ホームセンターを展開する業界大手のDCMは、10月2日に島忠に対しTOBを行う意志を示し、島忠もこれに賛同しました。10月5日から買い付けが進められていましたが、10月29日、ニトリがDCMを3割上回る1株5500円で島忠に対して突然のTOBを発表したのです。

12月12日、ホームセンター大手のDCMホールディングスが島忠へのTOBが不成立になったと発表し、DCMとニトリのTOB合戦はニトリに軍配が上がる可能性が高まりました。
ニトリとDCMはなぜ島忠を買収したかったのでしょうか。
ここではこの2社が島忠買収によって何を実現したいのかをご説明し、ホームセンター業界と家具(インテリア)業界の動向についてご紹介します。
家具業界動向
家具業界の売上は1990年代がピークで、現在と比べると約半分以下になっているほど家具需要(特に家具一式で買う需要)は減少しています。
しかし、その中でもニトリの低価格戦略や、無印良品のブランド戦略、LOWYAのEC特化戦略の事例のように、好調な企業も少なからずあります。従来の家具を販売する企業は苦境に立たされていることは変わりませんが、このような勝ち組企業の存在により、2016年以降、業界売上は伸びています。
BtoC-ECの売上の内訳は約7割が家事雑貨、家事用消耗品が占め、残りの約3割が一般家具、寝具類です。2019年の BtoC-EC の市場規模は1兆7,428億円で、対前年比で8.36%上昇しており、EC化率は23.32%となっています。
家具は商品サイズが大きく、限られた売り場面積で家具類は豊富なラインナップを取り揃えることにどこの企業も頭を悩ませています。
しかし、このハンディキャップを利用してECと組み合わせることで相乗効果が出るとの期待があります。その理由は以下の3つの観点から言えるでしょう。
- 各家庭の事情に合わせて、サイズや色に関して詳細なニーズがある
- ECサイトの活用によって実店舗で展示しきれない同商品の色違いやサイズ違いが閲覧可能となる
- 家具類を利用した部屋のコーディネートパターンを紹介することができる
ECと共に拡張現実(AR)の技術も取り入れることで相乗効果も期待できます。
家具やインテリア商品をECサイトで購入する前に実店舗で実物を確認したい顧客も多く、AR導入ははEC購入へのハードルを下げるのではないかと期待されています。

https://www.shimachu.co.jp/service/furniture/3d.html
圧倒的業界1位のニトリ
ニトリは21年2月期に37期連続増収増益を目指す、コロナ禍での勝ち組企業の代表格となっています。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2009/28/news010_3.html
「お、ねだん以上。ニトリ」をCMのキャッチコピーとしているニトリは、北海道を中心に沖縄、海外は台湾まで約500店舗を展開しています。
業界ナンバーワンのニトリの売上高は4500億円を超えており、そのうちの4,492億円がインテリア部門です。
「お求めやすさ」が売りで、大型家具からインテリア用品まで求めやすいリーズナブルな価格で商品を提供しています。
ニトリとIKEA
ニトリの最大のライバルと言われているのがIKEAです。
売上を比較してみると、全世界に422店舗、日本に約10店舗(2020年は14店舗まで拡大予定)を持つIKEAは4兆円を超えています。一方ニトリは国内に541店舗、海外に66店舗持ち、売上は約6億となっています。

https://note.com/ayanapeace/n/nb7edc7ad8d83
IKEAは粗利率はそれほど高いとは言えませんが、販管費率が27.6%と低く、非常にローコストオペレーションが徹底されています。IKEAの店舗は1店舗8000~1万坪の郊外型大型店舗を出店し、1店舗当たりの売り上げは約100億円となっており、商圏内のシェアを取る戦略を取っています。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2009/28/news010_2.html
しかし、ニトリはIKEAより13年も早い2004年からECを開始し、ここ10年でオンラインの売上は継続して好調な伸びを見せています。
2012年2月期決算で約67億円だったのが、2017年には約226億円、今年2020年には約443億円までにものぼっているのです。
IKEAは2017年にEC事業を始めたばかりで、売上の約10%をECで稼ぐまでに成長したニトリの後を追っています。
渋谷の店舗で真っ向勝負のIKEAとニトリ
今年2020年冬、渋谷はIKEAとニトリの決戦の場となっています。
近年ニトリは、ここ最近、都心型小型店開発に乗り出しており、「生活費が高く、狭い家」に居住する都心部の人向けに住まいを提案することを狙いとしています。IKEAは今まで土地の広い郊外での出店に重きを置いていましたが、都市部のニトリと似た「好立地の小規模郊外型店舗」を開店しました。

