観光業界で話題のdmoとは?意味やメリット、成功事例

観光業界やインバウンド業界に関係している方であれば、「dmo」というワードをきいたことがあるかもしれません。近年よく耳にする「dmo」ですが、その意味や仕組みについてあまり理解していないという方も多いのではないでしょうか。

dmoは観光業界を活性化するだけではなく、日本で問題視されている少子高齢化や人口減少、首都圏への人口集中の対策としても注目されています。

今回はそんな「dmo」の意味やメリット、成功事例についてご紹介します。

dmoとは

dmoとは「Destination Management Organization」または「Destination Marketing Organization」の略で、「観光地域づくり法人」と訳されます。

dmoはもともと欧米の概念で、2007年に世界観光機関によって定義されました。日本に導入されたのは2015年、「日本版DMO候補法人登録制度」が創設されたことでdmoという言葉が広まりました。

では、観光地域づくり法人とはどのような法人のことなのでしょうか。観光庁では次のように定義しています。

地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人です。
出典:国土交通省 観光庁

平たくいうと、観光地域づくりとは「観光客を増やして地域の稼ぐ力を高めるべく、観光産業は観光事業者のみならず、その地域に根付く事業所や住民全体が一丸となり、観光客が流入する仕組みを作ること」と解釈できます。観光地域づくりに関わるのは、宿泊施設や飲食店、農林漁業、地域住民、さらにはインフラを整備する地方公共団体や交通事業者などがあげられます。そういった地域の関係者が主体的に観光地域づくりに参画できるよう、体制を構築するのがdmoの役割です。

dmoの取組内容

dmoは観光地域づくりにおける司令塔となり、現場を動かしていくためのプロジェクトマネジメントを実施する法人です。主な取り組み内容には、次の項目があげられます。

  • 取り組みの企画立案
  • 関係者への合意形成
  • 資金等の必要な資金調達
  • 予算執行管理
  • スケジュール管理
  • PDCAサイクルの実施

dmoと観光協会との違い

dmoの意味と役割についてご紹介しましたが、よく疑問視されるのが「観光協会との違い」です。dmoは観光協会に比べて、より地域に根づいたマーケティングを促進し、顧客目線に立った取り組みが可能といえます。

なぜなら、dmoは地域住民や民間企業などを巻き込んだ「地域一体」のマーケティングを実施するためです。その地域の魅力について、よりリアルな声を届けることが可能となり、観光客に刺さる取り組みができることが期待されています。一方で観光協会は行政の指導に従い、各事業者の都合に合わせて取り組みを実施するため、どうしても事業者目線になりがちな傾向にあります。

dmoが話題となっている理由

次に、なぜdmoが話題となっていて、dmoに取り組む必要があるのかについてご紹介します。ここで出てくるキーワードが「地方創生」と「インバウンド」です。それぞれ解説していきます。

「地方創生」が重要視されている

近年、日本では少子高齢化や人口減少が問題視されており、「地方創生」という言葉が重要視されています。地方創生とは、少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、首都圏へ人口が集中することを是正する対策です。2014年、安倍内閣によって地方活性化政策として定められたことで話題となりました。

地方創生を促進するためには、それぞれの地域で住みよい環境を確保するとともに、観光客誘致を働きかけて地域の「稼ぐ力」を引き出すことが重要です。

そこで注目されているのが「dmo」です。地域の関係者が一体となって「観光地経営」の視点を持つことで、観光客増加と地域活性化が期待できます。その効果が高まればさらなるインフラ設備の構築など、住みよい環境づくりにも繋がります。

インバウンド対策への関心が高まっている

日本では、2019年に過去最高の訪日外国人数となる3188万人を記録しました。その後はコロナ禍となり一時は訪日外国人数がストップ。しかし2022年10月から入国者数の上限撤廃、短期滞在者のビザ免除等が実施され、訪日観光が本格的に再開されています。そこで訪日外国人客に向けたマーケティング・受け入れ体制の見直しが実施されることになり、「インバウンド対策」への関心が急速に高まっています。dmoが注目されているわけは、こうしたインバウンド対策において地方に訪日外国人を誘致する取り組みが必要と考えられているからです。

