あらゆるモノがつながるIoTの進展に伴って、その基盤となる通信ネットワークはますます重要になります。
例えば、自動運転や医療の場でIoTが導入された場合、5Gでなく4Gのままだとタイムラグがあり速度の遅延が生じます。
このような人の命に関わる分野でIoTを導入するには5Gが必要です。
総務省は、4事業者であるNTTドコモ、KDDI/沖縄セルラー、ソフトバンク、楽天モバイルによって申請された5G特定基地局の開設計画を2019年4月に認定。
各社に5G用の周波数を割り当て、2020年3月から順次5G商用サービスを開始しており、私たちの生活に5Gのサービスが浸透してくるのも間もなくです。
ここでは、まもなく日本でも導入される5Gによって私達の社会がどう変わるか、海外主要各国の5G導入の動き、メリットやデメリットについてご紹介します。
5G以前の歴史
https://www.au.com/mobile/area/5g/
1G: アナログ携帯電話の普及(1980年代~)
1Gが普及したのは1980年代からです。
1985年にポータブル電話機「ショルダーフォン」、1987年には「携帯電話」が登場。
1Gは音声を電波に乗る信号に変換して通信するアナログ方式のため、機能は音声通話のみでした。通信品質や通信距離にも課題があり、デジタル方式の技術開発が進んでいきました。
2G: メール・インターネット利用の普及(1990年代)
通信方式はアナログからデジタルへと変わります。
データ通信が容易になり、メールの利用やインターネット回線への接続が可能となりました。
この時代を牽引したのは、NTTドコモの「iモード」です。この革新的なサービスによって、着信メロディ。待受画面のダウンロード、地図検索、モバイルバンキングなどが実現しました。
3G: 世界標準の高速通信の普及(2000年代)
2Gでは2.4kbps~28.8kbpsだった通信速度が3Gでは384kbps~14Mbpsまで大幅に向上。
より大容量のコンテンツ(「着うた」などの音楽コンテンツ)を楽しめるようになりました。
また、3Gは初の国際標準の移動通信システムを搭載しており、3Gによって初めて日本の携帯電話を海外でも使えるようになりました。
4G: スマートフォンのためのモバイルネットワーク技術(2010年代)
現在私達のほとんどが使用するLTEやLTE-Advancedのことです。
スマートフォンの利用者数が激増を支えたのは、現在も主に利用されている4Gです。
通信飛躍的に向上した速度50Mbps~1Gbpsによりスムーズなインターネット利用やモバイルゲームや動画など大容量のコンテンツサービスが現れます。
5G: 社会を支えるモバイルネットワーク技術(2020年代)
5Gの下記3つの代表的特徴が、IoTにつながる社会を可能にします。
- 高速大容量
- 高信頼・低遅延通信
- 多数同時接続
4Gから5Gになると、通信速度は20倍、遅延は10分の1、同時接続台数は10倍の進化が見込まれます。
遅延が少なくなるとよりリアルタイムな操作がインターネットを介して行うことができ、自動運転や遠隔治療など人の命に関わる信頼性が必須の分野への効果が望まれます。
市場規模
IDC Japanは今回、ユーザー企業や通信事業者・ベンダーに対する調査から、国内における法人向け5G関連のIT市場規模を予測しました。2020年~2026年の年間平均成長率は198%で、2026年の市場規模は1436億円にまで及ぶと見込まれています。
5Gについての解説を動画で詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
5Gで実現する社会
ご紹介してきた通り、5Gが製造業に生み出すメリットは多岐に渡るため、多くの企業が5Gの活用を希望しています。
2019年末にローカル5Gの申請受付が開始されたことを受け、申請書を提出した自治体や企業も少なくありません。
しかし、導入のための設備投資に多大なコストがかかるため、中小企業での5G導入は容易ではなく、産業用5Gの恩恵は2022年以降に生まれると言われています。
それでは実際に産業用の5Gの展開にはどのような事例があるか見てみましょう。
自動運転
自動運転車は、車両に搭載されたセンサーやAI(人工知能)によって周囲の状況を検知、解析し、アクセルやブレーキ、ハンドル操作などを制御します。
刻一刻と変化する交通状況を送受信し、情報処理能力を引き上げることができるため高速かつ大容量の通信が必要です。
(米インテルの試算によると、自動運転車が扱う情報量は1日4テラバイトのと非常な膨大なデータを生み出すことが分かっています。)
日本ではKDDIが2019年2月9日公道での5G自動運転車実験走行テストに成功しました。
製造業での生産性向上
製造業で近年ニーズが高まっている変種変量生産。
変種変量生産は市場要求の品種と量の両方の変化変動に対応してモノづくりをすることです。
品種の多様化、ライフサイクルの短縮、販売量の予測困難、グローバル競争などの環境において注目されてきた概念です。