https://www.ikea.com/jp/ja/stores/harajuku-pube424fb30

https://www.kenbiya.com/ar/ns/region/tokyo/4294.html
IKEAは郊外の巨大な敷地で家具を陳列していますが、今回の渋谷の店舗ではそのようには行きません。IKEAにとってハンディキャップとなる狭い敷地では、実際に触るのは店舗で、購入するのはECサイトと、顧客に対してオンラインショッピングへの導線を作っています。
ホームセンター業界
それでは次にホームセンター業界の動向を見てみましょう。
空間通信は、2000年当時、郊外大型商業集積の増加に伴って店舗数や売上は年々右肩上がりの成長を続けていたと述べています。
社団法人日本DIY協会は、ホームセンター業界の売上高のピークは2005年の3兆9,880億円で、その後は景気低迷や通販業態等との競合により頭打ちが続いていると示しています。
多くのホームセンター業界の企業が、生き残りのために、扱いが小さかった農業や建設等のプロ需要や、生鮮食品の販売にも注力せざるを得ない状況です。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/nc/18/061600179/061600001/
ホームセンター業界の企業は、既存店の売上が上がっても下がっても新店を出せば全体の売り上げは伸びるので、成長は新店頼みとなるという特徴を持っています。都心部に出店を目指そうとすると家賃が高くなって収益率が下がり、新店効果が薄れてしまうのです。

https://diamond-rm.net/market/56992/
それではホームセンター業界2019年売上高ランキング1位のカインズのご紹介をします。
カインズ
1978年、栃木にできたホームセンター1号店を皮切りに、1994年には100店舗を達成し、大きな成長を実現しています。
カインズのホームセンターが人気の理由の1つに、他店を圧倒する激安価格であることが挙げられます。
2000年に大手チェーン店が乱立しホームセンター各社は頭打ちになっている中、カインズの売上は右肩上がりになっています。

https://news123.work/entertainment/tsuburenaimise200322-cainz/#toc1
カインズは2020年2月期の売上高は4410億円と発表し、前年同期比からは196億円上積みし、4.7%増となりました。これまでホームセンター業界でトップだったDCMの20年2月期の営業収益は4373億円であったことから、カインズが売上高で業界トップに躍り出ました。
同社は2019年3月に高家氏が社長に就任した際、「IT小売業に生まれ変わる」と宣言し、デジタル攻勢に乗り出しています。同年3月、2019~2021年度の3カ年中期経営計画において、デジタル関連事業に3年間で100億から150億円を投資すると表明しています。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1907/01/news006.html
具体的なデジタル戦略として、顧客が物を買うときに感じる手間を解消したり、感動を呼び起こすような体験を提供したりといったサービスを検討しているようです。
DCMとニトリによる島忠M&A争奪戦
DCMとニトリが争奪戦をした島忠はどのような企業なのでしょうか。
島忠は、1893年に創業者の島村忠太郎氏が埼玉県でたんす屋として開業し、1969年、「家具の島忠」を設立しました。島忠に社名を変更し、1982年に東京証券取引所2部、1991年には同1部へ上場を果たしました。家具にも強みを持ち、ホームセンター事業が主軸となっている企業です。
家具小売売上ランキングで見てみると1999年は2位、2017年では6位になっています。

