グローバル展開を考える日系企業にとって、ASEAN(東南アジア諸国連合)市場を無視して通ることはもはや考えられません。地域的な包括的経済連携(RCEP)協定への署名でも注目度の高まるASEANの貿易。近年のASEANの貿易はどのように変化してきたのか?また、今後どのような変化がありそうか?今回は、東南アジアの輸出入についての動向を確認し、市場・マーケットの情勢について、特にECの動向、今後の展望をご説明していきます。
昨今の東南アジア(ASEAN)の市場の変化
まずは、現在のASEAN(2020年)加盟国は10カ国。ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムです。 貿易総額を足した金額は、2010年の2兆39億1,900万ドルから2020年に2兆7,124億1,800万ドルへと10年間で35.4%拡大しました。日本の貿易総額の約2.1倍、中国の約6割、米国の約7割の規模です。世界の貿易総額におけるASEANのシェアは2010年代の6.5%→8.1%へ増えました。EU(29.4%)には及びませんが、中国(12.4%)や米国(10.7%)に続くシェアといえます。 輸出総額は2010年の1兆481億4,800万ドルから、2020年1兆3,724億1,800万ドルへと30.9%増加。域内への輸出は、17.8%増えました。
ASEANの輸出相手として、この10年間で米国と中国市場が多く占めています。対中輸出は1,130億3,000万ドルから2,207億7,800万ドルへと倍増(10.8%→16.1%)。対米輸出も、1,003億2,300万ドルから1,969億7,800万ドルへとほぼ倍増(9.6%→14.4%)。
一方、輸入相手国は、2010年時点でASEAN域内が24.0%と最大で、続く中国(13.3%)と日本(12.3%)が同程度の存在感を示していましたが、2020年に中国が3,044億4,000万ドルで首位になりました。対中輸入の構成比は2010年の13.3%から、2015年に19.8%、2020年に22.7%と拡大が続いています。ASEAN域内輸入シェアは2010年24.0%、2015年22.3%、2020年20.2%と縮小。なお、域内輸入額は10年間で18.1%増えていますが、対中輸入の増加率(2.4倍)に追いついていない状況です。
東南アジアEC市場の動向
2021年にREPORTOCEANが発行したレポートによると、アジア太平洋地域の電子商取引市場は、COVID-19の影響でオンラインショッピングやデジタル取引が増加しているため、2020年から2030年にかけて年間14.3%成長し、獲得可能な時価総額は352.68兆ドルになると報告されました。 インドネシアを始めとするマレーシア、タイ、シンガポール市場は、平均成長率(CAGR)17.7%で成長しています。
また、フロスト&サリバンの新たなリサーチ分析「東南アジアのEC市場分析」によると、東南アジアにおけるECの市場規模は、2015年から2020年にかけて年平均成長率(CAGR)17.7%で成長し、同市場規模は2015年の112億米ドルから2020年までに252億米ドルに成長する見通しとなっています。本分析ではB2CのEC市場を対象とし、東南アジアの6ヵ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)が含まれます。ASEANはまだインフラの整備等進んでいないイメージですが、アリババグループのLAZADA買収など、国外からの投資も進んでいます。今後数年でも大きく状況が変わっている可能性があります。
東南アジア(ASEAN)各国の市場について
ASEANと呼ばれる東南アジア諸国連合の10ヶ国のうち、特に諸外国への輸出が多い国のはインドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、カンボジアの7か国です。ここからは、各国の経済状況や産業、市場(輸出入)の状況など、以下に紹介していきます。
インドネシア
