インドのアドハーとは?NECが支える国民識別番号制度

2023年9月30日に終了したマイナポイントの配布のように、日本はマイナンバーカードの普及に取り組んでいます。そのため、時折マイナンバー関連のニュースが報道されています。

しかし、日本よりも人口がはるかに多いインドの個人識別番号制度(アドハー)で、日本のNECが貢献していることを知っている方は少ないでしょう。アドハーは、インドの全人口の約95%に該当する13億人が登録し、すでにデジタル・インフラとして定着しています。

本記事ではインドに海外進出を考えている方に向けて、インドのアドハーの概要やマイナンバーとの違い、アドハーの次に注目されているインディア・スタックについて解説します。

インドのアドハーとは?インド版マイナンバー制度

アドハー(Aadhaar)とは、インド政府が2009年に導入した個人識別番号制度のことです。アーダールとも呼ばれ、インド版のマイナンバー制度とイメージするとわかりやすいでしょう。

アドハーの識別番号と紐づけられている個人情報は以下のとおりです。

  • 氏名
  • 生年月日
  • 住所
  • 顔写真
  • 10指の指紋
  • 両眼の虹彩

※虹彩とは、黒目の周りにあるドーナツ状の模様のこと

2023年2月時点で、全人口の約95%に該当する13億人が登録・利用しています。

これほど多くの方が登録している理由は、アドハーの識別番号がさまざまな場面で必要なためです。

アドハーの識別番号が必要な例

  • 銀行口座の開設
  • 銀行口座から200万ルピー以上の引き出しや預け入れ
  • 個人所得税の申告
  • 個人の携帯電話やインターネット回線の契約
  • パスポートの申請や更新
  • 補助金や補償金の申請

アドハーは生体認証に必要な指紋や虹彩などの情報と紐づいているため、このような個人認証にも使われています。アドハーの登録は義務ではありませんが、インドで生活する際は、なくてはならないといっても過言ではないでしょう。

また全居住者を対象としており、居住者の外国人も登録ができます。インドに進出する際には、外国人であっても無関係とはならないため、押さえておくべき制度といえるのです。

このようにアドハーは、ヒンディー語で「基礎」を意味するように、インドのデジタル・インフラとして整備されています。

日本のマイナンバーとの比較

日本のマイナンバー制度と、インドのアドハーとの違いを以下の表にまとめました。

インド日本
正式名称Aadhaar社会保障・ 税番号制度
運用開始年2009年2016年
登録者数13億人8,439万9,025枚
※マイナンバーカード交付枚数
普及率約95%(2023年2月時点)約67%(2023年3月時点)
※マイナンバーカード交付率
利用できる機能・身分証明書
・給付金、補助金、年金の需給
・銀行取引
・住宅ローンの契約
・携帯電話やインターネット回線の契約
・身分証明書
・各種行政手続きのオンライン申請
・各種民間のオンライン取引
・健康保険証
・コンビニなどで各種証明書の取得

日本のマイナンバー制度は、住民票を有するすべての方に12桁の個人番号が紐づけられています。個人番号は通知カードに記載されていますが、マイナンバーのすべての機能を使うためにはマイナンバーカードが必要です。

日本ではマイナンバーカードの普及のため、2020年からマイナポイント事業が行われてきました。それでも2023年3月時点で交付率が約67%です。インドのアドハーがいかに普及しているかがわかるでしょう。

NECが支える生体認証技術

出典:NEC

アドハーの個人認証に、NECの生体認証技術が貢献しています。

NECはマルチモーダル生体認証技術を確立しており、世界有数の精度を誇っています。マルチモーダル生体認証とは、顔写真+指紋、指紋+虹彩などのように、2つ以上の生体認証を組み合わせて精度を高める手法です。

例えば、生体認証で有名なのは指紋ですが、高齢者などのように乾燥している人の指紋では精度が下がるといわれています。また、顔写真から認証する技術もありますが、指紋や虹彩と比べると精度の低さが問題です。一方、虹彩は精度が高いものの、普及面に課題があります。

そこで生体認証を組み合わせ、それぞれの弱点をカバーしつつ、精度を高められるのがマルチモーダル生体認証です。

NECは認証技術に加えて、アドハーの登録作業においても「1日最大200万件の登録」を実現しています。

アドハー導入の背景

そもそもインドにアドハーが導入された背景は、当時、以下の2つの問題があったためです。

  • 身分証明書を持っていない人が多い

アドハーが開始される以前のインドでは、戸籍制度が確立されておらず、出生証明書を持っている人は全国民の半分以下といわれていました。

そのため、自分の名前や住所などを証明できない場合は、銀行口座が作れない、携帯電話に加入できないなどの問題がありました。

日本では運転免許証が身分証として一般的に認められています。しかしインドでは、出生証明を持っている方が半分で、納税者はそれより少なく、運転免許証を取得している方は納税者よりもさらに少ないのです。

つまり、全国民を対象とした個人識別の仕組みがないことが原因で、社会参加できない方が多くいたのです。

  • 不正受給が横行していた

インドは低所得者向けの食料や肥料の配給など、福祉に対して莫大な予算を投資していました。しかし貧困層は、身分証明書を持っていないことが多く、不正受給が横行していました。

給付すべき対象者に行きわたらず、予算が無駄に使われてしまうことが問題となっていたのです。

アドハーの制度で身分証明ができるようになると、不正受給が大幅に減り、これまでに124億ドルを削減することに成功しています。

インディア・スタック

インドはアドハーに代表されるように、DX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推進しています。その代表的な取り組みは、「インディア・スタック」です。

インディア・スタックとは、政府・民間がともに使えるデジタル・インフラの整備に向けた、オープンAPI群のデジタル公共財のことです。インディア・スタックはアドハーをベースにして生まれ、以下の4つのレイヤーで構成されています。

  • ① プレゼンスレス・レイヤー

プレゼンスレス・レイヤーは、デジタル上で本人確認ができるAPIです。具体的にはアドハーのことを指します。

  • ② ペーパーレス・レイヤー

ペーパーレス・レイヤーはその名のとおり、ペーパーレス化に役立つAPIです。記録や情報をデジタル上で保存・利用することで、DX推進に役立ちます。

  • ③ キャッシュレス・レイヤー

銀行口座や電子ウォレットなど、オンライン上でリアルタイムな取引を可能にするAPIです。例えば、スマホから24時間365日、銀行口座の取引が可能なサービスに「UPI」があります。

  • ④ コンセント・レイヤー

個人情報の利用や共有のために同意を得るためのAPIです。自由かつ安全なデジタル・インフラの構築に役立ちます。

このようにインディア・スタックはオープンAPIの集合によるデジタル・インフラで、世界中から注目を集めています。

ここで「オープンAPIって何?」と思う方もいるかもしれません。

APIはアプリやウェブサービス間で、データや機能を共有する仕組みのことです。そのAPIを自社外に公開したものがオープンAPIです。

オープンAPIを利用することで各サービスの機能やデータを共有できるため、より利便性の高いサービスを効率的に開発できるようになります。

このインディア・スタックによりデジタル化が進行し、インド経済の高成長を持続できたとみられます。

まとめ

アドハーの高い普及率が示すように、インドではデジタル・インフラの整備が進んでいます。そのため、インドに進出する際はアドハーやインディア・スタックについて考慮する必要があります。

また、インディア・スタックのキャッシュレス・レイヤーで照会した「UPI」も、把握しておくべきサービスです。「UPI」については、また別の記事で詳細を紹介しますので、そちらもぜひ参考にしてください。

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