中国の歴史決議はどういう意味を持つのか。米中関係と日本への影響は

11月8日から11日にかけて、中国共産党の重要会議「6中全会」が北京で開催され、毛沢東、鄧小平に次ぐ40年ぶりとなる歴史決議が採択されました。この第3回の歴史決議では、中国共産党100年の成果などを総括し、習近平指導部の脱貧困などの成果を強調しました。さらに、習近平同士を核心とする党の中央が歴史的成果を上げ、歴史的変革を起こしたと習主席を称賛しています。 

今回の歴史決議と過去2回の比較について、習政権とはどのような政権なのか、過去の指導者の内容にも触れながら解説します。さらにはプレゼンス高まる習近平政権と国際関係について、特に米中関係と、米中関係がもたらす日本への影響に着目してご紹介します。

第3回歴史決議の内容 過去2回との比較について

歴史決議とは?

中国共産党が過去の政治路線や思想を振り返り、これまでの歴史や成果を総括し、新たな方針を指し示すための決議です。習近平以前にも、毛沢東と鄧小平のそれぞれが指導して起草した歴史決議が採択されています。

毛沢東氏・鄧小平氏・習近平氏 各氏の歴史決議の内容

出典: https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL119BS0R11C21A1000000/

過去の歴史決議で指導した人物と歴史決議の概要について

第1回毛沢東(1945年)/第2回 鄧小平(1981年) 

日中戦争の間、国内の2党(国民党と共産党)は国共合作と呼ばれ、互いに協力し合う関係でした。しかし日中戦争後、両者で覇権争いが勃発し、共産党が中華人民共和国を設立しました。その共産党の最高指導者が毛沢東であり、「建国の父」とも言われています。 

当時、毛沢東は中華人民共和国の圧倒的な権力者に君臨しており、国家のあらゆる判断が毛沢東の意向通りになるという仕組みが作られていました。しかし実際は大躍進政策と呼ばれる国内の増産政策が大失敗に終わり、国の農作物が崩壊し、数千万人の国民が飢え死にする事態へとなりました。

文化大革命時の批判集会

https://www.cnn.co.jp/style/arts/35157588.html

このように政策が機能しない部分も多かった毛沢東ですが、権力が一気に挽回された出来事、これが「文化大革命」です。文化大革命とは思想改革運動のことであり、毛沢東の思想を崇拝した紅衛兵と呼ばれる若者の集団が扇動し、毛沢東の後に登場した鄧小平のグループや支持者を暴力的に迫害していきました。 

一方、毛沢東時代に採択された歴史決議は1945年であり、文化大革命以前のものでした。毛沢東政権以前の共産党指導者を批判し、毛沢東の政治路線が正しいと総括しました。その後、毛沢東は大躍進政策や文化大革命といった中国を混乱させる出来事を発動させてしまったわけですが。 

1976年に毛沢東が死去するまで、文化大革命は続きました。その後、権力を握ったのが鄧小平です。歴史決議では、文化大革命を痛烈に批判し、「完全な誤り」と総括しています。また過去の計画経済を「大量の損失をもたらした」と否定し、市場主義経済の価値を明記しました。毛沢東時代への決別を主張しています。 

第3回 習近平(2021年)

習近平政権は2012年にスタートし、今年で10年目を迎える長期政権となりました。政権誕生時、習近平は中国共産党のトップという肩書だけでなく、国家や軍のトップにも就任しました。2010年には中国が日本のGDPを抜いており、経済成長が続く中、全トップに君臨することとなりました。 

2018年の憲法改正では、国家主席の任期を撤廃し、これまで2期10年と規定されていた制約がなくなったことで、生涯にわたり習近平国家主席としての地位が維持されることとなりました。 

歴史決議では毛沢東氏ら歴代の指導者の功績を称え、共産党創立100年の歴史を総括するものとなり、習近平国家主席を核心として団結するよう呼びかけました。100年の歴史の中で、習近平政権の9年間について、習氏以前の党の状況も盛り込みながら各分野の業績を詳細に記載しています。また共産党のトップとしては異例となる3期目に突入し、自らの権力基盤を高める狙いもあったと思われます。 

各歴代指導者の歴史決議中における登場回数は、以下の通りです。 

 毛沢東:18回 

 鄧小平:6回 

 習近平:22回 

 

習近平国家主席の登場回数が、歴代指導者と比較して大きく上回りました。また歴史決議全文の文字数においても、歴代最多である毛沢東が約5,600字であるのに対して、今回は約19,000字と字数も非常に多くなりました。 

過去の歴史決議と大きく異なっていたのは文字数だけではありません。毛沢東、鄧小平時代はいずれも過去との決別を明記し、次時代の幕開けを打ち出すものとなりましたが、今回は過去の指導者の実績を称えた上で、共産党100年を「成功の歴史」と表現しています。過去の批判ではなく、権力の集中を強く主張した歴史決議となりました。

激化する米中関係

長期化が予想される習政権に対して、米国では今年1月、バイデン政権が誕生しました。緊張する米中関係の中、バイデン政権はどのように中国に対抗していくのでしょうか。

2013年12月に北京で習近平氏と会談したバイデン氏

出典: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN115JU0R10C21A2000000/

バイデン政権の中国に対する姿勢

2021年1月のバイデン政権誕生以降、バイデン大統領は脱トランプを掲げ、4年間のトランプ政権に対して異を唱えてきました。アメリカ第一主義を主張してきたトランプ氏に対して、バイデン大統領は環境問題や人権問題といったトランプ氏が軽視してきた問題にも目を向け、国際協調を図る姿勢を示しています。 

