ASEANスマートシティ構想と日本企業との関わり(Society5.0との比較、海外先端事例や汚職事件)

スマートシティとは、IT やネットワークを都市機能に適用することです。都市の運用や効率を高め、経済、医療・セキュリティ、環境、社会・行政サービスなどを向上させる街の構想です。

特に、MaaS(Mobility as a Service)は私たち誰もが日常的に関わってくる自転車、バス、電車、自動運転などの移動手段のシームレスな統合です。ビッグデータの活用により交通結節点と街が一体となり、スマートシティが実現。

スマホ1つでスムーズな移動ができるようになります。

世界中でこのようなスマートシティの動きが加速していますが、難航しているケースも見られます。

海外大手企業の取り組みでは、GoogleのApple社がカナダのトロントにて、新テクノロジーをテストするためにSidewalk Labs(サイドウォーク・ラボ)という都市開発を続行していました。

しかし、プロジェクトは全監視システム問題の壁にぶつかり、今年5月、Apple社は撤退することを表明しました。

ASEANでも「スマートシティ構想」のプロジェクトが始動し、日系商社が参画していますが苦戦を強いられる場面も少なくありません。

この記事では、日本のスマートシティへの取り組み、ASEAN諸国のスマートシティの動向について解説していきます。

日本におけるスマートシティへの取り組み

スマートシティは、先進的技術の活用により、都市や地域の機能やサービスを効率化・高度化し、各種の課題の解決を図ります。私達の生活は快適性や利便性を含めた新たな価値を創出の恩恵を受けるようになります。

代表事例として、静岡県裾野市「トヨタ ウーブン・シティ」をご紹介します。

2020年1月、トヨタは、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大規模のエレクトロニクス見本市「CES 2020」で、静岡県裾野市に網の目のように道が織り込まれあう街を意味する「ウーブン・シティ(Woven City)」と呼ばれる実験都市を開発すると発表しました。

このプロジェクトは、新しい技術を導入・検証できる実証都市が、生活を送るリアルな環境のもとで作られています。

自動運転、MaaS、ロボット、パーソナルモビリティ、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などm人々の暮らしを支えるあらゆるものを対象としています。 今後、サービスが情報でつながる社会がやってきます。

技術やサービスの開発と実証を迅速に行い、新たな価値やビジネスモデルを生み出すことが狙いです。

この都市では、初期はトヨタの従業員やプロジェクトの関係者をはじめ、2,000名程度の住民が暮らすことを想定しています。

 Society 5.0

Society 5.0で実現する社会とはどのようなことなのでしょうか。これまでの情報社会であったSociety 4.0と比較してみましょう。

スマートシティ

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/journal/2019/20190426_.pdf?la=ja-JP&hash=044467300E0FB6503A84F275CA2AEAA0649BE482

<Society 4.0>

  • 知識や情報が共有されず、横断的な連携が不十分な点が問題だった
  • 人が行う能力に限界があり、あふれる情報の中取捨選択して分析する作業が負担となっていた
  • 年齢や障害などによる労働や行動範囲に制約があった
  • 少子高齢化や地方の過疎化などの課題に対して様々な制約があった

<Society 5.0>

IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有されるようになり、今までの課題や困難を克服します。

  • 人工知能(AI)の導入によって必要な情報が必要な時に提供されるようになる
  • ロボットや自動走行車などの技術を使い、子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題がなくなる

高齢者も障害のある方も、社会の変革によってこれまでの閉塞感を打破し、活躍できるようになります。

society5.0
society5.0_2

スマートシティに関わるのはどんな企業?

スマートシティで実現されることは多岐にわたります。そのため、起業1社で作り上げるものではりません。

・不動産デベロッパー、・住宅・建設会社

三井不動産/野村不動産/大林組/清水建設/大成建設/

・IT(情報技術)

富士通/NEC/シャープ

・総合商社

三菱商事/伊藤忠商事/双日

・電機、電力・ガス

東京電力/関西電力など

上記に併せて地元の自治体や住民、大学・研究機関、国の協力も必要なプロジェクトです。

世界のスマートシティランキング(2019年)

世界のスマートシティランキングを見てみると、シンガポールが1位、東京は62位と、少々遅れを取っている印象です。

スマートシティランキング

シンガポールが1位となったその要因はどのような点にあるのでしょうか。

シンガポールではスマートシティー政策として、2014年から「Smart Nation Singapore」が進められています。

デジタル技術とデータの活用を通じて、シンガポールが抱える少子高齢化、経済成長の鈍化、交通渋滞等などの課題を解決し、イノベーションの創出および国民生活の向上をめざす政策です。

