
「いつまでも若々しくいたい」というのは、年齢や性別、地域にかかわらず多くの人が持つ願望です。
美容家電はそのような願望に訴求できるアイテムで、ビジネスとしても大きな可能性を秘めています。実際に美顔器やドライヤーの海外戦略で、大きな成功を収めている企業もあるほどです。
本記事では、美容家電の国内市場・海外市場の現状、企業の成功事例について紹介します。美容機器で海外進出を検討している方は、ぜひご覧ください。
美容家電が日本の経済成長のカギ
美容家電の国内市場は、コロナ禍において拡大をしています。
富士経済グループの「美容家電/雑貨、健康家電/雑貨の国内市場を調査」によると、2020年の美容家電の国内市場規模は2,157億円で前年比102.1%でした。2021年はさらに市場が拡大し、2,194億円と予想されています。
コロナ禍で様々な業界がダメージを受けているなか、なぜ美容家電の市場が拡大しているかといえば「おうち美容」や「巣ごもり消費」のトレンドが挙げられます。
- おうち美容とは
自粛生活で増えた在宅時間を有効活用し、自宅での美容方法を見直したり、より良い方法がないかを探求したりすること
また外出が自粛されるなか、美容エステに行くのが難しくなり、代わって自宅でケアができる「美容家電」のニーズが高まったのも要因です。
例えば「脱毛エステサロン」の代わりに、家庭用脱毛器を選択する人が増えました。同調査において家庭用脱毛器の2020年の市場規模は340億円で、前年比153.8%と大きな伸びを記録しています。
同様に、フィットネスジムへ行けなくなったユーザーが自宅でできる健康法・ダイエット法として、「3D振動マシン」を選択する方も増えています。
このように、近年のトレンドである「おうち美容」や「巣ごもり消費」を受けて、拡大しているのが美容家電です。海外でも拡大すると見込まれており、日本の経済成長のカギとなる可能性を秘めています。
美容機器の海外市場の現状

美容機器の海外市場は、国内の市場よりも急激に拡大していくと予想されています。
パノラマデータインサイトの「美容機器市場:製品別、用途別-2030年までの世界機会分析・産業動向予測」によると、2021年の美容機器の世界市場規模は、8.9兆円(1ドル141円換算)でした。現在の国内の市場規模が2,000億円台であることを考えると、巨大なマーケットといえます。
さらに同調査では2030年の市場規模が49.5兆円と試算しており、年平均21%もの急激な拡大を予想しています。
- 50兆円は半導体デバイスと同規模
50兆円と聞いてもどの程度の市場規模かイメージしにくい方もいるでしょう。
同程度の市場規模の産業に、「半導体デバイス」があります。半導体デバイスは自動車やパソコン、スマホなどに欠かせない部品で、かつては日本のお家芸と呼ばれた産業の1つです。
半導体デバイスの世界市場は、2022年で約50兆円となり、スマホや電気自動車の普及が進むなか重要な産業として位置づけられています。国際競争力の強化のために、国を挙げた半導体戦略が立ち上がっているほどです。
このことから、美容家電が日本の成長のカギというのは、あながち言い過ぎではないとわかるでしょう。
海外進出に成功した企業の取り組み事例
世界市場が拡大すると予想されている美容家電では、北米・中国・欧州への海外進出が成功のカギを握っています。しかし、地域ごとに美容に対する意識が異なることもあり、国内でヒットした商品をグローバル展開しても成功するとは限りません。
どのようにすれば成功するのかのヒントとして、3社の成功事例を紹介します。
実例①ヤーマン

