はじめに
Google、アップル、Facebook、Amazon、Microsoftと合わせ、市場で「GAFAM」とも呼ばれるGAFAM5社の時価総額は合計で約5兆3000億ドル(約560兆円)に達し、東証1部(約550兆円)を超えました。
コロナ禍でも5社の業績は堅調であり、メディアや小売りといった分野で旧来型の企業の苦境が深まるなか、20年1~3月期決算は5社とも増収を確保し、最終損益も全社が黒字でした。
GAFAMのいずれも共通する点は、他社の製品やサービスの基盤となり、社会インフラに近づきつつあるサービスを提供している点です。
不況下でも消費者や企業はインフラへの投資を抑制するのは難しく、各社の業績を支えているといえます。
GAFAMの一つであるマイクロソフト社。ビル・ゲイツやマイクロソフト社の製品は何となく知っているものの、創業からIT業界の覇者に上りつめるまでの歴史を知っている方は少ないのではないでしょうか。
この記事ではマイクロソフト社の成功の背景について分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
マイクロソフトの創業期
創業者
マイクロソフトの創業者がビル・ゲイツだけでなくもう一人いたことをご存知でしょうか。
それは、共同創立者ポール・ガードナー・アレン氏です。
ゲイツはポール氏について「Microsoftはポールなしでは決して起こらなかったでしょう」と語っているくらい右腕となった存在です。
ゲイツがポールに初めて出会ったのは中学生の頃でした。
2人が仲良くなったきっかけは、通っていた同じ中学校に初めてコンピューターが取り入れられた時で、ポールは「コンピューターチップが超強力になり、全く新しい業界を生み出すだろう」とすでに予測してそうです。
二人の性格には大きな違いがありました。
ポールは、「アイデア・マン」と呼ばれるほど様々アイデアに溢れている人物。
一方ゲイツは「行動する男」と呼ばれるほど現実的なものを得るために行動する人物でした。
性格が対照的ではあるものの、ゲイツはポールとの出会いを「私の人生を変えました」と残しており、二人の出会いがなければマイクロソフト社は存在しなかったかもしれません。
開発は2人で行い、営業はポール、交渉はゲイツが行いました。技術も性格も真逆なのが功を奏し、補完関係により素晴らしいビジネスパートナーとなりました。

創業のきっかけとなったAltair 8800とは
あまり知られていませんが、世界初の個人向けパーソナルコンピューター「Altair 8800」はMITS社のエド・ロバーツによって作られました。
開発元である彼は、「商業モデルに匹敵しうる世界初のミニコンピュータキット」と紹介しました。
販売価格は、$350~$700と意外とリーズナブルな価格で提供していたことが分かります。
※世界初のパーソナルコンピューター「Altair 8800」の様子が下記動画で見ることができます
Altair 8800が販売開始された当時、ポールは大学を中退してプログラマーとして働いていました。
ビルは大学に在学中でしたが、ある日、ポールがビルを書店に誘います。
ポールはポピュラーエレクトロニクス1月号の表紙をゲイツ氏に見せました。
そこには強力な最新チップを搭載した「Altair 8800」というコンピューターの登場が大々的に宣伝されていました。
ポールは「こんな事態が俺たちなしで起こっている!」とゲイツに語り、そこから2人のIT業界での奮闘が始まりました。
1975年にMicrosoftを起業することになり、1980年、MS-DOSのIBM社との共同開発によりMicrosoft社は拡大していきます。
マイクロソフトの主な歴史と主軸商品
下記の簡単な年表はマイクロソフト社の製品における大きな動きをまとめたものです。
1974年 世界初のパーソナル・コンピューターAltair 8800が発売される
1975年 マイクロソフト社がビル・ゲイツとポール・アレンのよって設立
1985年 Windowsを開発
1990年 office販売
1995年 インターネットエクスプローラーをリリース
2001年 Xbox販売
2009年 Bing設立
2010年 Azureのサービス開始
2016年 リンクドインの買収
2017年 Microsoft Teams正式版リリース
2018年 Githubの買収
2013年頃までは巨額の買収で失敗を繰り返してきました。
スカイプの買収やBingの設立、Xboxの販売、ノキアの買収などをしていますが、各プロダクトにはZoomやGoogle検索エンジン、アップル、PlayStation・任天堂などの強力な競合製品が存在し、どのプロダクトも業界3位以降のフォローワー戦略をとらざるを得ない状況でした。
しかし、2014年にナデラ氏がCEOになり、流れが一気に変わりました。
彼は企業・エンタープライズ向けサービスに注力し、Azureの強化、リンクドインの買収、Githubの買収などを行い徐々にプレゼンスを再度高くしていきました。
その結果、Microsoftはエンタープライズの王者となり、2019年時点の従業員数は世界で15万人となりました。
マイクロソフトのユーザー数・シェア数と売上
全世界のユーザー数:全世界の人口の2割
Windows利用者は、2015年の時点で世界で15億人、全世界の人口の2割と言われています。
Windows10のシェア:50%前後(2020年1月時点)

