日本には大小さまざまな山があり、四季折々の風景を楽しめます。加えて初級者から上級者まで楽しめる山があるため、登山は人気のアウトドアレジャーの1つです。
そのような登山大国の日本から登山用品で世界進出に成功したのが株式会社モンベルです。
本記事では海外進出を検討している経営者に向けて、成功事例として株式会社モンベルの海外進出の歴史と戦略を解説します。
登山用品の市場規模
Business Research Insightsの「登山用品市場レポート」によると、2021年の登山用品市場規模は14億1,485万ドルでした。さらに、今後は年間平均成長率11.54%で成長すると予想されており、2031年には40億8,000万ドルまで急拡大する見込みです。つまり、世界で驚異的な成長をしているのが登山用品市場といえます。
国内の登山人口の推移
公益財団法人日本生産性本部の「レジャー白書」によると、国内の登山人口は2017年に650万人でした。しかし、新型コロナウイルスの影響を受けて、2020年は460万人、2021年は440万人に減少しました。そして、2022年は540万人に回復しています。
日本には初級者から上級者まで楽しめる山があり、登山は代表的なアウトドアレジャーの1つです。その証拠に世界で最も多くの登山者が訪れるのは、東京都の高尾山です。高尾山には年間300万人が登山に訪れるとされています。
このように日本は登山大国で、登山の魅力を知っている国ともいえます。その日本で登山用品を取り扱う株式会社モンベルは、海外に進出することで新たなビジネスチャンスを創出しているのです。
株式会社モンベルとは
出典:株式会社モンベル
株式会社モンベルは大阪に本社をおく、日本を代表する登山用品メーカーです。この章では、株式会社モンベルの会社概要や企業理念、海外進出の歴史・戦略を紹介します。
会社概要
株式会社モンベルの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | 株式会社モンベル(非上場企業) |
設立 | 1975年8月1日 |
本社 | 大阪 |
グループ年商 | 約1,100億円(2022年度) |
従業員数 | 1,280人 |
事業内容 | アウトドア用品の企画・製造・販売 |
株式会社モンベルは、世界的に有名な登山家の辰野 勇氏が1975年に2人の仲間とともに創業した企業です。同氏は登山家としての経歴だけではなく、登山やアウトドアに関する著作物を数多く出版し、さらに大学の客員教授を務めるなど多岐にわたって活躍しています。
株式会社モンベルのコンセプトは、「Function is Beauty(機能美)」と「Light & Fast(軽量と迅速)」です。丈夫で機能性に優れた同社の製品は、世界のアウトドア用品を牽引してきたといえます。
海外拠点一覧
株式会社モンベルは海外に15拠点あり、一覧は以下のとおりです。
国・地域 | 店舗名 |
アメリカ | ・Montbell Boulder Store ・モンベルアメリカ |
スイス | ・Montbell Zermatt Store ・Montbell Grindelwald Store ・モンベルスイス |
ロシア | ・TRAMONTANA., LTD ・PRIMALP., LTD |
中国 | ・CATHAY OUTDOOR Co., LTD. |
台湾 | ・Orient Fair Development Ltd. |
韓国 | ・MBK Corporation Co., Ltd. |
シンガポール | ・X-Boundaries |
タイ | ・Live Action Co.,Ltd |
オーストラリア | ・ADLER NOMINEES PTY.LTD |
モンゴル | ・BTF Online Store |
マレーシア | ・Momentum Strike Sdn Bhd |
海外拠点より、主要な進出先はアメリカ・スイス・ロシア・アジアといえます。
企業理念
株式会社モンベルは企業理念として、以下の7つのミッションを掲げています。
1. 自然環境保全意識の向上
自然環境への負荷をできる限り減らす取り組みです。アウトドアに携わる企業として、自然環境の保全を重視しています。
2. 野外活動を通じて子供たちの生きる力を育む
