人類は、自然界から天然資源を採取してそれらを用いて道具や製品を製造し、それらを消費、使用し、使い終われば棄てるという流れで、地球上で発展をしてきました。人類の誕生以来、人間の活動には廃棄物の発生は避けて通れないと言えます。
産業革命以降特に20世紀は、社会経済活動の全段階においてモノの流れが増大し、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムを構築しました。このことによって確かに人類は急速な経済成長を遂げ、それに比例して人口も増加しました。一方、環境面でさまざまな悪影響を生じることとなりました。
21世紀に入り、これまでのような先進国だけではなく発展途上国では急激な経済発展と人口増大が予想されており、廃棄物の発生量の増大など、環境負荷増加が懸念されています。
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h23/html/hj11010402.html
2015年9月に国連サミットで採択された「SDGs(Sustainable Development Goals)」。
この国際的な目標が提唱されて以降、持続可能な社会の実現に向けて、国連に加盟している国々が取り組みを進めてきました。
その中でも本記事では、SDGsの取り組みの1つである「廃棄物処理」と「リサイクル」に焦点を当てて解説していきます。
SDGsについて
本題に入る前に、まずはSDGsについて触れていきます。
SDGsの概要
https://miraimedia.asahi.com/sdgs-description/
前述した通り、SDGsとは国連サミットで採択された国際的な目標のことで、2016年~2030年の15年間で達成することを掲げています。内容は17個の大きな目標と、それらを達成するための169個から成るターゲット(具体的な行動指針のようなもの)から構成されています。
17個の大きな目標は以下を参照ください。
引用:SDGsジャーナル【SDGs支援機構】2021.06.08 https://sdgs-support.or.jp/journal/
①貧困をなくそう
└あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
②飢餓をゼロに
└飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
③人々に保健と福祉を
└あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
④質の高い教育をみんなに
└すべての人々へ包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
⑤ジェンダー平等を実現しよう
└ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
⑥安全な水とトイレを世界中に
└すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
⑦エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
└すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
⑧働きがいも経済成長も
└包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する
⑨産業と技術革新の基礎をつくろう
└強靱なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及び技術革新の推進を図る
⑩人や国の不平等をなくそう
└各国内及び各国間の不平等を是正する
⑪住み続けられるまちづくりを
└包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市及び人間居住を実現する
⑫つくる責任 つかう責任
└持続可能な生産消費形態を確保する
⑬気候変動に具体的な対策を
└気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
⑭海の豊かさを守ろう
└持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
⑮陸の豊かさも守ろう
└陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
⑯平和と公正をすべての人に
└持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
⑰パートナーシップで目標を達成しよう
└持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
SDGsと「廃棄物処理」「リサイクル」の関係
SDGsの17個の目標の中で、「廃棄物処理」と「リサイクル」と最も関係が深いのは12番目の目標である「つくる責任 つかう責任」です。2021年現在の世界人口は約79億人を超え、さらこの数字は今後も増え続けていくと予測されています。
一方で、人口増加に伴って地球の資源が際限なく増えるような、都合のいいことは決して起こりません。
我々は今まで以上に、限りある資源を分け合って生活していくことが強く求められているのです。その中で、「廃棄物処理」と「リサイクル」という、今ある資源を循環させていくという考え方は、SDGsの12番目の目標である「つくる責任 つかう責任」の中でも重要な役割を果たします。
特に「リサイクル」のように、「つくる責任 つかう責任」には一般消費者の方でも貢献できる要素が多くあります。したがって、SDGsを他人事ではなく、誰でも小さなことから始められる行動であるという認識を持つことが重要です。
廃棄物とは
それでは、本題に移っていきます。まず、「廃棄物処理」について理解を深めるために、廃棄物について解説します。
廃棄物の定義
「廃棄物処理」の廃棄物には定義が存在します。廃棄物は、昭和45年に制定された廃棄物処理法で下記のように定義されています。
https://www.env.go.jp/hourei/11/000516.html
その後も廃棄物の定義は省庁や裁判所によって何度か改正されますが、大まかには”要らなくなって価値がなくなった物”と言い換えることができます。加えて、廃棄物には産業廃棄物と一般廃棄物の2種類存在します。次項から、それぞれ見ていきましょう。
産業廃棄物の定義と種類
産業廃棄物とは、事業活動の中で発生する廃棄物のうち、図1に示した20種類のものを指します。
https://www.jwnet.or.jp/uploads/media/2019/04/20190424173855.pdf 表2.1
また産業廃棄物の中でも、毒性・感染性・爆発性を有する廃棄物を特別管理産業廃棄物といいます。
一般廃棄物の定義と種類
一方で、一般廃棄物は、家庭系一般廃棄物・事業系一般廃棄物に分類されます。家庭系一般廃棄物とは、一般家庭の日常生活から発生した廃棄物のことを指します。日常生活を送るうえで生じる、ペットボトルや燃えるゴミなどが、こちらに該当します。
