ミラノサローネで感じた海外展示会を訪ねる際のポイント

毎年イタリアで開催されるミラノ国際家具見本市、通称「ミラノサローネ」

デザインに携わる人であれば知らない人はいないとされる、世界最大規模の展示会です。

今回は、ミラノサローネで感じた海外展示会を訪れる際のポイントについてお伝えします。

海外の展示会で取材をする難しさ

ミラノサローネ

世界を代表する家具メーカーが一堂に会するミラノサローネは、インテリアの最新トレンドが集う場所として毎年多くの人で賑わいます。

今年は4月17日から22日までの6日間にわたって開催され、われわれもお客様とともに同展示会を訪れました。

最初の数日間はお客様が主体となって各ブースを訪ねていましたが、あまり取材がスムーズに進まないというご相談を受け、あらためて、海外で「お客様が知りたい情報をヒヤリングする」ということの難しさを実感しました。

まず、最初にぶつかるのが言葉の壁です。

自分が取材相手と直接会話するのと、通訳を介して会話するのとでは全く勝手が違います。

相手から通訳、通訳から自分へと伝えられる際に言葉の端々が削がれ、大意は同じでも細かいニュアンスが変わってしまうこともあります。

「異なる言語を活用して、伝言を行う」ということは、詳細の情報までヒヤリングをしたいというケースでは、非常にハイレベルなスキルと経験が必要になるということです。

さらに、もう1つの問題点が概念の違いです。

同じ言葉を使っていても、概念そのものが国によって異なる場合があるので注意しなければなりません。

たとえば、インテリアでいうと「オーダーメイド」がその1つ。
日本でいうオーダーメイドは、依頼内容に合わせてサイズやデザイン、素材などを完全にイチから作り上げるというイメージがあると思います。

対するヨーロッパでは、オーダーメイドをうたっていても実際には多様なパターンの中から好みに合わせて選択できるだけということもあり、日本でいう「カスタマイズ」の概念に近いものも「オーダーメイド」と呼ばれます。

海外で取材をしていると、概念の違いによって会話がかみ合わなくなる場面も多々あります。

言葉や文化が違う相手に取材を行う際は、こういった点に注意して会話の焦点や認識を合わせていくことが重要です。

ヨーロッパとアジアの不思議なビジネスモデル

さて、肝心のミラノサローネの内容についてもお伝えしていきましょう。

今回の展示会では、全体を通して「自然」や「環境との一体化」といったテーマを強く感じました。

キッチンには無垢材に近い木やストーンが多く使われ、「より自然に近い素材が素晴らしい」という考え方が見受けられます。

現在のヨーロッパでEVシフトが急速に進んでいますが、インテリアデザインにもヨーロッパ人の環境やエコに対する意識の高さが表れていました。

こうしたトレンドの中で、どう差別化を図っていくかが各企業やブランドにとっての大きな課題となるでしょう。

しかし、ミラノサローネの展示を見るかぎりでは、皆一様に流行を追いかけるばかりで大差は感じられませんでした。現地デザイナーに話を聞いたところ、現在のヨーロッパデザインは統一化されつつあり、差が生まれにくくなっているといいます。

では、ヨーロッパのデザイナーたちは何をもって差別化を図るのでしょうか。

その答えは、彼らの新たな市場である「アジア」にありました。

ヨーロッパのデザイナーたちは拡大するアジア市場に目を向け、アジアのデザインを積極的に学び始めています。

ただし、アジア市場に輸出するためには「ヨーロッパでも受け入れられているもの」でなければなりません。ヨーロッパで受け入れられたという実績が箔になるからです。

ヨーロッパデザインの中だけで差別化することが難しくなった今、彼らはターゲットとなる市場(アジアや中東)の文化を取り入れることで、「ヨーロッパデザイン+α」という新たな価値を生み出しています。

その一方で、アジアのデザイナーたちがヨーロッパデザインを参考にしていることにも目を向けなければなりません。特に東南アジアのデザイナーはシンガポールを拠点にしてヨーロッパデザインを学び、それを自分たちの文化に取り入れようとしています。

とはいえ、アジアの場合はそこで生み出したものをヨーロッパに輸出するわけではなく、あくまでターゲットは自国内(特にヨーロッパ文化を好む富裕層)に限られています。

現在のデザイン業界にはヨーロッパとアジアがねじれた2つの不思議なビジネスモデルが存在し、新たな市場が形成されつつあるようです。

展示会をさまざまな視点から捉える重要性

インターネットが発達した現在、わざわざ展示会に足を運ばずとも簡単に現地の情報を得ることができます。

今年のミラノサローネについても、すでに多くのレポート記事がネット上にあふれていることでしょう。

しかし、「百聞は一見に如かず」とはよく言ったもので、実際に自分の目で見て初めて分かることもたくさんあります。

先ほど通訳を介した取材の難しさについてお伝えしたように、誰かの目や言葉を通すことで余計なバイアスがかかってしまう場合があるからです。

展示会を訪れる際は「最新トレンドを見る・学ぶ」という姿勢になりがちですが、そのトレンドが生まれた理由や背景にまで視点を移してみると、新しい発見が生まれるかもしれません。

どうしてそのトレンドが生まれたのか、それをどう自分のビジネスに置き換えるかなど、さまざまな視点をもって展示会に臨んでみてはいかがでしょうか。

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