合成燃料のe-fuelとは?注目される理由や日本企業の動向を解説

e-fuel(イーヒューエル)は、カーボンニュートラルの実現に向けて注目されている合成燃料です。日本国内においても官民で研究開発が進められています。本記事ではe-fuelのメリット・デメリットや注目されている理由、日本企業の取り組みについて紹介します。

e-fuelとは?人工的に作られた原油

e-fuelとは、再生可能エネルギーで作り出されたH2(水素)と、CO2(二酸化炭素)を材料に作られる合成燃料のことです。簡単にいえば「人工的に作られた原油」で、ガソリンや灯油、軽油などの代替燃料として注目されています。

e-fuelは従来の石油と同様に燃焼させるとCO2を発生しますが、大気中や工場から排出されるCO2を原料として使うため、カーボンニュートラルを実現できます。

バイオ燃料との違い

地球環境に優しい燃料として知られるのがバイオ燃料です。バイオ燃料はサトウキビなどの生物資源(バイオマス)を原料にして作られる燃料です。バイオエタノールやバイオディーゼルはすでに開発されており、アメリカやブラジルで普及が進んでいます。

バイオ燃料も化石燃料を使用せずに生み出されるため、e-fuelと同様に製造から燃焼サイクルのトータルで炭素を排出しない「脱炭素燃料」です。

バイオ燃料とe-fuelとの違いは、製造のための資源が異なることです。

バイオ燃料は生物資源を原料としているため、資源の確保が難しく大量生産に向いていません。一方e-fuelは、原料がCO2とH2のどちらも化合物なので、工場での大量生産が期待されています。

e-fuelのメリット・デメリット

e-fuelは脱炭素燃料として、カーボンニュートラルに役立つ以外にも4つのメリットがあります。メリット・デメリットは以下のとおりです。

メリット・既存の内燃機関に利用できる
・エネルギー密度が高い
・硫黄や重金属を含んでいない
・液体なので取り扱いやすい
デメリット・製造コストが高い

本章ではe-fuelの可能性と課題の把握のために、メリット・デメリットについて詳しく解説します。

メリット① 既存の内燃機関に利用できる

e-fuelのメリットは、既存の内燃機関を利用できることです。内燃機関とは簡単にいえばエンジンのことで、e-fuelであればガソリン車のエンジンにそのまま使えます。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の発表によると、2022年における電気自動車※の販売数は、世界の自動車市場全体に占める割合の約5分の1でした。※バッテリー電気自動車とプラグインハイブリッド車を含む

つまり、世界ではまだまだガソリン車がスタンダードです。e-fuelはそのガソリン車に利用できるので、車を買い替えることなくカーボンニュートラルの取り組みに参加できるのはメリットといえます。

参考:日本貿易振興機構「2022年の世界のEV販売台数、55%増で初めて1,000万台超え

メリット② エネルギー密度が高い

出典:経済産業省「カーボンニュートラル社会実現に向けた次世代燃料のあり方について

e-fuelのメリットは、液体燃料でエネルギー密度が高いことです。

エネルギー密度とは、燃料に含まれているエネルギー量のことで、エネルギー密度が高いほど少ない体積・軽い重量でエネルギーを作り出せます。

一般的にガス燃料よりも液体燃料のほうが、エネルギー密度が高いことで知られており、天然ガスよりもガソリンや軽油のほうがエネルギー密度は高いのです。

エネルギー密度が高い燃料のほうが同じ体積でも含まれているエネルギー量が多いため、大型自動車や長距離を走行するのに向いています。そのためe-fuelは、大型自動車や飛行機などの燃料としても期待されています。

メリット③ 硫黄や重金属を含んでいない

石油は、硫黄や重金属をわずかに含んでいます。そのため、石油が燃えると硫黄酸化物(SOx)が発生します。硫黄酸化物は酸性雨や喘息の原因となる化合物で、高度経済成長時代の公害の原因にもなりました。

一方e-fuelは、二酸化炭素と水素により合成されるため、硫黄や重金属を含んでいません。燃焼しても硫黄酸化物が発生しないため、クリーンな燃料といえます。

メリット④ 液体なので取り扱いやすい

出典:経済産業省「カーボンニュートラル社会実現に向けた次世代燃料のあり方について

e-fuelのメリットは、液体なので取り扱いやすいことです。またe-fuelは石炭と同じ炭化水素化合物なので、保存方法や輸送方法もガソリンや灯油、軽油などと同様に取り扱えます。