インドネシアの経済は、1980年代〜1997年まで高成長を遂げていましたが、アジア通貨危機によりGDP成長率は1998年に-13.1%に急落。経済の不安定な状況をきっかけに民主化が進みました。2000年代から回復し、現在まで安定成長(平均成長率5.4%)を維持しています。2017年には東南アジア諸国の中で最大の経済規模となりました。 農林水産業・鉱業のGDP構成比は、2000年以降平均14%の構成比を維持し、平均4%で成長しています。国内需要に応えるのはもちろん、パーム油、ゴム、コーヒー、米などの農産物や海産物は輸出に重要な品目です。産業別GDPの構成比において40%以上を占める工業は、2008年から2017年まで平均4.3%。政府は最近、原料の輸出よりも国の製造業を促進しています。サービス業の産業別GDPの割合は、成長率は工業より高く(平均6.8%)、2015年以降は45%も占め、工業よりも高くなりました。
近年は情報・通信・ITの分野も成長著しく、医療保険サービスも注目されています。 また、日系企業数も年々増加しています。在インドネシア日系企業数は2017年に1,911社となり、2008年の約1.5倍になりました。外務省の統計報告によると、インドネシアは2013年から2017年まで日系企業数が多い国のランキングで第6位から第4位まを維持しています。その半分が製造業であり、13%が卸売業・小売業、7%が建設業です。
シンガポール
シンガポールは小さな国ですが東南アジアで最も経済先進国です。ビジネスのしやすさ世界ランキングで2位となっています。国内の市場規模は小さく、天然資源不足にもかかわらず、経済は安定しています。 主力産業は、製造業とサービス業です。
2018年時点で製造業は、シンガポールの中で一番大きい産業で、GDP産業別構成比の22%を占め、前年比7%と成長しています。エレクトロニクス、石油化学・化学関連、バイオメディカル(医薬品・医療機器)、輸送機械、精密器械等が主な製品です。バイオテクノロジー分野でも様々なグローバル企業がシンガポールに拠点を設立し、医薬品・医療機器の製造又は研究・開発を行っている状況です。 サービス業のGDP産業別構成比を見ると、卸売・小売業が17.6%、ビジネスサービスが14.9%、金融保険業が13%、運輸・倉庫業が6.7%、情報通信業が4.1%、ホテル・レストラン業が2.1%、その他のサービス業が11.3%となっています(2018年シンガポール統計局)。
さらに、アジアの金融ハブと呼ばれるシンガポールは様々なグローバル金融保険サービス企業が集まっています。1,200社以上の金融機関がシンガポールに拠点を有しています。 政府の研究・開発振興により、近年日本企業等の外資企業の製品・サービスの研究・開発拠点の設置は増加しています。飲食業における企業数も増加している状況です。日系企業の進出に伴い、進出を支えるビジネスサービスが必要となり、コンサルタント、会計会社、法律事務所、人材会社などの日系企業の進出も増加しています。
タイ
2019年の世界銀行のデータによると、タイの名目GDPは約5,435億USドルで、インドネシアに次ぎ東南アジアで2番目の経済規模です。世界銀行の定義によると、1980年代は低所得国であったタイは、2011年にはいわゆる高中所得国(一人当たりGNI:3,896 ~12,055 USドル)に分類されるまでに経済成長を遂げています。 産業で見ると、近年成長が著しいサービス業のうち、主要な産業は卸売・小売、ホテル外食、輸送通信が挙げられます。観光者数の増加に伴い、卸売・小売、ホテル外食、輸送通信業も成長しています。
また、鉱工業の主要な産業は製造業です。タイへの直接投資より、タイは東南アジアの自動車製造業のハブとして機能しています。また、コンピューター等の電気機器・電子部品の生産拠点も集まっており、タイ国外に輸出されている状況です。また、農林水産業では、米や天然ゴム等が大きなシェアを占めています。1960年に比べると、農林水産業のシェアが大きく低下し、サービス業と鉱工業のシェアが拡大しています。タイへの直接投資と観光者数の増加と共に、今後もサービス業と鉱工業はタイの経済を牽引する大きな役割を果たすと見込まれています。 JETRO「タイ日系企業進出動向調査2020年」調査によると、2017年にタイに進出している日系企業数は5,856 社であり、2017年と比べて412社増加。製造業が40%、非製造業が53%となっています。なお、非製造業の主要業種は卸売・小売が46%、サービス業31%です。
