2022年5月にスウェーデンとフィンランドがともに、NATOへの加盟を申請しました。背景はロシアがウクライナに侵攻したことで、同地域においてロシアに対する危機感が増したためです。
現在の世界情勢を理解するうえで、NATOの拡大やロシアのウクライナ侵攻は重要なポイントです。そこで本記事では、NATOの概要やスウェーデンとフィンランドがNATOへ加入を目指した背景を紹介します。
NATO(北大西洋条約機構)とは
そもそもNATO(北大西洋条約機構)とは、もともとはソビエト連邦に対抗するために、1949年に欧州10カ国とアメリカ・カナダを加えた全12カ国で発足した軍事同盟でした。
対してソビエト連邦はワルシャワ条約機構を設立し、冷戦時代はNATOとワルシャワ条約機構が牽制しあっていました。
ソビエト連邦の崩壊によりワルシャワ条約機構が1991年に廃止されます。しかし、NATOはその後も活動を続け、軍事的な影響力を強めています。
NATOの中核的任務は、「集団防衛」「危機管理」「協調的安全保障」です。簡単にいえば1つの加盟国が攻撃された場合、加盟国全体への攻撃とみなして反撃する集団防衛を規定することで、他国からの侵略を防いでいるのです。
また2023年4月時点でNATOの加盟国は31カ国で、拡大を続けています。
NATOと日本の関係
日本はNATOには加盟していませんが、パートナー国として協力体制を構築しています。具体的に2023年7月、日・NATO国別適合パートナーシップ計画(ITPP)を合意しました。同計画にてサイバー防衛や自然災害の救助活動、ハイブリッド脅威、宇宙などの新しい安全保障の課題について合同で取り組んでいくとしています。
このように日本とNATOは、近年急速に協力体制を強化しています。一部の加盟国の反対で実現していませんが、日本にNATOの事務所を開設する案がでているほどです。
その背景にはロシアによるウクライナ侵攻や、中国による東シナ海・南シナ海・台湾近辺での活動など、国際情勢の緊迫化があります。
フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を目指す理由
スウェーデンやフィンランドは、長らく軍事的に中立を保っていた国でしたが、2022年5月に揃ってNATO加盟を申請しました。
とくにスウェーデンは200年にわたって「軍事的非同盟」を貫いてきただけに、政治的にも大きな転換点といえます。なぜ両国がこれまでの中立の立場からNATO加盟への申請に至ったかといえば、ロシアのウクライナ侵攻が大きな要因です。
フィンランドはロシアと全長1,300kmもの国境があり、ウクライナ侵攻が他人事ではありません。そのためNATOの集団防衛により、自国を守る必要性があると世論が高まりました。
ただし、NATOに加盟申請したからといって、加盟できるわけではありません。
NATOには全会一致の原則があり、スウェーデンとフィンランドが加盟するには、加盟国すべての承認が必要になるためです。
NATO加盟国のトルコは、両国の加盟について「クルド人武装組織(PKK)の支援をやめること」を条件にしています。つまり両国がNATOに加盟できるかどうかは、トルコの承認を得られるかにかかっています。
23年4月フィンランドのNATO加盟
2023年4月にフィンランドのNATO加盟が正式に承認され、NATOは31カ国となりました。懸念材料であったトルコからの承認を取り付け、申請から1年も経たずに加盟しています。
ロシアと国境を有するフィンランドにとって、ウクライナの二の舞いになる前に加盟できたことは大きな成果といえるでしょう。
ただし、ロシアのプーチン大統領はNATOの東方拡大を安全保障上の脅威と捉えていただけに、NATOとロシアの亀裂はさらに深まると予想されています。
スウェーデンのNATO加盟が遅れた理由
フィンランドは正式に加盟が認められたものの、スウェーデンは2023年10月末時点でまだ認められていません。
スウェーデンの承認が遅れている理由は、トルコとハンガリーが未承認のためです。
トルコはテロ組織として指定しているクルド人武装組織(PKK)の活動を、スウェーデンが許容していると問題視していたため承認を見送っていました。フィンランドの加盟を承認したものの、スウェーデンについては「テロ対策」が不十分という立場でした。
このようななか、テロ対策について2023年7月に両国は新たな協定を結ぶことで合意し、トルコはスウェーデンのNATO加盟を容認する姿勢です。実際にトルコ大統領のエルドアン大統領は、2023年10月23日に承認に向けた議定書を議会に送っており、議会での承認を待っている状態です。
一方、ハンガリーは2023年10月24日に採決を拒否し、現在も承認する姿勢を見せていません。
その理由は、スウェーデンがハンガリーの現政権の政策に対して批判的であることへの不満とされています。ハンガリーはトルコに追随して承認すると見られていただけに、スウェーデンのNATO加盟がいつになるのか先行きが不透明な状態です。
ロシア・ウクライナ戦争とNATO
この章では「ロシア・ウクライナ戦争」における、NATOの関わり方について掘り下げてみます。
結論からいうとNATOはロシア・ウクライナ戦争には参戦していません。なぜなら、ウクライナはNATOの加盟国ではないので、集団防衛の対象ではないためです。またアメリカのバイデン大統領は早々に、ウクライナへの軍派遣を否定しており、ロシアとの軍事衝突を避けたいという思惑もあります。
しかし、NATOにとってもウクライナが侵略されるのを見過ごすわけにはいかず、軍の派遣以外でできる支援をしているのが現状です。
例えば大量の武器や対戦車ミサイル、戦車の提供に加えて、ウクライナ兵の訓練にもNATOの各国が協力しています。ただし、支援内容は「当事者にならない範囲」に収めることで、NATOとロシアの直接的な軍事衝突を避けているのです。
NATOの最優先課題は加盟国の防衛
2021年の秋以降、ウクライナ国境にロシア軍が集結するなか、NATOの最優先課題は加盟国をどのように防衛するかでした。とくにウクライナと国境のあるポーランドとルーマニアは、防衛のために東方の前線が強化されたほどです。
米軍はウクライナへの派遣は否定しているものの、ウクライナ侵攻以降にNATO加盟国への配備を増やしており、6万人規模の在欧米軍が10万人規模にまで拡大しています。
このような防衛強化が功を奏し、ロシア・ウクライナ戦争が始まってから現在まで、NATOとロシアとの軍事衝突を回避しています。NATOの軍事力が抑止力になっている証拠といえるでしょう。
地政学的に見るスウェーデン、フィンランドのNATO加盟
NATOの抑止力が機能しているからこそ、スウェーデンやフィンランドが加盟申請をしたともいえます。しかし、ロシアにとってスウェーデン・フィンランドがNATOに加盟すると、バルト海がほぼ敵対勢力に取り囲まれることを意味します。
バルト海に面したロシアの飛び地であるカリーニングラードは、ロシアにとって重要な拠点です。そのバルト海が敵対勢力に取り囲まれると、カリーニングラードが封鎖されることになります。
このように地政学的に見ても、スウェーデン・フィンランドのNATO加盟は大きな転換点となるのです。
まとめ
ロシア・ウクライナ戦争で、NATOは軍事力による抑止力が機能していることを見せつけました。また、フィンランドに続きスウェーデンもNATOに加盟するとなると、ロシアにとってさらなる抑止力となるはずです。
そのためNATOは欧州の安全保障において、ますます中心的な役割を果たしていくでしょう。今後は、ロシア・ウクライナ戦争の行方とNATOの動向に注視する必要があります。
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