東南アジア市場のハブ拠点としての役割を持つシンガポール。
面積は東京都の23区ほどしかないところに人口は約570万人が住んでいます。
天然資源もない国であるにも関わらず、国民1人あたりのGDP(国内総生産)は日本を上回り、著しい経済成長を遂げています。積極的に外国企業を誘致していることもあって、日本企業を含む様々な外国企業が持株会社をシンガポールに設立しています。
そんな先進国シンガポールですが、今もなお世界的に猛威を振るう新型コロナウイルスによる感染を封じ込めることに苦戦しており、感染が広がりつつあります。
シンガポール政府は様々な感染防止対策を行い、4月頃は一時的に一日1000人を越える感染者が出ていましたが、現在では30人程度を維持しており、感染拡大阻止へと歯止めをかけています。
このように対コロナ措置が行われたことによって、進出している日本企業にはどのような影響があるのか、そして今後シンガポールに進出するメリットはあるのかというところを中心に今回はお伝えしていきます。
また、コロナウイルスだけではなく、熱帯地域に位置しているシンガポールはデング熱も流行っています。
今年は例年に比べて感染者が増え、深刻な問題となっているのです。これらの流行病に触れつつ上記のポイントに沿って説明していきます。
シンガポールのビジネス特徴
シンガポールは国土が狭く、資源も豊富でないのに経済発展しています。
その理由となるシンガポールのビジネス特徴を以下に示します。
立地条件の良さから経済が栄えている
以下の地図を見てわかるようにシンガポールは外国企業の海外進出が進んでいるベトナムやタイ、インドネシアなど多くのASEAN諸国から近い位置にあります。
そして太平洋、インド洋、南シナ海などの大海を越えて周辺国で行き交う貿易をつなぐ拠点として栄えていきました。
こうした立地条件を活用して、インドネシアやタイ、ベトナムなどASEAN地域に進出している企業はそれらの統括拠点としてシンガポールに進出している企業がたくさんあります。
日系企業では、Bridgestone Asia Pacific Pte. Ltd. (ブリヂストン・アジアパシフィック)やMitsui & Co.(Asia Pacific)Pte. Ltd.(三井物産)、Mitsubishi Heavy Industries Asia Pacific Pte. Ltd.(三菱重工業)などがアジアの統括会社をシンガポールに設立しています。
アジア地域の金融センターとしての役目
金融センターとは、銀行や証券会社、保険会社といった金融業において中心的な役割を持っている都市や市場のことです。
ここ数年間、グローバル金融センター指数(GFCI)という金融センターの国際的競争力を示す指標において、シンガポールは上位を獲得しています。
このGFCIはビジネス環境、人的資源、国際金融市場としての成熟度、インフラ、都市イメージ、という5項目を審査基準にして選ばれています。
今年2020年の3月に深圳市の中国総合開発研究所とイギリスのシンクタンクが発表したGFCIによると、1位はニューヨーク、2位はロンドン、3位は上海、4位が東京となっており、シンガポールはその次に続く世界第5位の指数となっています。
このようにランクインしているのはシンガポールが金融上で利便性があるからです。
立地条件のほかに、政治・経済が安定しているため、デモや暴動などが起きにくいこと、セキュリティの高さ、流動的で活発な資本市場であるといったことが理由に挙げられています。
つまり、金融業界の外国企業は多くシンガポールに進出し、日系の総合銀行である、三井住友銀行と三菱UFJ銀行(MUFG)がシンガポールに進出しています。
MUFGのシンガポールオフィスは地域本部として、南アジア、東南アジア、オセアニアの13か国をカバーしており、MUFGブランドで企業および投資銀行のクライアントにサービスを提供しています。
今年には、MUFGがGrabホールディングスに7億600万USドルを投資したことがニュースにも取り上げられました。
Grabは日本ではあまり馴染みがない会社ですが、東南アジアを中心に、タクシーなどを呼ぶ配車アプリやフードデリバリー、デジタル決済やホテル予約といった幅広いサービス展開で近年急成長した企業です。
Grabは現在、MUFGとシンガポールのパートナー銀行として契約しており、次世代の特注金融サービスを共同開発することを決めたため、この投資に至りました。
