世界(EU・北米・日本・ASEAN)の電力事情。発電・送電・小売の自由化とスマートグリッド

電力自由化とは、地域独占などの規制を緩和し既存の電力会社以外の参入を促進して、企業や個人の選択肢を増やすための改革のことです。

日本では2016年4月から電気の小売業への参入が全面自由化され、私達は自由に電力会社や料金メニューを選択できるようになりました。ライフスタイルや価値観に合わせて電気事業者やサービスを自由に選べるようになったことは大きな変化だったのではないでしょうか。

日本は電力の自由化が浸透してきましたが、海外の電力自由化はどのようになっているのでしょうか。ここでは、欧米、ASEANの電力自由化の歴史と動向、各国のスマートグリッドの現状についてご紹介します。

日本、EU、アメリカの電力自由化事情

まず最初に、電力自由化が進んでいる欧米と日本を比較してみると、日本は国が主体となって電力自由化を進めていますが、ヨーロッパとアメリカは事情が違います。ヨーロッパは各国の国が主導するのではなく、EUが電力自由化を推し進めてきました。

また、アメリカでは国ではなく州が権限を持って進めていることが分かります。この3国を比較してみても、下記のように様々な違いがあることが分かります。

電気事業会社

https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000099.pdf

それではまず3国の電力自由化の動向を、主要電力会社なども挙げながら具体的に見てみましょう。

EU

EUは、独特な経済的かつ政治的協力関係を持つ民主主義国家の集まりです。2017年度、EUには28カ国が加盟し、人口は5億人を超えています。加盟国は全て主権国家ですが、その主権の一部を他の機構に渡すという世界で、他に類を見ない仕組みに基くという特徴を持っています。

ヨーロッパ初の電力自由化はイギリスで起こり、1947年、1957年の電気法で定められた発送配電と小売を統合した体制で、国営によって電気事業が営まれていました。しかし、1979年の選挙で政権を握ったサッチャーは、1960~1970年代に陥った英国病の克服のため政策の1つとして国有企業の民営化をスタートさせました。EU電力指令より前、 ヨーロッパ諸国で最も早く自由化が進められることになりました。

しかし、政策は難航し、最終的に1990年に改めてイギリスでは電気事業の再編と民営化が行われました。その後、1999年には家庭向けの小売も全面的に自由化となります。イギリスの場合、電力以前にガス市場も自由化されていたため、電力とガスをセット販売にしているケースが多くなっているようです。

イギリスを皮切りに、1994年にはスペインでも大口部分自由化が決まっていき徐々にEUに広まっていきました。その後、1996年、2003年、2009年に、域内電力市場に関する指令が公布されています。

EU電力自由化

https://selectra.jp/energy/guides/knowledge/energy-europe

電力・ガス分野の小売自由化を行ったEUにおいて、2000 年代に大手事業者が積極的に国外更には欧州域外にも進出し、グローバルプレーヤーへと成長していきました。国外でもプレゼンスを見せるヨーロッパの電力会社を4社ご紹介します。

E.ON(エーオン)

エーオンは、ドイツのエッセンに本社を置く、電力・ガスなどを供給するヨーロッパ有数の大手エネルギー会社です。ドイツを代表する大企業として、ドイツ株価指数の30銘柄のひとつに選ばれています。1998年、ドイツの電力自由化をきっかけとして当時の8大電力会社を吸収合併しましたが、スウェーデンの公営電力会社バッテンフォールの傘下となりました。

e-on

Enel(エネル)南米、東欧

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https://www.enel.com/

エネルは、イタリアの大手電力・エネルギー会社で、世界各地の電力会社を傘下に収めている多国籍企業です。ヨーロッパ全体での発電量では、ドイツのイーオンに次ぐ企業です。

1962年、当時の産業国有化政策によって電力会社複数が合同して設立されました。もともとは国営会社でしたが途中で民営化されています。電力・ガス事業だけでなく通信事業なども行っており、発電・配電においてイタリア国内で独占的なシェアを持っています。

EDF Energy (イーディーエフ)

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https://www.edfenergy.com/

イギリスに本部所在地を持つ総合エネルギー企業です。親会社はフランス電力となります。業種は、家庭や工場などを対象にした発電・ガス小売を行っています。再生可能エネルギーへの投資、CO2排出量ゼロの生成、低炭素原子力への投資など、信頼性と社会貢献性の高い取り組みが評価されています。ヨーロッパ以外では、北米、南米に進出しています。

Engie(エンジー)

engie

https://www.engie.com/en

フランスに基盤を置く電気事業者・ガス事業者で、フランスにおいてフランス電力公社に次ぐ電力事業者です。世界約70カ国に拠点があり、電力・ガスの供給では世界2位の売上高を持っています。南米、中東、アジアに進出しています。