競争に打ち勝つために単に多品種少量生産ではなく、市場の動きにダイナミックに連動させることが目的です。
この変種変量生産に対応するために製造ラインは自由な機会配置ができなければは安定した通信は実現できません。
そこで5Gを導入することで、自由な機械配置ができない工場もケーブル配線を省略できるため、マーケットの需給状況に合わせて生産ラインを常に柔軟に動かせるようになります。
配線コストも削減ができるのもメリットでしょう。
スマートハイウェイ
5Gと密接に関わる自動運転と共に相乗効果を生み出すのがスマートハイウェイと呼ばれるものです。
車の運転を安全に行うために、高速道路を走行する車の車両内に取り付けられた様々なセンサーや通信設備と、高速道路上に設置されているスマートシステム(例えば、電力供給システムや料金所、街灯等)がサポート、連携します。
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2019/20190412_01/
※道路の橋桁や橋脚の微小な振動を監視するための「加速度センサー」
これらのセンサーからの情報から、事故を予測、回避したりが可能です。
万が一事故が発生した場合も、その問題の原因をデータに基づき特定します。事故防止対策を強化することでより安全性の高い自動運転環境が実現されるでしょう。
また、渋滞検知・予測、その他、各種ITソリューションで整備された、安全、渋滞のないスムーズな交通インフラが実現します。
遠隔医療
1分1秒を争う救急医療現場において、迅速で的確な医師の判断が求められます。しかし、患者を搬送する救急車と病院との間は電話のみでやり取りするのが主流です。細かな準備は実際に患者が病院に到着してから行うケースが多いのが実情です。
こうした課題に5Gが役立ちます。
5G搭載の救急車であれば搬送中に患者の高精細な動画や検査データ、マイナンバーカードに紐づく情報などを医師にリアルタイムで共有できるようになります。
特に5Gの特徴の1つである低遅延を生かし、将来的には遠隔地から医者が手術をできる遠隔手術の実現は、実現が大いに期待されています。
新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけとなり、オンライン診療が少しずつ浸透しています。
医者に行く時間がなくてもビデオ通話のシステムを使えば離れた場所から医師からの診察を受けることが可能です。
スポーツ、エンターテイメント
米国プロバスケットボール競技であるNBAのファン体験にも5Gの活用が注目されています。
NBA所属チームの1つであるSacrament KingsがVerizonの提供する5GテクノロジーとVR/AR技術を活用しようとしています。
来場者はこのサービスで、ライブストリーミング映像によって様々な角度で選手の動きや試合の様子を視聴体験でき、没入型の体験を得ることが可能になります。
海外の状況
エリクソンのモビリティレポート2019年11月版では、米国、韓国、欧州などで5Gの商用サービスが始まり、2019年度末までに1300万加入を獲得見込みです。その後は急速に加入が増加して、2025年には26億加入に達すると予測されています。
それでは次に5G先進国の中国、アメリカ、韓国の進み具合をそれぞれ見てみましょう。
中国
急速に5Gの浸透が進んでいるのが中国です。
当初の予定では2020年の商用化を目指していた中国ですが、それを前倒しして2019年11月より5Gの商用化を開始しました。
驚くことに、中国では商用化開始の時点で、アメリカや韓国を凌駕するレベルのインフラ整備およびサービスが提供されています。
- 2019年11月に5G商用サービスを開始し、5Gと産業用インターネットを促進してきました。2022年までに主に製造業のアップグレードを促進するとしています。
- コロナウイルス対応のため遠隔疾病診断等に5Gを活用しています。事業者に対する早期の5Gネットワーク展開を急いでいます。
- ファーウェイ(Huawei)は5G基地局の設置を急速に進めています。しかし、2020年7月米国がファーウェイを安全保障上の脅威に認定し米中関係が非常に悪化していることから、5Gの進展は影響を受けるでしょう。
アメリカ
2019年4月に「5G Plus Strategy」を発表。
5Gネットワークを基盤とした10の中核産業と5つの中核サービスの育成に注力しています。
アメリカで最も早く5Gサービスを開始したVerizonを始め大手4社が競い合う中、アメリカ政府は2026年までに世界の5G市場の15%を占めることを目指しています。
トランプ大統領は4月12日に行われたホワイトハウスでのイベントで「5Gの競争に米国は勝たなければならない」と述べ、5G網を整備するための204億ドル(約2兆3千億円)規模の基金を設けました。
中国とのハイテク覇権争いに本気の姿勢を見せ、最近ますます激化してくるようになりました。
