今回は、日本の歴史ある商品や文化をヨーロッパに持ち込む際のポイントをお伝えいたします。
「ビルトインキッチン」スタイルが主流のヨーロッパ住宅事情
出張の目的の一つはヨーロッパ主要都市におけるビルトインキッチン市場の特性や流通チャネルを把握することでした。ドイツ(ベルリン、ミュンヘン、フランクフルト)、イタリア(ミラノ)、イギリス(ロンドン)の3ヵ国を3週間ほどかけて巡り、ビルトインキッチン家電や家具を扱う数多くの店舗を訪問しました。
日本では、キッチン家電の購入の際にそれぞれほしい物を個別で購入するのが主流ですが、ヨーロッパでは、キッチンの設計と一緒にその内装に合ったテイストやブランドの家具・家電を一式購入するケースが一般的です。
また、キッチンが「家具」という認識であり、空間全体に統一感を与えることが可能な「ビルトインキッチン」(家電を家具に埋め込むタイプ)が主流となっています。
ビルトインキッチンというと、家電もビルトイン型のものを選ぶことが多いですが、場合によっては独立型(Free-standing)で購入し、組み合わせることもできるため、消費者はそれぞれ好みのデザインや予算、用途などに合わせてレゴブロックのように好きなスタイルのキッチンを完成させていくことが可能です。
入居後、一部の家電が壊れてしまった場合には、家電量販店・ネット通販・発注したキッチン業者などから家電単品を購入することも可能です。
ヨーロッパの高級キッチン家電・家具ブランド
それでは、ヨーロッパのキッチン家電ブランドについて、いくつかご紹介いたします。
イタリア老舗ブランド「SMEG(スメッグ)」
イタリアで生まれた家電ブランド「SMEG(スメッグ)」をご存知でしょうか。
オーブン、コンロ、食洗器などのビルトインキッチン家電からケトル、トースターなどの小物家電まで、幅広いキッチン家電を生産・販売しているイタリアの老舗ブランドですが、中でもレトロなデザインとカラフルな色使いがおしゃれ、と大人気なのが冷蔵庫です。
特に韓国では5年ほど前からその冷蔵庫が爆発的に売れ、韓国への出荷専用製造ラインが作られたほどだったそうです。
SmegのUK Headquarters(Oxford近くに位置)
Smegのイタリア本社の近くのショールーム1号店
アジアでは高くておしゃれな冷蔵庫が代表的な商品であり、高級イメージの強いSMEGですが、ヨーロッパのビルトインキッチン市場では、必ずしもそのようなイメージではないようです。レトロ冷蔵庫(商品名:50`s style)は確かに高額なイメージがあるようですが、その他のビルトイン家電に関しては、ローエンドからミドルレンジ向けに幅広いモデルを販売しています。実際、高級なビルトインキッチン家具を取り扱っている家具ショップで取材を行った際も、SMEGのビルトインキッチン家具を「高級」として認識しているところはほとんどなく、独特のデザイン性のあるミドルレンジのブランドという認識が強かったです。
そのようなお話を伺い、同じブランドにおいてもアジア市場とヨーロッパ市場での主力商品やそのイメージにはギャップがあり、ヨーロッパ市場状況を正しく理解するためにはそのギャップをしっかりと認識することが大事であると、強く感じました。
ヨーロッパ市場進出を考える際にも、日本から得られる情報を元に企業やブランドのイメージを断定することなく、きちんと現地市場におけるポジショニングを把握することが成功のカギとなるのではないか、と思われます。
ドイツのキッチンブランド「bulthaup(ブルトハウプ)」
次に、世界50ヵ国以上で販売されているドイツのキッチンブランド「bulthaup(ブルトハウプ)」をご紹介します。
優れた機能性を基盤としたデザインが世界的に人気のあるブランドです。私もイギリス・イタリア・ドイツの3ヵ国でそれぞれの店舗を視察しました。日本でも、東京に店舗を構えています。
家具のデザインのみならず、bulthaupテイストに合う家電も扱っており、ミニマリズムなデザインがヨーロッパでもおしゃれと高い人気を誇っています。ドイツの「Miele(ミーレ)」や「Gaggenau(ガゲナウ)」といった高級キッチン家電も取り扱っています。
畳素材のメリット・デメリット
また、別の調査では、ヨーロッパ市場における日本のデザイン家具需要を検討するため、高級なデザイナーズ家具のセレクトショップ、家具専門店など、フランス(パリ)、イギリス(ロンドン)、ドイツ(デュッセルドルフ)、イタリア(ミラノ)の4ヵ国・50店舗以上を訪問し、ヒアリングを行いました。