フィリピン
フィリピンの経済は2012年以降、平均6.6%で成長しており、2018年の名目GDPはASEAN中5位となりました。国際通貨基金はによれば今後も、しばらく6%以上で経済成長すると予測されています。経済成長の背景には、所得の向上に伴う旺盛な個人消費と国内投資の拡大があげられます。個人での食料品や生活雑貨はもちろん、経済活動を支える生産機材などの需要も高まっている状況です。
産業においては、GDPの半分以上がサービス業。次いで、工業・建設業が約3割、農業が約1割占めます。近年大きな変動はないものの、サービス業は工業・建設業、農林水産業と比較して拡大スピードが速いため、構成比が増加しています。 サービス業の成長率は、2009年の最低時点でも3.4%を確保しており、2012年以降、平均6.9%で伸びています。その中でも観光業及びIT-BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の成長が高くなっています。伸展している観光業及びIT-BPOを更に発展させる為、インフラを整備・強化する必要があると考えられます。
工業・建設業は、2012年以降平均7.7%の安定した成長率を確保しています。食品飲料、家具、エレクトロニクス、化学品、石油精製、自動車が主力分野であり、エレクトロニクス以外の製品は内需を中心に供給されています。一方で農林水産業は台風などの自然災害の影響を受けやすく、成長傾向が不安定な傾向です。2017年は約4%の成長ですが、2009年、2010年、2016年はマイナイス成長になりました。
フィリピンは日系企業が多く進出している国の1つです。毎年、日系企業数は増えており、2017年に約1,500社となりました。在フィリピン日系企業の約4割は製造業、次いで、卸売・小売が約1割を占めています。
マレーシア
2017年における世界銀行のデータによると、マレーシアの名目GDPは東南アジア第4位の経済規模です。GDP成長率は毎年4~6%で推移しています。1990年代前半のマレーシア経済成長は、輸出と投資の拡大に牽引されていましたが、近年の成長は個人消費の拡大が主な要因です。 産業をみると、かつては農林業が中心だったのが、現在はサービス業と製造業が中心です。
GDP産業別構成比を見ると、最も比率が高いのはサービス業(55%)、次いで製造業(23%)、鉱業(9%)、農林業(8%)、建設業(5%)です。 2017年のサービス業は前年比6.2%と成長しており、サービス業の中でも中心的な業種である卸売・小売業、情報通信事業、金融・保険業においてもそれぞれ成長しています。製造業では、電気製品、石油製品、化学製品、ゴム・プラスチック製品が生産高の50%以上を占めており、電気機器・電子部品などの主要輸出国となっています。
また、マレーシアには多国籍の大手メーカーが数多く在籍しており、その中でも特に日系企業の存在感が強い国です。 農林業の主な生産品目は、米やココナッツでしたが、近年はパーム油や天然ゴム等の工業向けの品目の生産量が増加しています。 マレーシアに進出している日系企業数は1,672社で、主要な業種は製造業(47%)、卸売業(26%)、サービス業(11%)です。以前はマレーシアへの日系企業の進出は製造業が中心でしたが、マレーシアの経済成長に伴って購買力が向上し、卸・小売業、サービス業などの非製造業の需要拡大が期待されています。
ベトナム
ベトナムは、1986年の「ドイモイ政策」(刷新政策という意味)の実施により、計画経済から市場経済へと向かい、30年以上に渡り、目覚ましい経済変化を見せています。GDPの成長率は、2000年代から5%以上を維持しています。2018年に発表した国際通貨基金の報告書では、国際経済の好調とともに、国内改革の取り組み及び経済安定政策により、ベトナムの成長は続くと見通しています。
主な産業は、農林水産業、鉱・工・建設業、サービス業があります。2010年からの統計基準が変わったため、データの一貫性が欠けるものの、2008年から2017年までの産業のGDP構成比は穏やかに変化しています。農林水産業の構成比は2017年に17%へと低下しました。サービス業の構成比は42%から、最近の2年間は44%へと拡大。農林水産業が減少している一方、サービス業が徐々に増加している状況です。鉱・工・建設業は37%以上を占めており、2015年から2017年までは39%の構成比が続いています。
