家庭、学校、オフィスなど、あらゆる場所で使われている文房具は私たちにとっては身近な存在です。しかし、文房具業界は緩やかな縮小傾向の市場にある言われています。
もともと、日本は世界有数の文房具消費国とされていましたが、IT技術の進歩によって文房具が使われる機会は以前よりも減っています。昔はノートとペンを使って記録していましたが、いまやスマートフォンやタブレットを利用する「ペーパレス化」の波が押し寄せています。
コクヨの黒田社長は、「コロナの影響は大きい。新しい生活様式を支援する商品やサービスへの転換が急務となる」と述べています。
ここでは文房具市場の動向と、各社の人気商品、話題のデジタル文具についてご紹介します。※この記事では各社のオープン情報を中心にまとめてあります。
文房具の市場規模とデジタル化への流れ
市場規模
下記の矢野経済研究所が発表したグラフを見てみると、2016年から2019年まで、文具市場はほぼ横ばいで推移しています。
ほぼ横ばいで推移していますが、文具や紙製品は、学童人口の減少、法人需要の低迷、デジタル化の進行などによって、市場は縮小傾向になることが予測されています。
海外マーケットの開拓を追求している。こうした動向を受けて大手企業は文具以外の事業にも力を入れています。デジタル商品やオフィス家具、生活用品の販売、サポート事業など文具以外での収益拡大を図っています。文具業界では業界編成の動きも見せています。
コクヨによるぺんてるの子会社化の動きやヤフーによるアスクルの事業譲渡の動きなどもあり、文具業界は目まぐるしい動きを見せています。
新型コロナウイルス感染拡大がデジタル教育を後押し
教職員を中心にしたアンケートでは、コロナウイルス感染拡大による休校などの影響で生徒に「学力格差が拡大する可能性が高い」と86.5%が危惧し、「学習の遅れのある子が増えている」と応えています。また、65%の学生が「学習量が減少した」と答えました。
オンライン授業は高所得国では約7割が実施していますが、低所得国では約2割に過ぎず、ICTなどデジタル格差・所得格差が問題になっています。もともと日本では以前からPCやタブレット、電子黒板を使ったICT教育の整備が遅れていたため、学校側はいじめ、学力格差拡大を引き起こさぬようデジタル化に注力しているとみられています。
日本マイクロソフトは、2020年12月、愛知県と緊密に連携し、ICTを活用した県域全体のデジタル化を推進する包括連携協定を締結しました。
https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/education/39262/
新型コロナウイルスの影響でデジタル化が止まらないことを見ると、文房具業界は岐路に立たされていると言っても過言ではありません。しかし、デジタル化の波にのる文房具製品も続々と発売されています。次に、文房具のデジタル化の動きを見てみましょう。
海外での市場開拓とデジタル化
少子高齢化の影響、ITが発達して文房具などがデジタル化に変わることは、市場が縮小傾向にある文房具業界にとって必ずしもネガティブな要素だけではないようです。例えば、最近では、スマートフォンなどと連動するデジタル文具も続々と出ており、今後はこのような高付加価値商品が普及していくと考えられており、最先端の技術で新しい商品を生みだすチャンスはたくさんあります。
また、国内需要が大きく伸びることが考えにくい現状において、海外に活路を求める文房具メーカーも増加しており、まだ成長の可能性を秘めている業界とも言えるでしょう。※デジタル文具については改めて最後にご紹介します。
日本の文房具はかねてから海外において非常に人気がありました。海外市場で爆発的に売れた商品を見てみましょう。
ノート
1970年に発売され、今年で50周年を迎える『ジャポニカ学習帳』は、2015年時点で累計販売冊数が12億冊を突破しています。
https://lohaco.jp/product/8374929/
『キャンパスノート』で有名なコクヨは、2000年以降、中国・インド・タイ・ベトナムで工場やショールームを次々と新設し、アジアへの展開を加速しています。
『キングファイル』シリーズは1964年に誕生しました。海外でも人気があり、今までに延べ5億冊以上を売っています。
ボールペン①:パイロットの『フリクションシリーズ』
パイロットの『フリクションシリーズ』は、海外で爆発的な人気を誇っています。
https://www.shop-stationery.com/SHOP/PILFBS-18UF
フリクションは実は2006年に日本より先に欧州で販売を開始し、翌年に日本で発売し始めました。14年3月末の時点で10億本を突破という脅威のスピードです。では、なぜこのフリクションは欧州で先に販売されたのでしょうか。
欧州では、日本と異なり児童が鉛筆を使う機会が少ないからです。学校の授業でも、基本的にボールペンが使用されるため、市場としては欧州の方が売上が見込めたのでしょう。
ボールペン②:ゼブラの『サラサクリップ05』
