砂漠地帯や石油の産出などで有名な中東地域。日本との貿易関係といえば、原油、石油関連製品の輸入がメインです。現在、日本の原油輸入量の約90パーセント弱が中東からの輸入に頼っている状態といわれています。日本から中東地域への輸出はどのような状況となっているのでしょうか?今回は日本とは文化の異なる中東地域の輸入規制について記述していきます。
中東地域の市場の特色
この地域では、原油価格の乱高下、将来的な脱炭素社会による原油需要の低下、そして地域的、政治的な紛争も存在し不安定な状況が発生することもしばしば。そして比較的自由に貿易が可能なアメリカなどの貿易国とは異なり、中東の多くの国々はイスラム教による宗教上の理由や、政治的な理由により、多くの品目が輸入する際に規制がかかります。
しかしながら中東地域は、原油産出による多くの富裕層の存在、GDPの高さなどでも世界的に経済的注目度は高く、その中でさらに将来を見据えて原油産業から少しずつ脱却し、観光や金融など他の産業にも注力し始めている状況です。さらに人口も比較的多いため、新たな大市場として開発するために、世界中の各国や各企業から関心を集めています。
主な規制
食品
中東地域に居住する人々の大半はイスラム教を信仰しています。イスラム教には「ハラル(ハラール)」という、イスラム教の法に則っているもののことを指す言葉が存在します。
食品をはじめ、生活用品のあらゆるものがハラルかそうでないか分けられており、そのためハラルに則っていない品目については、輸出の規制が行われる場合があります。ちなみにハラルではないもののことは「ハラム」と呼ばれています。
イスラム教で禁じられている食品として有名なものは、豚肉ですよね。イスラム教では、豚肉そのものだけではなく、エキスや豚由来の成分を使用したものも禁止としています。そして、他の食材や、ハラルで食することが許される肉の種類であったとしても、その肉は畜肉の生産、屠殺、そして調理方法もハラルに則っているか否かが問われます。
そしてハラルには認証制度が存在し、その認定を受けることで輸出の際にハラルではないものを輸出してしまうことを防ぐことも可能です。しかしながら現在は認定するさまざまな団体があり、国や地域で認められている団体が異なるため、注意が必要。
酒類
そのほかイスラム教で禁じられている有名なものとしては、酒類。中東以外の国々のイスラム教信者は地域や個人により、飲酒の認識は異なってきますが、中東では厳格にルールが決められ、飲酒が禁止されている地域も存在しています。酒類の輸入にも厳格なルールがあり、輸入の許可と販売の許可を受けている企業のみが輸入可能となっています。ただし許可が取れさえすれば、ドバイなどの観光地の観光客がバーやレストランで飲酒をすることは認められているため、日本からの酒類の輸出も可能。高所得者が多い地域や観光産業の発達した地域では、日本産の日本酒や焼酎などの人気が大変高まっています。
石油
石油産出で有名な中東諸国。豊富な原油埋蔵量と、それを販売することによっての豊富な資金があり、経済的にも恵まれている国が多く存在します。このオイルマネーの存在と異なる価値観の中で、中東の主要6ヶ国「湾岸協力理事会」(GCC)内ではどのような状況なのでしょうか。
中東地域のその他の規制
中東地域のその他の規制といえば、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故により日本からの食品の輸入が規制されていた国々も存在します。この規制は2016年ごろから徐々に撤廃され、現在中東地域では規制を行なっている国は存在しません。ほぼ日本への輸出は石油関係、そして日本からの輸入は自動車関連物品などで、特に規制かかることがない限り維持されていくでしょう。
自動車関係の輸出量は、中東が他国への中継地としての役割を目的で使用されている場合が多いため、輸出先であるアフリカやその他地域の需要が高まらない限りは安定しているはずです。輸入物もほぼ石油、天然ガス関係なので、原油の大幅な高騰、枯渇、紛争が起こらない限りは輸入量もしばらく安定しているといえます。そして石油のみに頼る経済基盤の脱却を図っている地域が多く、観光や金融などの産業にも力を入れている状況です。その中で輸出入に関しては、中東地域ほぼ同様にイスラム教の教えに則り輸出規制を行っているような形になります。
中東地域向けビジネスのポテンシャル
アラブ首長国連邦
ペルシャ湾に沿ってサウジアラビアの南東側に存在し、世界のセレブが集まる「ドバイ」で有名なアラブ首長国連邦(UAE)。ドバイはアラブ首長国連邦の7つの首長国のうちの1つで、世界の金融都市でもあり、観光などにも力を入れている1970年台から急速に発展した都市です。
UAEの日本からの輸出金額は2018年で、約79億ドル規模。その中でも乗用車が約55パーセントを占め、その次にエンジンが約4パーセントとなっています。ここから日本からの輸出の半数以上が自動車関連製品だということがわかります。日本からの中古車輸出台数は2018年に約12万6千台と、日本の中古車輸出国では最大の値となります。
UAEからの輸入額はというと、2018年で約275億ドル。輸出額とは桁が異なりますね。これはUAEが石油産出国であり、日本は大量に消費する石油を海外から輸入し、日本の石油輸入量の25%ほどがUAEからの輸入に頼っている理由によるものです。そして、石油、天然ガス関連で日本への輸出量の約95パーセントを占めています。
中東地域内の状況は、現在カタールとは領有権などと理由により紛争があり、カタールからの輸入は禁止されている状況です。
カタール
カタールはUAEの北側、サウジアラビアの東側に存在し、日本の秋田県ほどの小さなサイズの国。20年以上前になりますが、サッカーのワールドカップ予選で、「ドーハの悲劇」が起こったドーハは、カタールの首都です。カタールも他の中東の国々と同じく自動車関係または電気関係の物品が多く日本から輸出されており、その金額は2019年に約11億ドル。そしてカタールからの輸入は910億ドル。こちらも液化天然ガスや石油関係のものがほとんどになります。
