インバウンドとは?コロナ禍の日本におけるインバウンド市場、今後の需要と消費の展望を紹介 

いまやビジネスを語る上で欠かせないキーワードとなったインバウンド(inbound)。本来、「入ってくる、内向きの」を意味しますが、ここでは「外国人が日本に観光で訪れる」という意味を指しています。インバウンドは2015年の流行語大賞のノミネートに入るほど市民権を得る言葉になり、経済や文化のグローバル化が進む現在、ここ数年でより耳にする機会が増えたのではないでしょうか。 

当コラムでは新型コロナウイルス発生前後のインバウンドの動向、これからの展望、インバウンドに取り組むメリットについて解説します。 

 

インバウンドとは 

引用:https://www.kyoto-carriere.ac.jp/blog/weblog/171 

インバウンド(Inbound)とは、外国人が訪れてくる旅行のことです。日本へのインバウンドは、訪日外国人旅行または訪日旅行という意味を指します。 

20世紀後半、日本絵画や映画などを通じ、欧米人の日本文化への憧れは強かったものの、日本の観光産業が国内市場に重点を置いたため、日本へのインバウンドは大きく伸びることはありませんでした。しかし、観光業界の様々な活動が功を奏し、21世紀から日本のインバウンドは変化を見せ始めました。観光立国を国の重要な施策の一つに掲げた観光立国推進基本法が施行され、その翌年の2008年には観光庁が設置されました。

この一連の動きの中で2005年に670万人であった訪日外国人旅行者数は、2015年には1,973万人を数え、実に1970年以来45年振りに、訪日外国人旅行者数が日本人海外旅行者数を上回ることになりました。 

引用:https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/tourism-nation-promotion-basic-act/

アウトバウンドとの違い 

引用:https://www.kyoto-carriere.ac.jp/blog/weblog/171 

インバウンド(inbound)の元々の意味は、「入ってくる。内向きの」であるのに対して、アウトバウンドは「出ていく、外向きの」という反対の意味を指します。そのため、インバウンドは外から中へ、つまり「外国人が日本に訪れること」を表しますが、「アウトバウンド」は、中から外へ、「日本人が海外に行くこと」を意味します。 

 

日本のインバウンド動向 

ここでは日本のインバウンドについて、新型コロナウイルスが発生する前までと渦中である現在とを比較しながら動向を追っていきます。 

コロナ前の日本におけるインバウンド 

出典:日本政府観光局(JNTO) 

2015年、ユーキャン新語・流行語大賞に「インバウンド」がノミネートされる程、日本を訪れる海外旅行者の数は増え、45年ぶりにインバウンドがアウトバウンドを逆転したことがニュースになりました。 

日本が観光目的でパスポートを取れるようになったのは、東京オリンピックが開催された1964年でした。この年は、日本人が海外に約13万人出国、外国人がその倍以上の35万人日本に入国しました。そこから海外旅行に行く日本人の数が、日本人の経済成長や円高に伴い増えていきます。

その一方で、訪日外国人の数は、大阪万博開催の1970年にピークの85万人となりましたが、翌年の1971年にはアウトバウンドが逆転しました。以降は円高の影響もあって、インバウンドよりもアウトバウンドの市場が大きくなり、1995年にはアウトバウンドが1530万人、インバウンドは335万人とアウトバウンドが5倍近くに増えました。 

そこで2003年、政府はビジット・ジャパン・キャンペーンを立ち上げ、国を挙げて観光の振興に取り組み、観光立国を目指す方針を示しました。それから10年たった2013年、訪日外国人客数が目標であった年間1000万人を突破します。同年に2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定し、円安も追い風となり、2015年には訪日外国人客数1973万7000人を記録。2000万人まであと一歩に迫ると同時に、大阪万博が開催された1970年以来45年ぶりに、入国者数が出国者数を上回りました。

政府は2016年に、「2020年に4000万人、2030年に6000万人」と目標を掲げます。2016年に初めて2000万人を突破、2018年には3000万人を突破しました。 

コロナ禍の日本におけるインバウンド 

2019年暮れ、中国武漢市内から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全世界に拡大し、海外旅行は事実上不可能になりました。2020年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックは延期され、政府が掲げていた2020年に4000万人の訪日客を迎えるという目標は、なんとその10分の1まで激減し、最終的な訪日外国人数は411万5900人でした。

