COVID-19による観光産業への市場ダメージと再起を図る「Go Toキャンペーン」の効果、海外各国の旅行産業に対する施策

新型コロナウイルス感染拡大によって、観光需要の低迷、外出の自粛などのの影響で地域の多様な産業に対し甚大な被害を被っています。

「業績にマイナスの影響がある」と答えた企業が初めて6割台にのぼりました。

2020年4月7日、日本政府は「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」において、被害を受けている観光・運輸業、エンターテイメント行、飲食業、イベントなどに関する支援として「Go Toキャンペーン」の実施を決定。

国土交通省は7月17日、このキャンペーンから東京を対象外とし、20日には支援する予定のなかったキャンセル料の援助を全額補償すると発表しました。

日々変わる情報に旅行者、旅行会社、宿泊施設も困惑するばかりの状況が続きます。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストが「需要を喚起しようとしながら、逆に冷やしている」と批判したGoToキャンペーン。

7月31日現在、キャンペーンが開始して以降、感染拡大が収束しないどころか悪化する一方となっています。
(7月31日、都内の感染者数は463人と新記録を更新し続けています。)

観光産業に向けた政府施策は日本だけではなく海外各国でも実は行われており、成功している国ともあれば失敗している国もあります。

今回は、このキャンペーンの背景や内容と、観光産業の低迷によりダメージの受けている業界、海外各国に施策についてお話します。

Go Toキャンペーンとは

官民一体のキャンペーンこの予算として経済産業省に1兆6794億円を計上しました。

内閣官房、国土交通省、経産省、農林水産省が連携し、影響を受けた地域における需要喚起と地域の再活性化を目指す内容です。

GOTOトラベル_国土交通省

具体的には下記の4つがあります。

Go To Travel キャンペーン

期間中の旅行商品を購入した消費者に対して代金の1/2相当分のクーポン等(宿泊割引・クーポン等に加え、地域産品・飲食・施設などの利用クーポン)を付与最大一人あたり2万円分泊

GOTOトラベル

Go To Eat キャンペーン

オンライン飲食予約サイト経由で、期間中に飲食店を予約・来店すると、飲食店で使えるポイント等を付与

最大一人あたり1000円分、登録飲食店で使えるプレミアム付食事券2割相当分の割引等を発行

Go To Event キャンペーン

チケット会社経由で、期間中のイベント・エンターテイメントのチケットを購入すると、2割相当分の割引・クーポン等を付与

Go To 商店街キャンペーン

キャンペーン期間中商店街によるイベント開催、プロモーション、観光商品開発の実施

Go Toトラベルの市場規模

過去の豪雨災害などで実施された「ふっこう割」を覚えている方も多いと思いますが、この予算は30~80億円でした。

今回のキャンペーンは1兆6794億円。桁違いの規模であることが分かります。

第一生命経済研究所の試算では、Go To Travelキャンペーンによる旅行需要の創出効果は最大55.1%、最大1.37兆円の市場規模拡大と見込まれています。

第一生命経済研究所は、Go Toキャンペーン自体の需要創出効果について、旅行の市場規模を55%押し上げ、市場規模の拡大額は最大で 2.80 兆円になるとの試算を明確にしました。

旅行、外食、イベントの3分野における価格弾性値(価格の変動によって、ある製品の需要や供給が変化する度合いを示す数値)を計測すると、旅行が-1.1、外食が-1.0、イベントが-2.3 。それに対してそれぞれ最大 50%、20%、20%の補助率となります。

従って、それぞれの市場規模増加率は、GoToキャンペーンがうまくいけば、基準から最大+55.1%、+20.2%、+45.3%増加する見込みです。

利用者メリット
GOTOキャンペーンメリット

各国の旅行産業

GoToトラベルキャンペーンの雲行きの怪しさを見る限り、日本国内における観光業界の経済的回復はあまり期待できそうにありません。

世界の国々に目をやってみると、観光に依存する国は日本だけではありません。

世界観光機関(UNWTO)は、5月に発表したレポートの中でコロナ禍により世界の観光産業が前例のない危機に見舞われていることに触れ、国際旅行需要の回復とダメージに関して3つのシナリオを示しました。

  • 第1シナリオ(7月上旬に国境の段階的な開放と旅行制限の緩和が行われることを前提とする):今年は前年比58%減。
  • 第2シナリオ(それが9月上旬までずれ込んだ場合):ダメージは70%減まで拡大
  • 第3シナリオ(12月上旬にずれ込んだ場合):78%減