今やコロナ前後で観光業界の考え方も変わってきており、今まで首都圏に集中していた観光客を今後は地方にも誘致する方針が広まっています。アフターコロナのインバウンド対策が始まりつつある現代こそ、地方を含めた観光地域づくりを進めていくことが重要になります。

dmoに登録するメリット

dmoに登録した場合、どのようなメリットがあるのか気になる方も多いのではないでしょうか。dmoに登録するメリットは、観光庁からの支援が受けられることです。支援の内容は「情報支援」「人材支援」「財政支援」の3つにわけられます。

情報支援

dmoを担ううえで重要とされているのが情報収集です。情報支援では、観光庁が提供している「DMOネット」から情報を入手できます。「DMOネット」の機能は以下の3つです。

  1. マーケティング・マネジメント業務の効率化
  2. 専門事業者・専門人材の検索・活用
  3. その他、dmo等の情報の取得・活用

1つ目の「マーケティング・マネジメント業務の効率化」機能でできることは、地域間の情報共有や、観光地経営に必要なデータの収集・分析、顧客管理や情報発信です。グループウェア機能を用いて掲示板やカレンダーなどを通した情報共有の実施、来訪客の消費動向等についてオンラインで調査分析できるツールや、顧客管理及び効率的な情報発信を支援するツールを使用できます。また、既存Webサイト・SNSの分析機能や、新規Webサイトの効率的な構築・管理を支援する各種ツールも提供されているため、業務効率化を図れます。

2つ目の「専門事業者・専門人材の検索・活用」における特徴的な機能は、観光地域づくりに必要な専門的ノウハウや専門人材をいつでも検索し、コンタクトをとることができるマッチング機能です。専門事業者・専門人材への相談機能も充実しています。

3つ目の「その他、dmo等の情報の取得・活用」機能では、他地域のdmoの取組を参考にできるよう、登録されたdmo候補法人の「形成・確立計画」や、観光庁でピックアップした優れた取組事例が発信されています。また、課題や関心事などについて自由に書き込める掲示板が設置されているため、同じ立場でdmo活動に携わっている人々による情報や知見の交換が可能です。

人材支援

先進的な取組を進めるdmoが現れ始めている一方で、観光地経営に係るノウハウや人材の不足などの課題を抱える地域も少なくありません。人材支援では、人材を育成するためのプログラムが提供されるほか、eラーニングで「地方創生カレッジ」のカリキュラムを受講できます。

観光庁では「DMO支援室」を設置しており、関係省庁とも連携しながら、各地域が実施するdmoの形成・確立に向けた取り組みを力強くサポートしています。中には、海外知見も取り入れた人材育成プログラムの開発・提供によるdmoの人材育成支援といった取り組みも実施されており、海外の情報を参考にすることも可能です。

財政支援

財政支援では、地方創生推進交付金が受けられます。地方創生推進交付金とは、地域再生計画に基づく事業の実施に要する経費に充てるための、国が交付する交付金です。

また、事業計画書に盛り込まれている取り組みや、専門人材の登用に対する支援金を受給できます。

dmoへの登録要件と登録方法

dmoのメリットを踏まえたうえで、dmoへの登録に関心が出ている事業所もいることでしょう。ここではdmoへ登録するための要件と、登録の手続き方法についてご紹介します。

dmoへの登録要件

観光庁は、登録dmoの要件として以下の5つを掲げています。

  • 観光地域づくりにおいて、多様な関係者の合意形成ができること。
  • データの継続的な収集・分析を行い、そのデータに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)を策定すること。また、KPIの設定やPDCAサイクルを確立すること。
  • 観光事業と戦略とをマッチさせる仕組みを作り、プロモーションを実施すること。
  • 法人格を取得し、意思決定の仕組みが構築されていること。専門人材と財務責任者が存在すること。
  • 自律的・継続的に活動するための安定的な運営資金が確保される見通しがあること。

