輸出・輸入の貿易における取り決めに欠かせないのがインコタームズ。国際的な取引をしている事業者であれば、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
トラブルなく貿易をおこなうためには貿易国間でインコタームズを締結することが重要ですが、インコタームズの条件はさまざまあり理解しづらい部分も多いです。
本記事では、インコタームズの基本知識について図解を用いながら解説。11とおりの条件における特徴や理解するためのポイント、2010年と2020年での変更点を紹介します。各条件のメリット・デメリットも解説しているので、「インコタームズの条件が多すぎて、どの方法を選択するべきかわからない」という方もぜひ参考にしてみてください。
インコタームズとは
「インコタームズ(Incoterms/International Commercial Terms)」とは、国際商業会議所(ICC)が定める貿易における国際規則です。
輸出入をおこなう際は、輸入国まで貿易品を輸送する費用や関税にかかる税金などの「費用負担」と、輸送時の事故や災害などにかかる「リスク負担」を追う必要があります。費用とリスクの負担を、「輸出国と輸入国がどこからどこまで担うか」を定めた条件がインコタームズです。
貿易における主な費用負担の項目は以下のとおり。
- 輸出国内での輸送費用
- 輸出国での通関税
- 輸出国から輸入国に向けて出発した船や飛行機での輸送費用
- 輸入国での通関税
- 輸入国内での輸送費用
また、リスク負担で想定しておくべき主な項目は以下のとおりです。
- 輸出国内における輸送中の事故や災害
- 輸出港でのバンニング事故
- 海上輸送や航空輸送中における事故や災害
- 輸入港でのデバンニング事故
- 輸入国内における輸送中の事故や災害
インコタームズでは、上記のリスクについて輸出者と輸入者が負担する項目を定めた条件が全部で11とおりあります。
インコタームズの強制力
インコタームズは、輸出者と輸入者の合意の上で進められる規定であり、法律に定められているわけではないため強制力はありません。
貿易時にどの条件を適用するかは、重要書類となる「インボイス」に「誰が」「誰に」「どのような条件で」「どこから」「どこへ」「いくらの」「どのような商品を」「いくつ」輸送するか記載することが大切です。
インコタームズを理解するためのポイント
いきなり全11とおりのインコタームズの条件を覚えるのは難しいでしょう。インコタームズは、「Eグループ」「Dグループ」「Fグループ」「Cグループ」の4つのグループに分類できます。
各グループ内の内容は似ているので、まずは大枠となる4つについてそれぞれの特徴をおさえましょう。
- Eグループ:主に輸入者がメインで費用やリスクを負担するため、他のグループ条件と比較して輸入者の負担割合が大きい取引です。輸出者にとって最も楽な方法といえるでしょう。
- Dグループ:主に輸出者がメインで費用やリスクを負担するため、他のグループ条件と比較して輸出者の負担割合が大きい取引です。輸入者にとって最も楽な方法といえるでしょう。
- Fグループ:輸出者が負う責任は自国内だけなので、比較的負担割合が小さいです。輸入者からすると貿易にかかる輸送ルートやコストを調整でき、貿易に慣れていれば有利に働くでしょう。
- Cグループ:費用負担とリスク負担の切り替わるポイントが異なります。輸出者は主に輸入先の諸定置までの費用を負担し、リスク負担は自国の港までの範囲に限定されます。貿易手配は輸出者がおこなうため、輸出ボリュームが大きい場合は費用をおさえられるでしょう。輸入者側は、貿易輸送を相手国に任せたいときに便利です。
Eグループ | 主に輸入者がメインで費用やリスクを負担するため、他のグループ条件と比較して輸入者の負担割合が大きい取引です。輸出者にとって最も楽な方法といえるでしょう。 |
Dグループ | 主に輸出者がメインで費用やリスクを負担するため、他のグループ条件と比較して輸出者の負担割合が大きい取引です。輸入者にとって最も楽な方法といえるでしょう。 |
Fグループ | 輸出者が負う責任は自国内だけなので、比較的負担割合が小さいです。輸入者からすると貿易にかかる輸送ルートやコストを調整でき、貿易に慣れていれば有利に働くでしょう。 |