スマートグリッドとは、スマートメーターを利用して、電力ネットワークをより効率的に運用する考え方です。EU はスマートグリッドを再生可能エネルギーの安定供給に不可欠であり、低炭素社会実現の鍵と認識しています。2011年に欧州委員会は、スマートグリッドの普及に向けた計画を発表しました。20年までに設置率を域内全世帯の 80%以上にまで引き上げる目標を掲げています。

北米(アメリカ)

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https://www.mitsui.com/mgssi/ja/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/10/20/141128t_date.pdf

アメリカでは80年代に、鉄道、航空、通信業界などの自由化と同時に電力自由化が始まりました。アメリカでは、1992年にエネルギー政策法が成立し、1990年代からは州単位で電力自由化が導入されました。簡単な歴史を見てみましょう。

1997年に自由化がスタート

部分的な電力自由化を始めたロードアイランド州を皮切りにし、当初は24州とワシントンで電力自由化がスタートしました。しかし、さまざまな問題があり自由化を中止したり、導入しなかったりと、州によって異なります。

2000年夏~2001年の「カリフォルニア電力危機」

1998年、自由化に踏み切ったカリフォルニア州でこの危機が起こりました。電力会社からの供給電力が不安定に陥り、電力の卸売価格が最大前年比10倍、小売価格は約2倍に上昇。また、大規模停電の発生が大きな混乱を招きました。

その後10年以上に渡り電力自由化を中断した経緯があります。電力の自由化を廃止・中断した州は、カリフォルニア、ネバダ、バージニア、ニューメキシコ、アリゾナ、アーカンソー、モンタナなど数多くあります。

アメリカで最も電力自由化に成功しているのが、全米で最も電力消費量の多いテキサス州です。テキサス州は、2002年から電力自由化を開始しており、150以上の小売業者が参入しています。

商業および産業で70%、一般家庭で60%以上が新規電力会社に乗り換えたというデータがあります。多くの小売業者が参入し、新規参入が活発でした。既存電力会社に対して発電・送配電・小売の法人の分離を徹底したことも、成功につながった要因でしょう。

アメリカの電気事業者は、連邦政府機関と州政府によって規制され、下記の図の上位4つ(市営電気事業、連邦営電気事業、地方公益事業、共同組合電気事業)に大別されます。これら4つの事業の数を比較すると、地方公営電気事業者が圧倒的に多くなっています。

これら4つの下にある2つ(パワーマーケッター、独立系発電事業)は、自家用や、他の事業者に電力を小売供給する非電気事業者です。近年では、電力市場の自由化を背景の中で、発電所や送・配電設備を持たない電力の売買だけを行うパワー・マーケッターが増えています。

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https://atomica.jaea.go.jp/data/pict/14/14040106/01.gif

アメリカで電力自由化のサービスを提供する大手電力事業者を見てみましょう。

Entergy ( エンタジー )

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エンタジーは、フォーチュン500にも入っている統合エネルギー企業で、ルイジアナ州ニューオーリンズに本社を置いています。主にアメリカのディープサウスで電力生産と小売配電事業を行っています。 ルイジアナ州以外では、アーカンソー州、ミシシッピ州、テキサス州で電力を生成して配電しています。

日本の三菱商事は、エンタジーと組みアメリカで水素の製造や貯蔵、利用に関する共同研究に乗り出すと2020年12月報じられています。

Exelon(エクセロン)

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エクセロンは、アメリカ合衆国の大手電力・ガス会社の持ち株会社で、アメリカ国内において最も多くの原子力発電所を運営し、年間発電量ではアメリカで第4位の企業です。ニューヨーク州、ニュージャージー州、メリーランド州、デラウェア州などの州でサービスを提供しています。

11箇所の原子力発電所を持っていますが、過去に大きな原子力事故を起こしたスリーマイル島原子力発電所も含んでいます。

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieiej/33/8/33_565/_pdf/-char/en

アメリカでは、2008年にオバマ大統領がスマートグリッドを推進したことから、上記の地図にあるように投資補助金の支援があるエリアが存在します。しかしアメリカでは、電力ネットワークが複雑に細分化しているため、再生可能エネルギーの導入などの新しい要素を取り込むのは難しいのが現状です。その環境で問題を解決する手段として、スマートグリッドが注目されていますが、その後のアップデート情報はあまり見られません。

ASEAN

2014年時点で、インフラ未整備のASEAN諸国各国の状況を見ると、ミャンマーが最も電力の供給が遅れており、タイが最も進んでいることが分かります。(オーストラリアは除く)

インフラ整備

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/7e86a725b4b62adf/20150019a.pdf

