東南アジアの高速鉄道網の発達。現地の経済に与える影響と外資受注企業の覇権争いについてご紹介

世界で最も勢いがあると言っても過言ではない東南アジア市場。人件費の安さや先進国からの投資などで、日本経済を追い抜かんとする勢いで開発が進んでいます。特にこれらの国々で今後の経済発展に重視されるのが、交通インフラの整備です。交通インフラの発達により効率の良い移動や運搬が可能なため、経済活動が促進されます。

今回は、日本企業も積極的に関与している高速鉄道建設の東南アジアでの状況について記述していきます。

高速鉄道と経済

インフラ整備を施す経済への影響

インフラを整備することにより、基本的な社会基盤の整理を行い経済発展の礎とします。その中でも高速鉄道の建設は、経済発展の要とも言える不可欠なプロジェクトのうちの一つです。

鉄道建設が進むと、一般市民の雇用を増加し国内の遠方への移動、物資の運搬が容易になります。長距離区間を運行する高速鉄道を利用すれば、乗り換え、載せ替えもなく大量の人やものを効率よく一度に遠くまで運搬することが可能で、自動車、トラックのように環境への悪影響を及ぼす排気ガスの発生や、経済的にも損失が大きい交通渋滞も発生しません。

飛行機と鉄道のコスト比較

飛行機を使用すれば素早い移動は可能ですが、飛行場までの道のりの長さ、搭乗手続きに時間がかかること、荷物の運搬にはコストがかかるなどの問題があります。環境的にも飛行機を運行するには大量の化石燃料を使用し、騒音なども発生します。飛行場を建設するコストの面や、建設への周辺住民への理解、森林を切り開き周辺の自然破壊を巻き起こすなど、新規で建設するには莫大な労力が発生します。

そこで、高速鉄道で国内、または国と国を結ぶことができれば、国家間の貿易を更に活発にすることも可能なのです。高速鉄道建設により、今まで輸送に時間やコストがかかっていたものを削減できれば、人件費が低い地域への工場建設なども可能になり経済的メリットをあげると枚挙に暇がありません。

日本でも過去に行われたこの高速鉄道開発は、新幹線などの長距離移動で国中を接続したり、網の目のように建設された地下鉄、それを繋ぐ路線などを整備し発展してきました。経済が発展する東南アジアでも同様に、海外の熟成した技術を使用し、それを自国のインフラへ導入しようとする動きが活発になっています。

グローバルな鉄道プロジェクトの調達はどのように進むのか

まずはそれぞれの国の経済事情や、費用対効果を計算した上で、その建設資金を決めていきます。他国に建設を依頼する場合には、その支払いに見合った効果が出るのか、自己調達資金での購入なのか、建設費はどのような形で支払うのかも問題になります。受注する側の国々でもプロジェクトによりその方式はさまざま。

鉄道建設自体の価格は低い場合でも、建設に自国民のみを使用する場合や、受注国の作業員を派遣する方法、技術のみを供与する方法、車輛のみを販売するか鉄道を含めるのか、運営、安全事項などのサービスを含めて請け負うのか、一国での受注ではなく、複数の国や企業から受注するのかなど、さまざまな方法が存在しています。

日本企業の海外鉄道建設プロジェクト

日本は世界有数の鉄道技術国。今までにもさまざまなな国々に技術提供や、日本企業の開発した車両や鉄道を受注してきています。日本の鉄道は遅延や事故率が他の国々よりも低く、特に高速鉄道においての車内乗客死亡事故発生件数は2017年までの統計でゼロと、大変信頼性の高いものとなっています。アジア、東南アジアの国々で、ローカル路線、高速路線を含め、日本の企業が受注をした鉄道を挙げると、下記の表のような形になります。

国名導入または受注年主な企業、路線種類
中国2000年川崎重工(高速鉄道)
2002年日立 (地下鉄)
2011年三菱重工
韓国2007年日立 (特急)
香港2014年川崎重工(ライトレール、通勤用車両)

 

近畿車輛(通勤用車両)

台湾2012年川崎重工(高速鉄道車両)
2014年日本車輌 (特急)
2016年日立 (都市鉄道)
ベトナム2013年日立 (都市鉄道)
タイ2013年総合車両製作所 (都市鉄道)
マレーシア1983年日立
1987年川崎重工
シンガポール2015年川崎重工 (地下鉄)
2000年日本車輌 (地下鉄)
2013年三菱重工 (新交通システム)
2014年日立 (モノレール)
インドネシア2014年日本車輌 (都市高速鉄道)
フィリピン2006年日本車輌 (都市鉄道)