ただし、いずれのシナリオが現実になるにしても、本格回復は21年以降となり、国内旅行が国際旅行より先に回復すると見通しを示しています。

国の観光への取り組み姿勢が表れる各国の「ガイドライン」でそれぞれの国の観光への取り組み、姿勢を見てみましょう。

アメリカ

アメリカトラベル

米国旅行協会が発表した「Travel in the New Normal(ニューノーマルの旅行)」という旅行事業者に向けたガイドラインです。

これはCDCとホワイトハウスが共同で策定した「Guidelines for Opening Up America Again(米国の再開に向けたガイドライン)」に 基づいて作成されたものです。

内容を見てみると、「従業員と顧客を保護する」、「タッチレスに旅行を体験する」、「従業員の健康スクリーニング対策」について触れています。

タイ

タイトラベル

「Amazing Tahiland Safety & Health Administration (SHA)Sanitation and Safety Standard  in 10 Types of Business(タイ安全衛生局による10業種の衛生安全基準)」というデジタルの小冊子は、国内だけではなく最初から外国人観光客も対象にしているのが特筆すべき点です。

10の業種(飲食、宿泊、アクティビティ、交通、旅行会社、デパート、スポーツ、美容健康、劇場、土産物店)における公衆衛生・安全基準についてのガイドラインを発表しています。

全ての職場にて、職場や施設衛生管理、除菌や空気の入れ替え、ウィルスやバクテリアの蔓延を防ぐためのアルコール消毒液などの設置、従業員の保護を心がけるように呼びかけています。

