イギリスにおける小売チャネルとその変化

イギリスでは昔から、家に関する管理や修繕などは、できるだけ自分で行う文化(D.I.Y)が根付いています。

首都・ロンドンは物価が高く、戸建ではなく賃貸の世帯も多くありますが、家に関する管理や修繕などを自分で行う文化は現在も受け継がれています。

そのような背景から、イギリスではD.I.Yに必要な本格的な工具セットや各種部材、材料など、家回りに関連するすべてを販売しているホームセンターのような小売店舗が多数存在しています。そして、各小売店舗の種類により、販売している品目の幅や主な顧客層など、異なる特徴を持っています。

今回は、その中でも「カタログ販売」という独特な方式で成長を遂げている小売チャネルについて、ご紹介します。

カタログ注文から実店舗も構えた「Screwfix」の成長と後を追う「Tool station」

1979年創業の「Screwfix」は現在イギリスを代表する大手工具専門店です。

創業時からカタログ冊子の注文方式を導入しており、2005年に初店舗を出店、その後は毎年売上を伸ばしています。

現在では、全国に500店舗以上を展開しており、電気、照明、アウトドア、ガーデニングに関連するハードウェアを中心とした幅広い商品ラインナップと、通常のDIYストアでは取り扱いのない、部品や工具が充実しています。また、ボリュームディスカウントや自社ブランド製品の販売もScrewfixの特徴です。現在では、専門業者向けのカウンターも別途あり、取引実績により質の高いサービスを受けられるため、専門業者の利用も増えております。

一般の人々の中でも、欲しい商品が決まっている場合には使い勝手がよく、価格も他の量販店や工具ショップより安いため、プロや一般人の両方に人気があるD.I.Y専門店と言えます。

店舗には商品も一部陳列されていますが、メインの購入方法はカタログです。お客さんはカタログを見て欲しい商品をレジスタッフに伝えると、在庫を確認してもらえます。在庫があれば持ち帰りが可能で、ない場合には希望する場所へ配送するシステムになっています。

また電話・郵便での注文、またはオンライン注文もでき、配送はもちろん、各店舗で商品を受け取ることも可能です。

Screwfix外観
Screwfixの外観
店内の様子
店内の様子
店内にはカタログ冊子が置かれている
店内にはカタログ冊子が置かれている

イギリスには「Screwfix」以外でも同じような商品を同じような方式で販売している店舗がいくつかありますが、最も競合になっているのが「Tool station」という店舗です。実は、この「Tool Station」を立ち上げたのは「Screwfix」の創業者と同一人物です。

1979年に「Screwfix」を創業したMark Goddard-Watts氏が1999年にイギリスの小売業界の大手グループ「Kingfisher plc」に「Screwfix」を売却した後の2003年に同じコンセプトの店舗を立ち上げたのが「Tool station」です。取り扱っている商材やカタログ方式という販売方式も同じですが、「Tool station」は店舗の立地とより専門家向けのサービスの充実、10%安い価格など、「Screwfix」と差別化を図っています。そして、2012年に「Tool Station」は大手「Travis Perkins」(建設業者向けの卸専門企業)に買収され、その後も着実に店舗数を増やしているところです。(2016年末基準224店舗)

豊富な品揃えと多方式の購買チャネルが強みの「Argos」

次は、より一般的な消費者が普段よく利用する小売チャネルのご紹介です。イギリスの小売チャネルに関する話で欠かせないのが「Argos」です。

1972年創業の「Argos」は現在、全国に840店舗以上を展開しており(アイルランド含む)、家電、工具、幼児用品、スポーツ用品、衣類品、ギフト用品、家具など、生活に必要な用品、すべてのカテゴリーをカバーしているのが特徴です。

主要顧客層は、一般の人々がほとんどです。

販売方式は上記の「Screwfix」と同様、「カタログ方式」ですが、販売している商品のカテゴリーの幅広さにより、UKでは「Amazon」と良く比較されます。

最近では、店舗にはカタログだけではなくiPadも置いてあり、それを使って購入することもできるようになっています。

ARGOS
Argos店内

Argosの外観と店内の様子

カタログ冊子
タッチパネル

店内にはカタログ冊子が置かれている

店舗販売だけではなく、カタログ販売、オンライン販売とさまざまな販売方式を持つ、イギリスの独特な小売チャネルについてご紹介しました。

実店舗においては、カタログやiPadなどの電子端末を置きながらも、スタッフとのコミュニケーションも取ることのできる工夫がされているのではないでしょうか。

これらのカタログ販売方式の小売チャネルが好調であることと対象的に、既存の大手のホームセンター(B&Q, Homebaseなど)は事業縮小や再編へ乗り出しているようです。

この変化については、2点の原因が考えられます。一点は、一般の人でもインターネットなどで簡単にDIYに関する知識を得られるようになり、ホームセンターのスタッフに相談をしなくても商品購入ができるようになったこと。もう一点は、店舗販売はカタログ販売よりも収益性が低いことが挙げられます。

この変化については、今後も意識して見ていく必要がありそうです。

B&Q店内
B&Q外観

B&Qの外観と店内の様子

Homebase外観
Homebase店内

Homebaseの外観と店内の様子

そして、インターネット普及の影響は、販売方式の増加だけではなくイギリスの若者の趣味にも変化をもたらしているようです。

最近では、若者が家の管理に時間を使うのではなく、プライベートや趣味に時間を費やしたいという傾向が強くなっており、自分で家の修繕をする時間が減少傾向にあるようです。そのため、若者の中にはSNSやウェブのコミュニティを利用して格安な業者に家の修理を依頼をするなどして、家の管理を行っている人もいます。

市場調査では、対照となる商材や商品の市場における位置づけや売れ行きだけではなく、このような販売チャネルの変遷とその背景も一緒に把握することで、市場の全体感と今後の動向、ターゲット層の購買行動の変化も理解しやすくなると思います。

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