カーボンリサイクルとは?カーボンニュートラルの実現に動く市場のトレンドをご紹介

最近ではCOP26が開催されるなど、国際的にも地球環境問題に対する関心が高まってきています。家庭においても、こまめな消灯や省エネ家電の導入、エコカー購入など、地球温暖化を防ぐために意識的に取り組んでいる方も多いのではないでしょうか。そこで近年特に注目を浴びているのが、カーボンニュートラル(CO₂排出実質ゼロ)という考え方です。

排出される温室効果ガスを利活用して、製品を生み出そうというカーボンリサイクルについて、その市場や活躍中の事業分野を中心にご紹介します。

カーボンニュートラルとカーボンリサイクルとは

カーボンニュートラルの仕組み

https://emira-t.jp/special/12373/

地球温暖化問題が深刻化する中、マイナスイメージが強い温室効果ガスを利用し燃料などを生み出そうとする動きが活発化しています。CO₂やメタンのような温室効果ガスの排出が、地球温暖化の最も大きな原因とされており 、カーボンニュートラルとは、この温室効果ガスの排出量を「トータルでゼロ」にするという考え方です。再生可能エネルギーなどの活用により、温室効果ガスの排出量削減に向けた取り組みが加速していますが、排出量自体をゼロにするのは現実的ではありません。つまり、「排出量-活用量=0」というのがカーボンニュートラルが意味するところです。

カーボンリサイクルとは、このカーボンニュートラルの実現に向けたテクノロジーの一つであり、CO₂を資源としてとらえ、有効活用することです。分野も化学燃料やセメントなど、活用できる場は多岐にわたります。(各分野での詳しい取り組み事例は、後述します。)

カーボンニュートラルの実現に向けた世界の動き

国際的にも、カーボンニュートラルの実現に向けた積極的な動きが見られます。

パリ協定

パリ協定の写真

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html

パリ協定とは、2020年以降の気候変動対策を規定した国際的な枠組みです。産業革命前と比較して平均気温の上昇を1.5℃以内にすることを努力目標として掲げており、この目標を達成するために、カーボンニュートラルの実現を目指しています。

パリ協定では主に下記の8つが決定されました。

  1. 世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求する
  2. 主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新する
  3. 全ての国が共通かつ柔軟な方法で実施状況を報告し、 レビューを受ける
  4. 適応の長期目標の設定、各国の適応計画プロセスや行動の実施、適応報告書の提出と定期的更新
  5. イノベーションの重要性の位置付け
  6. 5年ごとに世界全体としての実施状況を検討する仕組み(グローバル・ストックテイク)
  7. 先進国による資金の提供。これに加えて、途上国も自主的に資金を提供する
  8. 二国間クレジット制度(JCM)も含めた市場メカニズムの活用

※外務省HPより引用

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html

IPCC

パリ協定に加え、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)においても、この努力目標の達成に向けて、2050年あたりまでにカーボンニュートラルが必要であると報告されています。

IPPC(Intergovernmental Panel on Climate Change)は、国際的な専門家で構成された地球温暖化についての科学的な研究の収集や整理のための政府間機構で、学術的な機関です。地球温暖化に関する最新の知見の評価や対策技術や政策の実現性やその効果、それが無い場合の被害想定結果に関する科学的知見の評価を提供しています。「評価報告書」(Assessment Report)は地球温暖化に関する世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した報告書で、国際政治および各国の政策に強い影響を与えています。

この報告書の著者のうち約3分の2が、今世紀末までに世界の気温が産業革命前より少なくとも3度上昇すると予想していることが、2021年1月、英科学誌ネイチャーのアンケートで明らかになっています。

カーボンリサイクルの現状と今後の市場

富士経済の調査では、2019年のCO2分離/カーボンリサイクル関連の世界における市場規模は、2030年 には2019年比17.2%増の約5兆6928億円に拡大すると予測しています。

カーボンニュートラルを実現するため、カーボンリサイクルの開発・実装を促進していくことが欠かせません。現時点におけるカーボンリサイクルの状況、そして将来目指すべき姿について、環境省が発表している内容をご紹介します。

これまで(~2020年代)

以前から、カーボンリサイクルの技術開発を促進しようとする風潮が強くなっています。2019年には、資源エネルギー庁にカーボンリサイクル室が設置され、カーボンリサイクル技術に関するロードマップが発表されました。また同年、カーボンリサイクルをテーマにした国際会議が開催されており、国際的にも注目されてきています。

カーボンリサイクルの機運が高まりつつある現状ですが、課題も多く残されています。代表的なものが、CO₂分離のコストです。つまり、物質として安定した構造であるCO₂を分離させることが高コストとなり、採算が合わなくなってしまうという問題です。

カーボンリサイクルの社会実装に向けた日本の取り組み

https://carbon-recycling2021.go.jp/doc/211004j.pdf

2019年時点における世界でのCO₂分離量は、7億トンを超えており2030年には9億トンにまで迫ると言われています。いかに分離技術の発達により、コスト削減を達成できるかがカギとなるでしょう。

2030年

現在では多くのカーボンリサイクルの技術において水素が使われており、CO₂フリーで安価な水素を大量に入手することが課題となっています。そこで2030年頃になると、水素が不要な技術の導入が期待されています。

一方課題となってくるのが、CO₂の利用拡大です。この頃になると、ポリカーボネートやバイオジェット燃料、コンクリート製品(道路ブロックなど)も普及し始めるとされていますが、CO₂利用量は依然として限定的です。また現状の課題でもあるCO₂分離、回収する技術の低コスト化も引き続き、重要課題となりそうです。

