フィリピンの2023年の実質GDP成長率は前年比5.6%でした。フィリピン政府の目標である6.0%~7.0%に達しなかったものの、高い成長率を維持しています。
そのため、日本のビジネスパーソンのなかにはフィリピンに進出したいと考えている方もいるでしょう。
同地域に進出するためには、さまざまな分野に影響力を持つ財閥について知っておく必要があります。本記事ではフィリピンへの進出を検討している方に向けて、フィリピン財閥のアヤラグループの歴史や主要事業、中期経営戦略を紹介します。
参考:JETRO(日本貿易振興機構)「2023年のGDP成長率は前年比5.6%と通年目標を下回るも、政府は経済の好調を強調」
フィリピン財閥のアヤラグループとは
アヤラグループはフィリピン最古の財閥です。不動産や金融、通信、水道などの事業を展開しています。アヤラグループの持株会社「Ayala Corporation(アヤラコーポレーション)」によると、グループ全体の2023年の売上高は3,418億フィリピン・ペソ(約8,203億円)でした。1フィリピン・ペソ=2.4円換算
この章では、アヤラグループの歴史や主要事業、日本企業との協業事例を紹介します。
歴史
アヤラグループの始まりは、1834年にドミンゴ・ロハス氏とアントニオ・デ・アヤラ氏が蒸留所を設立したことです。190年の歴史を持つことから、フィリピン最古の財閥として知られています。
その後、1851年にはフィリピン初の銀行を設立し、1970年には通信事業に進出しました。さらに1990年には電子製造サービス事業に進出しました。
このように事業の多角化を推進したことで、現在の巨大なコングロマリットに成長しています。
なお現在は、ハイメ・アウグスト・ゾベル・デ・アヤラ氏がアヤラグループを率いています。
主要事業
現在のアヤラグループの主要事業は、以下の4つです。
- 不動産
- 金融
- 通信
- 電力・再生可能エネルギー
アヤラグループ全体に占める主要事業の売上高の割合は以下のとおりです。
出典:Ayala Corporation「Disclosures」
主要事業のなかでも不動産事業の占める割合が高く、主要事業以外には水・教育・ヘルスケア・物流・電気自動車などの事業があります。
この章では主要事業の事業内容や概要について紹介します。
Ayala Land, Inc.(アヤラランド):不動産
アヤラグループの不動産事業を担う関連会社はAyala Land, Inc.(アヤラランド)です。
アヤラランドはフィリピンの大手不動産企業で、住宅やショッピングモール、オフィス、レジャー施設などの開発を行っています。具体的には52棟の複合用途不動産、34棟のショッピングモール、6つの工業団地などをフィリピン全土に展開しています。
アヤラランドの2023年の売上高は、1,489億フィリピン・ペソ(約3,573億円)でした。
また、もともとアヤラランドはアヤラコーポレーションの不動産事業でしたが、1988年に独立し現在はアヤラコーポレーションの子会社として活動しています。
BPI(バンク・オブ・ザ・フィリピン・アイランズ):金融
アヤラグループの金融事業はBPI(バンク・オブ・ザ・フィリピン・アイランズ)が担っています。
BPIは1851年に設立した東南アジアで初の銀行です。消費者向け銀行業務や融資、資産管理、保険、証券仲介などの事業を行っています。
フィリピン全土に1,173の支店があり、2,700以上のATMを設置しています。2023年の売上高は、1,382億フィリピン・ペソ(約3,316億円)でした。
なお2023年12月末時点でアヤラコーポレーションはBPIの株式30.6%を保有しています。
Globe Telecom, Inc.(グローブ・テレコム):通信
アヤラグループの通信事業を担っているのは、Globe Telecom, Inc.(グローブ・テレコム)です。グローブ・テレコムの事業内容は、通信・金融テクノロジー・デジタルマーケティングソリューションなどです。
同社は5,700万人のモバイルユーザー、180万人のインターネット回線ユーザー、さらには82万8,000人の固定電話ユーザーを抱えています。フィリピン最大手の通信企業で、2023年の売上高は1,623億フィリピン・ペソ(約3,895億円)でした。
またアヤラコーポレーションがグローブ・テレコムの株式14.6%(2024年3月末時点)を保有し、ハイメ・アウグスト・ゾベル・デ・アヤラ氏が会長を務めるなど、両社は強固な関係を築いています。
ACEN(エー・シー・イー・エヌ):電力・再生可能エネルギー
電力・再生可能エネルギー事業は、ACEN(エー・シー・イー・エヌ)が担っています。ACENはフィリピン・オーストラリア・ベトナム・インド・インドネシアで、再生可能エネルギーの発電施設を運営している企業です。
ACENは2025年までの目標に掲げていた、「同社の発電施設を100%再生可能エネルギーにする」をすでに達成しました。また、当初の計画よりも約2年早く再生可能エネルギー容量の5GWの実現を達成しています。
次の目標に、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを掲げています。
日本企業との協業事例:株式会社ローソン
アヤラグループはフィリピンで大きな影響力を持つ財閥です。そのため、日本企業のなかには、フィリピンでの事業拡大のために業務提携をしている企業もあります。
そのような企業の1つが株式会社ローソンです。
株式会社ローソンはコンビニエンスチェーンを展開している企業で、フィリピンにも2015年に進出しています。
2019年9月末時点で55店舗でしたが、2023年度までに500店舗に拡大することを目的に、2019年10月に業務提携をしました。
結果、現在のフィリピンでの出店数は144店舗(2024年2月末時点)です。目標は達成していないものの、業務提携により着実に店舗数を増やしています。
参考:株式会社ローソン「AC Infrastructure Holdings Corporationとローソンが業務提携合意」
アヤラグループの中期経営戦略
アヤラグループは中期経営戦略として、以下の3つの柱を重視しています。
・Focused Execution(集中的に実行)
設備投資や主要事業の拡大、振興事業で主導権を取るなどを目的に、リソースや資本を効率的に使用して優れた実行力を発揮することです。
・Brand & Transformation(ブランドと変革)
顧客のニーズに応える製品・サービスにより、ブランディングを図ることです。アヤラグループは顧客体験を重視しつつ、新産業の開拓も積極的に行っています。
・Leadership in Sustainability(持続可能性におけるリーダーシップ)
アヤラグループは2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げています。このような目標を達成し、持続可能性における先駆的な役割を果たすことです。
フィリピンへ進出するならアヤラグループをチェックしよう
アヤラグループはフィリピン最古の財閥で、同地域において高い知名度・大きな影響力があります。そのため、フィリピンへの進出を検討している経営者は、アヤラグループの事業内容や動向をチェックしてみましょう。