
タイでは2026年2月8日、総選挙が実施されました。近年のタイは、少子高齢化による深刻な労働力不足やカンボジアとの軍事衝突、ASEAN主要国の中で低迷する経済成長率など、様々な課題を抱えています。
今回の選挙をきっかけに状況は変わるのか、2026年2月時点の情報を基に、タイ総選挙の結果と今後の行方を解説します。
※この記事は2026年2月に執筆された記事です
2026年2月にタイ総選挙が行われた背景
タイで2026年2月に総選挙が行われた背景には、前政権の不安定さと国政運営の限界がありました。
2025年9月5日に、アヌティン首相率いるタイ誇り党を中心とした前政権が発足。議会では単独で過半数の議席を持つ政党がなく、第一党の国民党と第三党のタイ誇り党が合意する形で、アヌティン氏が新首相に選出されました。この際、アヌティン氏は政権発足後4カ月以内に議会を解散し総選挙を行う方針を示したことで、国民党の同意を得ています。
しかし、国民党は政権に参画せず、他党とも協力しない姿勢を示しました。そのため、前政権は少数与党による連立政権となり、安定した政権運営が困難な状況に陥ります。
こうした政情不安が国内経済に悪影響を及ぼすことを避けるため、アヌティン首相は約束の4カ月を待たずに、2025年12月11日に下院の解散を申請。ワチラロンコン国王の承認を経て、今回の総選挙が実施される運びとなったのです。
議会制度と選挙前の議席数の構図
タイの国会は、上院(200議席)と下院(500議席)からなる二院制です。上院は政党への所属が禁じられており、従来は国王による任命制でしたが、現在は選挙制へと移行しています。
一方、下院は小選挙区400議席と比例代表100議席の計500議席で構成され、議員には政党への所属が義務付けられています。下院の優越が認められており、首相は下院の指名を受けて、下院議員または国務大臣の中から任命されます。
前回の総選挙は2023年5月14日に実施され、結果は以下のとおりでした。
- 第一党:前進党(現・国民党)151議席
- 第二党:タイ貢献党141議席
- 第三党:タイ誇り党71議席
- 第四党:国民国家の力党40議席
第一党の前進党は、王室に関する不敬罪の改正を公約に掲げていました。しかし、この公約が国家転覆に該当する違憲行為と判断され、同党には解党命令が下されます。その後、前進党の流れをくむ後継政党として設立されたのが国民党です。
また、選挙結果からも分かるように、いずれの政党も単独で過半数を確保するには至りませんでした。第一党と第三党を合わせても222議席にとどまっており、前政権与党であるタイ誇り党にとっては、第一党の協力なしには事実上、政権運営が成り立たない状況でした。
さらに、国民党が前進党の政策を引き継ぎ、不敬罪の改正を目指しているのに対し、アヌティン氏率いるタイ誇り党は王室を支持する保守的な立場にあります。この政策的な対立も、政権運営を難しくする要因となっていました。
2月8日投開票|タイ総選挙の結果
2026年のタイ総選挙の結果は以下のとおりです。
タイ誇り党:193議席
国民党:118議席
タイ貢献党:74議席
クラ・タム党:58議席
民主党:22議席
その他:35議席
今回の選挙では、いずれの政党も過半数(250議席)を獲得するには至りませんでした。引き続き、連立政権の形成が不可欠な状況となっています。
その中で特に注目されるのは、タイ誇り党の大幅な躍進です。前回の71議席から193議席へと議席を大きく伸ばし、第一党に躍り出ました。この背景には、カンボジアとの軍事衝突を受けたナショナリズムの高まりがあると考えられています。安全保障への関心が高まる中で、同党への支持が広がったと見られます。
タイの主要政党の概要

今回の総選挙における主要政党について解説します。
- タイ誇り党
タイ誇り党は、アヌティン首相が率いる政党です。原語表記から「タイ名誉党」とも呼ばれています。保守派与党で知られ、軍や王室と近い政党です。
- 国民党
国民党は、前進党を引き継ぐ政党で、ナタポン氏が党首として率いています。前進党は前回総選挙において、古い政治体制や既得権益に挑むことで、若者からの多くの支持を獲得しました。しかし、不敬罪の公約を掲げたことで、当時のピター党首は10年間の被選挙権停止が言い渡されています。
- タイ貢献党
タイ貢献党は、タクシン元首相が結党したタイ愛国党の流れをくむ政党です。長年タイ政治において影響力を持ってきた政党の一つで、チュラパン氏が率いています。北部・東北部に支持基盤を持ち、特に低所得者層から支持を獲得しています。