この調査では主に、「日本のデザイン」に対するイメージと、畳素材を使った家具の調査を行いました。色変わりをすることがなく、長持ちする機能性の良い畳素材をヨーロッパでプレゼンしたところ、一部の方より意外な反応がありました。
基本的に日本の伝統文化や素材については好意的な意見を多数受けましたが、何人かの業界人(デザイナー、ショップマネージャー、バイヤーなど)が指摘したのは改良された機能性の部分でした。単純にその素材を販売するのであれば耐久性などが重要な要素であるが、芸術性をアピールする高価格帯の家具であれば「本物」の思想が大事であり、工業用として改良され、生産される本物ではない材料は逆にその価値を損なうのではとのことでした。その発想の差は日本人が品質や機能性を重視するのに対して、ヨーロッパの人々はストーリー性やコンセプトを重視する点にありました。ヨーロッパの人が求めている畳素材は、い草の香りのする、色変わりのするような「畳そのものを感じられる素材」だったのです。
また、ヨーロッパの人々の価値観として、大理石や金属を使用しているものが高額になるというイメージもあるため、畳のような石や金属でないものが高額になることはなかなか理解できない部分もあるようでした。
日本人は「カイゼン」が得意で、自分たちの考えるデメリットを解消するために、自分たちの思う機能性や利便性を善くしてしまいがちです。しかし、進出する市場の文化や価値観によっては、日本人がデメリットに思う点もメリットになり、それが市場の需要に結びついていくのではないかと思いました。
ヨーロッパの人々は、日本の文化に非常に興味を持っています。しかし、日本の情報がなかなか届かないことや、商品そのものや送料が含まれることで高額商品となってしまうことから、日本製のものを気軽に購入することが難しいようです。
イタリアでの調査の際、「布団ベット」と呼ばれる商品が置かれており、一部の商品には畳が使われていました。その畳の産地を尋ねると、中国産とのことでした。採算が合えば、高品質な日本の畳素材を使いたいとのことでしたので、今後、日本文化への理解が深まれば、安価なものではなく、高品質な日本製の商品が売れるようになるかもしれません。
イタリアのメーカー 「CINIUS」 和のモチーフを取り入れた家具や和食器などを販売していた
ヨーロッパ市場を獲得するために心得ておきたいポイント
ヨーロッパ諸国を訪れた経験から、日本の歴史ある商品や文化を持ち込む場合に心得ておいていただきたい点をお伝えいたします。
- 商品をプレゼンするためのメディアキットは念入りに準備をすること
- 販売している場所だけではなく、業界全体の人々、または業界の周りの人々にも話を聞くこと
この2点です。その理由について、詳しく説明いたします。
①商品をプレゼンするためのメディアキットは念入りに準備をすること
日本人は、世界の中でも自分たちの商品を魅力的に見せるプレゼン力が弱いと言われます。
しかし、現代は写真、動画などのさまざまなツールがあります。これらのツールを上手く活用し、プレゼンのためのコンテンツをしっかり準備することで、話し方が飛び抜けて上手くなくても伝えられることが増えると思います。
そのためには、市場調査をご依頼していただいた時点で、このようなツールを作成していただくようご協力をお願いすることもあるかもしれません。しかし、海外で日本の商品をしっかりと理解してもらうためには必要な過程だということをご理解ください。
②販売している場所だけではなく、業界全体の人々、または業界の周りの人々にも話を聞くこと
これは、ヨーロッパに限った話ではありませんが、より多くの現場で多くの人々と話すことで物事の本質が見えてきますし、チャンスが巡ってくることもあり得ます。
例えば、今回の調査では店舗だけではなく、家具を扱っているギャラリーにも伺いました。イタリアのギャラリーを訪問した時のこと、「もし本当にヨーロッパに商品を展開することになったら、ギャラリーの庭を貸すからプレスリリースの会場に使っていいよ」と声を掛けてくださったのです。このように人との出会いから、予想しなかったチャンスが生まれてくることもあるのです。
また、今回のように、例えば家具商品の市場受容性にフォーカスした調査であっても、取材対象は家具ショップマネージャー、バイヤー、デザイナー、PR担当者と多岐に渡ります。
プルーヴでは、人的ネットワークの構築が得意な人材が世界中の有名な企業や業界人に独自の方法でアプローチを行い、取材することで、より深い市場調査が可能です。
ヨーロッパの人々が興味を持つ日本文化。ぜひ、日本からだけではなく、ヨーロッパ目線で理解を深めてみませんか。