2019年の米国フォーチュン誌の調査では、全米上位500社である「フォーチュン500」の全ての企業がWindows 10を利用していると分かりました。
もちろんこれらの企業では他のOSであるWindows 7やmacOSなども利用されていると考えられますが、2020年1月にWindows 7のサポートが終了したことによりさらに多くの企業がWindows 10への移行を進めています。
Windows 10デバイスはますます増加しているでしょう。
デザイナーや開発エンジニアにはMac OSが根強い人気ですが、一般的な事務業務ではやはりWindowsが圧倒的な人気を誇ります。
コロナウイルスの影響によりTeamsのデイリーユーザー数が7,500万人を突破
新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中でリモートワークやオンライン学習をする人が増加しました。
コロナウイルスの感染拡大前の6週間前において、Microsoft Teamsのデイリーユーザ数(DAU)は4,400万でしたが、
しかしパンデミック発生後のMicrosoftの2020会計年度第3四半期の業績報告では、DAUが7,500万人を突破したと発表され、約70%の増加となります。
また、マイクロソフトは3月29日、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で各国のリモートワーク推奨の動きが広がったことによりクラウドサービスの利用度が775%の上昇したと発表しました。
コロナショックによって多くの企業がDX化が急務となり、Microsoftはそのマーケットにうまく乗れたといえるでしょう。
業績推移
Microsoftが2019年4月24日に発表した2019年6月期3Q累計業績は、売上高が15%増、営業利益が24%増となり市場予想を上回りました。
業績をリードしたのはAzureを含むインテリジェントクラウド事業です。しかしそれだけでなく、生産性およびビジネスプロセス関連事業、パーソナルコンピューティング事業も拡大傾向です。
※インテリジェント クラウドとインテリジェント エッジとは
インテリジェント クラウドは、パブリック クラウドと人工知能 (AI) テクノロジによって実現されるユビキタスなコンピューティングの概念です。
考えつくあらゆる種類のインテリジェントなアプリケーションやシステムに利用できます。
Microsoftの主要トピック
- ビジネス向けSNSの「LinkedIn(リンクトイン)」が27%増収と堅調に推移
- Windowsやゲームの「Xbox」などを展開するパーソナルコンピューティング事業は、前年同期比9%増収、22%増収。
- Windows OEM(ライセンス販売)やパソコン事業については中国のサプライチェーンが一時ストップしたことにより影響を受けたものの、在宅での仕事や学習による需要増により恩恵を受けた
- 「Office 365」「SharePoint」「Microsoft Teams」などを展開する生産性およびビジネスプロセス関連事業は、前年同期比15%増収、26%営業増益。
- Intelligent Cloud部門全体の売上高は27%増の122億8000万ドル

新型コロナウイルス発生後の業績への影響
サティア・ナデラCEOの発表文を引用すると「この2カ月で2年分のデジタル改革が行われた。私達の耐久性のあるビジネスモデルの将来に向けた立ち位置は良好だ」と述べています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の同四半期業績への影響は下記の通りです。
- 3Qの業績への影響は軽微だったと発表
- 広告減少が検索(Bing)とLinkedInの売り上げに影響
- 各国のリモートワークの増加でむしろ在宅でのテレワークや通信教育への移行によりMicrosoft Teams、Azure、Office365などのクラウドサービスの使用が増加
主力製品①:Azure
Azureサービス概要
クラウドサービスのAzureが2010年にMicrosoftより正式リリースされました。
IaaS、PaaS領域を軸としたクラウドサービスであり、Amazon社のAWSやGoogleのGCPといったサービスと並んでリーダー的なポジションとなりました。