ベトナムの各産業は全体的に伸びていますが、特にサービス業と鉱・工・建設業が増加しており、一方、農業の伸びは控えめです。農林水産業は価格と災害の影響を受けやすいため、成長率は上下する傾向にあります。 ベトナムでは日本人が毎年増えており、日系企業の間にも有望な進出先として注目されています。日系企業は現在1,816拠点あり、国別の日系企業の進出数でベトナムが6位となり、タイとインドネシアとともに東南アジアのもっとも人気な進出先の1つです。在ベトナム日系企業は、44%は製造業であり、卸売業・小売業が9%、建設業が7%となっています。
カンボジア
2020年カンボジア国立銀行は、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、2020年のGDP(国内総生産)成長率がマイナス1.9%減少するとの見方を発表しました。それでも他諸国よりは減少率が低く抑えられる見込みではありました。
そもそも、カンボジア経済の産業構造には4つの柱があると言われています。まず、縫製業・製靴業です。最もカンボジア経済全体を牽引していました。そして、近年大きく伸長している観光業においても、2018年に43億5,000万ドルの総収益を得ており、前年の36億3,000万ドルから19.8%の増加を記録しています。もう1つは農業です。なお、国内における農業の成長率は、2003~2007年が7.2%、2008~2012年が4.5%となっており、過去5年間では1%に低下しました。GDP(国内総生産)における農業比率は、2008~2012年の33.6%から、5年間では27.1%に減少しています。農業が占める割合は少しずつ低下しているものの、いまだ25%以上と高い水準にあり、主要産業として位置づけることができます。
カンボジア日本人商工会に登録している日系企業は約200社(2020年6月時点)です。これまでは製造業が主でしたが、不動産業をはじめとした第3次産業の進出が目立っています。さらに投資環境が整備されれば、今後も進出を検討する日系企業はさらに増加していくことでしょう。
東南アジア市場の今後の展望は?
今後の東南アジア市場の展望もみていきましょう。 まず将来展望を考えるうえで重要なのは、今後の人口推移です。ASEAN10ヵ国においては、タイ、フィリピンを除き、おおよそ2060年〜2070年まで人口は増加します。これは、経済の基盤となる労働力人口を多く確保でき、技術革新による労働生産性の上昇の要因も加えて、人口の増加は、今後のASEAN域内の経済の拡大を促す大きな原動力となることが予想されます。
タイは2030年くらいから人口減少が始まりますが、フィリピンは2025年に日本より人口が多くなり、2090年まで増え続けると予想されます。 次に、今後のGDPの推移として、2030年〜2050年の20年間でも増加すると予測されています。ASEANの経済成長は著しく、2016年から2030年、2030年から2050年ごとに約2倍GDPは伸びると予想されています。 なお、2030年あたりから人口の減少が予想されるタイは、2016年度のGDPはベトナム・マレーシア・フィリピンよりも大きいですが、2030年以降の伸び率は小さく、結果2050年にはASEAN5の中で最下位になると予想されています。
逆に、2000年代後半まで人口が増加し続けると予想されるベトナム・フィリピンにおいては、2030年以降大幅な経済規模の拡大が見込まれています。
まとめ
ここまで東南アジア市場における輸出入や経済の動向を確認し、今後の展望を説明しました。ASEANは、海外進出を検討している日系企業各国それぞれ魅力的な市場です。しかし、どのような準備をして、対策していけばいいのか?と悩んでいたら、一度専門家へ問い合わせてみるのがおすすめです。
弊社プルーヴ株式会社では、海外進出を考える日系企業様に向けて、東南アジア諸国への進出を含め、総合的なサポートを行っております。海外事業をお考えの際は、ご気軽にご相談ください。