​​​​​​​​​​​​​​​
通常の車両や鉄道建設、高速鉄道など、日本の企業は多くの世界の鉄道を受注してきています。なかでも「川崎重工」や「日立」、「三菱重工」が多く世界で受注をしています。このほかにも日本の新幹線を製作数日本一のメーカーで、新幹線の0、100、200、300、700系を製造をしている「日本車輌」も多くの受注をしています。それに加え、「伊藤忠商事」、「住友商事」などの商社や地元企業との連携で受注を請け負う形も存在しています。

ここからは、東南アジアにおける、各国の鉄道建設プロジェクト受注の取り組みを見ていきましょう。

中国企業による東南アジアでの高速鉄道受注

中国では既述の「一帯一路」政策を推し進めています。「一帯一路」という言葉の「一帯」は中国からヨーロッパへつながる一本の陸路のこと、「一路」は同じく海上路のこと。一帯は「シルクロードベルト」一路は「21世紀海上シルクロード」とも呼ばれています。

中国の高速鉄道はまず、1998年にスウェーデンの国鉄にあたる「SJ AB」の「X2000」を導入し、時速200kmで走る広深鉄を広州市から深センを結ぶ約147kmで開通したのが始まりです。現在は、経済発展と技術向上により、今や鉄道の建設や車両制作を行い各国から受注を受ける立場となっています。

中国の政策的な狙い

中国だけではなく、豊富な資金、資源や生産力、需要、物資などを持つ中国との貿易は経済発展には、世界各国においても重要な要素。ユーラシア大陸の国々をまたぎ、輸送路線を建設することにより、経済的影響力の大きい中国を中心に対外戦略を行い、活発な貿易を進めようという構想です。そして一帯一路構想の経路に当てはまるヨーロッパ、東南アジア、南アジア、西アジアなどの国々や、その周辺国にも参加を呼び掛けている状況です。この一帯一路構想は中国国内や、中国とヨーロッパを1本で接続するだけではなく、広大で数多くの国々が存在するユーラシア大陸を縦横断し、各都市を結びます。ヨーロッパまでの国々をまたぎ、北側を通る路線と、南側を通る路線、南側路線から派生して、パキスタンへ向かう路線や、トルコに向かう路線、南に分かれてシンガポールへ向かう路線、そしてそれを東西に分岐しインド方向とベトナム方向へ横断する路線などが構想に盛り込まれ、ユーラシア大陸の主要都市を陸路で結ぶという構想です。この構想により高速鉄道が建設されれば、多くのユーラシア大陸上の都市が結ばれ、都市間、国間の経済発展を促すことが可能です。

以前は中国も日本や海外から鉄道技術を入手し鉄道を建設していました。

鉄道輸出国となった中国は、いまだに技術やノウハウにおいて、発展途上。中国に発注する場合の欠点やデメリットも存在し、それぞれの国での状況などを踏まえて発注を行っている形になります。現在のところ、下記のような欠点や利点が存在しています。

 

中国企業に発注する側のメリット

中国に注文した場合、コストが低く抑えられることが主要なメリットになります。他国の受注金額より低い価格を提示したり、運営コスト、建設コストの低さなど。資金力がない場合や、価格を重視する場合には導入はしやすい。

中国企業に発注する側のデメリット

安全技術などが未だ十分でないことや、鉄道建設や高速鉄道運営のノウハウが乏しいため、信頼性に劣る点。そして鉄道建設の際には、建設地周辺地域への環境配慮が足りず、騒音、排気ガス、地下水、森林破壊などの多くの問題などが発生。環境についての問題提起を行っても受け入れてもらえない状況も。

これまでに中国が世界で受注しているのは高速鉄道だけでも、トルコ、サウジアラビア、インドネシア、ハンガリーーセルビア間、ロシア、ケニアーウガンダ間などにのぼるが、車輛の停止や、建設の遅延なども発生し、一帯一路構想を進める中国ですが、自身での鉄道建設は前途多難な様子です。

インドネシアでの高速鉄道開発

日本も関係していて、最近ニュースでも取り上げられた、インドネシアでの高速鉄道建設について。インドネシアは、東南アジアの中でも最も経済発展率が高い国としても知られており、インフラの建設が一層の経済発展のために重要な要素となります。国土は日本の約5倍あり島嶼部も多く、日本のように東西に長い形をしているため、国内の移動距離が長くなる上、人口は2億7千万人と、高速鉄道を使用する需要も豊富に存在する国です。

ジャカルタを中心に、ローカル鉄道網、そして高速鉄道計画が発表され、「ジャカルターバンドン」間の約150kmを結ぶ区間は中国と日本がその受注を争っていました。その後、紆余曲折があったものの、財政負担を伴わない建設を提案していた中国が受注を勝ち取り、2016年に建設が開始されました。バンドンまでの建設は中国が行いましたが、将来的にジャカルタを有するジャワ島の東端の街、「スラバヤ」まで延伸の計画を日本をパートナーとして行うとしています。