海外からの観光客受け入れを再開した国

イタリア

イタリア政府は秋以降、宿泊料金を値下げし、観光を推奨し始めています。

アイスランド

アイスランド政府は、以前までは規制していたEU、シェンゲン協定加盟国、イギリスからの入国を、6月15日から解禁しています。

これより先に5月15日からはすでに、科学者や映画製作者、アスリートの入国が始まっており、これらの人々は入国後の隔離を修正できる対象となっているようです。

ギリシャ

観光産業はギリシャのGDPの20%を占めています。

6月15日から海外からの観光客の入国を再開。

しかし、イギリス人は早くても7月1日までは入国が許可されないようです。

ギリシャのキリアコス首相は、観光客はPCR検査を受ける必要がなく、到着後に隔離生活を送る必要もないと述べています。

ポルトガル

空港では健康チェックが行われるだけで、旅行客は隔離生活が課せられることはありません。

6月6日からはビーチも再オープン。

ソーシャルディスタンスを実践し、人との間隔を1.5m開けるよう指示されています。

ビーチの地元民は一定時間にビーチに人が何人いるかが分かる新アプリを使い、スペースがあるかどうかを予めチェックできるようです。

海外における観光促進の失敗事例と成功事例

ウィズコロナのもとで観光業の再開に成功したといえる国は、今のところほぼないのが実状です。

失敗事例であるスペイン、成功事例であるベトナムを見てみましょう。

スペイン

2017年段階でスペインのGDPに占める観光の割合は約11.7%までに達し、これは観光立国の多いヨーロッパでも指折りの水準と言われています。

スペインは6月21日、いち早くヨーロッパ人観光客の入国を解禁し、国内旅行の規制も緩和しています。

この解禁をしたタイミングの6月20日、スペインでは感染者が24万人を超え、新規感染者も一日300人以上出ていました。

解禁を止めなかったことの代償は大きく、観光再開約2週間後の7月4日、感染者急増のため止む無くロックダウンとなりました。

ベトナム

ベトナムトラベル

ベトナム政府は5月、日本のGoToトラベルと同様の「ベトナム人がベトナムを旅する」キャンペーンを開始しました。

国内旅行を活性化させるため、宿泊費や航空運賃がほぼ半額になるというものです。

驚くことにこのキャンペーン以降、ベトナムではこれまでのコロナ感染者が354人から急増などしておらず、死者はずっとゼロにとどまっています。

この数値には疑問を感じる人も多いようです。

しかし、実際にベトナム当局は感染が疑われる45万人を隔離するなど強い措置も実施するなどかなり神経質に対応してきました。

国際通貨基金(IMF)が「他の途上国に一つの未来予想図を示した」と称賛するなど、国際的な評価を受けています。

他の国がベトナムの手法を真似するのは厳しいでしょう。

なぜなら、 一億人近い人口による内需の大きさ、もともと観光に占める外国人の割合が低いなどの条件が他国と違うからです。

ダメージの大きい業界・業種と再起に向けて

業界別、業種別にダメージの大きい分野を見てみましょう。

【業界別】※帝国データバンクの調査

・卸売が 88.4%で最もダメージが高く、不動産88.3%、運輸・倉庫87.2%、製造86.7%と続いています。

金融を除く 業界で依然として8 割超の企業がマイナスと見込んでいるようです。

【業種別】※帝国データバンクの調査

マイナス業種

「家具類小売」は 3 カ月連続、旅館・ホテルは 2 カ月連続で 100%と-影響となっています。

旅館・ホテル、繊維・繊維製品・服飾品小売、繊維・繊維製品・服飾品卸売、飲食店では 4カ月連続で企業の8割超が業績にマイナスと見込んでいます。

それぞれの業界がどのようにして再起に向かうのか、旅行業界、ホテル業界、航空業界、アパレル業界に絞って見てみます。

旅行業界

JTBとGOTOキャンペーン

コロナウイルス感染発生前、国内の観光業はインバウンドで7年連続過去最高と訪日外国人は年々増加していました。

※「訪日外国人旅行」のことをインバウンドと略して呼びます。この市場のことを日常業務においては、インバウンド市場、訪日外国人旅行市場、訪日外客市場、訪日外国人観光客市場と呼んでいます。

しかし、このコロナ禍の影響によって、国ごとにコロナウィルスの規制や対策が異なることもあり、観光客は激減しました。

その数は前年比99.9%減。出張や会議やカンファレンスなどのビジネス利用も、リモートワークやオンライン会議での対応となっているのでしょう。

宿泊者推移

国内の旅行会社の取り扱い額の推移をまとめたYouTube動画をご覧いただくと、2020年2月から、業界最大手のJTB始めとして全ての旅行会社の取扱額が激減していることが分かります。

5月の取扱高合計は95憶7336万円で、前年5月の4410憶6007万円から97.6%減少と大打撃の様子が見てとれます。

海外では旅行会社に対して進んで援助金を提供する国もあるようですが、日本においてそのような動きが見られません。

唯一、GoToトラベルがありますが、東京を外したことで「その効果はあまり期待できない」とも言われています。

これほど売上が激減してしまうと、GoToキャンペーンの効果によって旅行業界が再起できるかどうかは難しいところかもしれません。

ホテル業界

ホテルの稼働率は稼働率が83.5%も減少しています。

大手コンサルティングファームのPwCコンサルティングは、6月にまとめた「COVID19:ホテル業界への影響」で、2020年4月の月次稼働率は前年比83.5%の減少、平均客室単価は前年比47.5%減、全体の宿泊者数は77%の減少とレポートしました。

旅行業界同様GoToキャンペーンに望みをかけるしかない状況ですが、この稼働率低下を逆手に取って、コロナ禍において新たなホテルの活用方法を提案するとして再起を目指す企業があります。

それは国内大手ホテルチェーンのアパホテルです。

広報担当者は「事業として長期的な目で戦略を考えた場合、2500円からという金額では、短期的には利益はほぼないものの、長期的には必ずプラスに転じると考えています」と答え、現在は「テレワーク応援 5日連続プラン」を4泊5日で1万5000円から実施しています。

ホテル業界取り組み

航空業界

ANA_JAL

国際航空運送協会(IATA)は20年3月5日、新型コロナの感染拡大の影響により、航空会社の旅客事業に1130億ドル(約12兆2000億円)の損失が発生する懸念ががあるというリポートを発表しています。

エアラインビジネスは営業費用の6割程度が固定費で、コロナウイルス感染拡大のような出来事で急速な減収が発生すると、大きな赤字を計上してしまう収益構造になっています。

