位で、台数のシェアは4%。日本のメーカーでは日産が11位、トヨタが15位、三菱が16位と日本企業はいずれも後れをとっています。現代自動車は今後10%のシェアを獲得することを目指しているようです。
EV車はガソリン車に比べて車内空間が広くなり、今までのような単純な移動手段にとどまらない提案が可能です。走行性能のみならず乗車時の快適性が重視される流れの中、現代自はLGと車の付加価値を高める戦略を取り、商品企画を重ねました。
社内空間を快適にする高音質スピーカー、有機ELテレビ、冷蔵庫、コーヒーメーカー、空気清浄機などの家電が搭載されています。欧州で急増するEV車のニーズに対応したい考えです。この協業によってLGエレクトロニクスの業績の向上と欧米市場でのさらなる認知拡大が期待できるでしょう。
最後に
LGエレクトロニクスの白物家電の成功要因や、コロナ渦でもニーズを発掘し、AI時代に先手を打った戦略をスピーディーに実行する姿勢を知っていただけましたでしょうか。
今後IoTやAIが進むと、時代の流れに沿った家電製品が必要になってきます。
その際、IoT製品が得意な韓国企業の白物家電にポジションを譲ってばかりではいられません。日本メーカーが過去に世界で示していた存在感を是非取り戻してほしいと思います。
<参考>
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20180420-OYT8T50025/4/
https://president.jp/articles/-/38979
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64231850V20C20A9FFE000/
https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/news/1224344.html
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/246040/022300018/
https://news.mynavi.jp/article/20080326-lg/
https://toyokeizai.net/articles/-/343686?page=2
https://www.digimonostation.jp/0000123268/
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO55066240Q0A130C2FFE000/
https://diamond-rm.net/management/60063/2/
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2020/08/ev-16.php
https://mottokorea.com/mottoKoreaW/Business_list.do?bbsBasketType=R&seq=90762
https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/electric-vehicle-market-share-super-low-in-japan/