日本の駅弁は、世界からみて珍しい文化です。
多くの国において移動中の食事は軽食で済ます傾向にあるため、幕の内弁当スタイルの駅弁に馴染みがないためです。
アニメや漫画、和食などに注目が集まっているなか、このような日本の文化を世界に発信することはファンの獲得に役立つでしょう。
そこで本記事では海外進出を検討している方に向けて、日本と海外の駅弁文化や海外進出を果たした企業の事例を紹介します。
日本の駅弁文化の歴史
海外に日本の駅弁文化を発信するためにも、まずは日本の駅弁のはじまりから現在に至るまでの歴史について理解を深めましょう。この章では、駅弁のはじまり・最盛期・現在について紹介します。
駅弁のはじまりは「おにぎり」から
駅弁のはじまりは、日本鉄道宇都宮駅で1885年に「白木屋」が販売した、「おにぎり2個」と「たくあん2切れ」を竹の皮に包んだ弁当です。※諸説あります。
おにぎりはゴマをまぶしただけで、現在の駅弁のイメージとは違い質素なものでした。
なお現在の折詰スタイルの駅弁は、それから4年後の1889年の姫路駅で「まねき」が販売した幕の内弁当がはじまりです。
戦後の駅弁ブーム
日本の駅弁が一気に全国に拡大したのは、戦後の駅弁ブームでした。戦後の日本は高度経済成長を迎え、列車で旅行を楽しむ人が増えたためです。
例えば昭和30年代・40年代の新婚旅行といえば、列車で「宮崎」へ行くのが定番で、新婚旅行専用列車が登場したほどでした。このような列車の長旅と駅弁は切っても切れない関係のため、全国各地でご当地弁当が登場し、大きな盛り上がりをみせます。
当時、発売された駅弁の一例は以下のとおりです。
- シウマイ弁当(崎陽軒)
- 峠の釜めし(荻野屋)
- だるま弁当(高崎弁当)
- ますのすし(源)
峠の釜めしは小型の土釜を器にした弁当で、見た目のインパクトに加えて、保温性に優れているので温かいお弁当を食べられることから人気を博しました。開発した夫婦のエピソードは、ドラマの「釜めし夫婦」のモデルにもなっています。
これらの駅弁は定番商品として、今でも人気を誇っています。
日本で人気の駅弁3選
現在では、列車に乗らなくてもインターネット販売や、百貨店が企画する駅弁グランプリなどで各地の駅弁を楽しむことも可能です。この章では、最近の駅弁の流行りを把握するために、JR東日本が開催した「駅弁味の陣 2022」のグランプリ・入賞した商品の一部を紹介します。
■駅弁味の陣 2022
1位:津軽の弁当 お魚だらけ
2位:鉄道開業150年記念弁当
味覚賞:津軽づくし弁当
ご当地の食材を使い、旅の気分を高めてくれる駅弁が現在でも人気のようです。
参考:JR東日本「駅弁味の陣2022 結果発表」
海外での駅弁の文化
海外でも駅弁の文化が浸透している地域があります。そのなかから台湾・パリ・韓国における駅弁文化の背景や現状などについて紹介します。
台湾の駅弁文化の背景・現状
台湾の駅弁文化は日本の統治時代に伝わり、70年の歴史があります。日本文化がもとになっていることから、見た目も日本の駅弁と似ているのが特徴です。ただし、台湾では冷めた料理を食べる習慣がないため、駅弁も温かい状態で提供される点が日本と異なります。
台湾では駅弁文化がすでに根付いており、イベントなども定期的に開催されています。2023年の台北駅の駅弁フェスでは、約12万人が来場したほどです。このことからも、台湾は駅弁に馴染みがある地域とわかるでしょう。
パリでの駅弁文化の背景・現状
フランスのパリには、もともと駅弁の文化はありません。
パリに住む人は電車で長距離を移動する際、どのようにしているのでしょうか。その答えは、サンドイッチやサラダなどの軽食です。また特急列車などでは食堂車両で食事をしたり、売店のある車両で購入したりします。
そのようなパリで近年、漫画やアニメの影響から日本のお弁当が人気を集めています。フランス語でもそのまま「BENTO」と呼ぶほどです。
