近年、アジアでハブ空港の主導権争いが繰り広げられています。アジアのハブ空港として有名なシンガポールのチャンギ空港では2019年に複合施設「Jewel」が営業開始、韓国の仁川空港では滑走路を増やして旅客者数増を見据えています。
それらに対して日本では国内市場が縮小する中、自国の競争力を高めるためにハブ空港の必要性は認められながらもライバル空港の後塵を拝しているのが現状です。
そこで、この記事では「ハブ空港とは何か」「ハブ空港の条件」について解説します。また世界のハブ空港のランキングにも触れながら、日本のハブ空港の現状や課題などについても記述していきます。
ハブ空港とは
ハブ空港とは、航空ネットワークの中核となる空港のことで、拠点空港と呼ばれることもあります。1798年にアメリカで航空規制緩和がされ、主要航空会社によりハブ・アンド・スポークシステムという輸送システムの誕生によってハブ空港が誕生しました。
ハブ(hub)とは、車輪(ホイール)やプロペラなどの中心にある部品や構造のことで、スポークとは車輪の中心から放射線状に広がる線のことです。輸送システムの形状が自転車の車輪の形に似ていることから、この名前が付けられました。
航空会社ハブ空港と拠点都市ハブ空港
ハブ空港には2つの種類があります。
まず1つ目は航空会社のハブ空港です。これは一つの航空会社が運用の中心と位置づけ、自社の航空便を集約し、また機材や整備、スタッフなどを集約し効率化をするための空港です。
例えば成田空港をハブ空港にしているのは、日本航空・全日空・デルタ航空・ユナイテッドなどです。関西空港は日本航空や全日空のほかに中国の春秋航空もハブ空港として利用しています。
2つ目は拠点都市ハブ空港です。これは航空会社だけでなく、その広域の拠点として利用される空港のことで「ゲートウェイ拠点都市」とも呼ばれています。
ハブ空港のメリット
ハブ空港は運航の拠点となり、そこで航空機を乗り換えて目的地まで行きます。乗り換えが必要になるのがデメリットですが、航空会社にとっては効率的に航空機を効率的に運用できるというメリットがあります。
そのメリットは直行輸送システムと比較するとわかりやすいかもしれません。
各拠点を直接結ぶ直行輸送システムはポイント・トゥ・ポイントシステムと言います。
例えば6つの空港があった場合、ポイント・トゥ・ポイントシステムで直接空港を結ぶと15路線が必要になります。一方で、6つの空港の拠点としてハブ空港を設置したハブ・アンド・スポークシステムの場合、6路線のみで6つの空港を結ぶことが出来ます。
これによりハブ空港とハブ空港を結ぶ路線は大型機で輸送し、ハブ空港から各空港までは小型機で輸送するなどすることで航空会社は効率的な運用が可能になります。
利用者からすると、乗り換えが必要になるデメリットはあるものの、結果的に路線数が減少することによって、逆に一つひとつの路線の便数が増えることにつながり、移動の選択の幅が広がるというメリットがあります。
ハブ空港の条件
日本には97の空港がありますが、アジアの拠点となるようなハブ空港はないといわれています。その地域の拠点となるようなハブ空港があれば、ヒト、モノ、資本、情報が一旦そこに集約され経済成長につながりやすいのですが、その反対にハブ空港がないとそれらは自国を通過し、国際間での経済競争に負けてしまう恐れがあります。
ハブ空港としての機能強化は国としても重要な施策になるのです。
ではハブ空港として発展するためにはどのような条件を満たす必要があるのでしょうか。
ここではハブ空港の条件について見ていきます。
着陸料(空港使用料)が安い
着陸料が安いと航空会社にとって大きなメリットなります。
航空会社としては、その空港に運航を集中させるので必然的に着陸回数が増えます。その着陸料が高ければ航空会社にとっては大きな負担となり、運賃にも影響を及ぼします。
着陸料が安ければ、利用客の航空チケット代や施設使用料などの負担を減らすことにもつながります。
施設が充実している
ハブ空港では乗り継ぎを行うため、次の便までの待ち時間が発生します。場合によっては半日以上空港に滞在するケースも出てきます。その待ち時間をストレスなく過ごすことが出来るかどうかはハブ空港にとって大事な要素となります。
規模の大きなハブ空港はショッピングモールが併設されていたり、映画館があったりと長時間滞在しても退屈させないような工夫がされています。