事業系一般廃棄物とは、事業活動の中で発生する廃棄物のうち、図1で示した産業廃棄物に該当しない廃棄物のことを指します。また一般廃棄物の中でも、毒性・感染性・爆発性を有する廃棄物を特別管理一般廃棄物といいます。少し複雑な分類ですが、SDGsだけでなく、私たちの生活にも関係の深いものなので、覚えておいて損はありません。
リサイクルとは
次に、「リサイクル」について理解を深めるために、解説していきます。
3Rについて
https://www.city.toshima.lg.jp/150/2009241632.html
リサイクルは、3Rの中の1つの柱として重要な役割を果たします。3Rとは、リデュース(Reduce)・リユース(Reuse)・リサイクル(Recycle)の頭文字Rを取った総称です。リデュースとは、使用する資源量を減らしたり、廃棄物の発生を減らすことを指します。例えば、我々消費者はマイバッグを利用することでリデュースに貢献できます。また、事業者は製造する製品の耐久性能を向上させることでリデュースに貢献することができます。
リユースとは、使用済みの製品や、その部品などを廃棄せず繰り返し使用することを指します。例えば、我々消費者は商品をあえてフリーマーケットで中古品を購入すれば、リユースに貢献することができます。また事業者は、使い捨てではなく使い回し可能商品な商品を開発することで、リユースに貢献することができます。
リサイクルとは、廃棄物などを原材料・エネルギー源として有効活用することを指します。我々消費者にとって最も馴染みのある3Rは、このリサイクルではないでしょうか。例えば、資源ごみの分別を徹底する、リサイクル商品を積極的に利用するなど、日常生活を送るうえで接する頻度が多いのがリサイクルです。
事業者にとっても、リサイクルされた原材料を使用するなど、貢献しやすい活動とも言えます。
廃棄物処理及びリサイクルの世界市場規模
ここからは、廃棄物処理及びリサイクルの日本と世界の市場規模を見ていきましょう。
日本の市場規模
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2017/indust1710_01.html
また、上記のグラフを作成した環境省の調査では、産業廃棄物処理業の市場規模は、約5.3兆円程度と推計されており、産業廃棄物処理のみならず、廃棄物処理・リサイクル業全体(一般廃棄物処理業・再生資源卸売業・素材系産業における再生資源利用)だと12兆円4を超える規模という推計もあります。
この市場規模は11兆円のコンビニエンスストア、13兆円のスーパーと同規模となっています。産業廃棄物処理を事業とする企業は圧倒的に中小零細企業が多く、最大手の売上高は約500億円と言われています。
世界の市場規模
一方で、廃棄物処理及びリサイクルの世界市場規模は、2015年時点で約69億円でしたが、2050年には約149兆円にまで拡大することが予測されています。
このように、世界規模で見ると廃棄物処理及びリサイクルの市場規模は右肩上がりで推移していますが、その理由は東南アジアとアフリカにおける廃棄物処理及びリサイクルの市場規模の影響が大きいとされています。
特に、タイやベトナムなど急速な経済発展を遂げている国では、環境破壊に起因する健康問題や、廃棄物増加が避けられません。このような状況から、日本国内で廃棄物処理及びリサイクルに取り組む日系企業が、海外進出する事例も多く出てきました。
日本における廃棄物処理・リサイクルへの取り組み
https://www.wwdjapan.com/articles/1149954
日本国内の廃棄物処理・リサイクルは、公害が深刻化した1970年以降、様々な取り組みがされてきました。近年では、製品ごとのリサイクル法の策定が加速しており、容器包装リサイクル法(2000年施行)・家電リサイクル法(2001年施行)・食品リサイクル法(2001年施行)・小型家電リサイクル法(2013年施行)など、様々な個別リサイクル法が施行されてきました。
現在は、2019年に環境大臣に就任した小泉進次郎氏を中心に、廃棄物処理・リサイクルに様々な取り組みがなされています。
※参考:https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/787599.pdf
廃棄物処理・リサイクルに取り組む主な会社
最後に、日本国内で廃棄物処理・リサイクル事業に取り組む会社を紹介します。
DOWAエコシステム株式会社
DOWAエコシステム株式会社は、日本企業の中でも1970年代からリサイクル事業に取り組んでいる、リサイクル分野では老舗ともいえる企業です。廃棄物処理・土壌浄化・リサイクルといった事業を一貫して手掛け、今ではSDGsが掲げる12番目の目標「つくる責任 つかう責任」を事業規模で体現している企業へと発展を遂げました。
加えて、廃棄物処理及びリサイクルの市場が拡大するアジア地域への進出も果たしており、今や日本を代表する廃棄物処理・リサイクル企業といえるでしょう。
株式会社ダイセキ
株式会社ダイセキは、産業廃棄物処理事業やリサイクル事業を手掛ける、日本企業です。主に産業廃棄物である廃油・廃水・汚泥の処理からリサイクルまでを一貫して対応し、1971年に公害が深刻化して以降、循環型社会の構築に貢献に貢献してきました。
2000年には東京証券取引所市場第一部に上場も果たした、こちら国内を代表する産業廃棄物処理の企業です。
さいごに
廃棄物処理・リサイクルは私たちの生活に身近でありながら、知らない知識が多くて驚いた方もいらっしゃるかと思います。SDGsが策定されて以降、廃棄物処理やリサイクルは、世界中でより重要な位置付けとなりました。かつ、私たちの生活に身近だからこそ、一般消費者でもできることがたくさんあります。
今一度、日常生活を送るうえで貢献できることがないかを見直し、限りある資源を有効活用したいと思う人々が増えていくことを願います。
<参考>
https://gooddo.jp/magazine/sdgs_2030/consumption_production_sdgs/5189/
https://www.env.go.jp/recycle/yugai/conf/conf27-03/H280107_06.pdf
https://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180607003/20180607003-2.pdf
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2017/indust1710_01.html
http://www.cjc.or.jp/commend/pdf/senshinjirei/h27/00_meti.pdf
https://www.env.go.jp/recycle/recycling/
https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/787599.pdf
https://www.daiseki.co.jp/index.html