アフリカ・ホームタウン騒動から反発を招く移民政策の条件を考察

日本は人口減少と高齢化により労働力が減少し、多くの産業で人材不足が深刻化しています。その解決策として、外国人材の活用が注目されています。ところが、アフリカとの人材交流を目的とする「JICAアフリカ・ホームタウン」事業は、移民政策と誤解され強い反発を招きました。この騒動は、日本社会の根強い移民政策への拒否感を浮き彫りにしています。

このような移民への反発は、日本だけではありません。受け入れに寛容な欧州でも、反移民デモの拡大や移民政策の見直しを求める動きが広がっています。

本記事では、JICAアフリカ・ホームタウン騒動と欧州の事例を比較し、移民や外国人材の受け入れが反発を招く条件について考察します。

JICAアフリカ・ホームタウンとは

JICAアフリカ・ホームタウンとは、アフリカ諸国と日本の地方自治体との交流を強化するための事業で、先日のTICAD 9(第9回アフリカ開発会議)において国際協力機構(JICA)が発表しました。

具体的には、以下の4市とアフリカ4カ国の人材交流を推進する構想です。

  • 愛媛県今治市:モザンビーク共和国
  • 千葉県木更津市:ナイジェリア連邦共和国
  • 新潟県三条市:ガーナ共和国
  • 山形県長井市:タンザニア連合共和国

こうしたアフリカとの人材交流は、本事業に限った話ではありません。これまでにJICAアフリカ留学生事業を通じて、2014年から2024年までに約1,900人のアフリカの若者を受け入れ、人材育成や交流を重ねてきました。

※JICAは、独立行政法人国際協力機構法に基づいて設立された機関です。開発途上国の経済の発展や復興を支援し、日本や国際社会の健全な発展に貢献することを目的としています。

※TICADは1993年以降、日本が主導して進めてきたアフリカ開発会議のことです。詳しくは「TICAD 9(第9回アフリカ開発会議)とは?概要・参加国・議題を解説」の記事をご参照ください。

JICAアフリカ・ホームタウン騒動の経緯

JICAアフリカ・ホームタウンは人材交流を目的とした事業ですが、発表直後に思わぬ混乱が生じました。

発端は、ナイジェリア大統領府が公式ページに掲載したプレスリリースです。そこには「日本が高い技能を持つアフリカの若者に特別ビザを創設する」との記述があり、加えてタンザニアの地元メディアが、「日本が自治体をアフリカに差し出す」と解釈できる報道をしたことで誤解が広がりました。

この内容がSNS上で拡散されると、以下のような不安が広がりました。

  • アフリカから大量の移民が日本に押し寄せるのではないか
  • 地方自治体が移民を受け入れるのか
  • 日本の地方をアフリカにプレゼントしたのか

さらに、一部の方が自治体に問い合わせたことで業務が停滞し、各市長が否定コメントを発表する事態となりました。この騒動を受け、外務省はナイジェリア政府にプレスリリースの訂正を要求し、事業そのものの見直しも検討しています。

JICAアフリカ・ホームタウン構想が炎上した背景

JICAアフリカ・ホームタウン構想が炎上した背景には、いくつかの要因があります。

まず、ナイジェリア大統領府のプレスリリースやタンザニアの地元メディアの報道に不正確な部分があり、本来の事業目的である人材交流とは異なる印象を広めたことです。

次に、事業名に「ホームタウン」という言葉を用いたことも誤解を招きました。本来「故郷」という意味を「交流拠点」として使おうとしたものの、意図が十分に伝わらなかったためです。加えて、日本政府や自治体からの事前説明が不十分であったことも、海外報道に接した人々の不安を助長しました。

さらに、国内で移民政策への警戒感が高まっていたことも背景にあります。令和6年6月末時点で日本の在留外国人数は358万人で、前年より17万人増加しており、過去最高を更新しています。このような在留外国人数の増加にオーバーツーリズムの負担が重なり、さらなる受け入れへの不安が強まっていました。こうした状況の中で誤解が拡散され、炎上が一気に広がったと考えられます。

参考:出入国在留管理庁「令和6年6月末現在における在留外国人数について

欧州でも反移民デモや移民政策の議論が活発化

欧州は移民の受け入れに寛容な地域として知られています。EUの難民条約には、「難民申請をしようとする人を追い返してはならない」と定められているためです。しかし、このように移民の受け入れに寛容な国でも、反移民デモや制度の厳格化を求める議論が広がっています。ここでは、英国とドイツの2つの事例を紹介します。