国際線と国内線の路線が多い
ハブ空港は国内の拠点となるだけではなく、外国への拠点となる必要があります。そのため国際線と国内線の多さは必須となります。ハブ空港による経済的な利益などを考えるのであれば特に国際線の多さは重要です。
また国際線と国内線の乗り継ぎが不便な場合はハブ空港としての機能が弱くなってしまいます。以前日本では、地方から海外に行く場合、国内線で羽田空港まで行き、そこからバスで成田空港。成田空港から海外へという移動手段をとらなければならない場合もありました。日本の場合は、鉄道などの移動手段が充実していることもありますが、国際線と国内線の移動が不便だとハブ空港の条件を果たすことは出来ません。
ただしシンガポール・チャンギ空港のように国際線だけでハブ空港の条件をクリアする空港もあるので、特に国際線の路線が多いことが重要です。
空港間の中心に近い
ハブ・アンド・スポークシステムを効率的に機能させるためには、ハブ空港はスポークの中心に位置している空港がハブ空港になりやすいです。
ハブ空港からの移動距離が長くなってしまっては、経費や時間のロスにつながってしまいます。スポークの中心に位置する空港の方が航空会社としても利用しやすいでしょう。
長い滑走路がある
ハブ空港になるためには、大型の国際長距離便を離発着できるようにしなければいけません。大型旅客機の離発着を可能にするためには滑走路の長さだけでなく、幅も必要になり、さらに誘導路なども基準を満たす必要があります。
さらには、多くの滑走路を持ち、乗り継ぎの離発着数を増やすこともハブ空港にとっては必要な要素になります。
24時間稼働している
24時間かどうしているということはハブ空港にとって重要な条件です。
ハブ空港は世界中の空港としてつながります。その為稼働時間に制約があると利用しにくくなります。空港が終着点であれば24時間稼働しないデメリットは少ないかもしれませんが、中継地点としての役割を果たすのであれば、深夜の時間帯でも稼働させる必要があります。
ただし24時間空港を稼働させるとなると、深夜の騒音問題などが出てきます。その為、24時間稼働できる空港の場所は限られてきます。
貨物のバックヤードが大きい
飛行機で運ぶのは人だけではなく貨物も運びます。貨物便などで運ばれるだけでなく、旅客機の乗客の床の下にも大量の貨物が積載されています。
ハブ空港となると大量の貨物が集まり、集積所の機能を果たさなければいけません。
そのためハブ空港になるためには貨物用の大きなバックヤードが必要になります。
世界のハブ空港
イギリスの航空コンサルタント会社OAGは2018年の「メガハブ空港ランキング」を発表しましたこれは世界の主要航空200を対象に、6時間以内に乗り継ぎ可能な路線(片方または両方のフライトが国際線の場が対象)の便総数などを集計、指標化してランク付けしたものです。
世界の国際メガハブ空港のランキングトップ10は以下の通りです。
国際メガハブ空港ランキング
1位:ロンドン・ヒースロー空港(英国)
2位:シカゴ・オヘア空港 (米国)
3位:フランクフルト空港(ドイツ)
4位:アムステルダム空港(オランダ)
5位:トロント・ピアソン国際空港(カナダ)
6位:ロサンゼルス国際空港(米国)
7位:ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港(米国)
8位:シンガポール・チャンギ国際空港(シンガポール)
9位:シャルルドゴール空港(フランス)
10位:ジャカルタ・スカルノ・ハッタ国際空港(インドネシア)
1位はロンドン・ヒースロー空港です。乗継指標では2位に大きな差をつけての1位でした。2018年の最も運航数が多かった日には、空港にフライトが到着してから6時間以内に出発可能な乗継数のパターンは6万6千便を記録しています。
アジアで最も上位にランクインしたのが8位のシンガポール・チャンギ国際空港です。
シンガポールは国土が狭く国内線がないにも関わらず8位にランクインしています。
チャンギ国際空港は、ショッピング施設などが充実しており、イギリスの航空関連調査会社スカイトラックス社による「ワールドエアポートアワード」など、多くの賞に何度も輝いている世界トップクラスの空港です。
日本にハブ空港はあるの?