トランプ大統領は早くも第6世代(6G)に言及。6Gを見据えた研究も促し、5Gから一足飛びで次世代戦略に踏み出す動きも見せているようです。
韓国
5G商用化時点まではネットワークをスムーズに構築する制度導入や規制緩和が進められていた韓国。
5G基地局装置購入費控除のための税制改正、5Gネットワーク構築促進のための制度改正などが2018年からスタートしました。
通信事業者が5G端末を激安で販売するという手法により、5G利用端末の利用率が劇的に伸びました。
電波が強いところと弱いところが未だに存在しているようですが、国民への普及スピードは速く、2026年までに世界の5G市場の15%を占めることを目指しています。
韓国の強みであるアイドルに焦点を当てたVRのバーチャルなデートアプリなど5Gの性能を生かしたコンテンツがあるのが特徴です。
5Gによって起こる弊害
サイバー攻撃のターゲットが増える
2018年のNICTER観測レポートによると、4Gから5Gに変わることで、世の中は非常に便利になりますが、同時に新たなセキュリティリスも生じると警戒視されています。IoT、5Gの普及によって、ネットワークに接続される機器の数は爆発的に増加します。
ネットワークにつながる機器が増えるほど、サイバー攻撃のターゲットが増えることになります。
実際に、情報通信研究機構(NICT)の調査の調査によると、IoT機器を狙うサイバー攻撃は増えていおり、2018年に観測した約2,121億パケットのうち約半数がWebカメラやホームルーターなどといったIoT機器を狙った攻撃でした。
今後もネットワークにつながる機器が増えると攻撃が増えるため、注意と対策が必要です。
身体的リスク
スイス・ジュネーブで行われた5G通信網に反対する抗議デモの様子。「4Gで十分だ」と書かれたプラカードを持つ男性(2019年9月4日撮影)。(c)Fabrice COFFRINI / AFP
https://www.afpbb.com/articles/-/3245107
4Gの場合、周波数は6GHzですが、5Gになると何と30~ⅭGHzになり、一般の市民がこれほど高い周波数にさらされることは前代未聞のことです。
2005年から今日まで欧米各地の医療・研究機関で継続されている、マウスでの電磁波の人体への影響に関する研究結果では、人の皮膚や目、そして生殖能力への悪影響が懸念されています。
すでに5GGの基地局が設置された周辺では相次いで住民の被害が報告されています。
ベルギーのブリュッセルのように5Gの導入が全面的に禁止された国もあるのです。
日本の総務省のサイトを見てみると、下記の通り「電波の強さの基準値は安心に利用するために規制をしています。」と記述があります。
海外の状況と照らし合わせるために、ご参考になさってください。
https://www.soumu.go.jp/soutsu/tokai/denpa/jintai/#jin05
最後に
5Gが浸透し、進むIoT化によって私たちの世の中は大きく変化します。
一度ウィズコロナを経験した私たちはアフターコロナ社会においても「非対面がいい」「非接触がいい」と思う人が増えるでしょう。
これからは、5Gによる低遅延などのメリットがあってこそ、私たちのウィズコロナ・アフターコロナ時代の便利な社会が実現します。
しかし、5Gに伴うIoT化の時代において、デメリットがあることを忘れてはいけません。
それは、ウイルス攻撃を受けやすくなることです。
特に日本はITのセキュリティ対策が遅れていると言われているので、セキュリティ対策も同時に行っていくことが安全な5G社会とIoT化に欠かせないでしょう。
<参考>
https://www.a10networks.co.jp/news/blog/impresssmartgrid5g.html
https://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/6988/Default.aspx
https://globalprwire.com/mediacolumn/tech_5g
https://blog.global.fujitsu.com/jp/2019-06-19/01/
https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr372-2020330-ishimizu.html
https://qeee.jp/magazine/articles/6297#topic_1.2
https://biz-journal.jp/2019/11/post_126809_2.html
https://biz-journal.jp/2019/11/post_126809_2.html
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd133410.html
http://s-max.jp/archives/1793612.html
http://s-max.jp/archives/1772220.html