Smart Nation Singaporeでは、下記の6つの分野でプロジェクトが進められています。

(①Strategic National Projects

②Digital Government Services

③Startups and Businesses

④Urban Living

⑤Transport

⑥Health

が設定されており、それぞれで複数のプロジェクトが進められていますが、ここでは、④Urban Living(住宅環境)と⑥Health(医療)に絞ってご説明します。

住宅環境の整備

  • 高齢者向けの見守りシステム

住居内に設置されたセンサーで高齢者の行動をモニタリングし、一定時間動きが確認されない場合に介護者へ通知がいくシステム。通信事業者等がサービスを提供している。

  • デング熱撲滅のため、蚊の繁殖有無の確認や殺虫剤の散布をドローンで行っている。

シンガポールでは、国民の8割以上が住宅開発庁の提供する公営住宅に居住しています。

シンガポールのような多様性のある国にとって、コミュニティの寛大さ、家族の絆、人種間の調和は住みやすさに関わってきます。

これに対して、IoT化を積極的に取り入れることで、住宅の管理や提供は、財政計画や住宅の割当、保険なども含め包括的に環境整備しています。

 医療都市の開発

  • ヘルスケア分野におけるロボットや新技術を開発

ロボットによる高齢者や障がい者の介護支援、ドローンによる医薬・医療機器の配送

ASEANのスマートシティ構想とは

日本のASEANにおけるスマートシティ構想において、日本のインフラシステム輸出戦略によって多様なビジネス展開が期待されます。例えば、インフラの設計、建設、運営、管理を含む「システム」としての受注や、現地での「事業投資」の拡大などです。

これらの日本の「強みのある技術・ノウハウ」を最大限に活かして、世界の膨大なインフラ需要を積極的に取り込むことが重要です。

日本企業が欧米や中国・韓国等の競合企業等との国際競争に勝ち抜き、2020 年に約 30兆円(2010 年約 10 兆円)のインフラシステムを受注することを目指しています。

 日系企業が直面しがちな課題

しかし、この構想が現実に進められる家庭で、数々の課題が浮上しています。2019年野村総合研究所のレポート『アジアスマートシティ市場における 事業機会と日本企業の課題』では課題として下記の3つが挙げられています。

NRI

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/journal/2019/20190426_.pdf?la=ja-JP&hash=044467300E0FB6503A84F275CA2AEAA0649BE482

野村総合研究所のレポートの内容から3つ補足をします。

組織・人材(複数事業連携の難しさ)

スマートシティ構築には設計事務所、デベロッパー、ゼネコンが関わってきますが、それらの中心となる業界がITを活用した設計にキャッチアップできていません。

このため自動運転車両が移動しやすい道路の設計、ロボットが移動しやすい空間設計ができず、計画がうまくいかないことがあるようです。日本企業は縦割り型組織が得意で、利益相反が生じやすい組織横断が苦手です。これらの業界が組織横断しながらITを取り入れることが必要とされています。

プラットフォーム機能構築(コスト・技術面でのGAFA対抗の難しさ)

GAFA、アリババはスマートシティ構築において非常に優位です。都市プラットフォームにおいて、日本企業より膨大なサーバーを保有・運用しています。

日本企業ではNECや日立製作所のみとまだ少ないだけでなく、GAFAやアリババが高品質でコスパの良いサービスを提供する中で、日本企業はどう差別化していくのかという課題です。

マネタイズ手法(投資に見合うだけのマネタイズの難しさ)

政府主導のスマートシティの場合、補助金によってスマートシティ関連の補填の方法は可能性としてはありますが、自治体政府の財源や住民の合意に左右されるため、確実ではない点が難しいとされています。

背景は賄賂問題や中国企業の乱暴な入札落札など、政治的な背景もあります。

ベトナムの事例(ハイテクパーク)

日本では住友商事がベトナムの不動産大手BRGグループと連携して、首都ハノイ市で投資額は4500億円のスマートシティー開発に乗り出すと発表しました。

2020年に着工し、約7千戸のマンションや住居などを建設していく予定です。最先端の技術の導入を計画しており、ベトナムの高い成長を取り込もうとしています。

2018年4月第32回ASEAN首脳会議で、ベトナム政府はハノイ、ホーチミン、ダナンの3都市が参画すると表明しました。

ベトナムは安定した経済成長に伴って急激に都市開発が進んでいます。

都市部ではビルの建設ラッシュや交通量の増加などでにぎわっていますが、交通渋滞や大気汚染、廃棄物処理などの問題も深刻化しており、ベトナム政府はこれらの問題を解決しようとしています。

それだけでなく、経済成長と生活の質の向上を目指そうと、情報通信技術(ICT)を取り入れた構想を掲げています。

2025年までに試験運用を開始し、開発に関連する規格を定める、2030年までにはスマートシティ間の連携も実現したいと考えています。

タイの事例(AMATA スマートシティ)