日本では成田空港や羽田空港がハブ空港としての役割を果たしています。しかし海外のハブ空港と比較した場合には大きな開きがあるのが現状です。
イギリスの航空コンサルタント会社OAGが発表した2018年の「メガハブ空港ランキング」では羽田空港が21位、成田空港が42位にランクインしています。東アジアの他の国はどうなっているかというと、シンガポール・チャンギ空港8位、ジャカルタ空港10位、クアラルンプール空港12位、香港空港13位、バンコク空港14位、隣国韓国の仁川空港も15位にランクインしています。
このランキングを見ても日本のハブ空港の競争力が弱いということがわかります。
日本の航空政策
2021年現在日本には97もの空港があります。そのなかでも拠点となる空港が28存在しています。また68の空港でジェット機の就航可能になっています。
日本の航空政策の問題点としては「戦略的視点の欠如」があげられます。公共工事により全国に飛行場はつくられ続けてきたもののアジアの拠点となるようなハブ空港を作ることが出来ていないのは、まさに「戦略的視点の欠如」といえるかもしれません。国内市場が縮小し、労働人口が減っていく中、海外からの資源を集めることは必須テーマであったにもかかわらず目先の利益ばかりを追求した結果と言えるでしょう。
現在、日本でハブ空港の役割を担っている羽田空港、成田空港は容量が不足しており、国内線も国際線も機能が欠如している状態です。
今後はハブ空港の機能を向上させ、日本にヒト、モノ、資金、情報などが集まる仕組みを作ることが今後の課題になります。
参考:国土交通省空港一覧
成田空港
日本はアメリカとの航路という点では、他のアジアの国と比べて地理的に優位な位置にあります。実際に日本-アメリカ路線の路線数と便数は、韓国の仁川空港を大きく上回っています。
しかし成田空港は空港建設の歴史的背景から、騒音問題対策として運用時間に制限が設けられています。またB滑走路が十分な長さを持っておらず、発着枠が年間20万回までと制限されていました。その後滑走路は伸びたものの、それでも年間22万回で国際ハブ空港として満足できる数字ではありません。
成田空港がハブ空港として競争力を上げるためには、「24時間の運用」や「滑走路」の整備が不可欠となります。
羽田空港
羽田空港は、都心部まで電車で20分程度で行ける世界的の空港の中でも非常に便利な場所にあります。
羽田空港は2010年の4本目の新滑走路の供用開始を機に、本格的な国際線の運航が開始されました。これにより国際線―国内線の乗り継ぎ機能を持つハブ空港になりました。
しかし羽田空港は多くの国内線が運航していることから、発着数を国際線に割り当てる枠が限定されており国際線―国際線のハブ空港として機能するのが難しい状況です。
ハブ空港としての競争力は弱い者の空港としての世界的評価が高いのが羽田空港です。
航空関連の格付け会社スカイトラックスが発表した2022年空港ランキングでは、2位に選出されています。また部門別では、「世界で最も清潔な空港」では7年連続で1位になるなど高く評価されています。
国際線の運航本数が増えればハブ空港としての競争力もあがるものと考えられます。
関西空港
関西空港もハブ化を目指す空港の一つです、2020年のコロナ禍以前では年々国際旅客便が増え続けていました。ただし増えた便のほとんどがアジアで北米便はほとんど増えていません。関西空港がハブ化を目指すためには長距離路線の強化必要になります。
まとめ
世界中でハブ空港の覇権争いが繰り広げらている中、日本のハブ空港は厳しい状況下に置かれています。日本では今後、人口の減少や国内市場の縮小などが言われている中、海外からヒト、モノ、カネを集める仕組みが必要で、ハブ空港はそのための重要な役割を担うことが出来ると考えられます。
また日本が国内に97もの空港を作りながらもアジアを代表するハブ空港を作れなかったのは、戦略的視点が欠如していた結果かもしれません。
今後の日本にとって、ハブ空港の機能拡充による競争力強化が必要なのかもしれません。