地球温暖化の抑制策で、次に注目されているのは生ごみの堆肥化です。生ごみを堆肥化し、資源としてリサイクルすることで、温室効果ガスの削減や地球環境への負荷を減らせるとして注目されているためです。
実際にフランスでは、2024年1月から生ごみ堆肥化が義務化されました。本記事では、欧州や米国の一部の州における生ごみ堆肥化の義務化について解説します。
海外の生ごみ処理方法は埋め立てが主流
日本で生ごみは燃えるごみとして認知されていますが、海外の生ごみの処分方法は埋め立てが一般的です。しかし、無作為に生ごみを埋め立てると大量のメタンガスが発生します。酸素の少ない状態で生ごみを堆肥化するとメタンガスが発生しやすくなるためです。
そのメタンガスの温室効果は二酸化炭素の約28倍で、メタンガスの抑制は地球温暖化に不可欠と考えられています。
2021年、米国主催の主要経済国フォーラム(MEF)において、バイデン大統領が「グローバル・メタン・プレッジ(Global Methane Pledge)」を参加国に呼びかけました。「グローバル・メタン・プレッジ」は、メタンガス排出量を2020年比で少なくとも30%削減する目標のことです。
このバイデン大統領の呼びかけをきっかけに、メタンガスの削減に向けた取り組みが活発になり、現在の欧州や米国の一部の州における生ごみ堆肥化の義務化につながっています。
フランスは2024年に生ごみ堆肥化を義務化
2024年1月1日、フランスでは生ごみの堆肥化が義務化されました。
義務化によりフランス国民は、生ごみや落ち葉などの有機廃棄物をコンポストで堆肥化するか、自治体が指定する回収場所に出す必要があります。
以前のフランスでは、毎年1人当たり82kgの有機廃棄物が捨てられていました。大量の有機廃棄物を資源にリサイクルできるとして期待されています。ただし現在は、コンポスト施設を順次設置している段階で、違反しても罰金は科されません。
米国の一部の州では義務化に加えて罰金も
バイデン大統領が「グローバル・メタン・プレッジ」を提唱したように、米国は生ごみの堆肥化に積極的です。ただし、現時点で取り組んでいるのは米国全土ではなく、一部の州に限られています。ここでは生ごみの堆肥化に取り組む州の事例を紹介します。
バーモント州
米国で生ごみ堆肥化を初めて義務化したのはバーモント州です。
バーモント州は米国の北東部に位置する州で、自然が豊富なことから「緑の山の州」として知られています。その自然の恵みを生かしてメープルシロップの生産が盛んです。
そのようなバーモント州において、2020年7月1日に使い捨てプラスチックのストローやビニール袋、使い捨て容器の提供中止とともに、生ごみの堆肥化が義務化されました。
この取り組みにより、食品リサイクル・堆肥化率が60%に向上する見込みです。
カリフォルニア州
カリフォルニア州では、2022年1月1日より生ごみ堆肥化が義務化されました。義務化により2025年までに、生ごみの75%を堆肥化することを目標にしています。
カリフォルニア州の特徴は、違反した場合に罰金が科されることです。個人であれば1日当たり最大500ドル、自治体や都市であれば1回の違反につき1日1万ドルです。またカリフォルニア州では、遺体の堆肥化が合法化されており、事業として人体の堆肥化を行っている企業もあります。
ニューヨーク州
ニューヨーク州は米国最大の都市ニューヨーク市のある州です。ニューヨーク市では毎日1.1万トン以上の一般ごみが出されています。そのうち3分の1が有機廃棄物であることから、毎日3,000トン以上の生ごみなどが廃棄されているのです。
そこで、生ごみ堆肥化の義務化を段階的に導入しています。一部の地域ではすでに堆肥化が始まっており、2024年10月のマンハッタンの導入により、ニューヨーク市の全域で義務化される予定です。
日本の生ごみ処理の現状