2018年には、日本文化を広めるためにパリで「ジャポニスム2018」が開催されました。イベントでは1ヵ月にわたり駅弁7種類を販売し、ほぼ全日にわたり完売するほどの大成功を収めています。
つまりフランスには駅弁文化がないものの、「EKIBEN」が受け入れられる可能性を示したイベント結果といえるでしょう。
韓国の駅弁文化の背景・現状
韓国でも駅弁の文化はないと思っている方もいるかもしれませんが、昭和初期に日本と同じように駅弁が販売されていました。例えば、金泉(キムチョン)駅で販売されていた「鳥めし」が人気だったそうです。
現在、ソウル駅構内には日本の弁当屋さんとしてお馴染みの「Hotto Motto(ほっともっと)」が出店しており、韓国の進出事例として注目されています。
駅弁の海外進出の事例
駅弁は日本や台湾、韓国などの限られた地域の文化です。そのため、駅弁で海外進出をしようとした場合、駅弁とはどのようなものかを伝えるのが難しいでしょう。また食べ物を取り扱うため、食材の規制に対応する必要もあります。
この章では、駅弁で海外進出した企業の事例から成功のポイントについて解説します。
事例①ひっぱりだこ飯「淡路屋」
出典:淡路屋
「淡路屋」は、たこつぼ風の容器で有名な「ひっぱりだこ飯」の駅弁メーカーです。会社概要は以下のとおりです。
社名 | 株式会社 淡路屋 |
創業 | 明治36年1月 |
資本金 | 5,000万円 |
年商 | 47.3億円 (2022年12月) |
所在地 | 神戸市東灘区 |
淡路屋は海外進出として、台湾の駅弁フェスへ2019年と2023年に出展しています。2023年は「ひっぱりだこ飯」と「台湾版ひっぱりだこ飯」の各150個が連日完売しました。
知名度の高さ・容器のインパクトから注目を集めたのが成功の理由です。
しかし、すべてが順調だったわけではなく、食材の調達・調理に相当の苦労がありました。なぜなら日本で製造した商品を輸入・販売できないため、現地で食材の調達・調理・盛り付けをしなければいけないためです。
例えば、タコのすり身をイカのすり身に変えるなどの創意工夫により、販売価格を抑えながら品質を維持するといった具合です。
参考:東洋経済「名物駅弁「ひっぱりだこ飯」、台湾で販売の舞台裏」
事例②鶏めし「花善」
出展:鶏めし パリ花善
「花善」は、70年以上も人気を誇る「鶏めし」を製造・販売しているメーカーです。会社概要は以下のとおりです。
社名 | 株式会社 花善 |
創業 | 明治32年11月 |
資本金 | 3,762万円 |
所在地 | 秋田県大館市 |
花善は淡路屋とともに、パリのリヨン駅で開催された「ジャポニスム2018」に参加しました。その経験をもとに現地法人「AS ParisHanazen」を立ち上げ、常設店舗「1899ToriMeshi」の開業を実現しています。
さらに2021年に1ヵ月間限定でパリのリヨン駅構内に出店し、日本の「EKIBEN」をフランスに広める挑戦を続けています。
現地でこだわったのは日本の鶏めしの味で、それが功を奏して美食家の多いフランス人にも好評でした。
ただし花善も淡路屋と同様に、パリに進出する際には食材の規制に苦労しています。例えば、現地の法規制で弁当は4℃以下で保存しなければならず、4℃以下の保存ではご飯が硬くなってしまうためです。花善は水分量を増やすなどで問題をクリアしていますが、食材の規制は海外進出の共通の問題点といえるでしょう。
まとめ
日本の駅弁は、他の地域にはあまりみられない珍しい文化といえます。そのため、日本に関心のある外国人にとって興味深い話題です。フランスのように「BENTO文化」が浸透した地域もあるほどなので、日本の文化を積極的に発信することで海外のファン獲得にも役立つでしょう。
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