まだインドネシアの高速鉄道計画は開始されたばかりで、これからも各都市を結ぶ鉄道が計画されていくはずです。

タイの高速鉄道建設

多くの世界の工場が建設されているタイでも高速鉄道建設の波が押し寄せています。タイ北部の都市「チェンマイ」から、タイの首都で南部の都市「バンコク」を結ぶ、およそ672キロの高速鉄道を日本が新幹線方式で受注しました。2016年に覚書を結びましたが、資金や需要の観点、継続性の問題から反対派も多く、着工はまだ開始していません。

マレーシア・シンガポール高速鉄道計画と頓挫

GDPが東南アジアの中でも最も高いシンガポールやそのお隣のマレーシアでも高速鉄道計画は進んでいます。シンガポール自体の国土は狭く、東京23区より少し大きいくらいの面積ですが、流通や人々の往来が多く、長細い半島の形になっているマレーシアを縦断し、スムーズな物流を目指し、高速鉄道建設が計画されています。マレーシア首都「クアラルンプール」とシンガポールの間、約350キロを結ぶ路線建設計画で、既述の中国が構想する一帯一路計画の中の一部ともされていました。しかしながらマレーシアの財政難や、新型コロナウイルスの影響、政権の交代などで状況が一変。一帯一路構想の主導権を握ろうとする中国や、日本、韓国なども受注に関心を寄せていましたが計画はストップしてしまいました。

インド高速鉄道状況

IT分野や経済発展で話題の南アジアに位置するインドもユーラシア大陸内に含まれる国です。国土が広く、都市部では慢性的な渋滞が巻き起こるため、海外の協力を得て高速鉄道の導入を行っていますが、インドの高速鉄道計画はまだ最近で、2013年に高速鉄道の会社を初めて設立しました。そして2015年には世界有数のIT南アジア最大の都市、「ムンバイ」から、「アーメダバード」間、約500km強の区間を新幹線方式で建設することに同意し、2017年に建設を開始しています。

まだ他のアジアの国々と高速鉄道を結ぶには早いかもしれませんが、この他にも構想を含め複数の国内路線を計画しておりインドの高速鉄道建設と、それに伴い、どこの国が入札に勝ち残るかが注目を浴びています。

まとめ

世界で覇権を取ろうとする中国と、その周辺国により、高速鉄道敷設でもさまざまな思惑が入り乱れています。発注国では、できる限り費用を抑えた建設と、経済発展の両立、費用対効果、国家間の影響、環境と安全性、受注国では、インフラ建設での莫大な利益を享受することのみならず、国としての影響力を及ぼす高速鉄道建設を勝ち取ろうとする思惑など、より利益と価値を高めようとしのぎを削っている状態です。各国の貿易が容易になり、経済も活性化、輸入品が安く手に入る点など、国民には好都合なこの高速鉄道計画ですが、将来的に経済だけに留まらず、結び合った路線のように各国が手を繋ぎ、平和な世の中になるといいですよね。

高速鉄道日本 https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/cooperation/oda/tetsudou4.pdf
日本車輌
https://www.n-sharyo.co.jp/business/tetsudo/prod_shinkansen.htm
一帯一路構想
https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji22/
中国高速鉄道受注
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85181?imp=0
中国が受注した高速鉄道
http://news.searchina.net/id/1695504?page=1
インドネシアでの高速鉄道開発
https://toyokeizai.net/articles/-/430433#:~:text=%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E9%AB%98%E9%80%9F%E9%89%84%E9%81%93%E3%81%AF,%E3%81%AE%E9%AB%98%E9%80%9F%E9%89%84%E9%81%93%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%82
タイの高速鉄道
https://globe.asahi.com/article/14083035
マレーシア・シンガポール高速鉄道計画 https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/01/a31563ec391d4ed1.html
マレーシア・シンガポール高速鉄道の頓挫
https://toyokeizai.net/articles/amp/410287?display=b&_event=read-body
インド高速鉄道
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/9fe93efaf0614b86.html

関連する事例

海外進出および展開はどのように取り組めば良い?
とお悩みの担当者様へ

海外進出および展開を検討する際に、
①どんな情報からまず集めればよいか分からない。
②どんな観点で進出検討国の現場を見ればよいか分からない。
③海外進出後の決定を分ける、「細かな要素」は何かを知りたい。

このような悩みをお持ちの方々に、プロジェクト時には必ず現地視察を行う、弊社PROVE社員が現地訪問した際に、どんな観点で海外現地を視察しているのかをお伝えさせていただきます。