スキンケアは、健康で美しい肌を保つために、洗顔料、化粧水、乳液、美容液、クリームなどで肌の手入れをすることです。皮膚を清潔にし、肌が乾燥するのを防ぐことを目的としています。
日常的にメイクをする日本人にとって、毎日のスキンケアに欠かせないクレンジング。洗い流すオイルやメイク落としを使って落とし、その後ダブル洗顔するのが主流です。しかし、世界各国と比較すると「こんなに念入りに顔を洗っているのは日本人だけ」と言われます。
アジア地域は別として、スキンケアや化粧品の先進国であるアメリカやヨーロッパの女性は日本人ほど顔を洗っていません。その代わり、ヨーロッパ各国では、「ミセラウォーター」と呼ばれるクレンジングローションを使って、メイクを拭きとり、洗顔せずに完了します。このように、欧米のスキンケアは、日本と大きく異なっているのです。
ここでは、日本のスキンケアと海外のスキンケアの違い、欧米や中国やASEAN諸国のスキンケア動向についてお話します。
日本と欧米のスキンケアの違い
日本のスキンケアは独自のものが多く、例えば、「美白」という概念は欧米にはありません。そのため「なぜ日本で美白が人気なのか」と欧米人は頭をかしげてしまうそうです。また、日本では、メイク落とし→洗顔→化粧水→美容液→クリーム→美白などのプラスαのケア。こういう流れが主流ですが、日本独自と言えるでしょう。
アメリカやヨーロッパでは、クレンジング→化粧水(トナー)で拭き取り→美容液/クリームの流れになっており、「洗顔」の概念がありません。後程詳しくお話しますが、ヨーロッパでは「ミセラウォーター」が、日本で言うところの洗顔と化粧水に該当するでしょう。こういった違いがあるため、海外のコスメブランドが日本に進出するために商品を開発する際、化粧品ブランドの担当者は是ロから研究し、開発しなくてはなりません。
それでは欧米と日本ではこのようなスキンケアの違いがあるのでしょうか?それは次にご紹介する3つが要因です。
天候要因による違い
日本に進出しようとした米国のエスティ・ローダー社は、日本人の皮膚の皮脂量を綿密に調査した際に、「日本人は白人よりも皮脂量が20%も多い」ことを発見しました。日本は、年間を通して雨が多く、年間を通して湿度が高い国です。このような環境下で生活する日本人の肌は、汗が蒸発しにくく、べたつきやすいという特徴を持っています。夏は特に高温多湿のため、皮脂腺が発達しやすいため、皮脂の分泌が促進され、老廃物が皮膚に不着しやすくなります。
日本人が欧米人と同じように洗顔しないでいると、肌に問題が起こります。皮脂分泌が多い肌に汚れや皮脂を残すと、酸化して毛穴詰まりとくすみにつながります。そのため、日本では欧米に比べて丁寧な洗顔が必要とされてきたのです。
肌の質の違い
厚生労働省の産業医学総合研究所の調査によると、日本人の角質層は白人の2/3しかないと分かっています。表皮の角質層が薄くなっており、敏感で刺激に弱い特徴があります。くすみや色素沈着の元になるメラニンの生成も活発なため、欧米人のように毎日の拭き取り化粧水を使うと、乾燥やシミの原因を与えてしまいます。また、海外で人気の激しいケミカルピーリングにも注意が必要で、日本人の角質層には刺激が強く、火傷症状を招くこともあるようです。
環境、文化の違い
アメリカや欧米では、水道の水は硬水です。硬水で洗顔をすると、肌が乾燥やすくなるため日本人のように水で洗顔する文化がありません。
https://domani.shogakukan.co.jp/245534
米ルサック皮膚科クリニックの医学博士によると、「硬質の水道水には大量のミネラルが含まれていて、このミネラルは、肌の保護バリアを破壊してしまうほど強力。顔に触れれば触れるほど肌が弱くなり、環境破壊や汚染物質の影響を受けやすくなる。」と述べています。このような環境のため、ヨーロッパでは、メイク落としも洗顔もせずに、最初から拭き取り化粧水を使って、その次はクリームと言う流れが最近ではメジャーとなっています。シャワーのときも、なるべく顔に水をつけないように心がけている女性も多いそうです。
https://www.womenshealthmag.com/jp/beauty/a28308931/micellar-water-1-20190712/
水ベースの洗顔料であるミセラーウォーターは、硬質の水道水を使って肌への刺激を受け、「皮膚が乾燥してツヤを失う」という女性の悩みから、フランスのスキンケアブランド『ビオデルマ』の下で開発されました。ミセラウォーターは、クレンジングとスキンケアが同時に実現でき、コットンに含ませて拭き取った後は、化粧水やクリームで仕上げて完了です。