Cグループ | 費用負担とリスク負担の切り替わるポイントが異なります。輸出者は主に輸入先の諸定置までの費用を負担し、リスク負担は自国の港までの範囲に限定されます。貿易手配は輸出者がおこなうため、輸出ボリュームが大きい場合は費用をおさえられるでしょう。輸入者側は、貿易輸送を相手国に任せたいときに便利です。 |
インコタームズにおける11とおりの取引条件
インコタームズの全11条件を、前述の4つのグループごとに図解を用いて紹介します。
Eグループ(EXW
Eグループに分類されるのは1とおりのみです。
- EXW(Ex Works):出荷工場渡し
EXWは、輸出先の工場などで完成した製品をトラックに積んだ時点で、費用とリスク負担責任が輸入者側に引き渡されます。
輸出者にとっては自社の敷地内で製品を渡すだけで良いので、いちばん楽な方法といえるでしょう。また、生産や仕入れに専念できるのがメリットです。初めて輸出する場合や、知らない国に輸出する場合に適しています。
反対に、輸入者は貿易のプロである場合が多いため、輸出者は価格交渉の面で不利になる可能性がある点がデメリットといえるでしょう。
輸入者からすると、貿易に関する手配はすべて自社で担うため、貿易に熟知していればうまく物流をコントロールして費用を安く抑えることも可能です。デメリットは、輸送時のリスク範囲が広いことが挙げられます。
Dグループ(DAP、DPU、DDP)
Dグループに分類される条件は次の3つです。
- DAP(Delivered At Place):仕向地持ち込み渡し
- DPU(Delivered at Place Unloaded):荷降ろし持ち込み渡し
- DDP(Delivered Duty Paid):関税込み持ち込み渡し
DAPは、輸出者が輸入国内の指定仕向地に商品を持ち込んだ時点で、費用とリスクの負担責任が輸入者側に引き渡されます。仕向地は埠頭や倉庫に設定されることが多いです。
輸出者は荷降ろしの義務はないため、荷降ろし中に発生するリスクをヘッジできる点がメリットと言えるでしょう。
輸入者からすると、輸出にかかる関税や貿易手配の負担がないのがメリットです。荷降ろし時のリスクや輸入関税は負担する必要があります。
DPUは、輸出者が輸入国内の指定仕向地に商品を持ち込み、荷降ろし作業が完了した時点で費用とリスクの負担責任が輸入者側に引き渡されます。
DAPとDPUは、荷降ろし中の責任を輸出者が負担するか、輸入者が負担するかの違いのみです。
DDPは、輸入者側への配送地までの区間において、輸出者側が費用とリスクを負担します。輸入者側からすると、荷降ろしのみのリスク負担となり、最も楽な方法です。
Dグループの中ではDDPのみ、輸出者側が輸入国での関税も負担します。また、輸入者がどうしても輸出者側に荷降ろしまでしてもらう必要がある場合は、DPUを選択しましょう。
Fグループ
Fグループに分類される条件は、次の3つです。
- FOB(Free On Board):本船渡し
- FAS(Free Alongside Ship):船側渡し
- FCA(Free Carrier):運送人渡し
FOBは、輸出国の港に停泊する船の上に商品を置いた時点で、費用とリスクの負担責任が輸入者側へ引き渡されます。輸出者からすると、国内における通関や輸送を負担すればいいので、比較的楽な方法だと言えるでしょう。
輸入者にとっては、EXWより負担範囲が狭いものの、広範囲に渡って負担しなければならないので、貿易に慣れていない場合は避けた方が無難です。貿易手配は輸入者側でコントロールできるため、慣れている場合は輸送費などを安く抑えられるでしょう。
FASは、輸出国の船に乗る前の指定された場所に商品を置いた時点で費用とリスクの負担責任が輸入者側へ引き渡されます。FOBと比較すると、輸出者は港での事故や荷積み時のリスクを回避できるのがメリットです。
FCAは、輸入者が指定した運送人に輸出者が商品を引き渡した時点で、費用とリスクの負担責任が輸入者側へ引き渡されます。輸出通関は輸出者の負担です。
Cグループ
Cグループに分類される条件は、次の4つです。
- CFR(Cost and Freight):運賃込み本船渡し
- CIF(Cost, Insurance and Freight):運賃・保険料込み本船渡し
- CPT(Carriage Paid To):輸送費込み
- CIP(Carriage And Insurance Paid To):輸送費・保険料込み
