常温常圧超伝導について解説。超伝導とは?ビジネスへの影響は?

2023年7月22日に、韓国の研究機関「Quantum Energy Research Centre」がarXivにて発表した論文をきっかけに「常温常圧超伝導」が話題になっています。

論文は常温かつ常圧で超伝導状態になる「LK-99」を開発したという内容で、論文の再現性を確認できれば、これまでの常識を覆す発見になります。

この論文が世界に衝撃を与えている理由は、主に以下の3点です。

  • 常温・常圧で超伝導状態を実現できること
  • わりと簡単に作れること
  • 産業革命をはるかに超える革命が起こる可能性があること

しかしマニアックな内容のため、「常温常圧超伝導は何に役立つの?」「そもそも超伝導って何?」など、疑問に思う方も多いでしょう。

そこで本記事では、超伝導の基礎知識と常温常圧超伝導の可能性について解説します。

話題のテーマですので、ぜひご覧ください。

そもそも超伝導とは?

超伝導とは、超低温で物質の電気抵抗がゼロになる現象のことです。

一方、銅や金などの電気伝導体は電気を流しやすい特性があるものの、電気抵抗はゼロではありません。その証拠に電気伝導体の銅線に電気を流すと、暖かくなります。銅線の電気抵抗により、電気が熱に変換されてしまうためです。

ちなみに、超伝導と超電導という2つの表記が使用されますが、どちらも正しい表現となります。学術的な分野では超伝導を、産業界などの応用的な分野では超電導と使うことが多いようです。

超伝導の歴史

超伝導の歴史のはじまりは1911年です。オランダのカマリン・オンネスが※4K(-269℃)で水銀の電気抵抗がゼロになるのを発見しました。

※K(ケルビン)は絶対温度の単位で、0Kは-273.15℃を意味します。

その後、スズや鉛でも起こることが発見され、多くの研究者が超伝導について研究するようになります。

超伝導の研究がさらに一歩進んだのは、1957年にバーディーン、クーパー、シュリーファーの3人の科学者により提唱された「BCS理論」です。BCS理論は超伝導の研究だけではなく、多くの物理学に影響を与えるほど完成度の高い理論でした。

しかし、BCS理論では超伝導現象が起こるのは30K(-243℃)程度と推察されました。この温度帯のことを「BCSの壁」と呼び、この壁を突破する超伝導体の発見が研究者の大きなテーマになっていきます。

1986年に、ベドノルツとミュラーにより30K(-243℃)の超伝導体が発見されたのを皮切りに、BCSの壁を大きく打ち破る92K(-181℃)の高温超伝導体が発見されます。

ここでの高温超伝導とは、液体窒素温度77K(−195.8 °C)以上で転移するものを指します。それまで高価な液体ヘリウム(温度4K)を用いて冷却していましたが、液体ヘリウムより安価(おおよそ1/10の価格)な液体窒素を用いても超伝導に転移出来るため、様々な可能性が広がることになります。

その後も多くの研究者が現在に至るまで、より常温・より常圧に近い超伝導体を探しているのが超伝導の歴史です。

つまり、常温常圧超伝導体は人類の夢とも呼べるほど、長い間研究者が探し求めていた物質なのです。

超伝導の特徴と応用

超伝導体について理解を深めるためには、以下の2つの特徴が重要になります。

  • ゼロ抵抗
  • 完全反磁性・マイスナー効果

ほかにも「ジョセフソン効果」や「磁束の量子化」などの特徴もありますが、内容が難しいため、ここでは2つの特徴について解説します。

電気抵抗がゼロ

超伝導体の最も基本的で重要な特徴は、電気抵抗がゼロなことです。

電気抵抗がゼロになると、電流を流しても電流の損失がなくなります。そのため超伝導体の閉じた回路に電流を流すと、電流が減衰しないため、いつまでも電流が流れ続けます。

まるで流れるプールに水が回り続けるように、回路のなかを電流がグルグルと流れ続けるのです。

少しでも抵抗があると、熱が発生して電流が減衰するため、この回路を実現することはできません。

マイスナー効果・完全反磁性

超伝導の大きな特徴の1つが完全反磁性です。

完全反磁性はマイスナー効果とも呼ばれ、超伝導体の外側から磁石で磁場をかけても、超伝導体内部の磁束密度がゼロになる現象です。簡単にいえば、超伝導体は外側からの磁場を打ち消す反磁性を持つため、磁場を押しのけてしまいます。