MUFGのメリットとしては、Grabが進出している東南アジア地域の金融包摂を後押しできることです。金融包摂とは、新興国の貧困層に、振り込みや融資といった金融サービスを使える機会を提供し、貧困削減を目指す動きです。
この金融包摂をバックアップすることで東南アジア地域の貧困層の人々も金融サービスにアクセスできるようにすることでサービスを拡大させ、利用者を増やすことを狙いとしているのでしょう。
外国企業を積極的に誘致
シンガポールは外国企業を積極的に誘致することで、高い生産性を持つ外資系企業の経営ノウハウや技術を国内企業に移転させたことで経済が繁栄しました。
およそ55年前、マレーシアから独立したシンガポール政府は小さい国内市場によって経営が行き詰まる国内企業を目の当たりにしました。そこで、市場が小さくても経済発展していく方法を考えました。
その結果、外国企業の誘致を積極的に行うようにし、埋め立て工業地帯を整備するなどして外資湯地の基盤をつくっていくことになったのです。こうした企業誘致により、外国企業の資本や技術を得て、製造業がどんどん進化しきました。
2019年4月の時点では、シンガポールに進出している外国企業はおよそ7000社で、そのうち日本企業は約1600社に上ります。非製造業よりも製造業が多く進出しているのもこうした背景から理解できます。
シンガポールに部門を移転したり、新しく拠点を設立した企業は、住友化学、ブリヂストン、三井物産や日本郵船、HOYA、三菱商事、武田薬品工業、森永乳業などがあります。
食品や化粧品といった製造業以外にも三菱商事といったコンサルティング業界も進出してきています。また、外資系ではアメリカのゼネラル・モーターズやプロクター・アンド・ギャンブルなども挙げられます。
シンガポール建国の基盤をつくったとも言われる住友化学は、シンガポール政府が積極的に誘致したことがきっかけで進出しました。
ジュロン島にある石油コンビナートを建設するなど、石油化学部門の売上高のうち約4割占め、シンガポールの現地グループ会社の収益となっています。他にも、旭化成や三菱化学も同業界で日本から進出しています。
シンガポール ジュロン島の工業地帯の様子
(参考:https://webciss.sankyu.co.jp/portal/j/asp/newsitem.asp?nw_id=2990)
そして2018年にシンガポール政府が発表したシンガポールの産業構造では、下の円グラフの通り、業界別で最大の22%が製造業関連(建設業、ガス、電気、水道サービス含む)となっています。
また、シンガポールのGDPのうち22%はこの製造業が占めています。その中でも、医療・バイオテクノロジー産業、エレクトロニクス産業、精密工業産業、航空・宇宙産業は近年成長し、現在世界トップクラスとなっています。
国内市場は小さく、富裕層も国民全体のわずかしかいないため、造られた製品のほとんどが海外で売られています。つまり、初めから製品は国内市場向けでなく海外市場を念頭に入れて造られています。
ちなみに、先ほども述べたように、シンガポール政府は外国企業を誘致したり、政府主導でハイテク技術分野の地元企業家を育成するなど、起業活動を積極的に行っていることから、東南アジア最大のスタートアップ拠点としても注目されています。
そしてハイテク技術関連でいうと、医療・製薬・バイオテクノロジー産業では、シンガポールは世界最高峰の研究拠点とされています。それはシンガポール政府が研究開発費や補助金などを研究者に提供するといった手厚いサポートを行っていることが大きな理由として挙げられます。そのサポート下における研究の一つとして、SARSやMARS、新型コロナウイルスのような感染病への対策が進められています。
シンガポールは海外から多くの人々が滞在しており、人口密度も高いため、万が一感染病が発生した場合、感染拡大が深刻になってしまいます。こうしたことから政府の支援の下、感染病の早期対応や原因物質を迅速に特定できるよう対策が進められているのです。
代表的な研究機関の一つに、Duke-NUS Medical School(デュークNUSメディカルスクール)という大学院医学部の学校があります。この学校はアメリカのデューク大学とシンガポール国立大学のコラボレーションによって設立されました。
