悪化が止まらない中国の不動産市場のワケと影響について

世界総人口トップの座を誇り、世界2位の経済大国といわれている中国。しかし現在は、中国経済に減速傾向がみられ、中国不動産市場もバブル崩壊の危機にさらされています。海外進出や海外との取引をおこなう上で、中国の不動産バブル崩壊に起こっている問題はおさえておくべきでしょう。

中国不動産バブルの崩壊は、もはや不動産業界のみにとどまらず、他業種にも影響を与えています。この現状をふまえて中国政府も対応策を講じてはいるものの、不動産価格や経済の回復には時間がかかる見通しとなっているのが現状です。

本記事では、中国不動産がバブル崩壊といわれている理由や、世界や日本に与える影響についてわかりやすく解説。かつての日本でのバブル崩壊やリーマンショックなどと比較してどの程度の影響力があるのかについても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

中国不動産バブル崩壊のワケ

2020年半ば頃からよく耳にするようになった中国不動産のバブル崩壊危機ですが、なぜ経済大国である中国がバブル崩壊の危機に陥っているのか気になる方も多いのではないでしょうか。

まずは中国不動産の現状をおさえ、このような状況となった背景や理由について解説していきます。

不動産バブル崩壊危機の現状

現在、中国では建築途中で工事がストップしている不動産や空きテナントが急増中です。その原因としては、中国の不動産業を支えてきたプレセールという事前販売制の存在が問題視されていることが挙げられます。

プレセールとは、不動産の購入者が建物完成前に前払いという形で代金の一部を支払う制度です。不動産の開発企業側は、事前に支払われたお金を次の建築の資金にあてるというループを繰り返し実施しています。この方式により、需要を上回る投資額を入手でき、不動産業界としては大きなうまみとなっています。中国ではこの事前販売制が主流のビジネスモデルとなっており、2021年には新築住宅販売の約90%がプレセールによる取引だったというデータもあるほど。

一見うまくいっているような収益体制ですが、一種の自動車創業に過ぎないのが事実です。中国の不動産業は行き過ぎた事業をおこなっているとして、政府から厳しい規制をかけられることとなりました。

不動産開発企業に対する銀行融資規制

不動産バブル崩壊危機の発端となったのが、2020年8月に中国政府が掲げた、「三道紅線(三本の赤線)」という不動産開発企業に対する銀行融資規制です。政府は、行き過ぎた不動産業の「バブル潰し」として、デベロッパーに厳しい資金調達規制をかけました。

政府の狙いは、不動産市場のカネの動きを把握し、中央集権体制を高めることです。しかし、この政策は裏目に出る結果に。銀行からの融資規制を受けた資金のない業者は、軒並み倒産する事態となりました。

中国恒大集団の債務不履行

数々のデベロッパーが倒産に追い込まれる中、中国不動産のバブル崩壊危機に特に影響を及ぼしたのが、最大級のデベロッパー「恒大集団」の債務不履行です。中国の大企業として成長してきた恒大の経営難は、企業内だけでなく関連企業をはじめ、他業種の企業などにも幅広く影響を及ぼしました。この出来事は、中国の経済問題として大きく注目される事態となっています。

不動産購入者による住宅ローン支払い拒否

不動産バブルの崩壊危機にともない、各建築業者は開発企業の資金繰りを懸念し、軒並み工事をストップ。不動産購入者からすると、前払金を支払ったにもかかわらず一向に住宅地が完成しない状況におかれ、住宅ローンの返済は続けなければならない状況です。不動産会社は、購入者から受け取った前払金はすでに次の建築資金として支払っているため、購入者に返済することもできない状況に陥っています。建築途中のオフィスビルやタワマンは、取壊す資金すらなく、現在もそのまま放置されている状態です。

この状況から、不動産購入者の住宅ローン支払い拒否の動きが加速し、社会問題となっています。現時点では、この支払拒否だけで金融危機が起こることまでは想定されていませんが、不動産バブル崩壊危機が問題視される大きな原因といえるでしょう。