ただし、外側からの磁場があるレベルよりも強くなると、超伝導体状態を維持できなくなり、常伝導状態に戻ります。

超伝導の反磁性を利用した有名な現象は、「ピン止め効果」です。

磁石に近づけたまま超伝導状態にすると、まるでピン止めしたように動かなくなることから、そのように呼ばれます。

超伝導と聞くと、空中に浮いている超伝導体をイメージする方も多いでしょう。空中に浮かぶ現象も「ピン止め効果」を利用しているのです。

超伝導の応用例

超伝導の特徴を応用することで、様々な技術開発につながると期待されています。

例えば、電流を減衰せずに流し続けられる超伝導の特性を活かした、超伝導エネルギー貯蔵装置(SMES)です。

超伝導エネルギー貯蔵装置は、バッテリーと異なり充放電による性能低下がありません。電気エネルギーを蓄える次世代の装置として開発が進められています。

ほかにも超伝導変圧器や超伝導ケーブルなどへの応用が期待されています。

現在使われている場所

超伝導は未来の話ではなく、現時点ですでに使われている技術です。ここでは以下の3つの事例について紹介します。

  • 超伝導リニアモーターカー
  • 核磁気共鳴画像法(MRI)
  • 超伝導転移端センサー

超伝導リニアモーターカー

超伝導リニアモーターカーは、現時点でまだ開発中ですが、実用化に向けて着実に開発が進められています。

強力な超伝導磁石によって車両を浮かせることで、車両とレールとの摩擦をなくし、時速500kmという超高速走行を実現できるのです。実用化されれば、東京と大阪をわずか1時間で移動できるようになります。

核磁気共鳴画像法(MRI)

核磁気共鳴画像法は、体の内部を可視化できる医療機器で、MRIの名で知られています。レントゲンとの違いは、X線などの放射線を使わないため、非破壊・非侵襲的な測定ができることです。

ただし核磁気共鳴画像法を実現するには、強力な磁場が必要になります。その強力な磁場を生み出すために、超伝導のコイルに電流を流しているのです。

つまり超伝導は、現在の医療を支えている技術といえます。

超伝導転移端センサー

超伝導転移端センサーとは、超伝導現象を利用した光検出器のことです。光パルスのエネルギーを検知することで、光子1個単位での測定が可能です。量子暗号通信や量子情報通信ネットワークを支える技術として期待されています。

常温常圧超伝導が実現したらどうなる?

常温常圧超伝導は「人類の夢」や「成功すれば産業革命を超える革命が起こる」といわれるほど、世界に大きな影響を与えると考えられています。

例えば超伝導ケーブルにより、発電した電気エネルギーを損失なく伝達できるでしょう。つまり、世界規模での電気エネルギー網を構築することも可能になります。

また、世界中がリニアモーターカーで結ばれ、移動時間を大幅に短縮できるかもしれません。

ほかにもパソコンのCPUやGPUに常温常圧超伝導を使うことで、計算処理能力を向上させたり、冷却ファンをつける必要がなくなったりするでしょう。

まとめ

韓国の研究チームによる「常温常圧超伝導」は、この記事の執筆段階ではまだ検証中です。

今後、世界中の研究者が論文の再現性を確かめるなかで、実現できる技術なのかそうではないのかが判明するでしょう。また仮に「実現できる」としても、実用化までにどのくらいの時間がかかるかわかりません。

しかしながら、常温常圧超伝導が実現・実用化されたら大きなビジネスチャンスになるのは間違いありません。

商機を逃さないために、今後も研究の進捗について注視しましょう。

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