現在、世界に深刻な影響を及ぼしている新型コロナウイルスの研究もこの学校で行われ、シンガポール政府が出す対策に役立てられています。この学校は世界初のグループとして患者のサンプルからSARS-CoV-2コロナウイルスを培養し、疫学的追究のために、抗体ベースの血清学的検査を開発したことなど、世界トップレベルの医学部の学校です。こうした研究成果はシンガポールだけでなく世界に役立てられており、大きな影響力を持っています。
さて、最先端な感染病の研究が進められているシンガポールでは、コロナの状況はいったいどうなっているのでしょうか。次に本題である、シンガポールにおけるコロナウイルスの現状や対策についてお伝えします。
コロナの現状と対策
9月12日時点では、合計57,000人以上の感染者が出ていましたが、現在ではそのほとんどが回復しています。
死者は27人であり、感染は外国人労働者といった特定の人々を中心に拡大している状況です。
今年2020年4月、外国人労働者のうち単純労働者とされる人々の寮などでクラスター感染が爆発的に発生しました。寮の居住者全員に1日数千件ほどの感染検査を行い、隔離措置をしたことで、9月に入ってからは1日の新規感染者は30人程度を維持しています。
感染者が激増した4月は、職場や学校、ショッピングモールなど人が密集する場所は閉鎖するよう政府から指示が出ました。そのため4月21日から5月4日までロックダウン(都市封鎖)が行われるとのことでしたが、外国人労働者の間で感染の勢いが収まらないため、シンガポールの首相である、リー・シェンロン氏は4週間延長し、6月1日までとすると発表しました。
この感染拡大に伴い飲食店などは店舗でイートインのサービスが提供できなくなった事態を機にフードデリバリーサービスを開始しました。消費者もロックダウンを機に、在宅勤務や必要最低限の移動をしないようになったことから、注文した食べ物を自宅まで配達してくれるフードデリバリーサービスを利用する機会が増え、ロックダウン後の現在でも需要が高まっています。
フードデリバリーサービスを行う会社は、FoodPanda(フードパンダ)、Deliveroo(デリバル―)、GrabFoodの3社がメインとなっています。
一番多く利用されているのはFoodPandaです。FoodPandaに対応している店が多いため、食べ物のメニューも豊富であるということから利用者も多くなっています。
また、オンライン上で注文するときにわざわざ自分のアカウントを作らなくてもゲストアカウントで注文できるため手間がかからないことや、現金での支払いが可能なため、クレジットカードを持っていない人でも手軽に利用できる点も利用者が多い理由として考えられます。
オンライン上で注文となると、クレジットカードなどで支払いするイメージがあると思いますが、このFoodPandaでは、家にきた配達員にお金を渡せば、支払いが完了します。
シンガポールは国全体が経済発展し、物価も高いため、貧富の差もなく、富裕層が多い印象があります。
しかし、人口のうちおよそ2割は月収10万円以下で暮らしている人もいるのが現状です。
シンガポールの銀行の1つでもある、UOB(United Overseas Bank) は、口座を開設にあたって月間平均残高の最小値が$1000(100,000円相当)と定められています。
月収がそれより満たない場合は口座を持てないため、クレジットカードも使うことができないのです。そのため、FoodPandaの話に戻りますが、現金支払いができるサービスはそうした人々にとって便利なのです。
DeliverooやGrabFoodはFoodPandaほどの登録レストランがあるわけではありませんが、徐々に増えています。このGrabFoodとは、先程話したGrabホールディングスのグループです。
このようにコロナの急展開な状況にも上手く対応しながら飲食店は販売を行っていました。
現在ではほとんどの店は営業を再開していますが、列をなして並ぶ場合は1、2メートル間隔でソーシャルディスタンスをとるよう床に線が引かれていたり、カフェなどの席は✕印が付けられ、一人一人の間隔をあけるように対策が取られています。
以下にわかりやすく現地の様子が映されている動画を添付致します
デング熱の現状と対策
コロナウイルスの感染拡大に伴って8月現在、デング熱も過去最悪ペースで感染が広がっています。
今年2020年の発生件数は25000件以上にまで上り、昨年より1万人も多く患者数が増えています。デング熱の症状は、デング菌をもった蚊に刺され、2週間以内の潜伏期間を経て38~40度の高熱に伴い、頭痛、発疹、関節や筋肉の痛みなどの症状が現れます。
