トヨタと出光は、電気自動車向け全固体電池の量産に向けたプロジェクトを開始し、2027~2028年の商用化を目指しています。
実用化に向けた取り組みとして注目されていますが、そもそも「全固体電池って何?」という方も多いでしょう。そこで本記事では、全固体電池の種類やメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
全固体電池とは?
出典:経済産業省「蓄電池産業戦略」
全固体電池とは、正極(+)と負極(-)の間に使用する電解質を液体から固体に置き換えた電池のことです。
電池は電解質のなかをイオンが正極・負極に移動することで、充電したり、放電したりできます。従来の電解質は、リチウムイオン電池に代表されるように液体でした。
液体を固体に置き換えることで、安全性の向上・充電時間の短縮・大容量化などのメリットがあります。しかし、現時点では量産化の技術が確立されておらず、実用化には至っていません。
全固体電池はそのメリットから電気自動車に必要とされる技術で、市場規模は2040年に3兆8,605億円と試算されています。
リチウムイオン電池とは
リチウムイオン電池とは正極にリチウムを含んだ金属化合物、負極にグラファイトなどの炭素素材、電解質に液体を使用した電池のことです。スマホやノートパソコンなど、現代の多くの電化製品に使われています。
リチウムイオン電池のメリットは、電極を溶かすことなく放電できるため、充電・放電を何度もできる点です。液体電解質の電池のなかではエネルギー密度や充放電エネルギー効率が高く、小型化・軽量化しやすいのもメリットです。
メリットの多いリチウムイオン電池ですが、デメリットもあります。
具体的には過充電や過放電に弱いことや、電解質の液体が可燃性のため、高温になると内部で激しい化学反応が起きて発火することです。また氷点下などの低温下では放電容量が減少するだけではなく、電解質の液体が凍結すると内部が破損し、火災につながる恐れもあります。
さらに衝撃により電池が変形すると、正極と負極がつながる内部短絡という現象が起きることもあります。内部短絡は内部の温度が上昇し、発火につながるため非常に危険な現象です。
このようなリスクを抱えていることから、全固体電池の実用化が求められているのです。
全固体電池のメリット・デメリット
全固体電池が次世代電池として注目されている理由は、そのメリットにあります。ここでは全固体電池のメリットだけではなく、実用化に向けた課題であるデメリットについても解説します。
メリット | ・安全性に優れている ・急速充電ができる ・液漏れのリスクがない ・自由度の高い設計ができる ・大容量化できる |
デメリット | ・充放電を繰り返すと亀裂を生じる |
メリット①安全性に優れている
全固体電池は電解質が個体のため、リチウムイオン電池よりも安全性に優れているのがメリットです。高温・高圧で発火するリスクが低く、低温でも電解質が凍結しないためです。暑い地域や寒冷地など幅広い条件下で使用する電気自動車のバッテリーには、リチウムイオン電池よりも全固体電池のほうが適しているといえるでしょう。
メリット②急速充電ができる
急速充電したスマホを温かいと感じた経験のある方は多いでしょう。その原因は急速充電すると、電池内部で熱が発生するためです。しかしリチウムイオン電池は熱に弱く、劣化や発火の原因となるため、急速充電に限界があります。
一方、全固体電池は熱に強く、高温下でも電解質内部で別の反応が起こりにくいため耐久性に優れています。そのため、リチウムイオン電池よりも急速な充電が可能です。
リチウムイオン電池以上の急速充電ができると、商用車などのように頻繁に充電する電気自動車の利便性を高められます。つまり、電気自動車の普及のためにも、全固体電池の開発が必要と考えられているのです。
メリット③液漏れのリスクがない
リチウムイオン電池は電解質が液体のため、破損などにより液漏れするリスクがあります。加えて電解液が可燃性なので、火災につながる恐れもあります。そのような事態を予防するためには、取扱い方に注意が必要です。
一方、全固体電池は液体を使用しないため、液漏れのリスクがありません。
また多くのガソリン車に搭載されている鉛蓄電池は、電解質に希硫酸を使用していますが、過充電や自然蒸発で電解液が減っていきます。そのため、定期的に電解液の量の確認・補充などが必要です。
そのようなメンテナンスが不要なのも、全固体電池のメリットといえるでしょう。
メリット④自由度の高い設計ができる
全固体電池は電解質が固体で、液漏れの心配もないため、リチウムイオン電池よりも様々な形状に対応できるのがメリットです。小型化や薄型化、あるいは重ねて使用するといった具合に、工夫次第で様々な用途に対応できます。
メリット⑤大容量化できる
リチウムイオン電池は熱に弱いため、電気自動車に搭載する際は冷却装置が必要です。一方、全固体電池は冷却装置が不要な分、より多くの電池を搭載することで航続距離を伸ばせると期待されています。
デメリット①充放電を繰り返すと亀裂を生じる
全固体電池がこれまで実用化できなかった原因は、電解質が固体であるがゆえに、正極・負極の電極と密着させ続けるのが難しかったためです。
電解質が液体の場合は、電解液を満たすことで電極と密着した状態を簡単に作り出せます。しかし、固体の電解質は充放電の際、熱の伸縮などにより電極と電解質の接触部分が剥がれたり、電極・電解質に亀裂が生じたりするのです。
電極との接触部分が剥がれると電池として機能しなくなりますし、亀裂が生じると電池の性能が低下します。このような亀裂の問題を解消し、実用化に向けた量産に取り組んでいるのが冒頭に紹介したトヨタ・出光の協業プロジェクトです。
全固体電池の種類と特徴
全固体電池は大きく分類するとバルク型と薄膜型の2種類があります。
・バルク型全固体電池
バルク型全固体電池は、リチウムイオン電池と構造が似ており、電解質に固体を使用している点が異なります。実用化においては、「イオンが移動しやすい(電気が流れやすい)」や「電極と密着させやすい」などの特徴を持つ固体電解質の開発が必要です。
主に電気自動車などのように、大きな製品での使用が想定されています。トヨタと出光の協業プロジェクトも、バルク型全固体電池に該当します。
・薄膜型全固体電池
薄膜型全固体電池は、その名のとおり薄い膜上の電解質を電極に積み上げた電池です。電解質が薄いため、バルク型よりもエネルギー量は少なくなります。一方メリットは長寿命や高耐久、柔軟な使い方ができる点です。なお薄型全固体電池については、すでに実用化されています。
固体電解質の材料
全固体電池は電解質の材料によっても特徴が異なります。主な材料は「酸化物系」と「硫化物系」の2つです。
・酸化物系
酸化物系は、セラミックや金属などを高温で焼き固めた電解質で、安全性の高さや長寿命が魅力です。ただし、容量が少ないため電気自動車のような大容量を必要とする用途には適していません。
・硫化物系
硫黄を含む化合物を材料にした全固体電池のことで、リチウムイオン電池よりも高い性能を秘めています。その性能の高さから電気自動車用の電池として開発が進められ、トヨタ・出光の協業プロジェクトも硫化物系全固体電池です。
ただし硫黄を原料に使用していることから、発火や硫化水素などの有毒ガス発生のリスクがあります。
まとめ
現在、日本の全固体電池は特許で世界をリードしており、活発に開発が進められています。しかし、中国・韓国・アメリカも急速に研究開発に注力しているのが現状です。
各国で研究開発が進められるなか、トヨタと出光は2027~2028年に全固体電池の実用化を目指しています。このまま日本が世界をリードできるのか、まだ先の話とはいえ市場規模が大きいと予想されるだけに気になるところです。