ボールペンと言えばサクラクリップが人気のようえdす。海外観光客が訪日した際にまとめ買いするようです。
ボールペン③:ぺんてるの『サインペン』
1963年発売の『サインペン』は、当時の米国大統領であるリンドン・ジョンソン氏がこのペんを気に入ったことが話題となり、日本よりも先に米国で人気に火がつきました。累計販売本数は21億本以上。
文房具メーカー、筆記具メーカー首位の企業
それでは文房具メーカー、筆記具メーカー首位の、コクヨとパイロットコーポレーショのの動向を次にご紹介します。
コクヨ
コクヨは、コロナ禍による在宅勤務の普及でオフィス移転需要が減り家具事業が苦戦し、2020年8月、12月期の連結純利益が前期比67%減の50億円になる見通しと発表しました。
しかし、ECモールサイトは、全体の売上前年比は約300%となっており、緊急事態宣言が発令された4月から大きく伸びてることが分かります。
https://ecnomikata.com/ecnews/28573/
緊急事態宣言解除後の6月は、前年比811%、7月以降も前年比300%前後の売上を維持しています。この理由としては、緊急事態宣言解除後も継続してテレワークを実施する企業が減らず、自宅で仕事環境を整える人が増えたと推測されています。特に在宅勤務で最も注目されたのは「回転イス」です。
https://ecnomikata.com/ecnews/28573/
2020年1月から11月までの、商品カテゴリ別売上前年比を見てみると、回転イスは前年比約400%となっています。今まで自宅では仕事をしなかった人が、オフィスで使用しているようなデスクワークに合った仕事がはかどりやすい回転イスを買い求めていることが分かるでしょう。
https://www.tsuhannews.jp/shopblogs/detail/65987
また、コクヨは、2020年10月人気アニメ『鬼滅の刃』とのコラボ商品を発売し、累計100万冊を売り上げることに成功しました。
※楽天の商品ページより
『キャンパスノート』で知られる大手文房具メーカーのコクヨは、2017年から『ジャポニカ学習帳』で有名なショウワノートとコラボ商品を出すなどして交流を深めてきましたが2020年12月、資本提携したと正式に発表しました。
人口減少やデジタル化による国内市場縮小に危機感を持ち、自社にない強みをもつ『ショウワノート』との提携によって、事業拡大を図る目的です。コクヨの『キャンパスノート』は、中高生から社会人まで幅広い顧客層を持っている国内のノート市場でトップです。
しかし、子ども向けは手薄で市場に踏み出すチャンスを持てずにいました。一方、『ショウワノート』は小学生を中心に人気の『「ジャポニカ学習帳』を持っており、キャラクターの活かし方に高い評価があります。
https://www.buntobi.com/articles/entry/news/007481/
ウェブ版日経新聞12月10日の記事では、コクヨが筆記具大手ぺんてるの株を大量取得して46%を保有する筆頭株主となり1年経過するも、まだ両社の進展は見えていないとされています。
パイロットコーポレーション
https://www.pilot.co.jp/employment/special/products/index.html
ボールペンや『フリクションペン』などを主力商品とい、万年筆の国内シェアNo.1のパイロットコーポレーションは、1926年から海外進出を始めた企業です。
https://www.pilot.co.jp/employment/special/data/index.html
大手文具メーカーは売上の大部分を海外売上が占めていることも多いのですが、パイロットは全売上の約65%が海外売上で構成されています。他の業界に比べても、この海外売上のシェアは比率が高く、1926年から先駆けて海外進出をしてきた歴史と実績を感じる数字です。2019年12月期は減収減益でしたが、その後も海外事業を着実に伸ばしています。
https://es-labo.com/flow/industryresearch/stationery/stationery-major-companies-difference/
世界各国の売上で見てみると、日本の次に欧州の比率が高いことが分かります。2020年11月、パイロットコーポレーションは、バングラデシュで新商品の発表会を行いました。人口1億6,000万人のバングラデシュ市場を今後の注力エリアと考えており、販売に本腰を据えています。
同社は、バングラデシュで1997年から販売しており、好調な製品は、富裕層向けの水性ボールペンや、油性ボールペンとされています。バングラデシュ向けの輸出額はここ数年で、年間約20%増加しているようです。
コロナウイルス対策の文房具
文具メーカーが抗菌や抗ウイルス加工を施した商品などを次々に投入しています。菌などの増殖を抑えるのみで感染を防ぐ機能はありませんが、病院や企業などの様々な人の手に触れる場所においてニーズがあります。
パイロットコーポレーションの『スーパーグリップG』