つまり、既存のインフラをそのまま活用できるのです。例えば、ガソリン用の保存タンクを利用するといった具合です。加えて、液体は気体に比べて輸送しやすく、災害時に活用しやすいのもメリットといえます。

デメリット① 製造コストが高い

e-fuelのデメリットとも、課題ともいえるのが製造コストの高さです。

経済産業省の試算によると、e-fuelの製造コストは1リットルあたり300円~700円になるとみられています。一方、財務省の調べによると、2023年5月に輸入された原油の輸入価格は1リットルあたり73.5円でした。このことからも、e-fuelの製造コストの高さがわかるでしょう。

e-fuelの製造コストが高くなる原因は、原料である水素や二酸化炭素の調達コストに加えて、製造コストがかかるためです。今後、どのようにして水素・二酸化炭素の製造コストを下げるかが、e-fuel普及のポイントになっています。

注目されるようになった理由

e-fuelが注目されるようになった理由は、EUにおいて2035年以降のガソリン車の新車販売禁止が撤回されたことです。

もともとEUでは、2035年以降からガソリン車の新車販売が禁止される予定でした。しかし充電スタンドなどのインフラ整備が間に合っていないことから、ドイツ・イタリアなどが反対し、e-fuelの利用を前提に撤回されたのです。

この流れを受けて、ガソリン車+e-fuelはカーボンニュートラルに貢献すると世界的に認知され、2035年に向けて注目を集めているのです。

日本政府や日本企業の動向

世界的に注目を集めているe-fuelですが、国内でも動きが活発になっています。この章では日本政府と日本企業の動向について紹介します。

例①:資源エネルギー庁

資源エネルギー庁では、e-fuelの導入促進に向けた官民協議会を重ね、以下のロードマップを公表しました。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会の設置について

ロードマップによると、2025年からe-fuelの製造を開始し、2030年代の商用化を目標に掲げています。目標達成に向けて、今後も推進事業が展開されると予想されます。

例②:出光興産

出光興産は、e-fuelの取り組みを加速させるために、南米・北米・豪州などで製造しているHIF Globalと戦略的パートナーシップを提携しました。

この提携により、海外からの合成燃料を調達したり、国内で回収したCO2を原料にしたりといった取り組みが推進される予定です。

例③:東洋エンジニアリング

東洋エンジニアリングは、脱炭素燃料の開発に積極的に取り組んでいる日本企業です。

例えば木くずをもとにしたバイオジェット燃料の開発に成功し、商用フライトに世界で初めて供給しています。またバイオマスや都市ゴミ、産業施設から排出されるCO2を用いた燃料の製造・商業化にも取り組んでいます。

例④:ホンダ

ホンダの取り組みは、カーボンフリー社会の実現に向けたマルチパスウェイです。マルチパスウェイとは、複数の経路で再生可能エネルギーを利用する社会のことで、電力・合成燃料・バイオ燃料・水素による実現を目指しています。

そのため、e-fuelの研究開発にも取り組んでおり、飛行機・大型トラック・レース用の燃料として、使用することを視野に開発を進めています。

まとめ

e-fuelは2035年に向けてますます研究・開発が活発になるとみられ、多くのビジネスチャンスがあります。しかし、どのようにして関われば良いのか悩んでいる方はいませんか。

そのような方は、すでに動き出している海外プロジェクトに参画するのもおすすめです。海外プロジェクトの一例は以下のとおりです。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会の設置について

世界的なビジネスチャンスを掴むためにも、e-fuel事業に参入してみましょう。

関連コラム

関連する事例

海外進出および展開はどのように取り組めば良い?
とお悩みの担当者様へ

海外進出および展開を検討する際に、
①どんな情報からまず集めればよいか分からない。
②どんな観点で進出検討国の現場を見ればよいか分からない。
③海外進出後の決定を分ける、「細かな要素」は何かを知りたい。

このような悩みをお持ちの方々に、プロジェクト時には必ず現地視察を行う、弊社PROVE社員が現地訪問した際に、どんな観点で海外現地を視察しているのかをお伝えさせていただきます。