パブリッククラウドとは?
パブリッククラウドとは、「誰でも必要な時に自由に利用できる仮想上のサーバーやネットワークソリューション」です。メリットは主に2つあります。
- 使った分だけ支払えばよいリーズナブルな料金体系(自前でデータセンターやシステムを開発するより先行投資やメンテナンスのコストが抑えられるため)
- 急なデータ量の増加にも対応できる利便性
「Azure」が展開するパブリッククラウド市場は今後も順調に拡大する見通しのようです。
調査会社ガートナーによると、2019年の世界のパブリッククラウド市場は前年比17%増の2,143億ドルとなり(日本円に換算して約23兆円)、その後も2桁成長が予測されています。
※パブリッククラウドとプライベートクラウドの違いについては下記をご覧ください。
・パブリッククラウド:
業界・業種を問わず企業・個人に向けてクラウドコンピューティング環境を提供しているオープンな形態のことです。
専用のハードウェアなどを所有することなく、利用したい人が利用したい時に、必要なだけ自由にサーバーやネットワークリソースを使えるシステムで、ネットでオンライン申し込み後すぐにクラウドサービスを利用できます。
・プライベートクラウド:
企業・組織が自社専用のクラウド環境を構築し、社内の各部署やグループ会社に提供する形態です。
従来の社内システムのように企業内でシステムを設計・管理できるので、柔軟なサービス設計が可能。
セキュリティ面については、独自のセキュリティポリシーを適用でき、強固なセキュリティのもと柔軟に運用することができる点も大きなメリットです。
IaaSとPaaSとは?
IaaS(Infrastructure as a Service):
サーバーやネットワークなどのサービスを提供し、利用者はデータ保存などの利用できます。
ハードウェアのスペック、OSを自由に選べます。
PaaS(Plattform as a Service):
アプリ稼働するためのOSや共通ミドルウェアなどのプラットフォームを提供するサービスです。
利用者は、アプリの開発などに利用できます。インフラから開発する手間を省きつつカスタマイズしたい場合に向いています。
サーバーサイドのの設定やプログラムの実行環境に制限があるため、IaaSと比較すると開発の自由度はやや下がります。
※上記2と一緒に比較されるのがSaaS(Software as a Service)です。例えばGmailのようなメールサービスや、ブログ、Salesforceなどのサービスがあります。
SaaSはユーザーの目的はすぐ達成できますが、開発者視点での自由度が低いのが欠点です。
自前のプログラムを使用したいのであればPaaS、IaaSを利用する必要があります。
Azureが人気の理由
マイクロソフトのAzureが企業に受け入れられているのは、Azureがさまざまなシステムと統合を図っているためです。
Azureではマイクロソフトが展開する他のサービス、例えば「Office 365」との連携がスムーズにできます。
主力製品②:Microsoft Teams

サービス概要
2017年に公開された、Office365の1つのアプリです。
Web会議ツール、ビジネスチャットのツールで日本語を含む19言語・181カ国でサービスが受けられます。
Teamsは、コロナウイルス感染拡大によるリモートワークの推進でZoomと共に大躍進のサービスとなりました。
脆弱性を指摘されるZoomと比べ、セキュリティ面での安全性が評価されています。
メリット
- office365のライセンスを持っていれば、追加料金なしで利用できる。
- 機能が制限されるが、無償版Teamsが単体で使用できる。
- EA契約を結んでいるところは、自動的にTeamsを使うことができる。(新たなコストがかからない)
※EA契約:法人向けの特別なボリュームディスカウントプランである。
契約企業はWord、Excel、PowerPointなどのオフィスソフトを主軸に、Microsoftが提供するほぼ全てのサービスが使用可能になる。 - Officeの機能と連携ができる。
TeamsからWordやExcel、OutlookやSharePointなど、Officeのさまざまな機能をシームレスに利用できます。例えば1つの画面でメールをチェックしたり、ファイルを閲覧できる - チャット、会議(最大10000人規模)、ファイルの共有ができる。
主力製品③:Office 365

概要
Officeの最新のアプリを提供しているサブスクリプションサービスです。
月額課金によって、様々なOfficeアプリを使うことが可能です。
従来のOfficeは永続ライセンスでしたが、365は月額課金制で機能面でも差があります。
PowerpointやWord、Excelなど、事務作業に必須のツールであり馴染みの深いアプリケーションをサブスクリプション形式で使用できるというサービスになります。
メリット
- モバイル端末でも利用ができる。
- 互換性の心配がない。
- サポート終了の心配がないので、更新作業や入れ替えが要らない。
- サブスクリプション型なので、コストの最適化が図れる。
- デバイスやOSを問わずに利用できる。
- グループウェアによる機動的な連携がとれる。
- クラウドなのでセキュリティやBCP対策が図れる。
- スピード感がある。いつでもどこでも使える。ビジネススピードが速くなった。
最後に
マイクロソフト社がITの覇者になるまでの過程をご理解いただけましたでしょうか。
今後市場がますます拡大するパブリック市場へのアプローチにより更なる飛躍が期待されています。
また、コロナウイルス感染拡大により予想外の業績アップをもたらしたことはマイクロソフト社にとって大きなチャンスとしてさらなるサービス向上を図り、私たちのリモートワークを快適にしてくれることでしょう。
ポール・アレン、ビルゲイツ、そして2014年にCEOとなったナデラ、
誰か1人でも欠けていたらMicrosoft社に今の成功はなかったでしょう。