「川の学校」などの野外体験を応援しています。「川の学校」は川で遊ぶ子供を育てることで、自然への関心を引き出そうとする取り組みです。
3. 健康寿命の増進
アウトドアの活動により、高齢者の健康の増進に取り組んでいます。
4. 自然災害への対応力
阪神淡路大震災以降、「アウトドア義援隊」を結成して被災地支援を行っています。
5. エコツーリズムを通じた地域経済活性
地方自治体と連携しながら地域経済活性のための取り組みです。エコツーリズムとは、地域の自然や歴史などの魅力を観光客に伝えながら、観光資源の保全にも配慮する観光のあり方です。
6. 一次産業(農林水産業)への支援
一次産業への支援として「フレンドマーケット」を運営し、全国のフレンドエリア・フレンドショップの商品を販売しています。※フレンドエリア・フレンドショップとは、モンベル会員が優待を受けられる地域や店舗のこと。
7. 高齢者・障害者のバリアフリー実現
高齢者・障害者がいきいきと活躍できるように、バリアフリー社会の実現を目指しています。
この7つのミッションを軸に、アウトドア以外の分野にも活動範囲を広げているのが株式会社モンベルの特徴です。
海外進出の歴史
株式会社モンベルは、創業当初の早い段階から積極的に海外進出に取り組んできました。ここでは、海外進出の歴史について紹介します。
- 1975年:株式会社モンベルを設立
- 1977年:西ドイツのスポーツ店にモンベル オリジナル商品を輸出開始
- 1984年:アメリカ・西ドイツ・オーストラリア・英国に輸出開始
- 1986年:モンベルクラブを発足
- 2005年:モンベルグループのスイス法人を設立
- 2009年:アメリカのアウトドア専門誌から「2009 Editor’s Choice Award」を受賞
- 2010年:アメリカのアウトドア専門誌から「2010 Gear of the Year」を受賞
- 2011年:アメリカのクライミング専門誌から「Alpinist Mountain Standards」を受賞
- 2013年:ヨーロッパ最大のアウトドア国際見本市で「OutDoor INDUSTRY AWARD 2013」を受賞
- 2016年:ヨーロッパ最大のアウトドア国際見本市で「OutDoor INDUSTRY AWARD 2016」を受賞
- 2019年:アメリカのアウトドア専門誌から「2019 Editor‘s Choice Snow Award」を受賞
このように、近年ではアメリカやヨーロッパなどから高い評価を得ており、同地域で知名度を高めている証拠といえます。
海外進出の戦略
出典:モンベルアメリカ
株式会社モンベルの当初の目標は、30年後に国内の登山市場500億円の2割に該当する100億円を売り上げることでした。しかし、国内だけで展開していては達成できない可能性があると考え、開業3年目で海外進出を決意します。
海外進出を軌道に乗せるために創業者の辰野 勇氏は、アポなしで海外の販売店に飛び込み営業をしたり、アメリカ全土の販売店に行脚したりするなど、ずば抜けた行動力で切り開いてきたそうです。
現在では、グループ全体で1,100億円を売り上げるほどに成長しています。
また、海外進出の1つの方法としてECサイトを活用しています。具体的にはモンベルアメリカのECサイトで100カ国以上への出荷に対応していることです。海外からの発送となると送料が心配になるかもしれませんが、200米ドル以上の買い物であれば送料が無料となるため、海外からの購入がしやすいように配慮されています。
このように、世界中の登山愛好家に商品を届ける仕組みを構築することで、さらなる事業拡大を図っています。
参考:日経ビジネス「モンベル・辰野会長 「馬なり 道なり」で柔軟に進もう」
参考:致知出版社「登山家というのは恐がりなんです——モンベルが早くから 海外展開をした理由」
自社の強みを生かした海外進出をしよう
海外進出を成功するためのカギは、自社の強みを生かすことです。
株式会社モンベルは創業者が登山家という強みを生かすことで、消費者から受け入れられる製品の開発や海外進出に成功した企業といえます。
これから海外進出に挑戦したい経営者は株式会社モンベルを参考に、自社の強みを生かした事業を検討してみましょう。