中国政府は、救済用に3兆円規模のファンドを用意し、デベロッパーに資金を与えるなどの措置をとっていますが、経済力が落ちた現状には不十分な対応という声もあります。

ゼロコロナ政策による景気減速

中国の景気減退は、ゼロコロナ政策と不動産バブル崩壊、輸出市場の低迷という経済に悪影響を及ぼす要因が重なり、経済的危機に見舞われたことが大きく影響しました。

ゼロコロナ政策の緩和措置などが発表されてはいるものの、中国は人口も減少しており今後は経済が急成長する見通しは立っていません。経済の回復がすぐには見込めない以上、今後も不動産投資の増加は難しいことが予想されます。不動産市場の回復には、長い目で対応していく必要があるでしょう。

中国不動産における中央と地方の温度差

中国恒大集団の債務不履行などが発生したことから、中国政府はこれまでの規制強化から一変、業界支援の方針を発表しました。しかし、実際の不動産業界における早期回復は後退気味であることが判明しています。

そのひとつの要因となっているのが、中国内における中央と地方での温度差です。都市ごとに政策が異なることや、回復への手立てに対する温度差があることから、業界全体での回復が鈍化しています。

不動産の予約販売で得た前払代金は、預託口座に入れることになっています。不動産バブル崩壊の危機に直面したこともあり、特に地方の一部の地域では、預託口座からの引き出しについて過度に厳密になっている状況がみられました。

中国政府はそのような状況を打開するべく、2022年に入ってから開発業者が予約販売で得た資金の取扱いに関する新制作を打ち出すことに。この政策により、地方での預託口座引き出しが緩むことが期待されましたが、各地域はお互いに探りを入れながら、身動きが取れない状況が続いています。

産業面では建設業の低迷から製造業への波及に注意

不動産バブルが崩壊した場合、建築数は大幅に減少することとなり建設業は低迷します。中国の主要産業である建設業が低迷した場合、製造業への影響が波及することに注意が必要です。

すでに不動産バブル崩壊の影響を受けている業界には、建設業と密接に関わっている鉄鋼業があります。特に政府が銀行融資規制を発表した翌年の2021年には、鉄鋼業の鈍化が顕著に現れる事態となりました。

中国恒大集団をはじめとしたデベロッパーでの債務不履行を受けて、不動産業界は手許現金を保持する方針へシフト。鉄鋼業界にも大きな痛手となりました。

鉄鋼業界がダメージを受けると、家電業界や、ガラス、セメントなどの分野にも影響が広がり、中国経済の大きな打撃につながることが懸念されています。中国不動産バブルの崩壊は、不動産業や建築業界のみならず、製造業へも大きなダメージとなることをおさえておく必要があるでしょう。

中国不動産バブル崩壊が与える世界への影響

中国不動産バブルが崩壊した場合、過去最悪ともいえる世界経済への悪影響を及ぼすことを示唆している専門家もいます。中国政府も事態を重く受け止め、数々の緩和策などを打ち出していることから、専門家によっても見解はさまざまです。

経済が後退傾向にあるとはいえ、中国ほどの経済規模がありトップダウン方式で政策を推進できる力があるならば、不動産バブルの崩壊には至らないとの意見もあります。しかし、前例がないため詳しい影響についてはわかっていないのが現状です。

リーマンショックとの比較

過去に起きた世界的経済危機といえば、2008年にアメリカで起きたリーマンショックです。今回の中国の危機と同じく、不動産バブルが崩壊したことがきっかけで発生し、ドルの流通が止まったことで世界的にダメージを負いました。