2050年以降

2030年頃から普及するポリカーボネートやバイオジェット燃料などの消費が拡大してくるでしょう。さらには、コンクリート製品などの汎用品の普及も本格化し、用途が拡大すると予測されています。またCO₂の分離、回収技術を向上させることで、コストを現在の1/4以下にまで削減することに加えて、分離回収システムの耐久性や信頼性の向上、さらには小型化も目指しています。

カーボンリサイクルの現状から将来に向けてのロードマップについてご紹介しましたが、やはり最大の課題は低コスト化です。水素フリーの技術開発やCO₂回収分離技術の向上により、低コスト化を実現できるかが現状、そして今後の各分野共通の課題となってくるでしょう。

カーボンリサイクルを推し進める国内外企業の取り組み

基幹物質(メタノール、ジェット燃料)

東芝のCO₂資源化技術

電気分解装置

https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/recruit/researchers/kofuji.html

同社は、CO₂資源化技術「Power to Chemicals」の開発に注力しています。本技術によって、再生可能エネルギーを利用してCO₂を一酸化炭素に変換し、一酸化炭素と水素を合わせて合成ガスを生成します。この合成ガスを利用し、さらに触媒反応などを用いることによって、メタノールやジェット燃料などに製品化が可能となります。

同社のCO₂資源化技術の開発品は、CO₂の処理速度が世界最速であると言われており、今後は需要回復が見込まれるジェット燃料をターゲットとし、低炭素な燃料需要に応えていくなど、CO2資源化技術のさらなる実用化を狙っています。

イノックス・ノバはメタノール生産効率化に取り組む

燃料として使用するメタノールをCO₂から生成する取り組みが進められています。ポーランドの環境関連企業であるイノックス・ノバは、デルフト工科大学と共同し、CO₂から効率よくメタノールの生産することを目指しています。背景となるのが、メタノールの合成率の低さです。銅の触媒を使った研究では、合成率は20%という結果にとどまっています。

メタノールの生産

https://manage-solution.com/archives/9278https://manage-solution.com/archives/9278

研究チームは銅の他に亜鉛、アルミを混ぜて触媒を作り、300気圧以上でCO₂と水素の分子を結合させて、95%程度のメタノールの生成に成功しました。同社は試験生産の施設を建設中であり、大量生産のための技術を向上させながら、販路の拡大を目指しています。

化学品(バイオマス)

出光興産が取り組むバイオマス燃料の供給拡大

P2Cによるカーボンリサイクル

https://www.idemitsu.com/jp/news/2020/201202_1.html

石油化学や原油・石炭開発などを中心に事業展開する同社は、温室効果ガス削減を目指した技術開発を推進しています。そこで大きなテーマとして掲げているのがカーボンリサイクルであり、再生可能エネルギーであるバイオマス燃料の供給拡大に向けた施策を打ち出しています。

バイオマス燃料は石炭と混焼することで、ボイラーからのCO₂排出量を削減することができます。木質ペレットを酸素がない環境下で加熱して生成されたブラックペレットは水に強く、従来のホワイトペレットと比較して耐久性においても優れており、石炭同様にハンドリングが可能です。すでに東南アジアでプラントを稼働させており、日本を含めアジア各国への供給を目指しています。

鉱物(セメント)

CO₂を活用した強化コンクリートを生産するカーボンキュア テクノロジーズ

カーボンキュア テクノロジーズ社

https://www.newsfilecorp.com/release/38956/CarbonCure-Closes-Strategic-Investment-Led-by-Breakthrough-Energy-Ventures

カナダのスタートアップである同社は、環境テクノロジー企業であり、CO₂の削減にも力を入れています。その中の取り組みの一つが、セメントの製造過程で大量に発生するCO₂の有効活用であり、排出されたCO₂をコンクリートに注入することで、より強度の高いコンクリートを生産する事業を展開しています。

本来であれば製造過程で大気中に大量のCO₂が流れ出てしまいますが、CO₂と独自の技術を有効活用して強力なコンクリートを生産できるこの取り組みは、CO₂をリサイクルしてより良い製品を生み出そうというまさにカーボンリサイクルの良い例と言えるでしょう。この企業はあのマイクロソフト社のビル・ゲイツも投資をするほど、投資家に注目を浴びている企業です。

さいごに

本記事では、カーボンニュートラル実現に向けての技術であるカーボンリサイクルの現状や今後の市場、さらには分野別の具体的な取り組み事例についてご紹介しました。悪者扱いのCO₂を最大限に利用して新たな製品を生み出そうという取り組みが、大手企業だけでなく、国内外のスタートアップでも浸透しています。

しかし課題が多いのも現状です。特に低コスト化、CO₂活用の幅を広げていくことが、今後の大きな課題となるでしょう。環境関連企業を中心にさらにカーボンリサイクルの技術向上が加速し、環境問題に対する意識がより高くなることを期待しています。

https://www.env.go.jp/press/MOE.pdf
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_01.html
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_recycling2021.html
https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/column/00007/031800016/
https://contech.jp/carboncure/

https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/00993/?ST=msb#:~:text=%E5%AF%8C%E5%A3%AB%E7%B5%8C%E6%B8%88%EF%BC%88%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E4%B8%AD%E5%A4%AE,%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%A8%E4%BA%88%E6%B8%AC%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOHD055KR0V00C21A3000000/

https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/00993/?ST=msb

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/05470/

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