フィリピンは急激に人口が増えている国です。
2020年の調査によると同国の人口は1億903万人で、前回の2015年の調査から約805万人が増加しました。フィリピンの2015年から2020年の年平均人口増加率は1.63%でした。日本の同期間におけるマイナス0.28%と比較すると、高い水準を維持していることがわかります。
人口増加によるメリットは、豊富な労働力により経済成長が期待できることです。
このような背景からフィリピンに進出したい経営者もいるでしょう。今回は、フィリピンへ進出する際の基礎知識として、フィリピン財閥のサンミゲルグループの概要や事業内容、持続可能性への取り組みを紹介します。
参考:JETRO(日本貿易振興機関)「2020年の人口は1億903万人、5年間で800万人超増加」
フィリピン財閥のサンミゲルグループとは
フィリピン財閥のサンミゲルグループは、食品・飲料・パッケージング・エネルギー・燃料・インフラなど、さまざまな事業を展開しているコングロマリットです。とくに、フィリピン有数のビールメーカーを運営していることで知られています。
2022年のグループ全体の売上高は、1兆5,065億フィリピン・ペソ(約3兆6,156億円)で、営業利益は267億フィリピン・ペソ(約640億円)でした。※1フィリピン・ペソ=2.4円
この章ではサンミゲルグループの歴史や事業内容、日本企業との協業事例を紹介します。
歴史
サンミゲルグループのはじまりは、1890年にスペイン人のドン・エンリケ氏がマニラに東南アジアで初のビール醸造所を設立したことです。当時のフィリピンは、スペインの植民地であったことから、スペイン人のドン・エンリケ氏がスペイン王から醸造許可をとって設立しました。
ビールの製造・販売により事業を拡大し、1914年には上海や香港などのアジアに向けてビールの輸出を開始しました。さらに1948年には、香港初のビール工場を設立するに至ります。また2007年には事業多角化プログラムとして石油精製やエネルギー、インフラ事業などの成長分野への事業拡大を図りました。
現在では、50,433人の従業員を抱え、アジア太平洋地域に100以上の主要施設を保有しています。
事業内容
サンミゲルグループの主要事業は以下の5つです。
- 食品・飲料
- パッケージング
- エネルギー
- 燃料・石油
- インフラ
各主要事業がサンミゲルグループ全体の売上に占める割合は以下のとおりです。
参考:San Miguel Corporation「ANNUAL REPORTS」
サンミゲルグループは、ビール事業で発展してきた財閥ですが、事業の多角化を推進した結果、現在では燃料・石油が最も売上の多い事業に成長しています。この章では、主要事業の事業内容について紹介します。
食品・飲料
サンミゲルグループの食品・飲料事業を担う関連企業は、San Miguel Food and Beverage, Inc. (SMFB)です。SMFBはビールやジン、鶏肉、アイスクリーム、加工肉や缶詰などの製造、販売を行っています。2022年の売上高は3,585億フィリピン・ペソ(約8,604億円)で、営業利益は487億フィリピン・ペソ(約1,168億円)でした。
パッケージング
サンミゲルグループのパッケージング事業を担う関連企業は、San Miguel Yamamura Packaging Corporation (SMYPC)です。SMYPCはサンミゲルグループと日本山村硝子株式会社の合弁会社で、アルミ缶・ペットボトル・包装用品の製造・販売や飲料の充填など、さまざまな事業を展開しています。2022年の売上高は267億フィリピン・ペソ(約640億円)で、営業利益は16億フィリピン・ペソ(約38億円)でした。
エネルギー
サンミゲルグループのエネルギー事業を担う関連企業は、San Miguel Global Power Holdings Corp(SMGP)です。SMGPの事業内容は、天然ガス・石炭・水力を利用した発電所やバッテリーエネルギー貯蔵システムの運営、電力供給整備の維持管理です。2022年12月31日時点で合計4,719MWの発電容量を保有しています。2022年の売上高は2,128億フィリピン・ペソ(約5,107億円)で、営業利益は172億フィリピン・ペソ(約412億円)でした。※バッテリーエネルギー貯蔵システムとは、再生可能エネルギーで発電した電力をバッテリーに貯蔵する仕組みのこと。
燃料・石油
サンミゲルグループの燃料・石油事業を担う関連企業は、Petron Corporationです。同社はフィリピンとマレーシアで原油を精製し、石油製品を販売しています。フィリピンには約1,900、マレーシアには750以上のサービスステーションを展開しています。2022年の売上高は8,416億フィリピン・ペソ(約2兆198億円)で、営業利益は457億フィリピン・ペソ(約1,096億円)でした。
インフラ
サンミゲルグループのインフラ事業はSan Miguel Corporationが担い、高速道路・幹線道路・空港・鉄道などのインフラネットワークを管理・運営しています。2022年の売上高は290億フィリピン・ペソ(約696億円)で、営業利益は142億フィリピン・ペソ(約340億円)でした。
日本企業の協業事例
日本企業のなかには、フィリピンだけではなく、周辺地域への進出に向けた足がかりを作ることを目的にサンミゲルグループと提携している企業があります。代表的な企業は、キリンホールディングス株式会社と日本山村硝子株式会社です。ここでは、2社の事例について紹介します。
キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社は、アジアやオセアニアへの進出に向けた足がかりとして、2002年にSan Miguel Corporationへ出資しました。その後2009年に、ビール事業を担うSan Miguel Brewery, Incの発行済株式総数の約43%を取得しました。
そして、2013年にサンミゲルグループのタイ工場で「キリン一番搾り」を製造し、タイ国内での販売を開始しています。また、フィリピンでもSan Miguel Brewery, Incを介して販売されていることから、提携によりキリンブランドの東南アジアへの進出は成功したといえます。
日本山村硝子株式会社
日本山村硝子株式会社は、ガラスびんやプラスチック容器の製造・販売をしている企業です。
同社は1991年にサンミゲル山村アジアをサンミゲルグループと共同で設立し、東南アジアやオーストラリア、中東、アフリカなどに多用途のガラスびんの製造販売を行っています。さらに2008年にはSan Miguel Yamamura Packaging Corporationを共同で設立し、包装容器資材の販売や充填事業を手掛けています。
サンミゲルグループの持続可能性への取り組み
サンミゲルグループの中長期経営戦略は、持続可能性への取り組みです。取り組みで重要視する要素を3つの柱に掲げています。
・KALIKASAN(地球にやさしい)
組織や地域社会など、関わるすべての人々の幸福を高めること。
・KALINGA(人々にとって良い)
気候対策変動や資源管理、循環型経済の実現に向けた取り組みで環境を保護すること。
・KASAGANAHAN(進歩に良い)
包括的な経済成長を推進すること。
具体的な目標は以下の4つです。
- 2040年までに循環型経済のアプローチを確立する
- 2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを達成する
- 2030年までに少なくとも1,500万人の生活を向上させる
- 2040年までに完全に持続可能で倫理的なサプライチェーンを実現すること
フィリピンへ進出するならサンミゲルグループと提携しよう
成長が著しいフィリピンへ進出を検討しているなら、同地域において知名度・影響力が強く、さまざまな分野でビジネスを展開しているサンミゲルグループと提携するのも1つの方法です。また、フィリピンの拠点を足がかりに、東南アジアやオセアニアなどに進出を果たした企業もあります。ぜひこの機会に提携を検討してみてはいかがでしょうか。