アメリカは貿易高も世界トップクラスであるため、特に輸入額が大きかったアメリカに対して輸出をおこなっていた国は大きな経済損失となりました。中国は、アメリカと同じく世界トップクラスの貿易国であるため、中国の不動産バブルが弾けた場合はリーマンショックのときと同様に、経済損失を負う国も出てくることでしょう。特に中国では輸入額が大きいため、経済悪化に伴い中国の輸入額が減少すると、中国への輸出をメインでおこなっている国にとっては痛手です。

リーマンショックと同レベルの世界経済への影響となることが予想されているからには、中国と取引をしている国は慎重に様子をうかがう必要があります。

中国不動産バブル崩壊が与える日本への影響

中国不動産バブルが崩壊した場合、日本に対する直接の影響はどの程度あるのでしょうか。結論としては、少なからず経済的ダメージは受けますが、世界経済への影響と同様、過去に発生したことのない規模のバブル崩壊のため予測が難しいです。

日本への影響と、過去に発生した日本バブル崩壊の事例について、下記で深掘りしていきます。

貿易面にかかる影響

日本と中国は貿易面で密接な関わりがあります。特に輸出面においては、日本の輸出先の1/4程度を中国が占めているため、バブル崩壊となれば大きな影響を受けることでしょう。

中国富裕層の日本不動産所有減少における影響

中国の不動産業が不安定な状況にある一方で、中国には貿易やIT業で成功した富裕層が一定数存在し、持て余した資産を日本の不動産へ投資している現状があります。中国では土地の所有権がないため、ターゲットが日本に向かい、中国人富裕層は我が国にたくさんの不動産を所有しているのです。

他にも、日本の不動産は中国と比較して安価に購入できるため、中国富裕層から注目を集めています。近年ではビル・ゲイツが別荘を建てたことで知られる軽井沢の物件が人気となり、中国人が土地や不動産を購入するケースが多いです。

もし中国不動産のバブルが崩壊した場合、不動産の建築ストップや建築件数の減少などにより、建築材料の需要が低下。資材が余剰になれば、中国不動産価格も下がります。

中国の不動産価格が下落傾向となった場合、中国人富裕層からすると日本の不動産にうまみを感じなくなる可能性があります。中国人富裕層が日本の不動産購入に消極的になれば、需要も低下し、日本の不動産価格低下に影響を及ぼすことも考えられるでしょう。

日本のバブル崩壊との比較

日本では1990年代に、株価や地価、不動産価格が急落するバブル崩壊が起きました。1980年代後半からバブルに突入しましたが、その後バブル崩壊となった直接の原因としては、1989年の金融政策転換と1990年の総量規制の実施が挙げられます。

日本のバブル崩壊は、リーマンショックほど世界に大打撃を与える事態とはなりませんでした。その要因としては、日本円がまだ世界的に流通しておらず、現在ほどグローバルな社会ではなかったため、影響範囲が限定的だったことが考えられます。

現在、中国人民元は世界でもトップクラスに取引が多い通貨となっているため、日本のバブル崩壊時と比較しても世界的影響は大きくなるでしょう。

まとめ

本記事では、中国不動産がバブル崩壊の危機に直面している現状から、その理由、世界や日本への影響について解説しました。

中国政府が不動産業に対する厳しい規制を実施した結果、倒産する不動産が相次ぐ事態に。特に中国最大のデベロッパーである恒大の経営難は、中国経済に大きな打撃を与える結果になりました。中国政府は規制緩和などの措置をおこなっていますが、中国不動産業の回復はいまだに見通しが立っていない状況です。

中国不動産バブルが崩壊した場合、日本はもちろん世界的にも大きな経済的影響を及ぼすことが示唆されています。特に日本は貿易を中国に頼っているケースも多いため、少なからず影響を受けることとなるでしょう。

リーマンショックと同等の被害を受ける可能性もありますが、中国不動産業のバブル崩壊は規模がとても大きいため、影響範囲の予想が難しいです。もし中国へ進出している場合や、これから中国との貿易や進出を考えている場合は、不動産バブル崩壊が日本企業に影響をもたらすことを念頭に考える必要があります。

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