英国:15万人規模の反移民デモ

英国では2025年9月13日、ロンドン中心部で15万人規模の反移民デモが行われました。このデモは、極右活動家トミー・ロビンソン氏の呼びかけで、移民政策に反対する参加者が集まったものです。大規模なデモに発展した背景には、主に2つの要因があります。

  • 難民申請者のホテル収容

英国では難民申請者が急増しており、決定を待つ間は公費でホテルに収容されます。その数は10万人を超え、財政的な負担が高まっています。

  • ホテル収容者による治安への懸念

2025年7月、ホテルに収容されていたエチオピア人男性が、現地の少女に対する性的暴行の罪で逮捕されました。この事件をきっかけに、難民申請者のホテル収容に抗議する動きが各地で広がりました。

こうした抗議を受け、英国政府は移民制度の見直しを進めています。具体的には、抗議活動の原因となった難民申請者をホテルに収容する制度です。もともとは2029年に廃止する予定でしたが、前倒しすることを表明し、同時に難民資格者が家族を呼び寄せることができる制度も一時的に停止しています。

ドイツの移民政策論争

ドイツで反移民・難民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進し、移民対策が政策論争の争点になっています。その大きな要因は、移民が絡む凶悪事件の増加です。2025年2月に行われた移民政策を厳格化する法案の採択は、僅差で否決されたものの、寛容な国のドイツでも反移民が広がっていることを示しています。

日本と欧州の事例の比較

ここまでに紹介した日本のJICAアフリカ・ホームタウン騒動と、英国・ドイツでの反移民運動には共通点と相違点があります。

日本と欧州の共通点

いずれの地域でも、移民や外国人材の受け入れに対しては、「治安の悪化」や「社会的負担の増大」といった不安が現地住民の間で広がっています。さらに、「移民が増えることで自分たちの仕事が奪われるのではないか」という懸念も少なくありません。つまり、「移民によって自分たちの生活が脅かされるのではないか」という不安が、反発の要因となっている点が共通しています。

日本と欧州の相違点

一方で、日本と欧州の間には大きな違いもあります。

  • 日本

在留外国人は増加傾向にありますが、欧州のように大規模な移民流入が起きているわけではありません。これは、日本社会が移民政策に消極的なためです。今回の騒動も、誤解や不正確な報道が原因で実害はなく、むしろ日本社会の移民への拒否感を浮き彫りにしたものです。

  • 欧州

長年にわたり多くの移民を受け入れてきた結果、社会制度や治安への影響が顕在化しています。こうした現実の課題を背景に、移民への反発が強まっているのが特徴です。

このように、日本と欧州では移民の受け入れを巡って温度差があり、それぞれ抱えている課題が異なっています。

反発を招く移民政策や外国人材受け入れの条件

移民や外国人材の受け入れは、人材不足を補う手段として必要とされる場面もあります。しかし、今回の事例から明らかになったのは、次のような条件が重なると強い反発を招くということです。

  • 情報不足や誤解の拡散

制度の説明不足や不正確な報道、名称のミスリードなどが誤解を生み、不安を増幅します。

  • 経済的・社会的負担への懸念

移民への公共サービスや財政の負担が増すと、納税者の反発を招きます。

  • 治安や生活環境への不安

移民による犯罪や近隣トラブルが報じられると、地域住民の警戒感が高まります。

  • 雇用機会への影響

「自分たちの仕事が奪われるのではないか」という不安は、反対の強い理由になり得ます。

  • 受け入れ規模と社会の許容度の乖離

移民の受け入れ人数が社会の受容力を超えると、現地住民との摩擦を生じやすくなります。

これらの条件を把握し、制度設計や情報発信を丁寧に行うことが、移民や外国人材の受け入れを円滑に進める上で重要と言えます。

まとめ

日本企業にとって、外国人材の活用は重要な戦略の一つです。そのためにも今後の日本に必要なのは、外国人材を受け入れる地域住民との合意形成を重視した制度づくりです。JICAアフリカ・ホームタウン騒動は、その重要性を示したと言えるでしょう。

また、JICAアフリカ・ホームタウン事業には、人材交流を通じて日本企業がアフリカ市場に進出しやすくするという狙いもあります。事業の見直しが議論されていますが、アフリカ進出を検討している企業様は、今後の動向に注目しましょう。

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