CFRとCIFの違い、CPTとCIPの違いはどちらも保険が含まれているかどうかです。保険(insurance)の頭文字「I」が付いている場合は保険込みと覚えるといいでしょう。
輸出者が保険をかけない場合は、保険なしの条件(CFRやCPT)です。この場合も、保険をつけずに貿易輸送をおこなうのはおすすめしませんので、CFRやCPTでは輸入者側で保険に加入することもあります。
Cグループの条件は、費用とリスクでそれぞれ負担責任が切り替わるポイントが異なるため注意が必要です。下記で詳しく解説します。
CFR/CIFは、輸出者側は輸入国の港までの費用を負担します。リスク負担については、輸出側の港で商品が船に乗った時点で輸入者側へ引き渡されます。輸送費用を抑えて手配できる場合は、輸出者にとってはメリットのある条件と言えるでしょう。
輸入者からすると、初めての場合や輸送に慣れていない場合は、輸送に関するリスク負担を輸出者に任せられるので安心です。
CPT/CIPでは、輸出者側は輸入国の港までの費用に加え、指定仕向地までの費用も負担する必要があります。一方でリスク負担については、輸出者が指定した運送人へ商品が引き渡された時点で輸入者側に引き渡されるため、輸出国内輸送におけるリスクヘッジが可能です。
輸入者からすると、指定仕向地まで費用を負担してもらえるため、メリットと言えるでしょう。
インコタームズ2010年と2020の違い
インコタームズは10年ごとに改定がおこなわれており、直近では2010年版から10年ぶりの改定として2020年版が発行されました。
インコタームズ2010年版の内容から新しく2020年版に変更された箇所は次の7つです。
- 積込済みの付記のある船荷証券とインコタームズのFCA規則
- 列挙された費用の分担
- CIF及びCIPにおける保険の補償範囲の違い
- FCA、DAP、DPU及びDDPにおいて、売主又は買主が自己の輸送手段を用いての運送手配
- DATからDPUへの変更
- 輸送の義務と費用において安全に関する要求
- 利用者のための解説ノート
本記事では、上記の中でも大きい変更となる「DATからDPUへの変更」について紹介します。
DATからDPUへの変更
インコタームズ2010の条件だったDATが廃止となり、DPUが新設されました。ICCはこれまでのDATではなくDPUの使用を推奨していますが、法律で定められているわけではないので現在もDATが使用されている場合もあります。
DPU新設に伴う改定により、全11とおりの条件は以下の2種類に分類される形に変更されています。
海上輸送と内陸水路輸送のみで使える条件
- FAS(Free Alongside Ship)
- FOB(Free On Board)
- CFR(Cost and Freight)
- CIF(Cost Insurance and Freight)
全ての輸送方法で使える条件
- EXW(EX Works)
- FCA(Free Carrier)
- CPT(Carriage Paid To)
- CIP(Carriage and Insurance Paid To)
- DAP(Delivery At Place)
- DPU(Delivery at Place Unloaded)
- DDP(Delivery Duties Paid)
上記の通り、輸送方法によって使用できる条件が制限される場合があるので注意しましょう。
まとめ
本記事では、11とおりあるインコタームズの規則の覚え方と、詳細条件、2020版における2010版からの変更点を紹介しました。
貿易をおこなう際、国際規則で定められたインコタームズの条件を用いて輸出国と輸入国間で詳細な取り決めをしておく必要があります。法律で定められているわけではありませんが、買い手と売り手が費用やリスクについてどこからどこまで責任を負うのかを握っておくことで、貿易時のトラブルを回避することが可能です。
最初から11とおりの規則を覚えるのは難しいため、まずはEグループ、Dグループ、Fグループ、Cグループの4つに分類して考えると良いでしょう。
各規則の内容を理解し、自国が不利にならないような取り決めをおこなうことが大切です。貿易に慣れていればコストを削減できる方法を選択することも可能ですが、初めての取引の場合や貿易に慣れていない場合は、ある程度相手国に任せられる方法を選択することも重要な考え方となります。
各条件におけるメリット・デメリットを比較し、有利な貿易取引ができると良いでしょう。