スマート養老産業が目指す未来とは?中国の住宅業界で進む介護事業の革新

IoT、AIなどをはじめとするデジタル技術は生活のありとあらゆる場所で活用されていますが、現在特に注目されているのが超高齢化社会の中での応用です。高齢化社会の中で、老人ホームなどの利用者は増加しているにもかかわらず、施設の少なさで入居待ちが発生していたり、介護業界での就労者が減少するなどの問題を抱えており、早急な対応を必要としています。

そこで必要性が高まっているのがデジタル技術を使用した「スマート養老」です。このスマート養老を使用して、介護業界の施設や人手不足などを解消しようという流れが起こっています。

 

日本、世界で進む超高齢化

杖を持っている高齢者

ご存知の通り現在日本では、少子高齢化が進み、人口における高齢者の割合が大変高くなっています。65歳以上の人口は約3,650万人、人口に対する割合は約29.1%で、この割合は年々増え続けており、日本は2005年以降、世界でも最も高齢化が進んでいる状態です。高齢者の割合が高い国であるイタリアは、世界で2番目の高齢化割合ですが、それでも日本の29%よりもだいぶ少ない23.6%。3位以下でも、ポルトガルの23.6%、フィンランドの23%、ギリシャの22.6%と続き、日本の高齢者の割合が非常に高い事を表しています。このままの状況が継続すると、日本では2035年には高齢の世帯が4割を超える、という指標も出ています。

高齢者の人口が多いこと自体は、健康で長生き、高齢者が生きやすい制度がある国、という点で素晴らしいことですが、若者の数が減少してしまい、高齢者のみの割合が増加してしまうと、介護人材不足や、年金の破綻など問題が発生してしまうため、その対応策が急速に求められています。 

中国の高齢化社会

経済の発展が目覚ましい中国でも同様の問題が起こっています。1949年以前の中国国内の平均寿命は40歳未満だったものが、2010年になると73歳と急激に伸びています。世界の高齢化が深刻な地域に比べると60歳以上の高齢者の割合は少なく、2018年時点で11.2%となっています。その中でも特に75歳以上の割合は低く、3.7%に留まっています。

しかし、このまま平均寿命が延び続ければ、高齢者の割合は2030年には27%、2040年には30%と急激に増加することが予想されています。

一人っ子政策 

中国では1979年より実施した人口抑制を目的にしたいわゆる「一人っ子政策」を行い、夫婦1組に1人の子供のみもうけることができる、と制限していました。しかしここへきて、絶対数としての出生数は多いものの、その上の年齢人口が非常に多いため、高齢者の割合が増加し人口における年齢バランスが不均衡となったため福祉などの面で多数問題が起こり始めました。

この状況を受け、2016年には一人っ子政策の廃止が決まり、子供を2人までもうけることを許可する形で制限は緩和されました。その後、出生数の大幅な増加までには至っていない状況です。

高齢化社会への対策

対策を急がなくてはならないのが、高齢者に対する養老施設や制度などです。現在、政府はその対策のためさまざまな動きを見せており、「高齢者能力評価」、「長期介護保険制度の試行に関する指導意見」、「高齢者介護ニーズ評価とサービス業務規範に関する通知」などを発表して、高齢化社会対策を推進しています。

中国における介護事情

高齢者を車いすで押す女性

老後のライフスタイル

高齢者人口が増加する中、さまざまな老後のライフスタイルが存在しています。日本でも「住宅型有料老人ホーム」、「グループホーム」、「特別養護老人ホーム」、「ケアハウス」、「在宅介護」、「デイサービス」など多様な形態が存在します。定年後、元気な方は通常通り仕事をし続けたり、シルバー人材センターなどに登録し働くという選択肢もあります。

中国でも現在、さまざまなサービス形態が提案され、推進されています。現在のところ、中国での老後の過ごし方は、在宅で家族などがケアを行う「在宅養老」、老人ホームなどに入居して介護を行う「施設養老」、地域の人々が協力して介護を行う「社区養老」が存在し、高齢者はいずれかでケアを受けることになっています。

今後は、地区の高齢者の割合などの事情も鑑みつつそれぞれの区切りを無くし、介護サービスを訪問で行うことや、在宅・社区に限らず、専門的な技術を持ち合わせる施設側が在宅ケア・コミュニティケアの両方に手助けを行うなど、柔軟な対応が求められています。

老後の介護事情

さらに「9073モデル」という指標のもと、今後の方向性を決めていく形に動いています。「9073」というのは、老後の生活を送る人々の90%が自宅で過ごし、7%が「社区」で過ごし、3%が施設で暮らす、という割合の指標です。中国では文化的に、老後は施設に入るよりも子供や家族と一緒に過ごしたい、と考える人の割合が多いのです。施設に入るというのはあまり良くない印象を持っている人が多数だと言われます。さらに介護保険の制度も未だ十分に整備されていないことや、介護施設自体が少ないという問題があるため、施設利用の割合は少なくなっています。