本体の樹脂に抗菌剤を使用した油性ボールペン。菌の増殖を抑えるだけでウイルスに効果はありませんが、それれでも企業や団体は少しでも安心感のある素材を使いたい傾向にあるようです。
セーラー万年筆の『セラピカキレイ』
約10年ほど前からセーラー万年筆が販売している抗菌・抗ウイルスの商品『セラピカキレイ』シリーズは、オフィスや展示会などで共有するペンとして親しまれています。新型コロナウイルスの感染拡大後、4~9月の出荷量は前年同期4.6倍に急増しました。
コロナ渦でこのような抗菌仕様のニーズが高まる中、この製品は、表面に付着した雑菌やウイルスを光触媒で分解する特徴を持り、光の当たらない暗所でも、配合されている銀アパタイトの効果で雑菌の活動を抑えることができます。
人気のデジタル文具
ここでは、今人気の出ているデジタル文具、3つをご紹介します。
コクヨIoT文具『しゅくだいやる気ペン』
小学校の低中学年をターゲットにしたコクヨのIoT文具『しゅくだいやる気ペン』が好調で、
1本6980円(税込)と高額にも関わらず、で年間約1万台が高額でも売れています。市販の鉛筆に加速度センサーを内蔵した機器を取り付けて、アプリが鉛筆を持った手の動きを検知し、振動回数を計り、独自のアルゴリズムでデータ化します。これらの機能によって勉強への取り組みを「見える化」できる商品です。
例えば、やる気ペンで勉強を続けていると「やる気パワー」という指標データが蓄積され、機器のLEDの色が変化します。緑、赤、青と10段階でやる気が視覚化され、ペンをスマホのアプリに注ぐようにしてかざせば、やる気パワーに反応して画面の木やリンゴが成長します。ゴールに達すると親から「ごほうび」をもらえるようなストーリーになっており、子供はもっと勉強を頑張ろうという気になる設計がなされています。
キングジムのデジタル付箋『ブギーボードBB-12』
https://www.kingjim.co.jp/sp/boogieboard/
ブギーボードBB-12は長さ86×幅86×厚さ5.5ミリで、3.9インチの液晶画面が備わっています。スリーエムの75ミリメートルの紙付箋『ポストイット』に比べて一回り大きいサイズで、電源をオン・オフする必要はありません。
付属のスタイラスペンの他、爪や指など先がとがっているもので液晶画面に直接文字や線を書き込みます。紙の付箋と異なる点は、液晶画面の下にあるボタンを押すことで書いたメモを瞬時に消すことができ、電話番号などの個人情報をメモしても外部に流出しにくく情報漏洩を防げるというメリットがあります。
サンワサプライ 『ペン型スキャナー』
https://direct.sanwa.co.jp/ItemPage/400-SCN037
文字をなぞるとテキストデータに変換できるペン型スキャナーです。
読み込んだデータを、Word、Excel、Outlookなどのアプリケーションに入力することができます。日本語だけでなく、英語、中国語を始め世界193ヵ国語に対応しているのも特徴です。オンライン辞書機能も搭載されているのでスキャンしたテキストの単語翻訳も可能。また、音声読上げ機能も発音練習や語学学習に活用できます。
最後に
日本の文房具が世界で人気になった理由や、文房具メーカー、筆記用具メーカーの動向、デジタル文具の画期的な商品などをご紹介しました。デジタル文具のIoTなどの連携を考えると、縮小傾向にある文房具業界も、今後はビジネスチャンスに恵まれる可能性が期待できるのではないでしょうか。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ088YC0Y0A201C2000000
https://japan.cnet.com/article/35164024/
https://ecnomikata.com/ecnews/28573/
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62229510T00C20A8DTA000
https://diamond.jp/articles/-/71665?page=3
https://www.marr.jp/genre/topics/fujiwara/entry/20852
https://www.huffingtonpost.jp/ambi/bungu-ninki_a_23586796/
https://gyokai-search.com/3-bungu.html
https://careergarden.jp/bunbougumaker/tenbou/
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00357/00005/?P=2
https://www.asahi.com/articles/ASNDN6T7ZNDKPLFA008.html
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/12/e4a2354685429ba6.html