中国のスキンケアの特徴
中国と日本のスキンケアの方法は、欧米のそれと違って、大きく相違がないと言われています。同じアジア人であることから肌の質が似ていることも一つの理由でしょう。スキンケアではありませんが、中国人女性の「化粧」への意識はそれほど高い点は日本と異なり、中国での消費者意識は、まだ「メイクよりもスキンケア」という段階にあるようです。
次に中国のスキンケアの動向とマーケットについて見てみましょう。
https://lianbaby.com/2018-china-beauty-expo/
参考:中国美容博覧会の様子
中国のスキンケア事情
日本では化粧は身だしなみと言われるくらい重要とされていましたが、中国はもともと日常的に化粧をする習慣がまり浸透していません。近年の経済の発展や女性の社会進出に伴ってメイクという概念が若い世代を中心に浸透しつつありますが、スキンケアやメイクやスキンケアに対する考え方にはまだまだばらつきがあるようです。
2019年に開催された「中国美容博覧会」では、中国では特に90年代後半に生まれたZ世代と呼ばれる女性が、世界的な潮流である「ナチュラル」「オーガニック」製品を好んでいるということが分かりました。スキンケアに求めることを調査すると、機能面では「補水保湿」が83%でトップとなり、理念面では「植物成分スキンケア」が54%でトップとなっています。年齢が若い層のオーガニックスキンケアへの関心の高さがうかがえます。
中国のスキンケア市場
中国国家統計局によると、2017 年の国内のスキンケア商品や化粧品などの美容商品の販売額は、約 2,500 億元(約 4.3 兆円)となっており、前年比 13.5%増加したことが分かりました。中国では、国内で出回っている商品の品質に満足できないなどの声があり、輸入美容商品への需要も高まっています。
中国商務部が発表したレポートでは、消費者が関心を持つ輸入品ランキングの中で、「食品」「衣類・靴など」の次に来たのが、「美容商品」でした。中国市場で最も成功した外資系美容商品ブランドは、フランスの「ロレアル」です。高所得者向けの高級ブランドから若年層向けの安価なブランドまで幅広く展開して成功をおさめました。
中国の美容市場は日本の3倍の規模と言われており、日本の化粧品業界の企業にとっても中国は有望なマーケットです。中国人の美容にかける支出金額を日本と比べてみると、どの世代においても3倍中国の方が多くなっています。
https://www.cbn.co.jp/archives/4846
日本ブランドが人気の理由
中国人女性の美意識の向上とともに、日本のスキンケアブランドの需要は中国で高まっています。日本人の人気女優やタレントが使っているスキンケアブランドを使ってみたいというきっかけも多いようです。
「日本製=高級」というブランドへの憧れだけでなく、人気のもう1つの理由は、「品質面での強い信頼」です。似たような商品が中国製で販売されてはいるものの、日本ブランドに見せかけた偽物や品質が怪しまれるものもあります。そのため中国人の女性達は正真正銘の「メイドインジャパン」を欲しがる傾向にあります。資生堂のラインナップや、KOSEの雪肌精は特に中国で人気の製品です。
最近は「フェイスマスク」が人気
近年、中国で非常に人気のスキンケアアイテムは「フェイスマスク」です。2018年5月中の中国報告網の記事では、化粧品市場において、スキンケア製品のシェアが5割と半分を占めており、そのカテゴリの中で最も注目が高かったのが42.8%のフェイスマスクであったと伝えられました。
https://dl19w3jlhkm4w.cloudfront.net/2015/201502mifCHINA_Insightreport_SAMPLE2.pdf
ASEANのスキンケアの特徴
ASEANのスキンケア市場
アメリカ・中国に次ぎ、大きなマーケットとしてターゲットとされているのがASEAN諸国であるタイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムです。各国とも高い伸び率となり、2017年には、ASEAN諸国で世界の32%の市場シェアを獲得しました。2018年度のASEAN諸国の化粧品市場は、前年度比5.4%増の8,820億円と好調な推移を維持しています。この10年で1.9倍以上にまで拡大しています。