しかし在宅と施設間の相互扶助も容易には進まず、介護などの人手や施設自体は続々と増加する高齢者の数に反比例するように、不足している状況です。 

 

中国の高齢者向け産業の市場

腰を下ろす高齢男性

シルバー産業

このように中国でも高齢化社会が進み、それに伴いリハビリ・介護用品・サービス・技術・福祉・不動産・日用品、そして食品、など多くの産業が活発化しており、それらをまとめて「シルバー産業」と呼ぶこともあります。シルバー産業業界は、2018年で6.2兆元(約110兆円)規模であったものが、2024年には約倍の11.2兆元(約200兆円)規模に膨らむと予想されています。 

「中国国際シルバー産業博覧会」なども開催されるようになり、この博覧会には世界中の国々から350以上もの企業が高齢者用の商品を出展しています。2014年に開催された際には19,000人だった来場者も、2019年には50,000人と、大幅に人数も増加している注目の分野です。

中国でも多くの企業がシルバー産業に参入しますが、例えば「光大養老」という会社はシルバー産業のさまざまな分野でサービスを行っており、老人ホーム・介護施設をはじめ、コミュニティサービス、在宅介護サービス、高齢者向け住宅などを販売しています。

デジタル技術を活用した養老分野

シルバー産業の中でも注目すべき分野が、デジタル技術を使用した「智慧養老」(スマート養老)と呼ばれるものです。このスマート養老分野に関わる商品は、シルバー産業の中でも販売金額の割合が高くなっています。最新のデジタル技術であるIoT、クラウド技術、ビッグデータ処理技術などを使用して介護の負担を減らしたり、高齢者自身も快適に暮らすことの可能な技術です。

日本のパナソニックでも、観光業の「雅達(がたつ)国際ホールディングス」と手を組み、「ウェルネススマートタウン」という養老都市を住宅業界のスマート養老として、中国に建設しました。設備には、健康状態の確認が可能なトイレをはじめ、体温・寝相などを確認するベッド、人工知能やセンサーを駆使し、湿度・温度・明るさなどの管理・モニタリングを行うことが可能です。これらを用いたネットワークを経由して病院や離れている家族・所属するコミュニティにデータ送信することができます。優れた養老施設の機能というのもさることながら、食品ロスの低減、安全性の向上、SDGsの取り組みなども行われているまさに未来の都市といえる注目のスマート養老都市となっています。 

スマート養老には他にもさまざまなタイプがあり、「国実智能」(GS INTELLITECH)では、睡眠を分析、監視、改善など管理するデバイス、スマートデバイスを介して健康管理をする機械、健康モニタリングデバイス、などを販売しています。

そのほかにもスマート養老の商品には、血圧、血糖値、血液中酸素量、心拍数を腕などに装着したウェアラブルデバイスを使用(または体に取り付け)し、そのデータを常にモニタリングが可能な商品も存在します。これらのデバイスを使用することによって、管理の人手を減らしたり、自宅での介護を容易にすることができます。そこで、これらのデジタル技術を使用したデバイスをパナソニックと雅達の協業のように、住宅や施設に組み込むことによって、在宅・社区・施設の枠組みを超え、住む場所を選ばず介護や管理が可能になり、相互的に管理そして販売さらに、新しいシステムが構築できるものとして、多くの企業が参入を試みています。 

 

まとめ

このように今や日本だけではなく、お隣の大国である中国でも高齢化社会が問題になりつつあります。日本では介護の制度がより進んでいますが、制度が整えられていない中国では、そのディスアドバンテージを埋めるべく、得意のデジタル技術を駆使し、高齢化社会への対応を目指しています。

介護機器の開発をはじめ、住宅や入居施設などでデジタル技術を使用することにより、高齢者の住まいの選択肢を広げ、自宅での介護もよりしやすくなってきています。そして、住宅に介護のデバイスを組み込み、高齢者の生活の周りに存在するものの多くがこのデジタル技術で賄うことが可能になれば、高齢者の生活向上、介護者の負担や施設での労働者の不足、そしてコストも抑えられるでしょう。

老後の生活を健康に長く過ごすため、そして周りの人々のためにもこのような技術を世界中で使用し、豊かな生活を送ることができる未来になるといいですね。 

 

^総務省データ 
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1291.html

^中国の高齢化 
https://www.jil.go.jp/foreign/report/2017/pdf/17-02_02.pdf

^中国の介護事情 
https://www.jica.go.jp/china/office/others/pr/ku57pq0000226d5k-att/seisaku_14.pdf

^スマート養老 
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/06/232ae356249f7d4f.html

^光大養老 
http://everbrighthc.com/index.php?s=/index/node_show/id/73 

^国実智能 
http://www.iguoshi.cn/view/www/index.html 

^パナソニック 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM199G40Z10C21A7000000/

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