タイ誇り党とタイ貢献党による連立政権誕生へ
選挙結果を受け、2026年2月13日、タイ誇り党とタイ貢献党は連立政権を樹立することで合意しました。さらに、タイ誇り党は、今回の選挙で第四党に躍進したクラ・タム党とも連立を組むことで一致しています。
これにより、連立与党の議席数は合計325議席となり、過半数を大きく上回る見通しです。安定した政権基盤の確保に向けて、大きく前進した形となりました。
また、前回選挙後には革新派の前進党が解党命令を受けるなど政治的な混乱が続いていましたが、今回の連立政権の中心であるタイ誇り党は王室支持の立場を明確にしています。そのため、これまでと比べて政治の安定性が高まると見られています。
選挙後のタイはどう変わる?現在の課題と新政権の行方

総選挙を経てタイはどのように変わるのか、ここではタイが抱える現在の課題と今後のスケジュール、新政権の方針を解説します。
タイが抱える課題
タイが抱える主な課題は次のとおりです。
- 経済成長の低迷
タイは、東南アジアの中でもいち早く工業化を成し遂げ、「アジアの虎」や「東アジアの奇跡」と称されてきました。しかし近年は成長に陰りが見られ、経済は失速傾向にあります。現在の経済成長率は2%前後にとどまり、ASEAN主要国の中でも低水準で推移しています。
- 政治の不安定さ
タイでは、軍事クーデターや政争が繰り返されてきました。近年では、憲法裁判所の判断を通じて対立勢力を排除する、いわゆる「司法クーデター」とも呼ばれる動きが相次いでいます。その結果、首相の辞任や政党の解党が続き、政治の不安定さが大きな課題となっています。
- 格差と家計債務の拡大
タイでは貧富の差が広がり、中でも問題になっているのは家計債務の高止まりです。GDP比90%超という高い水準になり、個人消費の伸び悩みやタイ経済の足かせとなっています。
- 労働力不足の深刻化
タイでは、少子高齢化の進行により労働力不足が深刻化しています。結果、タイ経済は外国人労働者への依存を強めており、すでに近隣諸国から300万人を超える労働者を受け入れています。
- カンボジアとの国境紛争
2025年5月以降、タイとカンボジアの国境では軍事衝突が断続的に発生しています。特に7月と12月には大規模な衝突に発展し、少なくとも38人以上が死亡、数十万人規模の避難民が発生しました。12月の衝突後には停戦合意が結ばれたものの、情勢は依然として不安定です。2026年2月24日には再び軍事衝突が発生しており、緊張が高まっています。
このように、タイでは課題が山積しており、課題解決に向けた新政権の政策に注目が集まっています。
今後のスケジュール
総選挙の大勢はすでに判明していますが、正式な結果の発表は選挙管理委員会により2~4月に行われる予定です。その後、5月には国会で首相が選出され、新政権が発足します。さらに、5~6月にかけて新首相による施政方針演説が行われる見通しです。つまり、新政権の本格始動は5月、具体的な政策方針が明らかになるのは6月ごろになります。
タイ新政権で注目される政策
新首相はまだ正式に決定していませんが、連立を組むタイ誇り党とタイ貢献党は、それぞれ特徴的な経済政策を掲げています。主なポイントは以下のとおりです。
- 消費者支援・低所得者支援
タイ誇り党は、これまで積極的な家計支援策を打ち出してきました。2025年9月には「コンラクルン」と呼ばれる制度を導入し、飲食費や日用品の購入費の半額を補助しています。
さらに同年11月には、家計債務の増大を受け、総額5,800億円規模で返済不能に陥った国民の利息免除を発表しました。こうした経緯から、新政権でも消費者支援・低所得者支援が重視されると見られます。
- 「毎日ミリオネア」政策
タイ貢献党は選挙公約として、毎日9人に100万バーツ(約500万円)を給付する制度を掲げました。年間では約3,240人が対象となり、いわば宝くじ型の給付で個人消費を刺激する狙いがあります。
このように、両党はいずれも家計への直接支援を重視する政策によって支持を集めてきました。今後は、これらの施策がどこまで実現されるのかが注目のポイントです。
タイ新政権の動向に注目しよう
2026年の総選挙を経て、タイは新たな政治局面を迎えています。課題が山積する中、新政権がどこまで具体的な成果を示せるかが問われています。タイは魅力的な市場として活気を取り戻せるのか、今後の新政権の動向に注目しましょう。