対中関係においても両者で考え方に相違があるのではと考えてしまいそうですが、中国への姿勢については明白な違いがあるとは言えず、実際は共和党、民主党における中国に対する厳しい見方は変わりません。アジア太平洋地域の領土問題も依然として懸念されており、本地域で中国の軍事力が高まっていることについて、ワシントンでは警戒感を強めています。 

以上のように、政権交代以降も中国に対する厳格な姿勢はほとんど変わりありません。今後も貿易問題を中心として、不安定な米中関係の状況は継続していくものと予想されています。 

国際協調への強化

それでは、緊張が続いていく米中関係に対して、今後バイデン政権はどのように対抗していくのでしょうか。 

前述したように、バイデン政権の基本的な考え方として、国際協調を強化していくという姿勢があります。実際、トランプ政権時と比較して、欧州主要国との関係性が劇的に改善されています。日本を含めて欧州やオーストラリアなどと協力しながら、中国に対抗していくスタンスをとっています。つまり対中問題において、トランプ政権時では米中二国間の問題であったのに対して、バイデン政権以降は他国を積極的に巻き込んでこの問題に対応していく可能性が考えられます。

米中関係がもたらす日本経済への影響

中国に対する厳しい姿勢はそのままに、第国を巻き込んでの対抗姿勢が、日本や日本企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか。貿易の観点から考えると、米中間の貿易摩擦が広域化し、輸出入の制限や関税引き上げといったように、何らかの形で日本にも影響が出てくる可能性が考えられます。

米中の制裁関税合戦

出典: https://mainichi.jp/articles/20180919/k00/00m/020/119000c

米中の貿易摩擦

まずその話をする前に、米中貿易摩擦について簡単に触れておきましょう。米中貿易摩擦は2018年ころ日本でもニュースで取りだたされるようになりました。 

2016年にアメリカ大統領に選出されたトランプ氏が、公約に「対中貿易赤字の解消」「貿易の不均衡の解消」を掲げたことが発端です。具体策として、2018年3月中国の鉄鋼製品などへの関税引き上げを宣言したトランプ氏は、アメリカ国内の雇用を確保することがアメリカの経済発展に不可欠と考え、他国の製品に関税をかけ値段を上げることで自国の製品を売りやすくしようとしました。 

次々と中国製品への関税や関税引き上げを開始たトランプ氏に対して、中国も黙っていませんでした。報復措置としてアメリカからの輸入品に関税をかけるなどし、2018年の末には、アメリカは中国製品のほぼ半分、中国はアメリカ製品の約7割に関税をかけるという泥沼関税合戦」に進展していったのです。 

その後、バイデン政権になってから、この合戦はどのようになっているのでしょうか。現時点でも、バイデン大統領はこの米中経済制裁を解除していません。 

2021年7月末、バイデン米大統領は演説で政府調達において米国製品を優先する政策である「バイ・アメリカン」を表明し、経済大国としてのポジションを取り戻すと訴えました。トランプ前政権時代と比べ、半導体不足やコロナ禍に対応するためのデジタル化の推進により、電気機器分野の重要性は急激に高まりました。この分野は相対的にアメリカが得意でないことから、貿易構造から見た米中摩擦は前回に比べて中国優位で再開する可能性が高いとみられています。米中貿易摩擦「2回戦」は、世界中が着目しています。 

日本経済への影響

日本から海外進出する企業も増えてきていますが、駐在員の安全や保護を含めて危機管理体制を強化するため、バイデン政権下の経済安全保障情勢をより一層注視していく必要があると思われます。また、いわゆる米中冷戦ともなれば、日本は「中国寄り」、「米国寄り」のどちらの立場に属するかの選択に迫られます。「米国寄り」を選択するであろう日本にとって、中国との信頼関係が崩壊すると、日本経済も大打撃を受けることになるでしょう。 

日本の外交・安全保障上、中国との向き合い方は、引き続き最大の課題です。安倍晋三政権は対抗重視から実利を優先して関係改善に舵を切りましたが、道半ばに終わりました。菅義偉政権は新型コロナウイルス対策に追われほとんど手が回りませんでした。岸田首相は「中国は重要な国であり、対話続ける必要がある」と述べています。果たしてどのような外交政策を取っていくのでしょうか。 

さいごに

今回の歴史決議は、過去と比較して大きく異なる部分もありました。共産党100年の歴史を評価したうえで、自らの権威をさらに高める狙いが見て取れます。 

自国で権力基盤を構築する一方、外交問題においては他国との緊張は続くでしょう。米国との関係改善に向け、習政権、バイデン政権がどう対応していくのか。そして日本がどう絡んでいくのか。日本にとっても両国関係は、他人事でないのは明らかです。岸田政権が始まったばかりの日本。今後どのようにしてアメリカや中国と関係を構築していくかが問われます。 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM16BPM0W1A111C2000000/?unlock=1

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM105ZV0Q1A111C2000000/

https://www.bbc.com/japanese/59244715

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211117/k10013350531000.html

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/031300060/

https://www.businessinsider.jp/post-163677

https://mainichi.jp/articles/20211108/ddm/005/070/022000c

https://www.asahi.com/edua/article/14478895

https://honcierge.jp/articles/shelf_story/4891

https://www.digima-japan.com/knowhow/united_states/18154.php

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=67462?site=nli

https://www.dir.co.jp/report/column/20210810_010706.html

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