日本でごみや不用品を処分する際は、燃えるごみやペットボトル、缶、瓶などの細かな分別ルールがあります。そのため、サイクル先進国と思うかもしれませんが、リサイクル率は20.0%で、OECD(経済協力開発機構)加盟国のなかでも非常に低い水準です。OECDのヨーロッパの平均が約40%であることからも日本の低さがわかるでしょう。
なぜ日本のリサイクル率が低いのかといえば、生ごみを燃えるごみとして焼却処分しているためです。この章では、日本の生ごみ処理の問題点や課題などについて紹介します。
生ごみを焼却する問題点
日本では生ごみを焼却処分していますが、焼却処分にも問題点があります。それは、生ごみは約80~90%が水分で燃えにくいことです。
燃えにくい生ごみを燃焼処分しようとすると、焼却炉内の温度が下がり、燃焼効率が悪くなります。そこで、新たに化石燃料や石油由来のプラスチック廃棄物を投入し、炉内の温度を高めているのです。
つまり生ごみを焼却処分する、化石燃料を使用するため二酸化炭素などの温室効果ガスが発生してしまいます。生ごみの量が少量であれば、影響は少ないかもしれません。しかし日本の家庭から出るごみの約4割が生ごみです。その多くの生ごみがリサイクルできないことで、リサイクル率の低下にもつながっています。
日本が生ごみを埋め立て処理しない理由
日本がなぜ生ごみを埋め立て処分せずに、焼却処分をしているかといえば、国土が狭いためです。生ごみを埋め立て処分するための十分な土地がないのです。ごみを埋め立てる土地が少ないので、ごみの量を減量できる焼却処分を採用しています。
過去には夢の島などで、生ごみを埋め立てていた時期もありました。しかし、夢の島で生ごみを埋め立てた際、悪臭やハエ・ネズミの発生などにより、住民の生活を脅かした過去があります。
これらの理由により、日本では生ごみの焼却処分という、世界でも珍しい処分方法を採用しているのです。
ごみ焼却炉の寿命は30~50年
日本の生ごみの焼却処分を支えているのは、全国にある1,067カ所(2019年時点)のごみ焼却施設です。他国に比べると施設数は圧倒的に多く、世界の焼却炉の半分以上が日本にあるといわれています。
膨大な数の焼却施設を稼働させているため、日本の一般ごみ処理事業経費は2兆885億円にもなります。資源を無駄にしているだけではなく、膨大な税金を投入しているのが日本の生ごみの焼却処分なのです。
日本では1960年~70年代に、全国の自治体でごみ焼却施設の建設が推進されました。ごみ焼却炉の寿命は30~50年のため、その頃に作られた焼却炉をどうするか検討する機会も増えているでしょう。その際は、生ごみの資源化について考え直す機会かもしれません。
参照:環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和元年度)について」
日本の取り組み事例:福井県池田町
出典:一般社団法人 池田町農業公社「高品質堆肥製造事業」
生ごみの堆肥化に取り組んでいる国内の自治体の事例は、福井県池田町です。
池田町では、以前から牛ふん堆肥を利用して有機米を作っていました。
その堆肥を作る際に、家庭の生ごみやもみ殻を混ぜて、良質の堆肥とするプロジェクトが2002年に立ち上がりました。具体的には、町民の家庭で出た生ごみを週に3回ボランティアが回収し、それを堆肥センターで牛ふんともみ殻を混ぜて堆肥を作っています。出来上がった堆肥は、「土魂壌(どこんじょう)」という商品名で販売もしています。
生ごみ堆肥化が世界のトレンド
2024年、フランスが生ごみ堆肥化を義務化したように、生ごみの分別・資源化は世界のトレンドになりつつあります。生ごみを適切にリサイクルすることで、持続可能な社会の実現に1歩近づくでしょう。リサイクル率の低い日本においても、生ごみ堆肥化に向けた行動が求められています。