出典:ヤーマン
ヤーマンは精密電子機器メーカーとして1978年に設立された日本企業で、会社概要は以下のとおりです。
社名 | ヤーマン株式会社 |
設立 | 1978年5月 |
資本金 | 18.1億円 |
売上高 | 429.9億円(2023年4月) |
従業員 | 369人 |
本社 | 東京都江東区 |
事業内容 | ・美容健康機器の研究開発 ・製造・輸出入販売 ・化粧品の輸入販売 ・生活雑貨の販売 ・先端電子機器の輸入販売 |
1979年に高周波脱毛器の開発を開始し、業務用レーザー脱毛器を発売したのがヤーマンの美容家電メーカーとしての始まりです。脱毛器以外にも美容機器の開発を進め、2006年に発売したプラチナゲルマローラーが200万台の大ヒットとなりました。
その後、女性のホームエステに対する意識の高まりに目をつけて、2013年に家庭用RF美顔器シリーズの初代モデルを発売します。そのコンセプトが支持され、2022年9月にはRF美顔器の累計出荷数が400万台を突破しました。
そのようなヤーマンが世界進出を推進し始めたのは2015年からです。中国市場進出ではECを重視し、アリババ系ECモールの「天猫(Tmall)」において、美容機器カテゴリの売上トップを獲得するほどの成功を収めています。
成功の一例として、中国のセールスデーの「独身の日(11月11日)」において、Tmall内の1日の売上金額が1億元を突破したことが挙げられます。
成功の大きな要因は、中国特有のニーズに合わせたマーケティング戦略です。具体的に、中国女性の「大気汚染による肌の汚れをどうにかしたい」というニーズに対して、美顔器の「イオンクレンジング機能」できれいにできることをPRしています。
この戦略により、中国で美顔器を使ったスキンケア方法が浸透し、1日で大きな利益を売り上げる市場にまで拡大したのです。
- 天猫(Tmall)とは
ヤーマンの中国市場の成功に大きな役割を果たした天猫(Tmall)は、アリババグループが2013年に設立したECモールです。中国国内において最大のECモールであることから、日本企業が中国に越境ECをする手段として注目されています。
実例②MTG

出典:ReFa
MTGはウェルネス・美容機器を展開するメーカーで、「SIXPAD(シックスパッド)」や「ReFa(リーファ)」などのブランドが有名です。
社名 | 株式会社 MTG |
設立 | 1996年1月 |
資本金 | 167億円 |
売上高 | 489.8億円(2022年9月) |
従業員 | 1,391人 |
本社 | 愛知県名古屋市 |
MTGは海外進出を積極的に推進しており、50ヵ国以上で販売しています。MTGの海外戦略の特徴は、「地域に適したチャネル選択」と「パートナーとの提携」です。
例えば、アメリカ・中国・台湾・シンガポール・韓国への直営店の出店、現地のECモールや免税店の活用などです。またパートナー企業と連携して新商品の開発を進めるなど、現地のニーズに適した商品開発にも力を注いでいます。
実例③パナソニック

出典:パナソニック
パナソニックは、松下幸之助氏が創業した企業で、日本を代表する家電メーカーの1つです。
社名 | パナソニック ホールディングス株式会社 |
設立 | 1935年12月 |
資本金 | 2,593億円 |
売上高 | 8兆3,789億円(2023年3月) |
従業員 | 233,391人 |
本社 | 大阪府門真市 |
パナソニックは美容家電の部署である「ビューティ・パーソナル事業部」を、事業の中核の1つとして捉えており、コロナの前からグローバル展開をしていました。今後の美容家電の急激な市場拡大に備えて、以前より対策をしている企業といえます。
ナノケアドライヤーや男性用のシェーバーの主力商品を中心に、ビューティ・パーソナル事業部の売上高を2030年度に2,800億円にまで高める予定です。
まとめ
美容家電はコロナ禍の「おうち美容」や「巣ごもり消費」により、急激に市場が拡大しつつあります。とくに海外市場は、2030年に49.5兆円規模に達すると見込まれており、様々な家電メーカーが海外進出を推進しています。
このような情勢のなか、世界市場で成功するためのポイントは「地域ごとに最適化した販売戦略」と「現地のニーズを把握するための市場調査」です。地域ごとのニーズに適した商品を投入することで、知名度の向上やシェア獲得につながるためです。
今から美容家電で世界進出を検討している方は、ビジネスチャンスを掴むためにも2つのポイントを意識してみましょう。