さらにコロナの感染が拡大した序盤には、ほとんどのフライトがキャンセルされたり、運賃の払い戻しが発生したりといった状況が続きました。

大規模なキャッシュアウトの波は両社とも初めての経験だったことでしょう。それではJAL、ANAそれぞれの状況を見てみましょう。

JAL

6月9日、JALは5月における利用客数は国際線が8295人で前年同月比99.0%減、国内線も24万4974人と同92.4%減と発表しました。

この利用状況を受けて、6月の国際線の供給便数も計画比が4.0%、国内線は6月15日~30日で同46.0%まで削減されています。

ANA

ANAの5月の利用客数は、国際線が2万4179人で前年同月比97.1%減、国内線も20万4155人と同94.7%減。

6月の国際線の供給便数は計画比9.1%、国内線で同30.5%に縮小しての運航となっています。

両社は資金調達に奔走し、両社とも資金面の施策に注力したことによって、当面は事業を継続できる見込みが立ったと報告。

JALは株主総会の際、5000億円の調達に目途がついたと公表しました。

ANAも4月から3カ月間5350億円を調達でき、1500億円で設定していたコミットメントラインは5000億円へ増額しました。

GoToキャンペーンによって一時は航空業界も取り戻しはするものの、他国のように観光を促進してロックダウンになった国もあることを考えると、長期的な期待はしにくいかもしれません。

国際航空運送協会によるとコク内線需要が2019年の水準に戻るのは2022年と推定されています。

ファッション業界

経済産業省は、4月末の補正予算に組み込まれたGo Toキャンペーン内で、ファッション関連商品の需要振興を行っていく考えがあると明かしました。

観光業、飲食業、イベント等に対する支援として、旅行や飲食店で使用できるクーポン発行などが発表されていますが、「ファッション商品購入の際に使用できるクーポンも構想中」と経済産業省商務三牧純一郎クールジャパン政策課長が発表しました。

「ユナイテッド ヌード(UNITED NUDE)」日本法人の青田行社長らは、5月20日ファッション小売業支援のためのオンライン署名活動を開始しました。

Go Toキャンペーンを例にあげつつ「ファッション小売業が政府の支援から漏れている」現状や、「業種を限らない経済活性化策が必要」と訴え、そうした声を受けてファッションの需要振興策が検討される動きとなっています。

ファッション業界

7月31日18時時点の署名数は4,949/5,000名となっていました。

5,000人に達したところで署名活動が功を奏してアパレル業界における対策につながることが期待されています。

さいごに

6月3日(水)~6月7日(日)トラベルズーが約3,000人に対して行った「Go To Travelキャンペーン」に関する意向の調査結果では「キャンペーンを利用したい」と答えた人が87,5%でした。

GOTOキャンペーンの期待

しかし、GoToトラベルが決行されてから日本の感染者数は少しづつ増えています。

感染しながらでも経済を取るか、どうすべきかという岐路に立たされている日本。

観光を促進してロックダウンせざるを得なくなったスペインの二の舞にならぬよう、衛生面・ソーシャルディスタンスの徹底した対策が観光・旅行・ホテル業界には求められています。

今後このウィズコロナの社会は続きます。

ワクチンが開発されるまで、最低でも1年間は付き合っていかなければなりません。

その経過のなかで多くの倒産をニュースで目にすることは間違いありません。

旅行のあり方や旅行への価値観が大きく変わり、業界全体が新たな形態として生まれ変わるのでしょう。時間がかかったとしても経済が元通りになり、業界全体が再起することを祈るしかありません。

<参考>
https://www.smartmagazine.jp/howto/article/seasoninfo/34759/

https://www.kankokeizai.com/%E3%80%90%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%82%BA%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%AE%E8%A6%B3%E5%85%891%E3%80%91%E8%8C%82/

https://www.wwdjapan.com/articles/1080262

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000129.000043465.html

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2007/03/news034.html

https://inboundnavi.jp/whatisinbound

https://www.youtube.com/watch?v=nn6VVfdDHXE&feature=youtu.be

https://www.travelwith.jp/roadtraveler/post-53973/

https://toyokeizai.net/articles/-/359831

https://president.jp/articles/-/34823?page=2

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60507490Y0A610C2000000

https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20200716-00188278/

https://news.yahoo.co.jp/articles/4ea7dbb3bb0c2ab4ef48f970276c59bc91c47c7e

https://www.yamatogokoro.jp/column/corona_world/38874/

https://www.tjnet.co.jp/2020/06/29/コロナ禍後のニューノーマル%E3%80%80変わる価値観と旅/

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020072201102&g=eco

http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2020/naga20200624goto.pdf

https://www.travelzoo.com/jp/blog/go_to_campaign/

https://www.mlit.go.jp/common/001339606.pdf

https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/inbound/

https://inboundnow.jp/media/knowhow/2519/

https://www.traicy.com/posts/20200714175625/

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https://airstair.jp/goto-economic-trends/

https://www.asahi.com/articles/ASN7B3WHHN7BULFA006.html

https://www.jtb.co.jp/kokunai/goto/

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