2018年に同社が発表した中長期計画では、売上と営業利益がともに落ち込んでいることが分かります。

※島忠の中長期計画より
http://ke.kabupro.jp/tsp/20181012/140120181012417150.pdf
コロナ禍ではホームセンター各社が4月から5月に「コロナ特需」で売上を伸ばす中、島忠だけは家具業態が足を引っ張り減少に転じました。中には休業に追い込まれた店舗もあったようで、6月以降取り戻したものの9月からは再び売上高が下がっています。
島忠の強みは、家賃の高い首都圏に店舗を60店舗持っている点が挙げられますが、コロナ渦においてこの強みは裏目に出てしまいました。なぜなら、コロナウイルス感染拡大以降、23区を中心に東京都の人口は減少し、東京から地方に生活の拠点を移す人々や企業が少しずつ増えているからです。
このような痛手が顕著になる中、DCMから買収の話があり島忠は同意する姿勢を見せていましたが、買収の話が進む過程で急遽ニトリが参戦。最終的に島忠はニトリに子会社化されることになりました。
それでは次に、ニトリとDCMそれぞれから見た島忠の魅力を見てみましょう。
ニトリから見た島忠の魅力
島忠が首都圏に持つ土地の資産価値が高い
島忠は都心に60店舗を持っており、首都圏に所有する土地の価値は1500億円以上と言われています。

https://www.nhk.or.jp/ohayou/biz/20201030/index.html
ホームセンター事業に乗り出すことができる
ニトリがこの買収をきっかけにホームセンター事業に進出したいという意向を示しています。
もともと家具を扱っていた島忠と親和性があるのも理由の一つかもしれません。
島忠は経営においては「優秀」と評されることも多く、ニトリと島忠の1店舗あたりの売上を見てみると島忠の方が高いことが分かります。このこともニトリはDCMにとって非常に魅力的だったのではないでしょうか。

ニトリは今後ファッションにも力を入れていくようです。
「N+」(エヌプラス)というブランドを立ち上げ、働く女性のための洋服を企画し、通販サイトも強化しています。家具やインテリアからホームセンターやファッションへと事業拡大する方向と見られており、今後ニトリの課題は顧客に対して「家具屋」というイメージを払拭することになるでしょう。
DCMから見たニトリの魅力
DCMが持っていなかった首都圏にアプローチできる
DCMと島忠はともにホームセンター業界の大手ですが、DCMは北海道、東北、東海地方を中心に680店舗ほど展開し、関東圏が弱かったため買収を試みました。
島忠を買収すればこの弱点を補完することができ、全国規模で店舗展開が可能になることを期待していました。

ECが好調なニトリの今後の脅威はAmazonか
これまでEC化の浸透により、書店、家電量販店、アパレルなどのリアルな店舗が大きな打撃を受けてきました。今後影響を受ける業界は家具業界と指摘する経済専門家もいます。
実際、EC発祥の国であるアメリカでは家具のEC化が急速に進んでおり、今後日本にもその波が来ることは間違いありません。ニトリは日本の家具業界ではいち早くEC事業を取り入れましたが、Amazonの存在を考えると安穏としていられないかもしれません。
アメリカの家具業界の現在のEC化率は18%と、まだそれほど浸透しているとは言えません。しかし、Amazonの家具部門のゼネラルマネージャーは「Amazonでも家具は急成長中のカテゴリーの1つ」と述べ、急速に家具カテゴリーへ力を入れ始めています。
具体的には、ジョージア州に大型家具の配送を短期化するための倉庫を完成させ、大型家具の配送では当たり前だった送料も無料にする動きを見せています。
デジタル化においてもAmazonは最先端技術を取り入れ、ARを利用した家具配置のシュミレーションを始めとし、家具ECの弱点も克服することに注力しています。
■最後に
家具業界、ホームセンター業界の動向や、島忠買収の経緯などを見ると、今後ニトリはホームセンター業界においてもプレゼンスを示し始めることは間違いないでしょう。
もともと家具のEC化には意外な需要があり、今後まだ続くとみられるコロナ渦において、ニーズが高まる可能性は大いにあるでしょう。EC化で出遅れたIKEAもニトリに対抗するために、デジタル化を加速させていくかもしれません。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58347?imp=0
https://www.iza.ne.jp/kiji/economy/news/201101/ecn20110114420003-n4.html
https://diamond.jp/articles/-/194423?page=3
https://www.interfactory.co.jp/blog/furniture/
https://toyokeizai.net/articles/-/380544?page=3
https://diamond-rm.net/management/49955/2/
https://maonline.jp/articles/whats_shimachu_201118
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ1195V0R11C20A2000000
https://biz-journal.jp/2020/11/post_188047_3.html