
世界的にサステナビリティへの関心が高まる中、企業はサプライチェーンの人権・環境リスクに取り組むことが求められています。実際、欧米を中心にサプライチェーンDD(デューデリジェンス)の法制化が進んでおり、海外事業を展開する企業にとって避けられない問題です。本記事では、海外事業においてサプライチェーンDDの対応が前提条件になりつつある現状と、日本企業への影響をわかりやすく解説します。
DD(デューデリジェンス)とは何か?
DDは「デューデリジェンス(Due diligence)」の略で、企業が「当然行われるべき注意義務」を意味します。今回取り上げるサプライチェーンDDにおいても、企業がサプライチェーンに対して適切な注意を払い、リスクを把握し対応するという意味で用いられています。
なお、一般的にビジネス用語の「DD」は、M&Aにおいて売り手企業に行われる調査のことです。
サプライチェーンDD法とは何か?
サプライチェーンDD法とは、サプライチェーンの人権・環境リスクへの取り組みに関する制度の総称です。具体的には、原材料の調達・製造・物流・販売の一連の過程で、リスクがないかを確認し、情報開示や是正措置を講じるといった対応が求められます。
従来、こうした取り組みは企業の自主的な活動に位置付けられていました。しかし近年は、欧米を中心に法制化が進んでいます。その結果、サプライチェーンDDは、「望ましい取り組み」から「していることが前提」へと変わりつつあります。
サプライチェーンDD法の目的
グローバル化が進む中、企業の活動は複数の国・地域に広がっています。こうした状況において、企業がサプライチェーンに対して責任を負うことを明確にすることが法制化の狙いです。具体的には次のような目的があります。
- 強制労働・児童労働などの人権侵害の防止
- 森林破壊や環境汚染などのリスクの低減
- 企業の透明性向上と説明責任の確保
- 公正な競争環境の整備
これらを通じて、企業活動を持続可能なものへと転換することがサプライチェーンDD法の大きな目的と言えます。
サプライチェーンDD法の主な特徴
各国で制度化が進んでいるサプライチェーンDD法には、次のような共通した特徴があります。
- サプライチェーン全体が対象
- 人権・環境リスクへの取り組みの実施
- リスクの高い領域を優先するリスクベースのアプローチの採用
- 違反時の罰則や制裁措置の可能性
法制化が進む中、海外事業を展開する企業にとっては取引継続や市場参入の前提条件となりつつあります。
世界各国に広がるサプライチェーンDD法制化
サプライチェーンDD法制化は、欧米を中心に広がっています。代表例は以下の通りです。
| 地域・国 | 法規制名 | 主な内容 |
| EU | 欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD) | 企業がバリューチェーンの人権・環境リスクを軽減・是正するための枠組み |
| ドイツ | サプライチェーン・デューデリジェンス法 | サプライチェーンの人権・環境リスクの注意義務を企業に義務付けた規制 |
| フランス | 注意義務法 | 大企業に対して、サプライチェーンの人権・環境リスクの注意義務を定めた規制 |
| 米国・カリフォルニア州 | カリフォルニア州サプライチェーン透明法 | サプライチェーンにおける奴隷制や人身売買対策への取り組みを開示 |
これらの制度はいずれも、企業に対してサプライチェーンのリスクの把握と管理を求めている点が共通しています。
サプライチェーンDD法が広がる背景

サプライチェーンDD法制化が広がっている背景には、企業活動を取りまく環境の変化が挙げられます。ここでは、その主な原因をわかりやすく解説します。
サプライチェーンの多様化・複雑化
企業のサプライチェーンは国境を越えて広がり、多様化・複雑化しています。一つの製品が完成するまでには、原材料の採掘、部品の製造・組み立て、物流など多くの企業が関与しています。
こうした状況を受け、国連では多国籍企業の責任に関する議論が活発化。2011年には「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致で承認されました。さらにG7でも、2015年に指導原則を後押しする形で「責任あるサプライチェーン」が首脳宣言に盛り込まれました。
このような国際的な流れの中、サプライチェーンDDは企業に責任ある行動を求める仕組みとして、各国で制度化が進められているのです。
企業活動に起因する人権・環境リスクの顕在化
近年、サステナビリティへの関心の高まりを背景に、強制労働や児童労働、森林破壊、環境汚染といったサプライチェーン上の問題が国際的に注目される事例が増えています。例えば、西アフリカのカカオ生産をめぐっては、ガーナやコートジボワールなどで児童労働が広く存在することが指摘され、チョコレート産業全体の課題として国際的な議論を呼びました。
またこのような社会課題に対して企業の対応が遅れれば、ブランド毀損や取引停止、投資家からの評価低下につながるリスクが高まります。こうした状況を受け、各国は企業にリスク管理と情報開示を求めるため、サプライチェーンDDの制度化を進めているのです。
ESG投資の拡大
投資家が企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを重視する傾向は、世界的に続いています。こうした背景から、投資家や金融機関が企業に対し、人権・環境リスクへの対応を求める動きが広がっています。これを受け、企業の対応を促す仕組みとして、欧州を中心にサプライチェーンDDの法制化が進められているのです。
サプライチェーンDD法が海外事業に与える影響

サプライチェーンDDは、海外事業を展開する企業にとって無視できない規制です。ここでは、海外事業にどのような影響が及ぶのかを解説します。
サプライチェーンの把握・透明性が求められる
サプライチェーンDD法の多くは、サプライチェーンの人権・環境リスクを把握し、情報開示を企業に求めています。取引先の構造やリスクを把握し、透明性を示すための体制を整えることは、海外事業を継続する上での重要な要件となっています。
海外取引先から対応を求められる
欧米を中心にサプライチェーンDDの法制化が進む中、欧米企業やグローバル企業では、取引先にも規制対応を求める動きが広がっています。質問票への回答や関連資料の提出、監査の受け入れなど、サプライヤー側も対応が求められるケースがあります。
未対応・対応が遅れた場合に起こりうるリスク
サプライチェーンDD法の罰則はそれぞれ異なりますが、対応の遅れや不備は企業に深刻な影響をもたらしかねません。罰則が軽微な制度もある一方で、厳しい制裁が科される制度もあるためです。想定される主なリスクは以下のとおりです。
- 高額な制裁金の発生
- ステークホルダーからの損害賠償請求
- ブランド・企業イメージの毀損
- 取引停止やビジネス機会の喪失
これらは企業価値や事業の継続性に悪影響を与えるリスクです。このことから、サプライチェーンDDへの対応は、海外事業を展開する企業にとって重要課題の一つと言えます。
サプライチェーンDD法への対応は海外事業の「前提条件」
サプライチェーンDDの法制化は、海外事業の前提条件になりつつあります。制度によっては厳格な罰則が科される可能性もあり、海外事業を展開する企業にとって、サプライチェーンDDへの対応は事業の成否を左右する重要な経営課題です。
一方で、制度は地域や国ごとに内容が異なるため、「どの規制にどう対応すべきかわからない」と悩むご担当者様もいらっしゃるでしょう。
こうした課題に対し、プルーヴでは海外法規制調査サービスを提供しています。豊富な実績と独自のネットワークを生かし、各国規制の最新情報から対応まで一貫してサポートします。海外事業のご担当者様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