2013年、IEAが発表した報告書調査「東南アジアのエネルギー見通し」では、ASEANでは2035 年までに累積 1 兆7000 億ドルのエネルギー供給のためのインフラ投資が必要で、その約 60%(1 兆ドル規模)が電力向けと試算されました。

電力自由化が進む要因として、政府からの補助金があるかないかで浸透の度合いが変わってきます。例えば、インドネシア、マレーシア、タイでは、発電の原料となる石油に政府から補助金を投入され、企業負担が軽減されています。

スマートグリッドのASEAN市場は、2019年の12億4,880万米ドル、2024年には29億4,960万米ドルの成長が予測されています。特に、タイ、ベトナム、フィリピンなどの国々は、電力源としての再生可能エネルギーへの依存度が高くなっていることと、ダウンタイムの短縮を目指す動きに支えられていることから、大きな成長が期待されています。

では次に、ASEAN諸国の中で電力自由化の動きにおいて、特筆すべき国の電力自由化の動向をご紹介します。

タイ

タイは、ASEAN諸国において電力のインフラ整備も順調に整備され、最も早く電力自由化が進められてきた国です。

タイ政府は、供給力不足の状況に対して民間活力を発電事業に活用する制度を整えたため、多くの民間企業が発電事業へと参入し、需給状況が大幅に改善されました。電力民間企業にとって追い風となったのが、タイ発電公社の独占体制の終焉です。

2018年にシリ・エネルギー大臣は、発電事業における独占体制を改めるよう発表し、過去 20 年余りに及ぶ発電事業への規制緩和を目指す方針を明らかにしています。

ただ、この方針には天然ガス中心の現状から、石炭や再生可能エネルギーを中心にしたポートフォリオに移行させようとする方針が示されています。民間企業が参入している天然ガスによる小規模発電事業場については、見通しは不透明となっています。

ベトナム

自由化が十分に進んでいるとは言い難い国です。ベトナムは長く電力供給力不足に悩まされており、以前よりは停電の回数も少なくなってきたものの、まだ安定的な需給バランスの達成は完全ではありません。

この状況の打開策として、電力自由化が検討されており、電力自由化はまさにこれから幕開けを迎えようとしています。政府は2019年を目途に、これまで電力公社EVNが独占を続けてきた電力市場を民間事業者に開放する方針であることを発表しました。

フィリピン

フィリピンでは、1990 年代初頭までフィリピン国家電力公社が発電および送電を一手に担っていました。

しかし、1990 年代前半に計画停電を余儀なくされ電力不足に陥ったことがきっかけとなり、2001 年アロヨ政権がは電力セクターの民営化と自由化のための改革を目指しました。その後、電力産業改革法が制定され、外資も参入できるようになりました。

しかし、フィリピンには外資の参入チャンスがあるにも関わらず、フィリピンの電力料金は、ASEAN諸国の中でも突出して高いため、このことは参入障壁となっています。

日系製造業の進出が続くインドネシアのジャカルタと比べると、3倍弱ほどです。インフラ整備が遅れているため送電ロス率の高さが理由の一つです。また、フィリピンではエネルギー業界に対する補助金がないためコストが高くなっているようです。

シンガポール

2001年以降、段階的に自由化を進めてきたシンガポールでは、電力需要の大半を占める企業向け市場はほぼ自由化を終えています。人口約560万人のシンガポールは小売市場としては小さいですが、外資企業が他国市場に進出する際のテスト市場として活用することが可能になるでしょう。

2019年1月現在、シンガポール政府調査よりと、電力自由化のシンガポール国民の認知度は96%となっています。正式な開始から半年経たないうちに、ほとんどの国民が知っていることからも、シンガポールでの電力自由化の高い関心がうかがえるでしょう。

電力自由化に伴って、2019年3月時点では、シンガポール政府が一般家庭向け小売電気事業者として登録している企業は、シンガポール・テレコム、セムコープを始めとし、13社あります。競争によって電気料金が安くなることが期待されます。

スマートメーター

スマートメーターとは、家庭で電気使用量を記録するための古いアナログメーターに代わるデジタルメーターで、これによってエネルギー消費情報をユーティリティに頻繁に送信し、消費を正確に監視できます。

世界のスマートメーターの市場規模は、2019年に211.3億ドル、2027年までには392.0億ドルに達すると予測されています。この市場で活動しているとされる主要企業には、シーメンス、アイトロン、シュナイダーエレクトリックなどのグローバル企業が挙げられます。

最後に

海外各国の電力自由化の動向がお分かりいただけましたでしょうか。日本における電力の供給は飽和状態になりつつあることから、日本の電力事業者各社は今後海外市場へ本格的に乗り出す必要があるでしょう。

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/003_05_00.pdf

https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/global_energy/pdf/002_06_00.pdf

https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=27659

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