しかしながら、2017年にテロ支援国家として各地域から外交を閉ざされ「カタール危機」が起こったものの、2021年には周辺各国が国交を再び行うとして合意され、これにより一層活発な経済交流活動が行われると予想されています。
サウジアラビア
それでは世界最大の原油埋蔵量を誇るサウジアラビアはどうでしょうか?UAEより少ない日本からの輸出額は2018年に、約41億ドル。こちらも自動車が約56パーセントを占めています。サウジアラビアからの輸入額は約337億ドル。こちらも石油関連のもので90パーセント以上を占めており、日本の原油輸入量の中でサウジアラビアからの輸入が近年最も多くなっています。さすが世界有数の石油産出国ですね。
サウジアラビアには、湾岸協力会議標準化機構(GSO)の本部があり、この機関は政治、経済的問題を加盟国(GCC)と共同で規準を作成し遂行しています。その中にハラルに関する規定もあり、それに基づいて輸出入の規制をしています。
酒類にはもちろんアルコールが含まれているため、厳格なイスラム教徒が多いサウジアラビアでは、飲酒以外のアルコールの使用も倦厭される場合もあります。そしてさらに、ドラッグに関しても大変厳しい法律が存在します。もちろん多くの国々においても違法で、輸出入に制限がかかる地域が多いことは当然ですが、特にこの地域では厳しく定められています。サウジアラビアでは、ドラッグのみならず通常の医薬品に関しても「Saudi Food and Drug Authority」による輸入制限があり、誤って日本から輸出してしまった場合は厳罰を受ける可能性があるので注意が必要です。
バーレーン
ペルシャ湾の奥に位置し、30以上の島々からなる国。レジャーや観光など商業目的に大規模な開発が進んでおり、開発に数十億円をかけ、海に人口島を造成した「アムワージ島」が有名です。貿易額は他の中東諸国より少なく、2015年対日輸出が10億ドルほど、そして4億ドルで、他の中東諸国とは異なり、対日の輸入が上回るような内容です。
クウェート
1990年、イラクのクウェートによる侵攻のために始まった湾岸戦争で知られるクウェート。ペルシャ湾の一番奥に位置しており、四国より少し面積の小さな国です。クウェートも石油産出国の1つで、国土は小さいものの石油産出量は2016年で世界第4位の規模。2020年の日本への輸出は44億ドルほどで、他の中東諸国と同じく、原油、石油製品、天然ガスなどが主な輸出品目になります。
日本からの輸入は、14億ドルで、内訳は、自動車、鉄鋼、機械製品となります。クウェートでも飲酒に関して厳格に定められており、飲酒は全面的に禁止されています。
オマーン
アラビア海に面しオアシスがところどころにあり、農業可能地域も存在するオマーン。海に面しているため漁業も盛んです。日本の輸入額は27億ドル程で輸出額は21億ドルほど。他の国々と異なり、輸出と輸入の金額がそれほど離れてはいませんが、品目的には輸入品は石油天然ガス等、輸出は自動車、機械関連と他の中東地域と同じような内容となっています。
オマーンも石油中心の経済から、別の産業へと経済を展開しようと試みており、観光にも力を入れています。貿易に関しても他国とFTAを結ぶなど活発に行っていますが、輸入に関しては他地域と同様に厳しく規制が存在します。武器やアルコールの規制はもちろんイスラム教に則り、いかがわしい出版物や人形、玩具等も規制されています。
まとめ
このように中東に地域では、特に宗教上の理由で日本からの輸出が難しい物品が多くあります。輸出を行う際にはシステムの理解と、細心の注意を払い商品と規制内容を確認する必要があります。
中東の国々は石油輸出を中心とする経済基盤を有し、それによる経済の発展により富裕層が多数存在し、海外製品への興味が年々増加しているような状況です。特に日本の伝統的な品目や精密な工業製品などは中東でも人気があり、これから益々需要が増していくことが考えられます。宗教や文化の違いはあれど、お互いに理解をし合い、経済の発展へと協力していきたいですね。
^ハラル認証
https://jhba.jp/service/certification/
^ハラールとは
https://jhalal.com/halal
^アラブ首長国連邦対日貿易
https://www.jftc.or.jp/kids/kids_news/japan/country/UAE.html
^カタール
https://www.jftc.or.jp/kids/kids_news/japan/country/Qatar.html
^カタール危機からの回復
https://www.google.co.jp/amp/s/www.asahi.com/amp/articles/ASP163VLHP15UHBI02V.html
^サウジアラビア
https://www.jftc.or.jp/kids/kids_news/japan/country/Saudi_Arabia.html
^サウジアラビアの医薬品輸入制限
https://www.expatica.com/sa/living/gov-law-admin/rules-and-laws-on-drugs-and-alcohol-in-saudi-arabia-71303/
^バーレーン
http://www.asianinvestmentintelligence.com/report/uploads/pdf/kuni1.pdf
^バーレーン貿易
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/bahrain/data.html
https://www.bh.emb-japan.go.jp/itpr_ja/economy.html
^オマーン貿易
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/oman/data.html
^オマーン輸出規制品目
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001598/guidebook_oman.pdf