さらに、2021年の訪日外国人数は、新型コロナウイルス変異株の影響もあり、旅行が制限されていたことから24万5800人まで減少しました。外国人旅行消費額総額(速報値)は、コロナが発生する以前の2019年に、4兆8113億円になったと観光庁が発表しました。消費額の伸びは2012年と比較すると約4倍も増加したことになります。

ところが、コロナの影響で2020年3月から訪日客が激減したため、​​訪日外国人旅行消費額は7446億円まで減少したとされています。2020年に目標に掲げていた8兆円の消費額は、10分の1にも満たないことになります。 2021年に入り、ワクチン接種が開始され、入国制限の緩和が行われインバウンドの増加が期待された矢先に、次は変異株が流行し、先行きの見通しが付いていないのが現状です。 

ネガティブな話題が続いてしまいましたが、新型コロナ渦である現状を逆手に取れば、日本の観光資源に対して訪日外国人が期待するニーズを再認識し、アフターコロナを見据えてより良いインバウンドビジネスを展開する準備期間であるとも言えるでしょう。 

訪日外国人数の推移 

上記で述べたように、訪日外国人旅行者は2013年にかけて急増し、初めて1,000万人を超え、2015年には約1,974万人と前年比47.1%も増加してアウトバウンドを超えました。2016年には約2,404万人に達しました。わずか3年で2.3倍になったのです。

ではなぜ、日本を訪れる外向人旅行客が増えたのでしょうか。それには複数の理由があります。経済が成長しているアジアの国々から、距離的に近いこと。円安が進み、多くの外国人にとって訪れやすくなっていること。電化製品や化粧品などの日本製品、日本のアニメやゲームが人気を集めていること。2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食への関心が高まっていることも挙げられるでしょう。

また政府のキャンペーンもインバウンド観光客増加の一役を担っています。2003年に、当時の小泉純一郎首相が「訪日外国人旅行者を1000万人に倍増させる」という目標を掲げ、国を挙げて観光に力を入れることを宣言しました。以来、官民を挙げて、日本を訪れる外国人旅行者を増やそうという「ビジット・ジャパン」キャンペーンを行ってきました。海外で日本を紹介するイベントを開催するなどのプロモーション活動のほか、外国人への観光ビザの発給要件緩和や免除、免税対象品の拡大や免税条件の緩和などの施策も効果を挙げています。 

2019年の訪日外国人客を国・地域別に見ると、1位の中国が959万人、韓国は558万人で2位、これに台湾、香港を加えた東アジア4市場で訪日外国人客全体の70.1パーセントを占めました。欧米諸国は全体の13.3%、東南アジア(インド含む)が12.6%という結果になりました。2013年までは韓国が訪日客トップの市場でしたが、2014年に台湾が首位に浮上しました。そして2015年には中国が市場1位となり、それ以後中国がトップの座を守り続けています。 

日本で中国人旅行客が急増したのは何故でしょうか。それには2つ理由があります。1つ目は、中国の貨幣「人民元」の価値が上がり、旅行しやすくなったこと2つ目が、日本が中国人観光ビザの発給を2000年から解禁し、それ以降徐々に発給条件の緩和をして、中国人観光客を日本に呼び込もうとしたことにあります。これらの結果、2015年に中国人が韓国人旅行客数約400万人を上回る、499万人まで増加しました。

同年2015年、春節(旧正月)休暇期間中に中国人観光客が日本に訪れて大量に物を買うという行為が「爆買い」と表され、ユーキャン新語・流行語大賞に選ばれるほど日本では大きくメディアに取り上げられる社会現象になりました。

 

日本のインバウンドに関するこれからの展望 

感染力の高いオミクロン株の流行が続く一方、新型コロナウイルスの3回目ワクチン接種が始まり、政府は「第6波の出口に向かって段階的に準備を進めている」と制限の緩和を表明し、アフターコロナを見据えて国際的な人の往来を増やすために動き出しました。この章では日本が今後どのような動きでインバウンドビジネスを進めていくのかについて具体的な取り組み内容を含めてご紹介します。 

2030年に6,000万人の訪日外国人観光客を目指す 

菅前首相は、深刻な打撃を受けている観光業をあらゆる対策を講じて回復させ、2030年に外国人旅行客を年間6000万人とする目標を実現させたいという考えを示しました。この中で菅前首相は「新型コロナウイルスの感染拡大で観光を一時的にストップさせざるをえなかったが、今後もわが国が観光立国として生きていくうえで、観光業はまさに貴重なインフラだ。政府として、事業の継続、雇用の維持のためにあらゆる対策を講じている」と述べました。そして、2030年に外国人旅行者を年間6000万人とする目標の実現に向けて、国を挙げて環境整備に取り組む考えを示しました。 