「AMATA Smart City Chonburi 工業団地ゲートウェイエリア開発」プロジェクトににYUSAという横浜市内の中小企業で構成される一般社団法人が取り組んでいます。タイの工業団地大手のアマタコーポレーションとの協業で行っています。

タイのスマートシティ開発は、産業高度化政策である「タイランド4.0」に位置付けられ、2018年以降に本格化し、プーケット、チェンマイ、コンケンの3都市において整備する予定でしたが、当時のプラジン副首相は今後20年間で100のスマートシティを整備することを表明。

2022年までに全76都県に100のスマートシティを整備することが定められました。

インドネシア(100 Smart Cityとメイカルタの汚職事件)

インドネシアでは、通信情報省や財務省など複数の省庁が連携し、「100 Smart City」計画を推進中です。

今年9月、三菱商事はインドネシアでスマートシティーの開発に参画すると発表しました。

シンガポールの政府系投資会社と設立した合弁会社を通じ、現地の不動産デベロッパー大手シナルマス・ランド社と共同で開発を行います。総事業費は2千億円で100ヘクタールの土地に住宅や商業施設、病院などを建設する予定です。

ポストコロナの生活形態も見据え、自動車に依存しない「公共交通指向型開発」構想。

さらに住宅や公共交通などの都市機能を組み合わせたインドネシア初のスマートシティーを計画しています。

スマートシティのインドネシア語は Kota Cerdas(コタ・チェルダス)で、知的都市を意味し、インドネシアにおけるスマート化の先駆けは、2010 年に始められた国営電力会社 PLN によるスマートメーターでした。

スマートメーターはプリペイド式で、使用量が支払い額を超えそうになると警告音が出る仕組みとなっており現在も使われている。より広義のスマートシティ計画が頻繁に取り上げられ始めたのは 2015 年頃からです。

三菱商事がスマートシティ構想を始める前には、ソフトバンクがインドネシアとのかかわりがあります。

2019年、インドネシアは昨年8月、首都をボルネオ島東部に移設することを決定。

ソフトバンクの孫正義社長は、300億ドル~400億ドル(3兆3千億円~4兆4千億円)を出資することをインドネシア大統領に申し出ました。

インドネシアの都市開発で失敗事例として知っておいていただきたいのが「メイカルタ」の汚職疑惑です。

リッポー・グループが進める大規模開発計画「メイカルタ」は、ジャカルタ郊外の西ジャワ州チカランで建設を進める予定で、第1弾として今後3~5年で住宅25万戸の建設が計画されていました。

三菱商事の他、日系企業十数社が開発に参加することになってしました。しかし、このプロジェクト進行の過程で汚職疑惑が発覚し、リッポー幹部を含む4人が逮捕されました。

スマートシティは国や地方自治体が関係するビジネスです。

このように開発に携わる国の政治的な問題でプロジェクトが頓挫してしまうこともあるのです。

最後に

日本企業のスマートシティ開発の動向の様子がご理解いただけましたでしょうか。

経済発展の目覚ましいASEAN諸国において都市開発のビジネスチャンスは右肩上がりです。

まだ難航していたり中止したりするプロジェクト事例も見受けられますが、今後日本はこのビジネスチャンスを掴めるように、各国との連携や取り組みを行ってほしいと思います。

<参考>
https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo07_hh_000535.html

https://www.jetro.go.jp/view_interface.php?blockId=26808427

https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/10/6abbd35ca76618a8.html

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2019/0801/74b72efc489b22d1.html

https://news.yahoo.co.jp/articles/aa8406cd4afe9594721ef9cb829fe6f770225f0a

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/infra-reports/idn_201709.pdf

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54255640Q0A110C2FFE000/

https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2019/20191128_03/

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ04H4U_U7A500C1TJC000/

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2019/0801/2a3db5f0d050195c.html

https://www.nikkei.com/nkd/industry/article/?DisplayType=1&n_m_code=094&ng=DGXMZO63749910R10C20A9910M00

https://doda.jp/guide/trendmap/01/smartcity.html

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/journal/2019/20190426_.pdf?la=ja-JP&hash=044467300E0FB6503A84F275CA2AEAA0649BE482

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/journal/2019/20190426_.pdf?la=ja-JP&hash=044467300E0FB6503A84F275CA2AEAA0649BE482

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2019/0801/1fdcebeb38f1d65e.htmlhttps://jidounten-lab.com/u_smartcity-2020-project-autonomous-maas#MaaS

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50671290W9A001C1TJC000/

https://bae.dentsutec.co.jp/articles/maas/

https://ja.sekaiproperty.com/news/3329/singapore-smart-city

https://www.hitachiconsulting.co.jp/column/asia_data/01/index.html

https://www.mlit.go.jp/scpf/

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