なぜ今年は例年に比べてデング熱の感染者が増えているのでしょうか。その理由は、コロナの影響によって自宅にいる時間が長くなったことが起因しています。シンガポール国内でコロナの感染者が急増し始めた4月から6月には、生活必需品の買い物以外還俗外出が禁止となり、多くの人々が在宅となりました。住宅地にある水たまりで繁殖した蚊が人を刺してデング熱感染者が増えていったと考えられています。コロナによる在宅ワークや外出自粛の影響で例年より在宅時間が長くなったことが、2次災害のように悪影響を与えているのです。
デング熱もコロナと同様にワクチンや有効な治療法がないため、もし今後ビジネス目的で入国する際は細心の注意が必要です。とにかくデング熱にかからないことが最大の予防策となります。そのためには、水たまりや不衛生なトイレのある場所には行かない、肌を露出しない長袖長ズボンを着用する、虫よけスプレーをする、蚊取り線香などを使って蚊を寄せ付けないといった心掛けをするようにしましょう。
また、シンガポール政府がWeb上で出している、デング熱感染者が出た場所や、地域の警戒レベル、直近2週間以内で発生した件数などが詳しく載ってる情報サイトがあります。これを参考に、自分がいる場所の警戒レベルや対策などを考えるとよいでしょう。
【シンガポール国家環境庁公式サイト:https://www.nea.gov.sg/dengue-zika/dengue/dengue-clusters】
このサイトにはデング熱以外にもジカ熱など他の感染症の国内感染状況なども見ることができます。ぜひ参考にしてみてください。
日系企業へのビジネス影響
コロナに関しては、外国人労働者の中で感染が広がっているという点が注目点です。
なぜかと言うと、これまでの感染者の9割近くが、建設業などに従事するインドやバングラデシュなどアジアの貧しい国からの出稼ぎ労働者が占めているからです。シンガポールの外国人労働者は基本的に建設業や製造業、家庭内労働といった特定の単純労働に従事した人々を表します。シンガポールでの仕事を解雇され、母国への帰国を余儀なくされる労働者も出てきているという現状はありますが、特定の職場だけ感染が広がっており、多くのシンガポール人や進出先にいる日本人が働いているところではあまり感染が広がっていないため、今のところ職場内感染を懸念してビジネスが全く遂行できなくなるといった事態には陥りにくいと言えるでしょう。
しかし、行動範囲が異なるとはいえ、スーパーマーケットなど多くの人が行き交う場所で感染者と遭遇している可能性もあるため、引き続きソーシャルディスタンスをとったり、こまめなアルコール消毒といった入念なコロナ対策が必要です。
4月7日から6月1日まで部分的ロックダウンが行われていたシンガポール。必需サービスや製造活動以外の多くの職場は閉鎖されたという過去がありますが、With コロナの状況下に対応しながら営業再開もしており、徐々に低リスク国からの入国受け入れも進み始めています。
9月1日からは中国やベトナム、台湾、マカオ、マレーシアビクトリア州を除くオーストラリアからの渡航者は隔離期間が2週間ありましたが、1週間に短縮しました。これらの国・地域との間では企業の現地駐在員などが長期滞在の許可が出ています。
また、日本との往来に関しては9月18日から再開し、ビジネス目的の出張といった短期滞在者のみが入国の対象となっています。
最後に
今回はシンガポールの基本的なビジネス特徴と、コロナウイルスやデング熱の現状と措置、そして日系企業への今後のビジネス影響についてお伝えしてきました。
シンガポールはビジネスにおける好条件を複数もっている国でもあり、進出先としてよく選ばれる国である理由もおわかりいただけただと思います。
東南アジア地域に位置しているため、ビジネス上の立地条件は良い一方で、コロナウイルスだけでなく、熱帯地域の特性上デング熱などの日本では発生しにくい感染病とも付き合って行かなければならないことも事実です。
プル―ヴではシンガポールを含め全世界に約300社の現地パートナーを持ち、コロナ禍でも常に新しい現地情報を収集し、一つひとつの企業様に合わせた事業戦略をサポートすることができます。
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