dmoへの登録方法

法人が登録dmoとして観光庁に登録されるには、先に「候補dmo」へ登録する必要があります。まずは候補dmoへの登録申請として「観光地域づくり法人形成・確立計画」を作成し、地方公共団体と連名で観光庁に提出しましょう。内容に問題ない場合、候補dmoとしての登録が完了します。

作成した「観光地域づくり法人形成・確立計画」は原則、観光庁HPで公表することが定められています。少なくとも年1回、取組に関する自己評価を実施し、その結果を事業報告書にまとめたうえで観光庁への提出が必要です。

候補dmoに登録してからは、3年以内に登録dmoとしての登録を受ける必要があります。登録dmoへの登録申請には、事業報告書、観光地域づくり法人形成・確立計画、その他関連する資料の内容や個別のヒアリングに基づき、前述の登録要件5項目をすべて満たすことが条件となります。要件を満たしていても自動的に登録dmoへは登録されないため、改めて登録dmoへの登録申請が必要です。

登録dmoとして登録が完了してからは、候補dmoのときと同様に「観光庁HPで公表すること」と「事業報告書の提出」が必要になります。

dmoの成功事例

dmoの成功事例について気になる方も多いのではないでしょうか。ここでは2つの事例についてご紹介します。

せとうちdmo

日本における先進的なdmo成功事例としてあげられるのが「せとうちdmo」です。せとうちdmoは、国内の観光客のみならず、インバウンドを意識した「観光客にリピートされるような観光地づくり」に取り組んでいます。コロナが流行する前には、瀬戸内エリアへのインバウンド客の受入数を年々大きく伸ばした実績を残しています。

鷲羽山から見下ろす瀬戸大橋

せとうちdmoは、せとうち7県(兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛)を対象とした広域組織であることが特徴です。そこには「せっかく日本に来てもらうなら1県のみ観光するのではなく、広域に移動しながら観光してもらいたい」という考えがありました。

せとうちdmoの具体的な取り組み事例のひとつに、「せとうちブランド登録制度」があります。瀬戸内特有の資産(原材料)を使って開発された商品・サービスを「瀬戸内ブランド」として登録し、ブランドの定着に努めています。また、「せとうちDMOメンバーズ」という会員制度を設け、地域の事業者への事業を支援するなど多角的なサポート体制の構築などにも力を入れています。

海の京都dmo

もうひとつの成功事例として、「海の京都dmo」をご紹介します。京都の観光ときくとお寺めぐりが浮かぶ方も多いのではないでしょうか。海の京都dmoは、これまでの「京都市内の観光」という概念にとらわれずに、京都府北部地域を「もうひとつの京都」と位置づけて魅力的な観光まちづくりを目指すことを掲げてきました。その結果、京都府北部地域は観光地として注目が高まってきています。

伊根の舟屋

具体的な取り組みとしては、JTB総合研究所と連携したマーケティング調査の実施や、るるぶトラベル「海の京都」宿泊商品の造成、大型クルーズ客船舞鶴港寄港オプショナルツアーの造成などがあげられます。

まとめ

本記事では、dmoの意味やメリット、登録方法や成功事例についてご紹介しました。

地方創生やインバウンド対策が重要視されている現代では、観光地域づくりに取り組むことで地域の「稼ぐ力」を引き出す施策が注目されています。

地域関係者として観光地域づくりに参画することも大切ですが、登録dmoとして観光庁に申請を出し、観光地域づくり法人となる方法もあります。dmoとして登録されれば観光庁から様々な恩恵も受けることができるため、登録dmoについて積極的に検討してみても良いのではないでしょうか。

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