インバウンド促進に向けた取り組み 

ここからアフターコロナを見据えたインバウンド促進に向けた取り組みについて紹介します。新型コロナウイルス感染症拡大を受けても日本の「自然」「気候」「文化」「食」といった魅力に変わりはありません。2030 年 6,000 万人の訪日外国人観光客の目標達成に向け、官民一体となって観光業の体質強化や観光地の再生に取り組む必要があるでしょう。 

宿泊施設等を含めた観光地の再生 

 観光業は、感染拡大前からの団体旅行の減少や後継者不足、感染拡大下での事業継続等が課題となっていますが、観光庁では、観光施設を再生し、さらには地域全体で魅力と収益力を高めるべく、2020年から新たな補助制度の創設や融資制度の大幅拡充を行い、観光地域全体の再生を目指しています。

具体的な例として、ホテル ベルヴェデーレ(和歌山県すさみ 町)においては、2020年に宿泊施設のバリアフリー化を促進したことにより、2室を 1室に統合しゆったりした空間を実現するとともに、各部屋にある、太平洋を見下ろすウッドデッキと 源泉掛け流し露天風呂をリニューアルしました。その結果、改修後の客室は他の部屋に比べ高い稼働率となっています。その他にも、観光地全体の魅力を上げるために、廃屋の撤去や施設修繕などにも力を入れています。 

DX と観光  

Digital Transformation(DX)は様々な文脈で語られていますが、広く捉えれば、デジタルツールの導入 による効率化及び生産性の向上から、単なる業務デジタル化にとどまらず、分析可能なデータの蓄 積・分析やデジタル技術による従来の商材の磨き上げ等による、ビジネスの再構築までを指します。

観光分野では、オンラインでの旅行予約の普及に伴い、宿泊施設・航空会社等と旅行会社・旅行ウェブサイトを結ぶシステムが構築され、これにあわせた情報通信技術が各事業者において活用されてきました。感染拡大下において、対面や接触を避ける観点からオンライン予約が進展し、かつ、宿泊施設等において情報通信技術を活用したセルフサービス化が進みました。DX導入の具体的な例としては、24 時間、多言語で各種の問合せに自動対応することができるチャットボットの導入やスマートフォンをホテルのルームキーとして使える「モバイルキー」の導入が挙げられます。 

出典:JRホテルメンバーズ 

 

企業がインバウンドに取り組むメリット 

国内企業がインバウンドに取り組むことで得られるメリットとはなんでしょうか。ここでは大きく3つに分けて解説していきます。 

国内市場の縮小による売り上げ減少を防げる 

日本の人口は2008年をピークに減少を続けており、2048年には1億人を切って、2060年には8674万人になると予想されています。つまり、人口減少に伴い、国内のみの事業展開では減収が目に見えているのです。そのためアフターコロナに向けて、国内観光客向けのビジネスより、インバウンドビジネスに重点を置いた方が経済的なメリットが得やすいと言えるでしょう。 

旅行者の増加に伴う売り上げ増加を見込める 

新型コロナウイルス感染症が蔓延する以前のインバウンド市場は急成長を続けていました。政府が今年3月、水際強化措置の緩和を表明したことでこれから少しずつコロナ前のように国際的な流動が増え、インバウンド市場も回復傾向に向かうことが予想されます。そのためコロナが収束した際を見据えてインバウンドビジネスに取り組むには今が絶好のチャンスと考えてもいいかもしれません。 

地方創生につながる 

インバウンドは地方創生とも高い親和性をもっています。その理由としては、冒頭に挙げた日本全体で人口が減少していることによって国内市場が先細りしていることや、インバウンド事業を取り組むために雇用が生み出せること、地域全体で連携して取り組む旗印となりやすいこと、さらに、地方への旅行と相性の良い個人旅行者の増加が挙げられます。 

まとめ 

最後まで読んでいただきありがとうございました。 

新型コロナウイルスが収束に向かいつつある今、インバウンドがいかに重要であるかをご理解いただけたでしょうか。この記事を参考にインバウンドへの見識を深め、アフターコロナにおけるインバウンドビジネスのお役に立てれば幸いです。 

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