インターネットが今まで普及していなかったエリアでは今後ECビジネスは大幅な伸びが期待できます。それに伴い各国の美容などのスキンケア市場のEC小売業者はASEANをターゲットに入れようとしています。
人気の美白ケア
ASEAN諸国では、可処分所得の増加や、おしゃれ意識の拡大要因によってスキンケアや化粧品のニーズが高まっています。冒頭で、「欧米では日本の美白スキンケアの概念が分かりにくい」と伝えましたが、ASEAN諸国ではむしろ美白ケアが人気です。近年は同地域全体で紫外線から肌ダメージをケアするという意識が浸透しているため、美白ケアや日焼け止め市場は大幅な伸びを見せています。
ハラール製品
ASEAN諸国にスキンケア商品を売り出す際に必ず気を付けなければいけないのが「ハラール製品」でしょう。特にインドネシア、マレーシア、シンガポールなどの地域で、イスラム教徒消費者に対応するためののハラール製品が増加傾向にあります。
2014年9月 、インドネシアはハラール製品認証法案を可決、この法案によって国内で販売される全ての製品が、2019年までにハラール認証されなければ販売できないとされました。ヒジャーブを着ているイスラム教徒の女性はスキンケア市場の大きなカギを握っています。湿気の多い環境での発汗防止、消臭ニーズがあるのです。そのため、ハラール製品にすることによってより多くの消費者にアピールできるようになるでしょう。
※ハラールの化粧品について詳しく説明されているYouTube動画もご覧ください
それでは次に、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムのスキンケアの動向についてご紹介します。
インドネシア
中間層の拡大に伴い、化粧品ユーザーが増加傾向。ジャワ島を中心にインターネットが普及したことにより通販チャネルが台頭しています。インドネシアの女性は非常に美容への興味関心度が高いことで知られ、クレンジング、ボディローション、リップスティックは利用率が高く、1日の使用化粧品の種類も平均6、7商品と他国に比べ多くなっているのも特徴です。
タイ
美白のニーズが高く美白ケア市場は前年度比4.8%増と好調です。さらに、高齢者の増加によりアンチエイジングのための化粧品のニーズも拡大しています。2000年代以降インターネットの普及に伴いSNS利用者が急増。韓流ブームをリアルタイムでキャッチするというトレンドが生れ、日本製よりも安価で手に入りやすい韓国化粧品は非常に人気です。
マレーシア
中間層の拡大や、インターネットの整備による通販チャネル拡大、マレー系女性を中心とする美白化粧品の需要拡大の要因によって、高い伸長率を維持しています。ハラール化粧品市場は現地ブランドだけでなく、日系企業や欧米系企業も参入しています。
ベトナム
美白ケアや日焼け止め製品が人気となり、引き続き高い伸長率で拡大しています。ベトナムの女性の場合、日頃基本的なスキンケアを行うものの、日常的にメイクをする女性は少ないようです。毎日メイクをする割合はまだ29%に留まっています。
最後に
欧米とのスキンケアの違い、各国のスキンケア市場について、理解を深めていただけましたでしょうか。日本のスキンケアブランドや化粧品業界は、「日本のスキンケア文化を中国に浸透させる」取り組みを行っているようです。外出自粛やリモートワークが続くコロナ渦において、日本のスキンケア・化粧品業界の今年度の売上は、前年対比で約6割まで下がったと言われています。
しかし、コロナ渦にしかないニーズをくみ取り、アフターコロナに向けた戦略で、この危機的状況を乗り越えてほしいと思います。
<参考>
https://hc.kyodoprinting.co.jp/20190509/
http://www.tpc-osaka.com/fs/bibliotheque/mr210190453
https://laurier.excite.co.jp/i/HadaLove_11846
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%82%A2-162686
https://locari.jp/posts/563888
https://www.chibabank.co.jp/hojin/other_service/market/pdf/china_1807.pdf